デーモンスーツ 第1部 リッキーの星


 コスモヘンダースン大学の三年生、リョー・イシイ。今では殆ど人気の無い生物学を専攻している。その人気の無い生物学の中でも更に人気の無い環境生物学である。かつては生物学は宇宙人との接触によりそのレベルは最高潮に達した事もある。しかし地球型生命とのあまりの違いに、解剖学から物理学の分野へと移って行かざるを得なかった。そして生物学は再び地球型生命の分野へと回帰してきたのである。それは殆ど研究し尽くされ、博物学と同義語に成っていた。やがて宇宙環境の中での生物学として環境生物学が生まれたのだが、特殊環境の中での事であり、普遍性がなく、学問としてのレベルは高くならなかった。

 リョーがその様な学科を選んだのは、入学に際しての倍率の低さと、研究そのものが楽に思えたからであった。どの様な研究をしてもそれを批判出来る程の権威は居なかったし、どの様な結論であってもそれはそれとして研究結果として認められたのである。



 「リョー、もうすぐだぞ。」

 リョーの一年先輩のスコットが操縦席から声を掛けた。

 「しかしいいのか? あんな『ゴミ捨て場』に半年以上も住み込んで研究するなんて。」
 「『ゴミ捨て場』でも生命反応が在れば生物学の研究対象にはなりますよ。」

 リョーはスコットの自家用貨物宇宙船で研究対象の小惑星へと向かうのである。貨物室には余裕を見て、一年分の生活に耐える物資を詰めたコテージも積み込んであるのだ。

 「しかし、とんでもない研究対象を選んだものだよな。GZ573小惑星帯では、見つけ出すのに一苦労だぜ。星が多過ぎて、目的地は計算し切れないよ。」
 「目星は付けてあります。まず放射能レベルが〇・二から〇・五の間の星を探して下さい。」
 「OK。」

 スコットはコンピューターとレーダーを作動させた。

 「おいおい、沢山在るぜ。主恒星の輻射が有ってハッキリしないが、二百じゃきかないよ。」
 「大きさが〇・六以下で、重力レベルが〇・七から〇・八迄です。」
 「ウーム。それでも五十以上在る。主恒星の向こうの星のデータも集まると、もっと増えるぞ。データ条件はまだあるのだろう?」
 「はい。表面温度はマイナス十度からプラス四十度迄。気圧〇・五から二・〇。酸素濃度三パーセント以上。勿論生命反応の在る星ですが。」
 「取り合えず現在迄七個だな。」
 「動物は居ますか?」
 「ちょっと待て。移動生命反応の在る星は五個だ。どの星にする?」
 「どうせなら哺乳類の居る星がいいです。分かりますか?」
 「そいつは近寄らないと分からないな。体温を調べないと。まず第一候補へ行くぞ。」

 宇宙船は僅かに方向を変えて画面に表示された小惑星へと向かった。



 最初の星は主恒星からかなり遠く、条件は満たしているが蛭の様な小型の冷血動物しか存在しない。推定平均気温も〇度以下であり、キャンプには適さない。

 「住み込んでの研究となると、平均気温は十度以上で二十度迄ですね。」
 「OK。そうなるともっと恒星に近い所だな。その近辺だと後二個在るが・・・。」
 「何か?」
 「恒星から離れているのに一つ条件に合うのが在るぞ。」
 「近いですか?」
 「ああ、すぐそこだ。楕円軌道らしい。」
 「楕円軌道ですか。それだと恒星に近付いた時には暑過ぎますから。」
 「いや、申し分無しだ。自転は約二六時間。公転は約九十日。一年が三ヶ月だ。自転軸変位が十五・七度。夏の気温が昼三十度、夜十五度。冬で昼二十度、夜十度。」
 「へーっ、過ごし易そうだ。」
 「放射能レベルが少し高い。一応〇・三五程度か。海は無い。沼程度の水は在る様だ。データベースで調べてみるか?」
 「お願いします。」

 スコットは小惑星データベースカセットをコンピューターに挿し込み、検索を始めた。測定データとの一致はさほど時間は掛からない。すぐに画面に表示された。

 「GZ573AD1785hs05D。名前は無いな。おい、本当に『ゴミ捨て場』だぜ。元々は異星人の廃棄物の塊だったらしいが、そこを我々の先祖も利用したらしい。千年前迄は廃棄物捨て場だったのか。当時では処理出来なかった放射能廃棄物のコンテナを埋めたんだな。だから大きさの割りに質量が高いのだな。将来の再利用の為って事になってたらしいが、核物質なんて、もう何世紀も前から使用されないのになあ。だから、ずっと放棄されているって訳だ。元々が珪素質の小惑星だったのが、洩れた放射能で加熱され、表面はガラス質に固まった訳か。廃棄物は固定化されているから今は危険は少ないが、こんな所でいいのか?」
 「それが気温の高い原因ですね。生命体に関しては?」
 「当時この近くの研究所で作っていたバイテクの出来損ないも捨てたらしい。百年前のデータだが、植物も動物もそいつらの野生化したものらしい。キメラだぞ。自然生物でなくては研究対象にならないだろう。」
 「キメラでもいいですよ。野生化したとなればそれはそれなりに環境適応している訳ですから。で、どんな生物ですか?」
 「昔、流行ったリッキーだよ。」
 「リッキー? あのリスですか?」
 「最初はこの星系で作られたらしいな。初期の頃のやつで、俺達の知っているのとは少し違う。大きさは猿程度だから随分とでかい。形状はリスに似ている。知能はチンパンジー程度か。結構高い。でもおかしいな。こいつは雄しか居なかった筈だ。雌は出来ないので、クローンで増やした筈なのだが。」
 「何がおかしいのですか?」
 「だって考えてもみろよ。雄しか居なくて、どうして種族の保存が出来る?」
 「アッ、そうか。ひょっとすると放射能の影響で突然変異かも。」
 「遺伝子の変化があったにしても、それは産まれてくる子供にだぞ。ん? 植物の方のデータか?」

 スコットは再び画面を読み始めた。

 「フーム、なるほど。可能性はあるなあ。バイテクでホルモン製造の植物も在ったらしい。当然女性ホルモンを出す植物も在ったのだろう。そいつで雌化したのが居たのかも知れないな。」
 「面白いですよ。そいつを研究テーマにしましょう。近付いて下さい。」
 「あいよ。キメラの出来損ないがどうだっていいと思うけどなあ。」



 宇宙船はその小惑星へと下りて行った。近付くに連れ、その星の様子が良く分かる様になってくる。表面は岩盤で覆われているが、所々に緑が点在している。空気は有るので星全体がぼんやりと光っている。

 「呼吸可能。少し気圧は低いが、マスクは要らないらしい。案外キャンプにいい星かも知れんなあ。見た限りでは危険注意ランクには感じないが。リョー、ランク付けにはそれなりに意味があるぞ。アラームと宇宙服は忘れずにな。」
 「はい。気を付けます。」
 「放射能二次効果にも気を付けろ。どんな突然変異体が在るか分からぬ。下りたらすぐに微生物、ウイルス検査だぞ。」
 「了解。あ、あの潅木帯の側がいいですね。」
 「ああ、中緯度のでかい所だな。下りるぞ。」

 着陸地点を決めた宇宙船はゆっくりと地表に近付いて行った。潅木帯と潅木帯の隙間の様な所に着陸した。埃は殆ど舞い上がらない。地表は岩盤で、かなり滑らかであった。
 宇宙船は横腹を開け、コテージを押し出す。これから半年の間、リョーの住まいとなるのだ。
 リョーは宇宙服を着け、ハッチに向かう。

 「迎えに来るのは一応半年後だ。延ばす必要があるなら連絡しろ。定期的にメールで確認するからな。危険があったらすぐに連絡しろ。ま、お前の事だ。一人でのんびりやっている方がいいのだろうけどな。」
 「はい、先輩。有り難うございました。じゃあ、半年後。」

 リョーは船を下り、コテージの側で宇宙船を見送る。手を振っている前を船はスーッと上空へと飛び去って行った。

 船はすぐ見えなくなる。リョーはすぐに作業を開始しなくてはならない。コテージに入り、測定器類の荷解きをして次々にスタートさせた。しかし思っていた程のアラームは全く出ない。有害微生物も無ければ、空気中の
有害成分も検出されない。

 「なんだ、こりゃ。嘘みたく無害だなあ。リゾートよりもずっと健康的で清潔だ。放射能レベルが少し高いが、これも無害と言っていい程だ。後は水と生物か。」

 リョーは表に出て測定器を設置した。潅木帯の性質、成分を遠隔測定し、動物の検知器をセットした。
 室内に戻り、各測定器のデータを整理していると、動物検知のアラームが鳴った。
 モニターには確かにリスに良く似た生物が潅木の茂みの間から顔を覗かせていた。少し出ては引っ込み、それを繰り返している。突然出現したコテージを警戒している様であった。リョーは暫く観察を続けていた。身体の大きさは確かに普通のリスよりは大きい。しかしそれが子供であると分かったのは、それよりもずっと大きなリッキーが姿を見せたからであった。親であるのか、その子供のリッキーに対してしきりに警戒の呼び声を掛けている。どんな動物でもそうであるが、子供は恐怖、警戒よりも好奇心の方が強い。リス独特の大きくてフワフワした尻尾をしきりに動かしている。親の方は尻尾を抱きかかえている。別の大人のリッキーがかいま見えた時にも、同じ様に尻尾をしっかりと抱きかかえていた。警戒時の体勢であるらしい。
 リョーとしてはすぐにでも近くで観察したかったのだが、おびえさせてはいけないという事と、まだその野生のリッキーの性質が分からないので、充分に調べてからにする事とした。
 少しずつコテージに近付いて来る個体も居る。リョーはまずその個体の識別観察から始めた。データを集め、まだ潅木の中に隠れている他の個体を検索しながら、集団の構成を調べ始めた。

 「ん? 変だな。一般の個体分布とかなり違う。」

 表示された、個体雌雄分布が常識とずれている。

 「成獣の雌雄分布はともかく、子供はなぜ雄だけなのだ?」

 データによると、成獣の雌雄比率は雄が九十パーセントで雌が十パーセントである。もう少し若いグループになると、雄が九十五パーセント、雌が五パーセントであり、子供は完全に百パーセントが雄であった。

 「雌の寿命が長ければ、段々に高齢に成る程、雌の割合は増えてもいいが、それでも子供に雌が居ないのは変だ。雌は別に集団を組んでいるのか、それとも後天的に雌に成るのか・・・。」

 レーダー観測では短距離のデータしか得られない。潅木帯のかなり奥の方に雄か雌か判読出来ない個体が集まっている所がある。

 「これが雌のグループかな? しかし全然動かない。まあ、後で調べてみよう。」



 その日一日、リョーはコテージの中で観測をしていた。日暮れとともにリッキー達はそれぞれの巣に帰って行った。巣の形勢にもリョーは観察をしていた。母親と子供は必ず一対一であった。どうやらリッキーは一度に一頭しか子を産まないらしい。全ての母親に必ず子供が居る。大きく成ると、同じ世代の子供達同士でグループを作っている。そのグループは歳を経る毎に小さく、緩くなっている様である。雄の成獣は完全に独立している様であった。

 「この付近にはリッキー以外の動物は居ないな。巣の作りから見ても、肉食獣は居ない様だ。他のアラームも鳴らない。平和そのものの星だけれど、ここが危険地域指定されているのは何故だろう。」



 翌朝、再び好奇心の強い子供のリッキーが寄って来ていた。リョーは宇宙服を着て、ヘルメットを着けてからコテージのドアを開けた。途端にリッキー達は潅木の中に逃げ込んでしまった。そして木の茂みの間からしきりに覗いていた。

 「この格好では恐ろしがるのも無理はないか。」

 リョーは一度コテージに戻り、アラームセンサーレベルを上げてから宇宙服を脱いだ。そしてそのまま表に出て腰を下ろした。紺に近い青空に陽が眩しかった。リッキー達はまだ警戒したまま覗いているのが分かる。

 「害意が無いという事を知って貰わないと。」

 スベスベしているが、固い岩の上で仰向けになって横になった。小さな鏡で周りが見える様にし、一見、昼寝をしている振りをするのであった。
 チチチ・・・という囁く様な鳴き声がし、子供のリッキーが少しずつ顔を覗かせている。しかし昼迄にも潅木帯から出てくる様子は無かった。
 昼食は同じ様に表でした。出来るだけ自然に振る舞いたいのと、餌付けをする為にも、果物をメインにしてそれとなく幾つかをわざと落としておいた。
 コテージ内の観察をしていると、夕方になって、二、三頭の子供がその果物をかすめ取って行った。食べたかどうかは分からないが、とにかく第一段階は成功であった。



 翌朝、リョーが目覚めた時、モニターには何頭もの子供のリッキーが映っていた。親達は相変わらず潅木の中だが、尻尾を抱きかかえた警戒体勢はとっていない。

 「あれ? もう馴れたのかな?」

 リョーはドアを開けた。
 キキッという鳴き声でコテージの周りから飛び去ったが、遠くから見つめていた。そしてその内の一頭が少しずつ近付いて来た。リョーは果物を数個投げた。リッキー達は争って取り合ったのだ。近付いて来た子供のリッキーは取り損ねたらしく、物欲しそうな表情でリョーを見ていた。

 「はい。お前にもやるよ。」

 そのリッキーの前に投げてやると、パッと前足で拾い上げ、いかにも嬉しそうな表情をして潅木の中に駆けて行った。

 翌日からコテージの近くは子供のリッキーの遊び場になっていた。あまりにも簡単に餌付けが出来てしまった事にリョーは拍子抜けであったが、早速観察出来るという事は効率的であった。しかし子供以外は相変わらず寄って来ない。逃げる訳ではないのだが、避けられているのである。



 一週間程でかなりの事が分かってきた。リッキー達の出産は一斉で、乳離れするとその年に産まれた者同士がグループを作っている。家族や兄弟よりもグループ内での結束が強いのだ。そして一年でも歳上であると、かなり偉そうに振る舞っているのだ。リョーの周りに集まるのは三歳グループである。雌化するのは四歳か五歳で、それ以後は雌雄が固定している。雌はその後約十数頭程度を産む。寿命はこの星の二十年程度。つまりほんの六、七年なのだ。これは記録に残っていた当時のリッキーと大差が無かった。
 植物に付いても近辺の事はかなり調べがついた。潅木が多いのは、この星の地表が殆ど岩盤であり、深い根を下ろす植物は生育出来ない。根は柔らかく、かなり自在に動けるのだ。少しでも肥料が在れば、すぐにそちらの方へ回帰するのだ。いわば、栄養吸収の為の触手の様な物である。だから少しずつではあるが移動可能なのである。バイテクの廃棄物だけあって、果実の成る木であるのは良かった。分析の結果はいずれも良好である。しかし放射能の蓄積があるので、大量に長期間の摂取は危険でありそうだった。種子はかなり固く、よほどの条件が揃わないと発芽しないらしい。確かに固い岩盤と少ない水分ではなかなか育たないであろう。

 二週間程過ぎた頃には、特にリョーになついたリッキーが居た。同世代グループの中では少し小柄だが、好奇心が強く、いつもリョーの作業を見ている。測定器類にも興味を示し、触りそうになるのだが、リョーの注意でピタッとやめる。言葉は分からなくとも、意志は分かるらしい。知能程度の高さが分かる。リョーの方もリッキーの表情が分かる様になってきていた。
 お互いの呼び掛けでそれぞれが固有の名前を持っているらしいのだが、リョーにはうまく発音出来ない。しかしそのなついたリッキーが『チッチリ』らしい音で呼ばれていたので、試しに「おい、チッチリ。」と呼んだ時、そのリッキーは驚いた様な表情をし、次いで嬉しそうな顔に成った。そして自分の胸を叩いて、「チッチリ、チッチリ」と声を上げた。

 リョーにはまた新しい研究課題が出来た。リッキー達の言葉の研究である。それもチッチリの助けもあり、思った以上の成果を上げていく。分析用のコンピューターの大部分の機能も言語解読に費やされていた。ハンディーボイスコンピューターは通訳機と化していた。
 リッキーの言葉そのものは簡単な単語の羅列である。ただ聞き取り難く、発音し難いので、当然人間用のボイスコンピューターでは完全という訳にはいかない。しかし、日常会話の、ごく簡単な意志の疎通には充分であった。

 一ヶ月もすると、チッチリの案内で潅木帯のかなり深い部分迄連れていって貰えていた。初めてリョーを見たリッキーは一様に警戒体勢をとるのだが、チッチリの説明で納得する。リョーのスポークスマンとしては完全であった。リッキー達には『リョー・イシイ』は発音出来ない。慣れたチッチリにも無理であった。『リョー・イシイ』をチッチリは似た言葉で『ロッチチリ』と発音している。リョーはその言葉をコンピューターに入れてみた。『ロッ・チ・チリ』と分解すると『尻尾の無い可愛い子供』と言う意味であり、苦笑した。

 「チッチリ、ボクの名前はそう言う意味なのかい?」
 「チッチリ・ロッチチリ・ナマエ・サイショ・ソウ・キコエタ。」
 「『尻尾の無い』は確かにそうだけれど、『可愛い子供』と言うのはどうも・・・。」
 「ロッチチリ・コドモ。オトナ・チガウ。」
 「大人、子供の区別は難しいけれど、ボク自身は大人だと思っているけれどね。」
 「ロッチチリ・オトナ? ****・シタノカ?」

 初めての言葉であり、翻訳機も解読出来なかった。

 「何だって? 何をすると大人なんだ?」
 「****・スル・オトナ。****・スル・コドモ・ウマレル。」
 「交尾の事かな? そう言えば、雌が殆ど居ないんだよな。チッチリにも相手は居るのかい?」
 「アイテ? コウビ・スル・オンナ?」

 翻訳機はやっと****を交尾の意に解した。

 「ハハオヤ・ナンニンカ・イル。アタラシイ・オンナ・デキタ。タネ・ウンダ。チッチリ・プレゼント・ヨウイ・ジュンビ・スル。チッチリ・オトナ・ナル。コドモ・ツクル。ジブンデ・ツクル・シタクナイ。」
 「何だ? 良く分からないな。チッチリ、もう少し分かり易く説明してくれないか?」

 チッチリはキョトンとしていた。自分の言っている事が何故分からないのかが分からないという風情であった。

 「新しい女が種を産む?」
 「タネ・ウム。オンナニ・ナル。」
 「それが分からない。種を産むのか?」
 「ロッチチリ・タネ・ウマナイノカ?」
 「産む訳無いだろう。チッチリは産むのか?」
 「ウム・シタクナイ。チッチリ・タネ・ウム・オンナ・ナル。オンナ・コウビ・コドモ・ウム。」

 チッチリはいかにもイヤそうな表情で答えた。

 「ロッチチリ・ミル?」
 「何を?」
 「タネ・ウム・モウスコシ・オンナ。」
 「ああ。そうか。数パーセントが雌化するんだった。見に行けるのかい?」
 「イマ・イイ。コウビ・トキ・ツカマル。アブナイ。ハナ・サカナイ。アブナクナイ。」
 「花が咲かないと捕まらない? 良く分からないけれど、今が危なくないなら見たいな。」

 チッチリはチョコチョコと薮の中に入り、両手に大きな木の実を抱えてきた。リョーは初めて見る実だが、マンゴーの様な形で、甘い匂いがしていた。

 「へーっ。いい匂いだね。」
 「ロッチチリ・タベル・ダメ。プレゼント。オンナ・キノミ。」

 チッチリはしっかり抱えてリョーを潅木帯の中へ案内した。途中でチッチリと同じ様に木の実を抱えたリッキーが、リョー達を追い越して行った。チッチリと同じグループのリッキーも居た様であった。
 潅木帯の中に、少し広い空間が在った。背の高い木が点在しているのである。この星では珍しく太い木で、岩盤にしっかりと取り付く太い根が目立った。その木の根元にそれぞれ二、三頭のリッキーが寝転んでいる。そのリッキーの周りには、マンゴーの様な木の実が置かれている。リョーの観察では妊娠している雌の様である。腹部が膨満しており、胸の部分に乳房と思われる毛の無い膨らみが確認出来た。

 「チッチリ、あれはみんな子供を身篭もっているのだろう?」
 「コドモ・ナイ。タネ。」
 「種って・・・、お前達はまさか種から産まれる訳は無いだろう?」
 「ロッチチリ・イウ・ワカラナイ。オナカ・フクレル・タネ。オンナノキ・タネ。」
 「女の木の種?」
 「ハナ・サク。ツカマル・タネ・ウム。オンナ・ナル。」
 「ああ、そうか。大体分かった。この木が雌化させるのか。チッチリはどうなんだ? 女に成るのか?」

 チッチリは恐い顔をして、

 「チッチリ・オトコ。ズット・オトコ。オンナノキ・ツカマラナイ。」

 リョーはデータを集め、撮影をしながら。

 「みんなが餌を持って来ているな。何故だい?」
 「オンナノキ・ツカマル・オナカ・タクサン・ヘル。ゼッタイ・ニゲル・デキナイ。ハヤク・タネ・ウム。ハヤク・コドモ・ウム。オンナノキ・ハナレル。ナカマ・オンナ・キノミ・アツメル。タベル・ハヤク・オンナ・ナル。ハヤク・ハナレル。」
 「へーっ、不思議な木だね。捕まったら逃げられないのかい?」
 「オンナノキ・ネッコ・オシリ・ハイル。ウンチ・スウ。キ・オオキイ・ナル。ネッコ・ヌク・デキナイ。シヌ。」
 「フーム。一種の寄生植物なのか。で、根が入った後は?」
 「オンナノキ・ミズ・ダス。ノム。チンチン・ナクナル。ハナ・タネ・ナル。オンナ・アナ・ハイル。タネ・オオキイ・ナル。オナカ・フクレル。オッパイ・フクレル。タネ・ウム。オンナ・ナル。」
 「寄生して雌化するホルモンを出す訳か。バイテクによる物だろうけれど、こんな大木に成るとは。これも初期の放射能による、突然変異かな? で、女に成れば離れられるのかい?」
 「ダメ。コウビ・スル。オンナ・オナカ・コドモ・デキル。オンナノキ・ヌケル。」
 「授精すると胎内に女性ホルモンは出来る。その何かで根の働きが弱るのか。不思議な生態だ。チッチリ。彼女達・・・、でいいのかな? 話しをしていいかな?」
 「ダメ。オンナ・ナル・ツライ・カナシイ。ハナス。カナシイ。」

 チッチリは持っていた木の実をそのリッキーの前に置いた。何か話していたが、そのリッキーはリョーの方を見、悲しそうな顔をし、木の陰へ身を隠してしまった。その移動の時、尻尾の陰からチラッと見えた。太いすべすべした根が肛門に、木の上の方から垂れ下がっている蔦の様な物が女陰に繋がっていた。
 チッチリが戻って来た。

 「カナシイ。ハナシ・シナイ。チッチリ・カナシイ・オナジ。チッチリ・ココ・クル。オンナ・キノミ・ソレカラ・・・。」

 チッチリは急に嬉しそうな、照れた様な表情で、

 「チッチリ・オトナ・ナル。コウビ・スル。ココ・クル。」



 リョーにとって、この星の生態系は極めて複雑であった。あまりにも興味深く、何もかもが新しい発見であった。

 「この調子だと、とても半年位ではまとまらないな。水はともかく、食料は餌付けに使ったりしたから、最初の量の一年分も、ひょっとすると半年も保たなくなるかも知れない。最優先項目は食料に関する事だな。チッチリに聞いて、その中から成分分析で安全な物を選んでおこう。」

 翌日からチッチリに色々な木の実を集めさせた。殆どが食用可であるが、女の木の実と呼ばれる物が数種類在り、確かにかなりの高濃度で各種女性ホルモンが含まれている。

 「今では殆ど合成で作られるけれど、昔だったら便利だったろうな。」

 その他の木の実は有害物質は殆どない。

 「不明の有機物が在るけれど、センサーでの異常は出ない。残留放射能量は少し高いけれど、一番高い物でも安全許容量の一千分の一以下だから、全部蓄積したとしても三年はOK。だとするとどうも危険地域に指定されているのは不思議だな。」

 リョーは初めての果実に心曳かれるのだが、科学者の心は忘れていない。一種の人体実験に当たる訳だが、まず一種類の木の実だけを試験しようとした。メディカルセンサーでチェックしながら赤い木の実を食べた。

 「フーン。以外といい。甘味は少なくて、少しアクが強いけれど、いけるよ。」

 栄養価は高いのだが、繊維質が多いので、排泄物の量が増える。しかし健康的な状況であった。



 二ヶ月程した頃、食用可能な木の実の数も増え、食料在庫の減少は気にならなくなった。予定以下の減少であった。リョーの摂取量の減少もあるのだが、それ以上に、リッキー達への餌付け量が減ったのである。コテージの周りに集まるリッキーが減ってきたのだ。この星の短い寒期が去り、春に向かおうとする頃なのだ。チッチリも居ない方が多くなっていた。

 三日程姿を見せなかったチッチリだったが、再び来た時、何か偉そうな態度であった。胸を張り、堂々とした態度で戻って来た。

 「おっ、チッチリ。どうしたんだ。ちょっと違うな。何か大人っぽく成ったね。」
 「チッチリ・オトナ。ロッチチリ・コドモ。」
 「大人? アッ、ひょっとして交尾してたのか?」

 チッチリは照れくさそうな、それでいて誇らしげであった。

 「コウビ・シタ。コウビ・イイ。チッチリ・オンナ・ナラナイ・ゼッタイ。」
 「良かったね。交尾出来ればもう女に成らないで済むんだね?」
 「ダメ。チンチン・シロイ・ミズ・タマル。オンナノキ・ハナ・サク。ニオイ・ヒッパル。オンナノキ・ツカマル。コウビ・スル。シロイ・ミズ・ダス。ヒッパル・ナクナル。」
 「おやおや、大変なんだね。女の木の花が咲いたら交尾してしまわないと捕まってしまうのかい?」
 「ソウ。」
 「その間、どこかに逃げていたら?」
 「オンナノキ・イッパイ。オンナ・スクナイ。アブナイ。」

 チッチリは肩をすくめた様に、リョーをバカにした様な仕草であった。しかしリッキー達の仲間の基準で見れば、確かにチッチリは大人としての資格を得た。リョーはリッキーの基準ではまだ子供なのだ。少し先輩風を吹かし、勝ち誇っているのだ。



 そして二週間程はいつもと同じ様にリョーの手助けをしていたチッチリだが、少しそわそわしてきた。コテージの中で新たに木の実を分析し、チッチリと一緒に食べていた。

 「ロッチチリ。チッチリ・イク。」
 「行く? 何か用かい?」
 「チッチリ・チンチン・タマッタ。モウスグ・ハナ・サク。スコシ・ハナ・ニオウ。アブナイ。コウビ・スル。」
 「OK。頑張って来いよ。」

 リョーはコテージのドアを開けた。その隙間から飛び出たチッチリだったが、コテージの外に出た途端、直立したまま硬直してしまった。そして目を剥き、ワナワナと震えていた。

 「おい、チッチリ。どうした?」
 「ハ・・・・、ハナ・・・、サイタ。」

 鼻をヒクヒクさせている。閉まったコテージの中では女の木の開花に気付かなかったのだ。チッチリは操り人形の様に、フラフラしながら潅木へ入って行った。

 「おい、チッチリ!」

 リョーはチッチリの異変に気付いた。女の木の花粉に何か催眠物質が在るのかも知れない。リョーには身体の変化は無いが、一応酸素マスクを着けてコテージを飛び出した。チッチリの案内が無いと方向は良く分からない。やっとの事で見た事のある女の木の近く迄来た。何本かの木の根元に、それぞれ二、三頭のリッキーがしゃがみ込んでいた。悲しそうな顔で涙を流している。大きな尻尾はそれぞれ元気が無く地面に垂れている。リョーにはまだどのリッキーがチッチリかは分からなかった。リッキーは苦しそうにいきばっているのだ。しかし普通は排泄の時は尻尾をピンと立て、汚れない様にしているのだが、全てのリッキーは尻尾を垂らしていた。リョーの近くの一頭がブリブリッと排泄をした。その途端、女の木の根元の草むらの中から、まるで蛇の様な触手がそのリッキーに伸びてきた。

 「キキッ・・・。」

 リッキーは悲しみをいっぱいためた悲鳴を上げる。ズプズプとその触手はリッキーの尻にめり込んで行ったのだ。それを合図にするかの様に、あちこちで排泄音と悲鳴が響く。

 「これが女の木に捕まると言う事か。おーい、チッチリーーーッ。」

 遠くで微かに「ロッチチリ・・・。」と言う声が聞こえた。その声の方向を頼りにリョーはチッチリを探した。チッチリは他のリッキーと同じ様に女の木に捕まっていたのだ。

 「チッチリ・・・。お前も・・・。」
 「チッチリ・オンナ・ナル。カナシイ。ザンネン。ロッチチリ、チッチリ・ハズカシイ。オンナ・ナル・ミラレル・ダメ。チッチリ・オンナ・ナル。タネ・ウム。コドモ・ウム。ソシタラ・イク。ロッチチリ・アソビ・イク。ソレマデ・アウ・シタクナイ。ロッチチリ・カエル。コナイデ・・・・。サヨナラ。」
 「チッチリ・・・、分かったよ。暫く会えないけれど待ってるよ。さよなら。」

 チッチリも他のリッキーも嗚咽を噛み殺して泣いていた。リョーはそんな状況に耐え切れず、走ってコテージに戻った。リョーも目に涙を溢れさせていた。



 リョーの研究は順調であった。チッチリが居なくなってからも沢山の課題を整理し続けていた。星に着いてから五ヶ月が経ったが、整理し切れない課題が多過ぎ、到底あと一ヶ月ではまとめ切れないと悟った。食料は予定より充分に在る。チッチリが居ない間も、色々な木の実を試していたのだ。その結果は上々で、宇宙食よりも健康的であった。

 「あと一ヶ月でスコット先輩が来るのか。ちょっと無理だなあ。この研究は一年留年してでもやる価値がある。よし、延期しよう。」

 リョーは早速メールを打ち始めた。

 『スコット・アンダーソン殿 ID SA59882 リョー・イシイ ID RI03322出 研究成果順調。順調過ぎ。新発見続出。日程不足。三ヶ月延期希望。食料OK。センサー異常無し。心配症の為にデータ添付』

 データにはこの星の観測データの他にリョー自身のメディカルデータも添えた。

 「ここは少し辺鄙だから、届くのにどれ位掛かるかな。まあ、一ヶ月前だから見て貰えるだろう。」



 メールは四日後にスコットに渡った。

 「何だよ。そんなに気に入ったのか。まあ、三ヶ月の延期なら俺の方もちょうどいい。研究報告を中断して迄迎えに行かないで済むのだから。」

 スコットも返信のメールを送った。それは七日も掛かってリョーに届いたのだった。



 しかしリョーがメールを送った翌日、コテージにチッチリが戻って来たのだ。

 「エッ、チッチリか? すっかり見違えて・・・、アッ、ごめん。」

 チッチリは完全に雌化していた。そして胸に小さな赤ん坊を抱いていたのだ。

 「ロッチチリ。チッチリ・コドモ・ウンダ。カワイイ・コドモ。ウム・ツライ。ウンダ・カワイイ。チッチリ・コドモ・ウム・イッパイ。チッチリ・オトコ・コウビ・イイ。オンナ・コウビ・モット・イイ。イッパイ・イイ。」
 「そうか、良かった。とにかく元気で・・・。」

 リョーは涙が溢れてきた。

 「チッチリ。だいぶ偉く成っちゃったね。」
 「チッチリ・エライ?」
 「そうだよ。ロッチチリはまだ子供。チッチリは大人に成って、そして母親に成った。ずっと偉いよ。」
 「アリガト。ウン。ロッチチリ・エラク・ナッタラ?」
 「ボクが? ボクはダメだよ。チッチリ達とは違って女には成れない。この前花が咲いた時だってボクは女の木に捕まらなかったろ?」
 「ロッチチリ・チガウ・ザンネン。ナカマ・ハナス。『ロッチチリ』・『リョッチチー』・ナル・イイ。」
 「『リョッチチー』? 何だい、それ? 確かにリョー・イシイにより近いけれど。」
 「『ロッチチリ』・シッポ・ナイ・カワイイ・コドモ。『リョッチチー』・シロイ・オオキイ・カワイイ・オンナ。」
 「アハハ・・・。とんでもない名前だね。ボクと君達とは交尾出来ないよ。出来ても子供は出来ないしね。大体ボクが女に成ったら、チッチリ、もし君が男だったら、女のボクと交尾したい? それじゃ、今男のボクと女のチッチリで交尾したいと思うかい?」
 「チッチリ・オンナ。ロッチチリ・コウビ・シタクナイ。チッチリ・オトコ・リョッチチー・コウビ・シテミタイ。ナカマ・オトコ・ハナス・オナジ。」

 リョーはちょっとゾッとしたが、赤ん坊が泣き出したので話しを中断した。チッチリはいとおしそうに赤ん坊に乳房を与えていた。

 「チッチリ。女の木に捕まってからの事を話してくれないか? イヤならいいけれど。」
 「イイ。ハナス。ロッチチリ・オンナ・ナル・モット・ワカル。」
 「ボクはいいよ。そうか、赤ん坊からの成長を調べるとなると、三ヶ月じゃ足りないぞ。後半年、ぎりぎりでいけるな。」

 リョーはスコット宛に訂正のメールを送った。返事が来ていないし、ほぼ同時に着けば訂正は簡単だろうと思っていたのだ。

 『更に新発見。半年延期する。留年の価値あり。場合によっては更に長くなる。研究終了時連絡する。』

 このメールは十日も掛かった。緊急電ではなかったので、スコットのメールには暫くそのままになっていたのだ。
 リョーの元にメールが戻ったのはその後だが、これは第一報に対してのメールであった。



 チッチリが戻って来た事でコテージの周りがにぎやかになってきた。既に発情期であり、女の木の花が咲きそうになっていた為、チッチリの元に数多くの雄がやって来たのだ。雄達は真剣である。コテージの近くの潅木の中で交尾するのだが、リョーは初めてそれを見た。驚いた事に、雄のペニスは挿入時にかなり大きく成るのだ。そしてかえしが深く、一度挿入すると簡単には抜けない構造に成っている。一回の交尾に数時間掛かるのであった。

 「雄も大変だけれど、雌も結構大変だな。」

 いよいよ花が咲きそうになる頃は、チッチリは徹夜の交尾であった。順番待ちの雄同士の喧嘩も絶えない。しかしチッチリは全ての順番待ちを済ます事が出来た。グッタリし、股間から精液を溢れ出させて戻って来た。
 「オワッタ。チッチリ・ツカレタ。チッチリ・ス・モドレナイ。スコシ・ヤスム。」
 「ああ、いいよ。お疲れさま。女も大変だなあ。イヤじゃないのか?」
 「イヤ・ナイ。キモチ・イイ。イッパイ・イイ。」

 チッチリは鼻を少しヒクつかせた。

 「アッ、ハナ・サイタ。チッチリ・マニアッタ。」
 「良かったね。うん? この甘ったるい匂いが女の木の花かい?」
 「ソウ。アマイ・ニオイ・・・・・? ロッチチリ、ニオイ・スル?」
 「匂うよ。この前は分からなかったけれどね。」

 リョーはその匂いを確認したいと思ってコテージのドアを開けた。ドッとむせかえる様な甘い匂いが襲ってきた。その途端にメディカルセンサーがアラームを発した。

 「凄い強い匂いだね。」
 「ロッチチリ・・・。アブナイ。イク・ロッチチリ・オンナ・ナル。」
 「まさかーっ。でもアラームが鳴ってる?」

 しかしリョーは自分の足のふらつきに気が付いた。

 「あれ? 何で・・・? おい・・・、勝手・・・に・・・。」

 ろれつも回らなくなってきた。フラフラする足でも確たる方向へとしっかり歩いている。チッチリは途中迄追い掛けたが、赤ん坊が泣いた事と、女の木に捕まる者は運命であり、追わないのが暗黙の儀礼でもあったのだ。

 (何故だ? まさか女の木に引き寄せられているのでは? リッキーにしか効かない筈だ。前回の花粉ではアラームは鳴らなかった。まさか今迄食べていた木の実の中に花粉と反応する物が入っていたのでは?)

 見覚えのある広場に吸い寄せられる様に引っ張られる。その頃にはあちこちから交尾し損なった雄がリョーと同じ様にフラフラしながら集まって来ていた。リョーも女の木の一本の前に曳かれていた。

 (ググッ・・・・、イテテ・・・。)

 急に腹具合がおかしくなってきた。悪性の下痢の様な激しい便意なのであった。そしてあちこちで排泄音とともに悲しい悲鳴が起きた。

 (ウグッ・・・。ここで排泄すると取り憑かれてしまうんだ。逃げなきゃ・・・。アアッ、ダメだーーーっ。)

 リョーの身体はもうリョーの意志では動かない。手が勝手にズボンとパンツを下ろし、しゃがみ込んでしまったのだった。そしてその途端に肛門が破裂した。苦しい便意が一気に曳いていく。しかし同時に足元でスルスルッと何かが動き、肛門に強い異物感が走った。

 (アッ、女の木の根っこだ・・・。)

 ズプズプッと侵入してくるのだが、嫌悪感は少ない。強い便意が無くなり、腹痛が治まっていくのであった。根は肛門から直腸を通り過ぎ、大腸へとどんどん伸びていく。そして催眠状態であったのが嘘の様に醒めていくのであった。身体は自分の思う様になり、口の麻痺も無くなっていく。おそるおそる立ち上がると、肛門から伸びている根がピンと張る。

 「アア・・・、女の木に捕まって・・・、まさかボクも雌化してしまうとか・・・。」

 くぐもった嗚咽が溢れてきた。それはリョーだけでなく、周りからも響いてきた。
 リッキー達は既に完全に諦めている。しかしリョーは自分がこの様な目に会う可能性すら信じていなかったので、ひたすら無駄な努力をしていた。いきなり花粉に麻痺させられてしまっていたので、全ての装備を持っていなかった。腕時計とポケットに入っていた翻訳機だけであった。
 少し歳をとったと思われるリッキーが足掻いているリョーに声を掛けてきた。

 「オマエ・チッチリ・イッショ。シッポノナイ・ワカイ・コドモ。」
 「え・・・?」
 「ムリ・スル・シヌ。アバレル・ハラ・ヘル・オンナノキ・ミズ・ノム。オンナ・ナル・ハヤイ。」
 「だって・・・。」
 「モウ・ダメ。チュチュリ・アキラメ。」

 そのリッキーは自分をチュチュリと呼んだ。諦めの表情だが、悔しさがいっぱいであった。
 女の木の根は腸いっぱいに広がっている様であった。そしてどんどん吸収しているらしく、あっと言う間に空腹感でいっぱいになった。他のリッキーは上からぶら下がっている蔦を吸っている。これは女性ホルモンの極めて多い樹液である事は分かっている。精神的には拒絶したいのだが、激しい空腹感についその蔦を吸ってしまった。ほんのりと甘味の有る樹液は激しかった空腹感をスッと押さえた。そして何となく精神的にもほんのりとしたものをもたらすのであった。

 (この中には麻薬に似た成分も入っているのでは? 女に成ってしまう嫌悪感が減ってしまう。)

 しかし肉体に強く働き掛ける作用で、リョーは他のリッキー同様、雌化ホルモンたっぷりの樹液を吸い続けるのであった。



 胸の痛みで時々目を覚ますと周りには女の木の実が置かれている。これも雌化ホルモンの多い木の実なのだが、手を出さずにはいられない衝動に駆られるのだ。朦朧とした状態で、樹液と木の実を食べる日常が続いていた。

 ある日、上の方で咲いていた筈の花が実に成り、細い茎でぶら下がってきた。その実がリョーの股間を動き回っているのに気付き、初めて自分のペニスの異常に気付いた。まるで赤ん坊の様な小さなペニスに成っていたのだ。

 「アアッ、オチンチンがこんなに小さく・・・。」

 そして慌てて自分の胸に手を当てた。しかしそこにはしっかりとした存在感のある乳房が在ったのだ。

 「オッパイも・・・。」

 朦朧としている頭を振り払い、周りのリッキー達を見回した。そこには確かに雌のリッキーが横になっていた。眠ったまま蔦の樹液を吸い続け、実の成っているらしい茎がリッキーの股間に埋没しているのであった。チッチリ程ではなかったが、胸には毛の無い乳房が出来ていた。少し離れた所のリッキーは既にかなり腹部が膨れている。

 「あれが種か。落花生の様に花が実を付けてもぐり込むのか。ここは岩盤で、もぐれない。だからリッキーの腹部を利用するんだな。種に成る部分の果肉には当然極めて濃いホルモンが含まれている筈だ。それが雄の身体に短時間で子宮迄作り上げてしまうんだ。ボクはまだそこ迄いっていない。緊急通信が出来れば、助かるかもしれないのに・・・。」



 その頃、スコットはリョーからの第一報による三ヶ月延期終了時の迎えの為のスケジュールを調整していた。卒論提出直前に当たる為、リョーの勝手な言い分には少し頭に来ていたのだが、「先輩、先輩」と何かに付け頼られるのは気分が良いものであったから、少し早目に論文を仕上げに掛かっていたのだ。何とか調整がつき、スコットは久しぶりに自分のメールを覗いて見た。緊急な用件があれば、メールからの呼出があるのだが、それは無かったので論文に精を出していたのだ。

 「何だとーっ。あと半年延ばすだと?」

 スコットが見ているメールは、実はリョーが訂正に出したメールであった。

 「何が新発見だよ。少しはこっちの都合も考えろ。あと半年ったら、俺はもう卒業している。俺だってかなり田舎の研究所勤めになるんだ。何が連絡する迄いい、だよ。勝手にしろ。」

 スコットは打ち出されたメールの紙を丸めて屑篭に放り込んだ。



 リッキーと人間ではホルモンの効果にかなり違いがある様である。リョーのペニスは小さく成り、胸もCカップ程度に迄膨れて、衣服が苦しくなってきてはいたが、リッキーは腹部を大きく膨らませていた。
その頃にはリョーの股間を這いずり回っていた実も枯れてしまっていた。
 そしてほぼ同じ時に一斉に種の出産が始まったのだ。あちこちで息む声がし、やがて安堵の声に変わっていく。チュチュリも種の出産が終わった様だ。リョーはじっと見つめていた。産み出された種は粘液混じりだが、黒い艶のある大きな物であった。にぎりこぶし大の大きさで、それが数個であった。リッキー達は肩で大きく息をしており、拡がった産道を恨めしげに見つめていた。雌に成ってしまったという事をしみじみと思い知らされている様であった。リョーは身震いした。今回は助かったものの、その可能性が無くなった訳ではない。ひょっとすると女に成らない内にこの木から離れる事が出来るかもしれないと言う淡い期待を抱いて、身体が求めるままに樹液と木の実を味わっていた。
 二、三日すると若い雄達がやって来た。そして次々に雌に成ったばかりのリッキーを相手に交尾を始めるのであった。間近に見る交尾は、リョーの行く末に不安をもたらしていた。もし自分も雌化してしまうと、交尾されてしまうかも知れない。そんな不安であった。
 一頭の新しい雌はその後の二、三日で十頭以上の雄を相手に連続のセックスをしていた。イヤがったのは最初だけで、後は生まれ付きの淫乱な雌だったのではないかと思える程の激しい交尾であった。そして一頭、また一頭と女の木の根から解放されていったのである。

 「妊娠すれば離れられるらしかったな。」

 確かに離れていく新しい雌のリッキーは、おなかを大事そうにさすりながら行くのであった。

 「まさか・・・、ボクも妊娠しないと離れられないのでは。それは無理だ。遺伝子の違いは確認している。じゃあ一体どう成るのだろう。」



 暫くして周りは静かになった。全てのリッキーが木から離れて行き、リョーだけが残ってしまった。リョーだけが樹液を吸うので、樹液はかなり濃さを増した様だ。味も濃くなり、粘度も高い。麻薬的な効果も高くなってきたのか、意識は殆ど朦朧としていた。
 時々目覚めるのだが、長続きしない。時間感覚が無くなってしまっていた。ある時胸が異常に痛むので目が覚めたのだが、それは大きく成った乳房が衣服に圧迫されての痛みであった。既にFカップは越えていた。

 「ああ・・・。オッパイがこんなに大きく成って・・・。アッ、オチンチンは・・・。」

 慌てて下腹部を覗いた時、腰回りが異常に細く、そしてヒップがこんもりと、丸く大きく成っているのにも気付いた。そしておそるおそる手で股間を真探った時、リョーは感電した様に硬直してしまった。

 「無い・・・。オチンチンが無い・・・。割れ目に成ってる・・・。」

 カーッと興奮した時、再び朦朧としてしまった。

 (ああ・・・、このままじゃ、種を産まされる・・・。)

 リョーの身体が撫でられているのに気付いて目を覚ました。

 「ああ、チッチリ・・・。」
 「ロッチチリ・コナイ。ミニ・キタ。」
 「心配掛けたね。有り難う。あれ? その子は?」
 「コレ・フタリメ・コドモ。」
 「そうか。そうだよな。ボクは中途半端のままだ。身体は遅ればせだけれど、とうとう女に成ってしまった。」
 「ロッチチリ・オンナ・カラダ・オトコ・チガウ。オッパイ・オオキイ。チッチリ・オオキイ。ロッチチリ・モット・オオキイ。イッパイ・オオキイ。」

 リョーは悲しさと恥ずかしさで裸けている胸を衣服で覆おうとした。しかしとてもチャックを締められる程ではなかった。

 「寂しいよ。誰も居ない。だからチッチリが来てくれて嬉しい。でもこんな身体は見られたくなかった。早く抜け出したい。チッチリ、誰か空からボクを助けに来てくれる人が来る。そしたらその人を連れて来て・・・。うう・・・、また眠くなってきちゃった。チッチリ・・・、ありが・・とう・・・。」
 「チッチリ・マツ。タスケ・クル・マツ。ロッチチリ・オヤスミ。」

 チッチリは子供を連れて女の木から離れて行った。



 リョーが木に取り憑かれてから三ヶ月が過ぎた頃、女の木が再び花を開いた。そして同じ様に哀れな状態でリッキーが木に取り憑かれた。

 「いつの間にかもうこんなに時が経っていたのか。しまったなあ。先輩に最初の予定通り三ヶ月の延期にしておけば助けて貰えたのに。あと三ヶ月か。悔しいなあ・・・。」

 そして花が実に成り、リッキー達と同じ様に、リョーの股間にも侵入してきた。リョーは入って来る時には意識が無かった。気が付いた時には新たな股間の異物感があり、種にもぐり込まれてしまったのを悟った。しかし引き抜いてしまおうとしても身体が動かない。リッキー達と同じ様に、仰向けのまま、腹部の膨れるままにして居なければならなかった。どのリッキーも種の茎は一本なのだが、リョーには三本入っていた。身体が大きい分だけ、そして人間の女性の子宮の大きさだけ、そしてリッキー達よりも遥かに長い期間のホルモン吸収で、既に完全な女性としての子宮には、沢山の種を育てる能力があったのであった。



 ふと気付いた時、リョーのおなかはパンパンに膨れていた。完全に臨月程のおなかに成っていたのである。そして話しには聞いていた陣痛というものがやってきた。無意識に息むと、それはおなかを圧迫する。あちこちで息む声がしている。

 「ウグッ・・・。」

 固い物がリョーの腹から、今迄に経験の無い部分を通って出てくる。まるでひどい便秘の便が、尻でない部分から飛び出てくる様な不快感であった。

 「アタッ・・、アタタタ・・・。」

 大きく息をしながら、力を込めて押し出す。いわば処女がいきなりの出産をする様なものである。程度、加減が分からず、ただひたすらいきばり続けていた。リッキー達は種の出産を終え、安堵の息をしている間も、リョーはただひたすら種の出産を続けていた。そして一個の種が飛び出ると、その後を続いて次から次へと弾け出たのである。十個以上の黒い塊が繋がって出てきた。

 「フーッ・・・。」

 リョーもまた、肩で荒い息をしていた。あれ程膨れ上がっていた腹部が弛んでいた。出産ビデオで見ていた程の産道の拡がりは無かった。全体容量は大きくとも、一個ずつの種の通る道はそれ程広くなくても良かったのだ。しかしリョーにとっては膣口が拡がっている事を認識させるには充分だった。

 「ああ・・・、とうとう女に成っちゃった。」
 「オマエ・リョッチチー?」
 「ああ、確かにそうだよ。確か『白い大きい可愛い女』って意味だよね。」
 「チッチリ・ハナシ・キイタ。チッチリ・マツ。リョッチチー・タスケ・マツ・イッタ。」
 「ああそうか。待って居てくれるんだなあ。二回花が咲いて・・・、やっと五ヶ月。あと一ヶ月でスコットが来てくれる。でも、こんな姿で・・・。」

 リョーは再び悔悟の念で涙した。



 雌化したリッキー達は二、三日で膣口が戻っていた。しかしリョーの方はまだまだ簡単には回復しない。形は縮んで来ていたが、力が入らずに、弾力性に欠けていた。腹部の弛みも少しずつの回復であったが、種で子宮が拡げられている間に、内臓がかなり上に持ち上げられていたらしく、すぼまってきたウエストはリョー自身が驚く程のくびれと成っていた。

 「ハハハ・・・。凄いグラマーだ。こんなグラマーな女の子とボク自身がやってみたかったよなあ・・・。」

 リッキー達の様子が変わってきていた。前回は女性化していなかった為か、朦朧としていたので良く分からなかったのだが、どうやら発情している様であった。切なく、つらそうな声を出している。息を荒くして、必死に耐えている様であった。しかしリョー自身にはまだその気配は無かった。
 そして茂みの蔭から雄のリッキーが顔を覗かせている。手には女の木の実を持っている。オズオズと近付き、その実を雌リッキーの前に置いた。雌リッキーは「キキッ」と怒った声で叫び、大きな尻尾を抱え込み、交尾を拒否していた。しかしその尻尾を押さえている前足の力が少しずつ抜けていくのだ。別のリッキーの前にも若い雄が同じ様に立っていた。雌リッキーは目を見開き、涙を流しながら、痙攣した様に震えている。フワッと尻尾を押さえていた前足が両側に崩れ落ちた。尻尾が少しずつ裸ける。雄リッキーが素早くのし掛かっていった。「キーーッ」と悲鳴を上げた時には既に下半身は結合していたのであった。押し戻そうとする雌の力は弱く、雄はひたすら下半身を押し付けていた。
 リョーはその処女喪失シーンを涙を流しながら見つめていた。ハッと気付いた時、リョーの前にも雄リッキーが首を傾げて立っていたのだ。手には木の実を持っていた。

 「イヤだ! 冗談じゃない。誰が獣姦なんかするもんか。」

 その雄リッキーはリョーの怒声にビクッとしていたが、身体をしっかりと抱え込んだリョーの下半身付近で匂いを嗅いだ後、別のリッキーの方へと歩いて行った。

 「フーッ。驚いた。出来る訳無いじゃないか。どうやらボク迄発情する事は無さそうだ。でも、ボクはリッキー達より倍の時間が掛かっている。気を付けないと・・・。」

 不安に身震いがしていた。



 新しく雌に成ったリッキーも、次々に妊娠して女の木から離れて行った。リョーの身体は種を産む前の様に、いやそれ以上に絞まった身体に戻ってきていた。女の木の麻薬的成分に身体が慣れてきていたのか、以前程の朦朧とした状態には成らない。しかしそれはかえってリョーを寂しい状態にしていた。

 「前よりも時間が長く感じる。もうすぐ女の木の花が咲くなあ。ちょうどその頃にスコット先輩の迎えがある筈だ。驚くだろうなあ。」

 スコットの顔が懐かしく頭をよぎった。しかしそれは懐かしい先輩というより、男として感じてしまったリョーは誰が居る訳でもないのに顔を真っ赤にしてしまった。

 「やだあ。ボク、何考えているんだ。」

 しかし妄想に近い想像がどんどんリョーの頭の中に広がっていってしまうのだった。

 「ウワッ、変な事考えたせいか、あそこが催してきちゃった。」

 リョーは下腹部をモソモソいじり始めた。童貞だったリョーは女性のその部分を見た事も無かったし、どういう具合に成るのかも良く知らなかった。膣からは粘りの有る液体が流れ出してきていた。

 「クーッ、たまらない。」

 リョーは指だけではその状態を回復出来ず、女の木に股間を擦り付けたりしていたのだが、興奮状態はますます激しいものに変わっていった。股間からの滴りも段々と激しく成っていった。
 ふと気付くと、リョーのそんな状態をじっと見つめているリッキーが居たのだ。そして手には女の木の実を持っている。嬉しそうな顔をして待っているのだ。

 「じょ、冗談じゃない。ボクはしないよ。」

 リョーは自分が催してしまっているところを見られ、顔を真っ赤にして膝をしっかり抱え込んで座った。

 「リョッチチー・オンナ・ニオイ・イイ。イッパイ・イッパイ・イイ。」
 「女の匂い? ボクも発情? まさか・・・。」

 リョーは座っていられなくなっていた。しかし膝を抱え込んだまま横になっている。リッキーのペニスは最初は細い先細に成っている。それが段々に太く成り、かえしが出てくるのだ。チラッと見えたリッキーのペニスはリョーには好ましいものに思えてくるのだ。

 「イ、イヤだ。獣姦なんかしない。もうすぐ助かるのに・・・。」

 リョーはひたすら我慢し、耐えていた。しかし息が段々荒くなり、身体中が充血して汗もかき始めていた。リッキーが見ているので、指を使う事も出来ない。無意識に足を拡げてしまおうとするのだが、ハッとして力を入れる。そんな時、リッキーがチョコンとリョーの乳首に触れたのだ。

 「アハーーーーッ!!!」

 全身に電流が走る。リョーは思わず乳房に手を当てた。押さえ付けていた膝がスッと開き気味になった。その途端、素早い動きでリッキーがリョーの足の間に飛び込んで来たのだ。

 「アッ、ダメッ!!」

 リョーは慌てて膝を閉じようとした。リッキーを足の間に挟んだまま閉じようとしてしまったのだ。つまり、足でリッキーを抱え込み、自分の方に引き込んでしまったのだ。

 ズプッ・・・・。

 「アアーーーーーーーーーーーッ・・・・・・・・・・・。」

 悲鳴とも歓喜ともつかない声が静かな森に響いた。



 リョーの男としての精神は弾け飛んでしまった。女の、というより、雌としての本能が呼び起こされた。
 リッキーはペニスをグイグイと押し付ける。粘液による摩擦減少はリッキーのペニスのかえしで減殺される。膣はリョーの意識とは関係無く、ペニスを絞り上げるのだった。それに伴い、ペニスは太さと硬さを増す。子宮が少しずつ下りてくる。種出産後の影響もあるのだが、幾分開き気味の子宮口にリッキーのペニスの先端が触れる。

 「アッ・・・・、ヒーーーーーーッ!!・・・・。」

 子宮口に突き挿さったペニスからドッと熱い粘液の塊が飛び込んだのだ。

 「ク、クーーーーーー!!!・・・・」

 リョーは全身を硬直させ、リッキーを強く抱きかかえた。そしてそのまま失神してしまったのであった。



 リッキーは暫くの間リョーにしがみ付かれたままで動く事が出来ないでいた。その間中前足で目の前に在る、リッキーにとっては巨大な乳房をいじり回していた。
 膣その物は、人間の方がリッキーよりは大きい。しかも種出産直後であるから少しは拡がっている。にも関わらずペニスはしっかりと握り込まれているのであった。膣痙攣ではない。ペニスのかえしの部分を膣が喰わえ込んでいるのだ。女の木にリッキーの倍以上の期間捕まっていて、大量のホルモンを摂っていた肉体がホルモンバランスを戻そうとする働きであった。意識を失っている間でも膣は痙攣をする様にペニスを搾り続けている。腕の力が弱く成って、リッキーが動ける様に成った時には、リッキーの方も二発目の準備完了に成っていた。ピストンが開始された時、リョーは再び興奮状態の中で目が覚めた。目が覚めたといっても、正常な意識が戻ったという事ではなく、雌としての意識が戻ったという事であった。
 リッキーのピストンに合わせてリョーも腰を揺り動かす。リッキーの方にしても、今迄の同族の雌リッキーより遥かに長い足を使っての腰の動きは新しい快感であった。大きくゆすぶられながら二発目も子宮への直接射精をしてしまった。リョーは喜悦の声を長く響かせていた。通常、数時間掛かる交尾が短時間で終わったのだ。リッキーは今迄の交尾とは違う大きな快感に満足してリョーから離れた。肉体的疲労は少なかった。腰を伸ばし、ピョンピョンと飛び跳ねながら潅木帯へ帰って行った。

 リョーはだらしなく大の字に成ったまま白目を剥いて横たわっていた。乳首は飛び出たまま、クリトリスも充血して突き出したままであった。愛液は相変わらず流れ出しているが、子宮内に圧入された精液は漏れ出てこなかった。

 リョーが本当に意識を取り戻したのは夜になってからであった。汗が冷え、寒気で目を覚ましたのだ。暫くは自分自身を取り戻せないでいたが、リッキーに処女を奪われた事を思い出し、ひたすら泣き続けていた。

 「ボク・・・、ボクがリッキーと・・・。女に成った身体でリッキーと・・・。」

 悔しさ、悲しさでいっぱいの筈が、下半身から沸き上がってくる喜悦がリョーの精神を苛ますのであった。

 「チクショーーーー!!! チクショウ・・・。」

 一晩中屈んだままリョーは泣き続けていた。



 翌朝、泣き寝入りしてしまったリョーは、周りのざわめきで目を覚ました。数頭のリッキーがリョーを取り囲んでいた。比較的若いリッキーのグループであった。そして全員が女の木の実を持っているのだ。
 ハッとしたリョーは身体を屈め、男としての意識で身震いした。

 「な、何・・・。」

 リーダー格らしい身体の大きいリッキーが話し掛けてきた。

 「リョッチチー・コウビ・イイ。キイタ。イッパイ・イイ。チリッチチ・コウビ・スル。ミンナ・スル。ジュンバン。」
 「な、何だ・・・。まさか、お前達ボクと交尾を?」

 リョーはキッとなってそのリッキーを睨み付けた。

 「コウビ・スル。リョッチチー・オッパイ・ヨワイ。」

 リッキーはリョーのバストに触れた。途端に乳首がピョコッと飛び出し、全身に電気が走る。

 「アッ、ダメッ・・・。イヤだっ・・・。」

 しかしクリトリスが陰唇から顔を出し、愛液が股間を濡らすのだった。その愛液の匂いがリッキー達に催させる。
 通常リッキーは他のリッキーの交尾には一切干渉しない。一頭が終わる迄はじっと待つのである。しかしリョーに対しては別のリッキー達は乳房を愛撫してリョーの発情を勧めるのであった。

 「アッ・・・、ウク・・・、ウウッ・・・。」

 リョーは両足を擦り合わせながらもがいていた。意志とは関係無く足が開いてしまった時、リーダー格のリッキーはサッとその間に飛び込んできた。

 「アッ、イヤッ・・・。」

 リョーにとっては強姦であった。手足に力が込められない。両手、両足を左右に引っ張られ、膝を引き上げられたところにリッキーが太くて熱い肉棒を押し入れてきたのだ。

 ヌプッ、ズプズプ・・・・。

 「ハグーーーーーーーッ!!!」

 今度は意識は失わなかった。リョーにとっては気絶してしまった方が良いとさえ思われていた。被挿入感をまざまざと感じたのであった。肛門でない穴の存在感を確認したのである。ペニスであったであろうクリトリスは亀頭より激しい刺激を受ける。そして膣内の圧入感は精神的にそれ以上の刺激を感じるのであった。

 「ハウッ、ハウグ・・・!!!」

 リッキーはピストンを開始した。痺れる様な刺激がリョーの身体を駆け巡る。

 「ハッ、グ・・・。ダメッ・・・。いっちゃう・・・・・。」

 そして子宮に精液が圧入された時、リョーの精神が弾けた。

 (おい、どうだった?)

 リョーの手足を押さえ付けていたリッキー達が交尾を済ませたリッキーに尋ねた。

 (エヘヘ・・・。あいつの言う通りだ。本当に凄くいいよ。)
 (そんなにいいのか?)
 (こんなに早く終わっちゃったんだぞ。締めの力も強いし、最高だよ。)

 リッキー達は顔を見合わせてほくそえんでいた。

 (次は俺だ。早く目を覚まさないかな。いい匂いだね。)
 (お前の白い液の匂いがしないのがいい。それにこのオッパイの大きいこと。最初に見た時は驚いたけど、こういうのもいいね。)



 リョーが目覚めた時、身体は再び興奮状態におかれていた。リッキー達が乳房や陰部を嘗め回し続けていたからである。膣がペニスを求めようとする為、自立神経がリョーの目覚めを促していたのだ。

 「ウッ・・・、あ、もうやめて。」

 しかしリッキー達はリョーが目覚めるのをじっと待っていたので、目覚めを知るや、すぐにのし掛かってきた。膣はずっと愛液を溢れさせ続けているので、乗った途端に挿入は完了してしまう。

 「アフッ・・・・・、イヤ・・・・だ・・・。」

 意志とは裏腹に膣はペニスをギュッと吸い込む様に絞り上げる。

 「ああ、ダメ・・・。いいよ。凄いよ。アーーーーッ!!・・・。」

 今度は達しても気は失わなかった。獣姦ではあるが、慣れの影響も有り、高まりに素直に応じていたのであった。素直に快感を快感として受け入れた時、リョーは女の身体の悦びを本当に知る事が出来たのだった。
 ガックリとして横たわったままのリョーからリッキーは静かに起き上がっていった。リョーは涙を流してはいたが、必ずしも悔恨の涙ではなかった。リッキーによる輪姦とはいえ、女の悦びを知らされてし
まっては、もう男としての抵抗は無意味である事を悟ったのであった。

 「お願い、ちょっと待って。喉が渇いたの。木の実を食べさせて。」

 次の番らしいリッキーが木の実を差し出した。リョーはそれを受け取ってかぶりついた。今迄も何度となく食べた木の実であるが、今回は身体が求めていたのである。水分補給だけでなく、下腹部に力が沸き上がってくる様な感じであった。

 「ああ、女の木の実がこんなに美味しいなんて・・・。ボクって、本当に女に成ってしまったのね。」
 「リョッチチー、ドウ・シタ? カオ・カワッタ。」
 「顔が?」
 「イイ・カオ。サッキ・カオ・ロッチチリ。イマ・リョッチチー。」
 「ロッチチリの顔がリョッチチーに成ったって言うの?」
 「ソウ。」

 リョーはブルッと身震いした。そして無くなりつつあった男としての自尊心を少しでも取り戻そうとした。しかしそうしようとすると股間の高まりを押さえ付けようとする意識が働き、つらい高まりになってしまう。
 「いいよ。今は女に成っている。この身体の高まりを消してからでないと自分を取り戻せそうにない。いいわ、来てちょうだい。」

 リョーは早く落ち着きを取り戻してしまおうとの男の意志で、身体は早く次の交尾をしたいという欲求でリッキーを求めたのであった。



 グループ全員が交尾を済ませた時には既に陽は落ちていた。リョーは精神的な疲れの中に横たわっていた。男としての自尊心はズタズタであったが、女としての悦びの余韻がいつ迄も続いていたのである。火照ったままの身体を風に当て、女の木の蔦から樹液を吸い、残っている女の木の実を頬張っていた。

 「もうすぐ先輩が来て助かると思っていたけれど、とうとう交尾されちゃった。多分あと半月ちょっとだけれど、おそらく耐えられなかったな。女の身体に成ってしまった以上、交尾される事は不可避だった筈だ。もう少しの辛抱。精神的にも、つらく耐えながら待つのと、気持ち良く待つのとでは我慢の限界が違う。」

 木の蔭から見える星を眺めつつ、リョーは楽天的に考える事にしていた。
 『女は子宮で考える。』という言葉があるが、リョーは女の身体に成った事を自覚させられた時から悦楽を求めている自分の理由付けを無意識にしていたのだ。



 翌日は別のリッキーが次々にリョーの元に訪れて来た。明日には花が咲くという状況なので、交尾し損なった雄達が行列を作って並んでいた。しかし通常の雌リッキーよりも早く済み、気持ちがいいと伝わっているので、長い列でもじっと並んでいたのだ。
 リョーも身体の求めるまま、ひたすら交尾を続けていた。当然雌リッキー達の方へ行く雄は減って不満が出る筈であったが、意外に好結果であった。花の咲く寸前は雄達が群がり、喧嘩や喧噪が絶えず、雌としても落ち着いた交尾は出来なかった。そして途中で受精するのだが、身体が妊娠をしたと知ると、途端に受け付けなくなってしまうのである。そうなると残された雄は激しく怒るのだがどうしようもないのだ。リョーが交尾を始められる身体に成ったので、幾分なりとも負担が減ったのである。
 そして翌日、リョーの待っていた女の木の開花をした。今回は曳き寄せられる雄の数は少し減った様であった。リョーの捌いた交尾の数の影響であった。

 「今回はちょっと少ないなあ。ボクとの交尾のせいかな? 星全体でみれば影響は少ないけれど、次世代の雌が少なくなってしまったかな。でも今回限りだし、このコロニーだけだから勘弁してよね。」

 女の木に取り憑かれ、悲しい鳴き声を上げている間はリッキー達はやって来ない。麻薬効果にすっかり免疫になったリョーはじっとその雌化されるリッキー達を見守っていた。その間は女の木の実を持ってくる雄も居ないので、蔦の樹液だけでの食事になるのだが、交尾をしないでいるので空腹にはならなかった。

 「ああ、つらいなあ。交尾出来ないっていうのは。ほんの三日間にいきなり交尾し続けて、その後はパッタリだから。でもしたくてしたくて苦しいという程じゃない。多分子宮に大量の精液が入っているからかしら。表には流れ出ていないし、ボク自身が子宮が精液で膨れているのが感じられる。」

 もう少しで助け出されると信じ、ちょっと他人には話し難いリッキー達との交尾という経験を少し嬉しく思っていた。

 女の木に捕まったリッキーが雌化され、種を植え付けられる頃になると樹液の成分も変わってくる。ぼんやりとした状態が続くのであった。

 「ああ・・・、このままじゃまた種を産まされる。種でおなかが大きく成ったところに先輩が来たら恥ずかしい・・・。」

 しかしふと気付いた時には身体が動かず、股間には数本の茎が侵入していたのであった。

 「また・・・。種を産まされちゃう・・・。」




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