「ねえ、菊野さん。あれでいいの? 心迄リンクの恋人に成らないとダメなのでしょう?」
 「そうですわよ。最終的にはリンクと本当の夫婦に成って貰うのですから。」
 「だけど、心は『演技』でいいとなると、目的とは外れてしまうわ。いつ迄も振りをしているのでは、リンクにだってきっと・・・。」
 「あらあら、川島さん迄美奈と同じに感じられてはダメですわよ。」
 「美奈と同じ?」
 「ええ、わざと『演技』と言ったのですよ。肉体的には催眠学習の効果もあり、リンクとの交尾で快感を得ています。栄養浣腸の中のお薬の効果で淫乱になっていますから、これはすぐに習慣付けされるでしょう。しかし精神の操作は難しいのです。一番いい方法は、本人が望む方向への意識変革ですが、今回はそうはいきませんわ。だから『演技』をする様に言ったのです。美奈はリンクから逃れる為に『演技』を頑張るでしょう。『演技』とは状況に応じてどうすればいいかを考えねばなりません。人間としての常識から外れる『演技』ですから、どういう行動をとるのが変態雌犬の態度なのかを考えます。」
 「ああ、なる程。今迄のままではただ心で拒否し続けますものね。」
 「そうです。考えるという事は精神的苦痛のクッションになります。そして美奈なりの変態雌犬の行動パターン、精神パターンが出来上がります。そして拒絶以外にその精神パターンという選択肢が増えるのです。肉体的な快感を受けていれば、それに伴う精神的快感は、その精神行動パターンの中に在るのですから、自然とそういう精神状態になるでしょう。」
 「つまり『演技』だったものがいつの間にか美奈の精神状態になるという訳ですね?」
 「そうです。しかも本人はリンクとの交尾を続けている間の精神的快楽はあくまでも『演技』だと思っているでしょう。そして『演技』が不要になった時、それは既に『演技』ではなく、心の底からの本心になっている事に気が付く筈です。変態雌犬はこうあるべきだという美奈の論理なのですから、そうあるべきなのですからね。」
 「ヘーッ、菊野さんの改造というのは生理的、肉体的な整形技術だけではないのですね。」
 「そうですわよ。だからこそ、どんな変態肉体、家畜や道具ですら幸せを最終目標としているのですから。むしろ精神改造が主であり、肉体的な改造はその効果を高める付随的なものなのですから。」

 川島も留美子もしきりに感心していた。



 リンクは久しぶりの散歩をしていた。誰も居ない庭なので、美奈の恥ずかしさは我慢出来る。

 (『演技』・・・。本当の雌犬だったらどうするの? リンクの恋人だったら・・・。)

 美奈の心は『演技』という言葉が占めていた。

 (フーッ、落ち着いてみると私はかなり催している。食事からずっと、填められたままで射精していない。私のオマンコは欲求不満。変態だったら当然求めるわね。私の心はそこ迄変態じゃないわ。だけど高まったままでは人間としての理性が失われそう。私は人間なのよ。だから理性を戻す為にも肉体的な欲求不満を解消しておかないと・・・。それがリンクにとっては自然な筈ね。)

 リンクは美奈の状況を感じながら歩き回っていた。そして美奈の方から急に腰を前後し始め、膣に圧力を掛けてきたのだ。

 「バォン・・・?」

 リンクは美奈の方から求めてきたので少し驚いた表情をしたが、それでも嬉しそうに一緒に腰を動かす。ペニスの膨らみが急に大きく硬くなり、球状部分が美奈の膣内で前後し始めたのだ。

 「ハフッ・・・п@アハーン!」

 自分からの求めの交尾は以外と素晴らしかった。

 「アハッ、これは・・・? んふっ・・・、ワーッ、すご・・・い・・・。リ・・・、リンク・・・。ウォーーーッ!!」

 美奈は吠える様な良がり声を発した。リンクは元気づけられ、ますます激しく腰を揺するのだった。

 「アッ、来るの・・・。ヒーッ! 頂戴・・・。」

 激しい交尾結合が続く。そして美奈の膣内にリンクの精液が迸り出る。精液は美奈の膣内に充満するのだが、ペニスの球状部分が前後する事により、まるでエンジンのピストンの様になって精液を子宮に押し込むのだった。そして迸り続けるリンクの大量の精液はドンドン美奈の子宮に圧入されるのだった。

 「ヒーーーッ! まだ続く・・・。好きよっ、リンクーーーッ・・・!」

 激しい絶頂とともに美奈は再び失神してしまうのだった。むしろ失神しなければ精神が破壊してしまう程の絶頂だったのだ。


 「あはん・・・。」

 美奈が意識を取り戻した時、リンクは美奈から離れていた。そして乳房を嘗め上げていたのだ。

 (アッ、やっと離れてくれた。フーッ、凄かったわ。悔しいけれど菊野さんの言う通り。自分から求めると、とんでもなく素晴らしい交尾だったわ。)

 起き上がろうとしたが、まるで腰が抜けた様であった。

 (あんまり凄い交尾だったからね。ああ、留美子さん達は居ないんだった。ウッ、ダメよ。良く考えて。この拘束衣では逃げ出せないわ。だからリンクもそれを知っていて離れているのよ。それに拘束衣のせいだけでなく、私も疲れているわ。折角『演技』を始めたばかりなのよ。ここで無理な逃走を試みるのは逆効果。逃げ出せっこないもの。それなら従う振りをしていた方がいいわ。)

 美奈はわざと微笑みを浮かべて起き上がった。股間からはリンクの精液がタラーッと流れ出していた。足を開き、膣口を開いて流れ切るのを待っていた。

 「随分と沢山入っているわ。リンクとしてはよっぽど私が好きなのね。その思いが詰まっている感じだわね。」
 (リンクも嬉しそう。きっと私が素直になった事で、私が恋人に成ったらしいと思っているのね。)

 なかなか精液は出終えない。腰がガクガクするまま、美奈は家の中へ這っていく。リンクは美奈の股間を嘗め上げながら後を着いてくるのだった。

 (やっぱりこのままでは逃げ出せない。もっと安心させないと。それに私の疲労も強いわ。少し休んで・・・。それもリンクに安心感を持たせる休息でないと・・・。)

 美奈はやっとの事で犬小屋に入った。リンクも嬉しそうに一緒に入り横になる。美奈はリンクを抱える様にしてすぐに眠りに落ちていった。



 「んーーーっ・・・。」

 美奈は大きく伸びをして目を覚ました。素晴らしく爽やかな目覚めだった。

 「ワォン・・・。」

 美奈の目覚めに気が付いたリンクも起き上がり、犬小屋から出ていった。

 (ああ、リンクは私から離れている。かなり安心しているわね。どうかしら・・・、鍵の掛かる部屋に飛び込めれば、留美子さん達の帰宅迄隠れていればいいのだけれど・・・。だけどもし失敗したら・・・。)

 迷いながらも立ち上がろうとしたが、拘束具の足では立ち上がれない。やはり四つん這いのままでは逃げ出せないのだ。

 (矛盾なのよね。この拘束具を着けているからこそ離れてくれるのよ。もし菊野さんが私にこれを着けなければ、きっとリンクは命を擦り減らしてでも交尾射精を続けていたわ。私の子宮が破裂するかも知れない程に精液をぶち込まれて・・・。絶対に大丈夫迄は我慢。私が雌犬だったらどうする? 恋人のリンクに近付いていった方がいいの?)

 美奈は這ったまま部屋の外のリンクを探して出る。

 (ワーッ、まだ精液が流れ出るわ。随分沢山入れられている。菊野さんはリンクの精液の副作用を言っていたけれど、そう言えばオッパイが膨らんだ様な・・・。フーッ、ペニスを抜かれたままでいるのは久しぶりの感じだけれど、ムズ痒い。あれだけ交尾をされ続けていたら当然ね。ウッ? 精液だけじゃない? 私の愛液が流れているの? まずい・・・。もし留美子さん達が戻ってくる前に催していたら、私は本当にスケベだと思われてしまう。繋がったままでいれば今迄のままね。仕方ないわ。雌犬の『演技』としてもここはリンクに交尾して貰って、私の催しを治めておかないと・・・。)

 美奈は小首を傾げて美奈を見つめているリンクに近寄って行った。

 「お願い、リンク・・・。」

 そしてリンクの鼻先に尻を向け、愛液の噴き出している膣口を晒して尻を振るのだった。

 「ウォン。」

 リンクにはそれがどういう意味なのか分かった。ペロッと美奈の股間を嘗め上げ、美奈の背中にのし掛かってきた。

 「ハフッ・・・。」

 リンクのペニスが美奈の膣に滑り込んだ。美奈は留美子達にはしたないところを見られるよりも現在の欲情を治める為に尻を向けただけだった。しかしリンクには美奈が自分から求めてきた、初めて自分の物としての雌犬の行為であった。リンクは美奈を自分の物に出来たと確信したのだった。それはリンクの交尾に悦びとして現れていた。

 「ウォッ・・・! いい・・・。」

 抵抗をせず、自分から求めた交尾は最初から素晴らしいものだった。リンクは押さえ付けての交尾ではない。目一杯のピストンで美奈の膣内にペニスを蠢かす。

 (ハアッ! 凄い・・・。夢中になっちゃう・・・。これは『演技』よ。『演技』をより完全にする為には、身体の求めるままに・・・、素直に気持ち良くなっていればいいの。いいの、もっと・・・。)

 逃げ出さない美奈に対し、すぐに第一時射精をする必要はない。充分に美奈を高め、愛液が激しく迸り、激しいピストンをしているリンクは、最後の瞬間にいっぱいにペニスを押し込み、いきなりのカウパー腺液放出をした。

 「ハガーーーーッпI!」

 爆発的な第一時射精は美奈の膣の奥深い所でペニスの急激な膨張をした。そして子宮口をこじ開け、ペニスの先端は美奈の子宮に突き挿さっていた。そして膨張の一部がペニスの先端も膨らませ、子宮口を更にこじ開けるのだった。

 「ヒギーーーッ・・・!」

 掻爬と同様の鈍痛が走るのだが、美奈にはそれも絶頂の為の快感であった。膣の深い所でのペニスの膨張はピストンの余裕のない程に深い結合であった。それはリンクにも凄さまじい快感を与える。そして尻を付き合わせる犬の交尾のスタイルになる前に本格射精が始まった。いきなり大量の精液が直接子宮に送り込まれた。

 「ハウーン! な・・・、何? これは・・・一体・・・。あ・・・どうして・・・? ん・・・、あが・・・。潤[ーーーっ・・・。」

 子宮容量の限度を超える精液は輸卵管を膨らませ、更に卵巣へと送り込まれた。それは美奈には初めての経験だった。数多くないセックス経験やオナニーでは絶対に受ける事のない快感だった。そして自分から求めた交尾の素晴らしさをしっかりと刻んだのだった。

 リンクも満足していた。自分の物となった雌犬の美奈に求められ、そして凄さまじい快感の絶頂を与えてアクメに導いたという男の征服感であった。そしてやっと後ろ向きになっての交尾に移るのだが、ペニスは深く填まり込んだままで、子宮口を押し拡げたままだった。それでもリンクは腰を振り、美奈は引きずられる様にしながらの交尾である。美奈は意識がないと言う意味では失神していた。しかしそれは理性だけが失われていて、肉体の悦楽にはずっと感じたままであった。変態雌犬としては意識はしっかりしている。吠え狂う様な良がり声はリンクを更に喜ばせた。そして初めての雌犬としての交尾であった。精神的にもという意味で・・・。


 リンクは二度目の射精後もペニスを膨らませたままにしていた。それは逃げ出されない為ではなかった。動物の本能として美奈に妊娠させたかったのだ。何度も交尾していても美奈が求めるという事は妊娠し損なったという証拠である。大量に射精した精液が美奈の子宮に長く留まっている様に膨らんだペニスと押し込んであるペニスで子宮口を塞いでおく為だった。美奈の子宮は精液でいっぱいに膨らまされていて、強い圧力になっているのだが、それは美奈にとっては快感の証であった。



 「アフ・・・。」

 美奈に意識が戻ったのは随分経ってからだった。快感の余韻がずっと続き、物憂げに起きたのだった。

 「はあ・・・、随分沢山入れて貰った。おなかがこんなに張っている。どうしてこんなに嬉しいのかしら・・・。私にこんな獣姦趣味があっただなんて・・・。リンクのオチンチンがとても気持ちいい・・・。」

 美奈は後ろ向きに繋がっているリンクに手を伸ばし、優しくさするのだった。リンクも嬉しそうに尻尾を振り、素直に美奈の喜びを感じていた。

 「ただ今・・・。」

 川島達が戻ってきたのだ。リンクはパッと立ち上がり迎えに出ようとしたが、美奈を引きずっている事に気が付いてゆっくりと歩くのだった。

 「ただ今、リンク、美奈。アラッ?」

 一緒に入ってきた弥生は素直に後ずさりしながら着いてきた美奈の顔と二匹の結合部分を覗き込んだ。

 「菊野さん、どうかしました?」

 弥生の表情に留美子が怪訝そうに尋ねた。しかし弥生はニッコリ微笑み、リンクの頭を撫でていた。

 「リンク、美奈をちゃんと恋人にした様ね?」

 そして美奈の身元で囁いた。

 「美奈、かなりきちんと『演技』出来た様ね。」

 美奈は顔を赤らめていた。

 「美奈、分かったわね? 少なくともあなたはリンクとの交尾を悦んでいるのは確かね。獣姦趣味は認めるわね?」
 「そんな・・・、菊野さん。」
 「いいのよ。前にも言ったけれど、私達もはっきり言えば変態性欲者よ。美奈さんが獣姦趣味でもそれはどうという事はないわ。セックスは人によって多様なの。」
 「菊野さん、どういう事なのですか?」

 留美子が尋ねた。

 「美奈さんは完璧に『演技』をしていたと言う事です。だから交尾結合が完全なのですわ。リンクのペニスが完全に美奈さんの中に埋没していますね。美奈さんの愉悦の表情とリンクの充実した様子を見れば、如何に完全に結ばれたかが分かりますものね。」
 「菊野さん・・・。」

 美奈は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 「でも大丈夫よ。リンクはあなたを完全に自分の物にしたと思っているわ。だから何とか妊娠させようとして精液が漏れ出さない様にと抜かないのよ。だから何度かすれば諦めるわ。それ迄は今の様に恋人の『演技』を忘れないでね。」
 「はい・・・。」

 美奈は照れ臭そうに頷いた。

 「だけど良かったでしょう。もしリンクがあなたを諦めても、あなたがリンクとしたければいつでもいいわよ。もう私達はあなたの獣姦趣味を知ってしまっているのだから、今更恥ずかしがっても無駄よ。」
 「そんな・・・、私は・・・。」
 「いいの。口ではどんな事を言っていても、あなたの良がり具合は見当が付きます。だからもう少し『演技』を続け、リンクの死を少しでも先に延ばして上げてね。」
 「あっ・・・。」

 美奈はリンクが交尾をしなければ死んでしまうという事を思い出した。美奈の『演技』は自分自身の悦楽、そしてその先の自由、それとリンクの死の先延ばしになるという事を悟った。そしてそれは先延ばしであり、僅かなものであるという事も分かっていた。

 「それではちょっと私は美奈とお話しがあるので、川島さん達は外して貰えます?」
 「エッ、なぜ?」
 「私の本職ですわ。私はセックスカウンセラー。それに医師でもありますし、裏の仕事は調教、改造。ですが今回は初めての事なので、色々と診察やデータ収集、美奈に聞きたい事もありますしね。かなり恥ずかしい事も聞かないとならないので、美奈と私だけでお話ししたいのです。」
 「ああ、そうですか。それでは失礼しましょう。」
 「そうね。本当はちょっと残念だけれど。」

 川島と留美子は軽く会釈をして部屋を出て行った。弥生は鞄を開け、ファイルを開いて椅子に座った。二匹は伏せたままで弥生を見つめていた。

 「美奈、あなたの診察の為もあるのですが、本当はあなたの体験を聞きたいの。今迄も何人も獣姦経験者からも聞いていますし、裏の仕事で無理矢理獣姦させた事もありますのよ。」
 「無理矢理? 菊野さんが?」
 「ええ。私は裏のセックス産業がメインの仕事ですから。仕事柄、私にはその人のセックス傾向がある程度分かるのです。」
 「だけど、ひどい事を・・・。」
 「最初はね。だけど今のあなたになら分かるでしょうが、ひどいと思うのは本人の自覚がない内だけですわよ。その嗜好に目覚めてからは素晴らしいセックスを得られるという喜びで、皆さん幸せになっています。美奈、あなたはどうですか? バージンではなかったのだから、今迄のセックスと比べ、リンクとの交尾はどう?」
 「それは・・・。」
 「正直に言って。分かってはいますが、確認しておきたいの。精神的なものは除外し、どうですか?」
 「まあ・・・、凄かったと・・・。」
 「こんな事を言うのは酷かとも思いますが、あなたのこれからのセックスライフに関わる事ですからね。もしあなたがこれから普通に男性とセックスすると考えた場合、リンクとの交尾以上、ううん、その程度の良さは得られると思いますか?」
 「それは・・・。」
 「そうですよね。私もここ迄素晴らしい交尾の経験をされた方は初めてなの。それで私の方のデータとしても伺いたいのだけれど、リンクとの交尾ってどんな具合? ペニスの形や射精の仕方が違うという事は学問的には知っています。だけどどこがどんな風にいいのかという事迄は知らないのよ。私のカウンセラー業の参考に教えて欲しいの。」
 「具合って・・・。」
 「そうねえ、犬のペニスが中で膨らみ、抜けなくなる事は分かるのだけれど、それはいい事なの? 私もスケベですし、大人の玩具も扱っています。だから内部で膨れるバイブも在るのですが、ただ抜け難いというだけで、それ程の効果はなかったのだけれど。」
 「それは・・・、凄いです。」
 「凄い? 抜けなくなるという事が?」
 「いきなり膣の中で膨らむと、その瞬間にいってしまうんです。だからその時から理性が無くなってしまって、夢中になってしまうの。」
 「なる程・・・。誰もがそう言うけれど、やはりバイブとは全然違うのね。だけど繋がったままというのはどうなのかしら? 交尾はセックスと違い、ピストンは出来ないでしょう。気持ち良さの面では・・・?」
 「ウフッ。恥ずかしいという事を覗けば、素晴らしいです。離れられない、逃げられないという事で強い陵辱感があるのですが、その中でリンクのが中で暴れ回るんです。絶対にやめて貰えない状況での凄い交尾・・・。本当に凄いんですよ。」

 美奈は思い出してしまう事で膣に圧力が掛かる。キュッとペニスを絞り上げてしまうのだった。

 「そう。それはM傾向のある美奈だからね。それと交尾にはかなりの時間が掛かりますよね? どんなに強い男性でもピストンはせいぜい十五分がいいところかしら。平均でも五分程度ですから。あまり長過ぎるのは苦痛ではないですか?」
 「それが・・・、本当に恥ずかしい事なんですけれど、凄いのが長く続くので・・・、私の身体が変態だという事を思い知らされています。」
 「いいえ、普通の方ですとなかなか倫理観が強いので試みられないのです。美奈の場合、偶然とはいえ、美奈の本質を見付けてしまいました。ただ・・・。」
 「ただ・・・? 何か?」
 「ええ、これは美奈にはかなりの辛苦となりそうなのですが・・・。」
 「それは? もっとひどい何かが?」

 弥生は少し気の毒そうな表情をしていた。

 「美奈はリンクとの交尾に素晴らしい快感を得てしまいました。一般的には倫理に反しますから、世間的には認められません。ですが美奈とリンクがこの家の中に居る限り、セックスの多様性の中の一つの愛の形態なのです。お互いに愛を確認出来るのでしたら、それは素晴らしい事です。愛が無く、ただ単なる肉体的快楽ですら、互いに快楽であるのならそれでも素晴らしい事なのです。はっきり言いますと、美奈はリンクから抜け出られた後、リンクとの交尾を二度としないでいられるかという事なのです。」

 美奈はちょっとムッとした。

 「当たり前です。確かに私の身体は変態性欲の塊だと思い知らされています。だけど心迄は・・・。」
 「そうですよね。だけど本当に心配なのです。美奈がこの先男性と恋をしたとして、リンクとの交尾の素晴らしさを身体が知ってしまっている以上、その男性とのセックスでは絶対に欲求不満になってしまいます。セックスだけが愛ではありません。しかしセックスの無い愛というのは続かないのですよ。それに男性の立場として、セックスで快感を得られない女性とのセックスはつらいものです。」

 美奈はハッとして胸を押さえた。

 (本当の事を言えば、確かにリンクとの交尾の様なセックスは考えられない・・・。)
 「時々はリンクとの交尾で肉体的欲求不満は解消出来るのではないかと考えるかも知れませんが、それも来年迄です。リンクの様な特殊な犬はそう居ませんから、その後となると・・・。」

 そこでパッと立ち上がり、無理に笑顔を作る弥生だった。

 「まあ今のままではリンクの寿命はあと一年です。でも何とか努力はします。こう言うのも変ですが、リンクは美奈のお陰で交尾の悦びを知ったでしょう。巧くすれば本当の雌犬との交尾が出来る様になれば・・・。」
 「そうですよね。そうすればリンクは長生きが・・・。」
 「ええ。そうなってくれればね。だけどその時はもう美奈はリンクとの交尾は出来ません。」
 「エッ?」
 「美奈はあくまでも恋人なのです。妻には成れないの。美奈はリンクにとっては『不産女(うまずめ)』ですよ。どんなに交尾に悦びを感じても、リンクの犬の本能としては子孫を残す事が重要ですからね。」
 「そうですよね・・・。」

 美奈の心には悲しみがあった。早くリンクから解放されたいという意識とリンクとの交尾を望んでいる肉体の葛藤であった。

 「人間と犬の間には絶対に子供は出来ませんから・・・・。まあ、血の繋がった親ではありませんが、『産みの親』に成る事は出来るのですが。そうすればリンクの妻ですから、リンクは奥さんの事はいつ迄も愛するでしょうけれどね。」
 「ハアッ・・・?」

 美奈は訝しそうに弥生の顔を見た。

 「エッ? ああ、『産みの親』の事ですか?」
 「どういう意味です? たとえば・・・、たとえばですよ、私でもリンクの子供を産む事が可能という意味ですか?」
 「ああ、その事ですか。可能性としてはありますよ。つまり、人間の卵子と犬の精子では受精はしませんから、別の雌犬の卵子を移植、正確には体外受精を人間の子宮内ですればいいのです。ただ、現在の医学でもかなり難しいのですが。勿論倫理的には不可能ですが、医学的には可能です。ただ、可能と言っても実際には色々な問題があり、出来ないと言った方がいいでしょうね。」
 「そうでしょうね。倫理的にクリアしたとしても、今の医学では・・・。」
 「問題というのは副作用の事なんです。つまり人間の子宮内で受精しても、着床が大変難しいのです。方法はありますが、かなりのホルモン療法を施し、しかも医療用の接着剤で卵子を子宮壁に接着しておけばいいのです。しかしそれでもまだ難しい問題があるのです。人間の場合でも赤ちゃんを望まないセックスでの受精の場合、着床率はかなり落ちるのです。まして人間でいながら犬の子を産もうという意思のある女性なんて居ませんよ。それでなくてもサロゲートマザー、つまり代理母での着床率は二十%程度です。強く望んでのホルモン変化を期待しても三十%以下です。ですからホルモン処置で確率を上げるのですが、その場合に副作用が起きるのです。女性ホルモンの一種ですから、より女性的、つまり乳房がかなり大きく成ってしまいます。まあそれはいいとして、一番の問題は子宮の内壁が生理的に変化し、二度と自分の卵子が着床しなくなってしまうのです。ですから絶対に人体実験すら行われないのです。」
 「・・・・・、だとしたら、どうしてそういう事が言えるのですか?」
 「ウフフ・・・、私は裏の世界の改造手術をしているのよ。私自身は施術経験が無いのですが、そういう手術のデータは持っています。当然ながら裏の社会での事例は表の社会には出ません。」

 美奈は笑顔の弥生の裏の恐ろしさに震えるのだった。

 「それでは成功はしているのですか?」
 「ええ。でも殆どが本人の意思を無視しての事で、かなり無理な治療をします。ですから精神状態に異常をきたしてしまうのが殆どです。稀に本当に産みたいと望む例があるのですが、その場合は成功率も高く、精神はむしろいい結果になっている様です。当然ですよね。本人の望む方向なのですから。それにホルモンも良く効くので、量が少なくて済むのです。」
 「可能なのですね? それで副作用って?」
 「裏の改造手術としては好都合な副作用なのです。だからこそちゃんとした臨床データが揃っているのです。巨乳に成る事、自分の卵子での妊娠が出来なくなる事、そして骨に異常が出てしまうのです。特に腰と膝の筋肉と関節に異常が出易く、つまり歩行が困難になるのです。だから今のあなたではないですが、ずっと四つん這いになってしまうの。リハビリにはかなりの時間を要するわ。ただ、改造調教には好適でして、本当の意味での女性家畜化としての雌犬にはピッタリでしょう?」
 「まあ・・・、恐ろしい・・・。」

 だが、美奈の心の中では恐ろしさは感じていない。興味深い話だった。

 「これも・・・、これもたとえですが、もし私がそういう事を望んだとしたら、どんな不都合があるでしょう。アッ、本当に望んでなんかいません。ただそう思う事が『演技』を確実なものにするかと・・・。」
 「ウフフ。Mの美奈さんとしてはどんな責めでも楽しいのよ。まあ、可能性として考えてみますと、時期的にはこの夏休みの内ですね。いくらリンクが交尾が好きでも、やはり自然の摂理として春から時期が離れる程、精力は落ちます。それに何度交尾しても美奈は妊娠しませんから、リンクに諦めが起きます。本当の雌犬の場合、子供を産みたいと思っている時は人間には分からないフェロモンを出しているのです。発情のフェロモンとは少し違う様です。ただその点は私は研究の為に集めている犬のフェロモンがありますので、それを膣内に塗り付ける事で解決は出来ますが・・・。しかしその他問題として、美奈の着けている拘束具は外せない事になります。」
 「これを脱げないのですか?」
 「そうですよ。それでは不便ですし、第一学校へ戻れませんから。」
 「なぜ?」
 「だって、リンクは人間の美奈と交尾しているのではありませんよ。最初はそうでしたが。今はその拘束具を着けているから雌犬なのです。もし美奈が妊娠し、人間に戻ったとしたらリンクはどう思いますか? 自分は人間に孕ませて、自分は人間だと思う事になります。そうするとこれからは確実に人間に対して発情します。それがどういう事かは分かりますね? 美奈の様な被害者が更に出てきます。」
 「別に私は被害者・・・、アッ、そうですね。それはまずいですね。」
 「ただ、拘束具を着けていても生活に不便はないでしょう。だって副作用で少しは膝や腰に影響が出ますから、暫く立ち上がれないのは同じですから。」
 「アッ、そうですよね。」

 美奈に笑顔が浮かんだ。

 「でもあなたが万が一続けていたくても交尾をやめるのは八月中旬です。美奈自身は気が付いていないかも知れませんが、あなたはリンクの精液の影響で、かなり強い犬の体臭を放っています。」
 「エッ? そんなに匂います?」
 「慣れている私でも随分匂いますよ。だからこそリンクはあなたを雌犬と認識しているのですから。だからその匂いを抜くには少なくとも二週間は掛かりますからね。」
 「そうですか・・・、そんなに匂うのですか・・・。」

 美奈の心には不思議な感情が沸き起こっていた。自分が犬の匂いを発しているという事がなぜか嬉しかった。

 「だけど安心なさい。考える必要は全くないわ。だから可能性であって、一番必要とする点は本人の意思。本人が犬の子を産むという意思がなければ成立しないんです。」

 弥生はファイルを閉じ、立ち上がった。

 「まあ、リンクには随分と待たせてしまったわ。美奈、まだまだ調べたい事、聞きたい事があります。交尾の事は特に興味がありますの。だから色々と教えて下さいね。」

 弥生が出て行き、部屋に二匹だけになり、やっと美奈は緊張が解け、ホッとした。それはリンクにも伝わり、モゾモゾと起き上がり、腰を動かし始めた。

 「アハッ。困るわ。どうしてリンクとの交尾が・・・。」

 美奈はそれ程長くないと思っている交尾を楽しみたがった。美奈が求めるので、リンクも張り切って交尾を続けるのだった。



 美奈にとり、交尾はそれ程恥ずかしいものではなかった。開き直りもあるのだが、『演技』をしているという意識が、悦んでいてもそれは『演技』であると思って貰っているつもりだった。そして平静を装い、食事の時でも繋がったままで床に居ると、女達も平静であり、違和感がなかった。そして当然の様な栄養浣腸も、素直に受けている方が恥ずかしさなど感じないのだ。上品な女性達の上品な言葉での猥褻な話の方がむしろおかしい程だった。その様な雰囲気の中での美奈の交尾はそれ程突出したものではないとさえ思えた。

 夏休みも半分過ぎ、リンクが美奈から離れている時間も長くなった。しかし美奈は完璧を期すという意識で、相変わらず『演技』をしっかりと意識していた。

 「美奈、散歩?」

 リンクが表に出て行こうとするので、美奈が素直に後ずさりで着いていく。

 「ええ、困るんですけれど、暑い日は木陰でするのが好きで・・・。」
 「困る? まだ恥ずかしいの?」
 「いいえ、私もあそこでするのは開放感があっていいのですが、『演技』が本気になりそうで・・・。」
 「いいわよ、その方が。本当の事を言うと、私は美奈が羨ましいとさえ思える。」

 弥生が真顔で言う。

 「私も本当にスケベよ。セックスは大好き。だけどどんなに工夫を凝らしても、美奈の受けている程の快感は味わった事がないわ。私もセックス嗜好は多様で、どの様な形のセックスも素晴らしいと思っていたの。だけど交尾だけは考えの外だったわ。だって私はそんなに素晴らしいものとは考えていなかったから。美奈達を見ていればそれが完全に間違いだと知ったわ。だけどリンクの様な犬はまず居ないし、私には亭主が居るから、たとえ犬相手でも不倫になるし・・・。」
 「あら、あれ程色々なセックスをしていても、不倫はダメなのですか?」
 「間違えないで、不倫、つまり浮気よ。私がどんな男性を相手にしても、本当に愛しているのは亭主だけよ。私の旦那が別の女性とセックスしても、私を愛している限りは気にならないわ。男も女も性欲はあるのよ。単に性処理するだけの事なら、別の女性と食事している様なものよ。場合によれば、単なる排泄行為である時だってあるの。あくまでも心の繋がりが一番。だけど愛のあるセックスが一番いいわ。愛すればより燃え上がる。だから交尾が素晴らしいにしても、最高の快感を得たければ愛する事になる。だから私には羨ましくても無理という事なのよ。」
 「はあ・・・、そういうものですか・・・。アッ、リンク、行きます。引っ張らないで。」

 いつ迄も菊野と話をしている美奈を強引に外に引き出すリンクだった。

 「そろそろ次の段階にいっても良さそうね。」
 「次?」
 「同情が愛情へ、そして子供を欲しく思わせる事。」
 「じゃあ、いよいよ。」
 「ええ、留美子さん、軽井沢の伯母様から借りて来て。」
 「分かったわ。話はしてあるから、これから出掛ければ、明日の朝には連れて来れます。」
 「お願いしますね。一日だけですから。」
 「伯母様だって、リンクの為ですもの、快く貸してくれるわ。」
 「いいの。たったの一日の方が効果が高いわ。それに長い期間では私の目論見がバレるし、強い心の印象は早く中断した方がいいイメージがずっと続くのよ。」
 「そうですか。それでは私の母が外出する間だけ預かるという事で連れてきますから。」

 留美子は嬉しそうに部屋を出て行った。



 美奈は木陰で楽しい交尾を続けていた。肉体的快感の限度が高まり、激しいアクメを迎えても失神しない様になっていたので、素晴らしい快感をずっと感じている事が出来ていた。そしてテープによる催眠学習のない状態でも、美奈は常に発情状態であり、リンクのペニスが抜けている間は、美奈にも自覚出来る程愛液が流れ出していた。『演技』を続けているという意識の下、常にリンクとの交尾を望んでいた。

 「もうすぐお別れね・・・。素晴らしい思い出をいっぱい作りたい・・・。」

 時間が無いという意識は激しくリンクを求め、リンクも自分を慕っている美奈を本当の恋人として愛し続けるのだった。ただ、リンクの心の中には美奈を服従させた満足感はあるのだが、更にその先、自分の子供を望む心が強まっているのだった。


 翌朝、留美子が戻ってきた。犬小屋で二匹は繋がらずに抱き合って寝ていた。車の音と、下りてくる者の音を聞いたリンクはピクッとし、ダッと走って出て行った。

 「アッ、リンク?」

 まだ寝惚け眼の美奈の所に弥生が走り込んでくる。

 「美奈、チャンスよ!」
 「チャンス?」
 「何、寝惚けているのよ。リンクが離れているのよ。今があなたが人間に戻れるチャンスなのよ。部屋に鍵を掛ければ、リンクは入って来れない。それにその拘束衣は脱せるのに結構時間を要するのよ。」
 「脱ぐん・・・ですか?」
 「ほら、『演技』はもうお仕舞い。あなたはリンクとの交尾をやめられるのよ。」
 「交尾をやめる・・・?」
 
弥生は念押しの為、さりげなくカセットテープを流す。

 「そうよ。あなたが拘束衣を脱げばリンクは交尾が出来なくなるのよ。」
 「交尾が出来ない・・・。」

 なぜか美奈の心に喜びはなかった。そして膣からは愛液が激しく迸り始めていた。

 「どうしたの、美奈?」
 「私・・・、どうしたのかしら・・・? 雌犬から人間に戻るのがつらい・・・。」
 「エッ? 美奈、しっかりしてよ。『演技』から意識を切り替えて。」
 「菊野さん、私・・・。つらい。リンクと別れるのが・・・。」
 「まあ・・・。『演技』のし過ぎかしらね。本当ね。身体は交尾を求めているわ。確かに素晴らしい交尾をいきなりやめるのは難しいけれど・・・。だけどそんなにチャンスはないのよ。今を逃すと、また数日はチャンスがないかも知れないわよ。」
 「菊野さん・・・、私、とってもスケベになっているわ。リンクが欲しい・・・。この拘束衣を着けていれば雌犬なのよね? 心が準備出来ていないの。お願い、今回はちょっと待って下さい。まだ・・・、まだ脱ぎたくない・・・。」

 美奈は心からそう望んでいた。

 「菊野さん、美奈、まだ脱いでいないの? リンクだけが出て来たから、当然美奈を脱がしていると思ったのに。」

 留美子が走り込んできて、まだ何もしていない美奈達に驚いた様子だった。

 「それがねえ・・・。」

 美奈は恥ずかしそうに涙を浮かべていた。

 「美奈はまだ脱ぎたくないって・・・。」
 「エエーッ? チャンスなのよ。暫くリンクは外に居るのよ。菊野さん、私の実家の犬を連れてきたので、リンクとじゃれあっているわ。」

 美奈はピクッとした。

 「ああ、マーガレットね?」
 (マーガレット? 雌犬? じゃれあっている? リンクが?)

 美奈の心の中で激しい炎が燃え上がった。

 「留美子さん・・・! マーガレットって・・・雌犬?」
 「そうよ。それが?」

 そしてその炎が激しく爆発した。

 「イヤーーーーッ、ダメーーーーッ!!!」

 美奈は理性を失った。激しい嫉妬と怒りだけとなり、美奈は二人の女性を振り解いて四つん這い、いや、四つ足で走り出した。涙が止めどなく溢れ、ただリンクの元へと走り出したのだった。
 弥生と留美子は笑顔でウインクを交わしている事なども知らずに。


 「イヤーッ! リンクーーッ!」

 表では川島がリンクと別の犬を相手にしていたが、美奈の嗚咽とも悲鳴ともとれない叫び声に驚いた様に凝視していた。

 「美奈・・・?」
 「ダメーッ! リンクは私の恋人。別の犬をお嫁さんにしないで! 私を・・・・・・棄てないで・・・。」

 リンクに走り寄った美奈は、リンクにしっかりと抱き付いた。リンクには美奈のそんな様子に驚き、リンクの前にいたマーガレットは自分の仔犬を抱えて驚いてリンク達を見つめていた。

 「ごめんなさい、リンク。やっと気が付いたの。本当は私はリンクを愛しているの。リンクと離れられない・・・。」
 「ワォン・・・?」

 川島は呆然と見つめていたが、弥生と留美子が微笑みながら近寄ってきた。指でVサインを示しながら。

 「美奈、安心なさい。マーガレットはリンクのお姉さんなのよ。」

 「ヘッ? お姉さん・・・?」

 美奈はリンクを抱き締めながらマーガレットをジッと見つめた。そしてマーガレットも首を傾げながらジッと美奈を見つめていた。

 「そうですよ。私の母が今日一日預かって欲しいと言うものだから、折角だから弟のリンクと遊ばせようと思ったのよ。それにこの仔犬は今年産まれたばかりで、リンクとは初対面なの。」
 「ああ、そうか・・・。美奈はリンクの新しいお嫁さんだと思ったのね?」
 「・・・・・・良かった・・・。」

 美奈の心臓はまだ激しい鼓動を続けていた。ホッとした為か、全身脱力状態で涙と汗でまみれたまま動けなかった。

 「菊野さん、美奈はどうしたの? 『演技』にしてもちょっと変よ。」

 川島は訝しげに美奈を見下ろしていた。

 「そうよ、一体どうしたというの? ここ迄『演技』は必要ないのでは?」

 菊野はしゃがみ込んで美奈の頭を撫でていた。ちょうど犬の頭を撫でる様に。

 「『演技』ではなかった様ね。私も『演技』にしては巧いと思っていたのですが、美奈は『演技』のつもりで『実演』だったのね。心のままに動いていたのよ。」
 「心のまま?」
 「私達はどうやら勘違いしていたらしいわ。美奈も含めてよ。」
 「勘違いって?」
 「誰もが美奈は肉体的には獣姦嗜好の変態性欲者だと思っていたわ。精神的にはそうではないと。だからさっき拘束衣を脱ぐチャンスに渋っていたのは、まだその獣姦嗜好が満足されていない為だと思ったわ。だけどそれだけではなかった様ね。間違いだったけれど、雌犬がリンクとじゃれていると聞いて、美奈は嫉妬に狂ったのよ。なぜ嫉妬するの? 肉体的獣姦嗜好者には起きない感情よ。美奈は自分とマーガレットを対等の競争者と感じたの。リンクの愛が美奈からマーガレットに移るのを恐れたのよ。どんなに愛しても子供を産めない美奈よりは本当の雌犬の方が有利ですもの。」
 「美奈さん・・・、本当?」

 美奈はまだ精神的動揺で涙を流していた。

 「私・・・、リンクに別の雌犬を・・・。私は棄てられると思ったら・・・。」
 「美奈、本当にリンクを愛しているの? ただ、身体が交尾を望んでいるだけと違うの?」
 「違います。さっきは気が狂いそうだった・・・。私はリンクとは離れられない・・・。愛している? ええ。やっと分かったわ。私はリンクを愛しているのよ。人間の心として認めたくなかっただけなの。私は雌犬なのよ。人間の姿をしているけれど雌犬だわ。だってこうして愛するリンクを抱いているだけで心が安まる。マーガレットがお姉さんって分かった時、ハッキリと分かったの。お願いです。私をリンクから離さないで。」
 「おやおや・・・。どうやら本物ね。だけどいいの? どんなにあなたがリンクを愛していても、やはり人間なのよ。夏休みだって、それ程長くはないのよ。ねえ、菊野さん、どうします?」
 「そうねえ・・・。まだ少しだけれどターニングポイントには時間がありますね。もし人間に戻るならある程度はリンクの精液が抜けるのに時間が掛かるにしても・・・。まあ、夏休みの後も少し長く休めばいいわ。美奈、分かりました。あなたもいきなり人間に戻れると言っても心の準備がないって言ってましたね? まだ時間の余裕はあります。今度は『演技』でなく、本当の心でリンクと一緒に居てご覧なさい。それでもリンクと一緒に居たいのならまたその時の話ね。いいわね?」
 「有り難うございます。分かりました。今度は本当にリンクを愛して交尾をします。」
 「まあ、そういう意味ではないのだけれど・・・。川島さん、そういう訳ですから、まだ暫くは美奈はリンクの恋人のままですわ。」
 「ええ、分かりました。驚きましたけれど、菊野さんの様なカウンセラーが居てくれるので、私は安心していられますわ。」

 川島もウインクを返していた。

 場の雰囲気が和んできたのを感じた犬達はそれぞれに美奈の匂いを嗅いできた。マーガレットは美奈の股間をしきりに嗅いでいた。そしてその仔犬は美奈の乳房にじゃれついていた。

 「留美子さん、随分と人懐っこい犬を選んでこれたわね。」
 「ええ。特に仔犬の方の『演技』が重要ですからね。クレオになついていますから、『人犬』には慣れていますよ。クレオのお乳も飲んでいますから、きっと・・・。」
 「川島さん、私は次の最終段階の準備があります。留美子さんは例のテープをしっかり聴かせて上げて下さいね。」
 「分かりました。今晩マーガレットを連れて帰る時には一緒に菊野さんを軽井沢へお送りしますわね。」
 「そうすると次はいつ?」
 「軽井沢の雌犬達の排卵周期は調べてあります。候補は数匹居ますから、その中で可愛い雌犬の卵子を採取してきますわ。だから戻りは明後日ですね。多分胎内体外受精は明後日でしょうね。冷凍保存する卵子は、常温に戻る時に一番活性化します。」
 「いよいよ・・・。」
 「そうです。最後迄詰めをしっかりとね。」
 「分かりました。それではこのボールの出番ね。」
 「宜しくお願いします。川島さん、今晩は二匹を充分にくつろがせて上げて下さい。多分激しい交尾になる筈ですから、充分にさせて上げて下さい。」
 「ほう、そうなのですか・・・。」
 「それでは・・・。」

 留美子はポケットからゴムボールを取り出した。それを持ってリンクに近付いた。

 「リンク、これでこの子を遊ばせて上げなさい。」

 リンクは軽く吠えてそのボールを喰わえ、仔犬の前に転がした。仔犬は悦んでそのボールで遊び始めた。マーガレットは優しい顔で仔犬を眺めていた。精神的に激しい動揺をしていた美奈はマーガレットの隣に座ったまま、リンクと仔犬の戯れるのを見つめていた。
 「リンクは仔犬と遊んだ経験が少ないのよ。自分は人間と思い込んでいましたからね。でも、やっと自分が犬であると認識したので、仔犬をあやせる様になったのね。」
 (本当・・・。リンクがあんなに嬉しそうにはしゃぎ回っているなんて・・・。私には・・・。)

 ハッとした美奈は、弥生の話を思い出した。可能性としてはあるのだが、さすがに自分が犬の子を産み落とそうとは思えなかった。

 「クーーン・・・。」

 マーガレットが美奈の顔を見ながら優しい顔を向けていた。それは人間に対する表情ではなかった。

 (マーガレット・・・、私を完全に同類、つまり雌犬として見ている。弟のリンクの恋人として見ている・・・。まるで私を家族の一員の様に・・・。)

 暫くして仔犬がマーガレットの元に走り寄って来た。リンクも側に来て、その仔犬をペロペロ嘗めていた。まるで自分の子供をいとおしんでいる様であった。マーガレットは横になり、仔犬に乳房を宛てがうのだった。

 (いいわねえ・・・。親子の情愛って、犬も人間もないわ。優しいお母さんと可愛い子供・・・。私には到底・・・。)
 「ウッ・・・?」

 美奈は乳房の内部に鈍痛を感じた。そして急に自分もその仔犬がいとおしくなってしまっていた。するとマーガレットは仔犬を口で喰わえ、美奈の方へ押しやるのだった。

 (エッ、どういう事?)

 仔犬ははしゃぐ様な仕草で美奈に寄って来て、美奈の乳房に口を当ててきた。リンクは最初、驚いた様な顔をしていたが、激しく尻尾を振り、いかにも嬉しそうにして美奈に寄って来た。

 「アハッ・・・。」

 まるでその仔犬が自分の子供の様に感じられた。両掌は拘束されているのだが、それでも抱きかかえ、そっと自分の乳房をふくませる。

 (ああ・・・ 可愛い・・・。これが赤ちゃんを抱いた気分なのね・・・。ああ、私も赤ちゃんが欲しい・・・。)

 リンクは更に嬉しそうに尻尾を振り、美奈を見つめていた。それを川島は微笑みながらジッと見つめていた。

 (すっかり仔犬が気に入った様ね。本当に菊野さんの言う通りに・・・。)
 「川島さん、暫くは家族の触れ合いを邪魔しないでいて上げましょうね。」
 「そうですね。」

 留美子と一緒に家の中に戻っていく。



 「それにしてもお見事ですわね。私にも美奈さんが本当に仔犬を自分の子供の様に見ているのが分かりますわよ。」
 「それもテクニックよ。」
 「だけどあの親子は本当に理想的ですね。」
 「あら、あの仔犬はマーガレットの子ではないのよ。」
 「エッ?」
 「犬にも色々と個性があるわ。私が軽井沢で調べて選んできたのよ。仔犬はクレオになついているのを。そしてマーガレットは理想的な母犬よ。あの犬は変な言い方ですけれど、とても世話好きなのよ。何匹も仔犬を産んでいるから、子育ては完全なの。そして若い雌犬に子育てを教えるのが好きなのよ。犬の群の中での『姐さん』株なのよ。犬は特に母性本能が強いのよ。自分の子供は飼い主にさえ触らせたくないのよ。だから本当の親子では美奈に仔犬を抱かせたりしないの。マーガレットはクレオで慣れているから、美奈もそれなりに雌犬と認めているわ。それに美奈からはリンクの精液の匂いが強いから、リンクと交尾しているのはすぐに分かるわ。だからマーガレットは無条件に美奈をリンクの妻と認めているの。それもまだ赤ちゃんを産んだ事のない若い雌犬としてね。普通はオッパイが機能するのは妊娠してからなの。だけど美奈には沢山のホルモンを入れてありますから、乳房が活性化しているのよ。仔犬を見た時に乳房に痛みがあった様ですが、それも母性本能の現れ。マーガレットも勘違いしているの。美奈がリンクの子供を身篭もっていると。だから初子の育て方を指導しようとしているのよ。なにせ『姐さん』ですからね。」
 「はーっ・・・。」

 川島も留美子も口を開けたまま唖然としていた。

 「凄いのね。」
 「当然ですわよ。だって普通の女の子に犬の子を産ませるのですから、それなりの手順を踏まないと。」
 「だけど弥生さんは催眠術が上手なのだから、そんなに手間を掛けないでもいいのでは?」
 「ううん、催眠術はあくまで催眠術よ。私のは意識改革なの。術は覚めれば終わりよ。勿論催眠術は使うけれど、それは単に方向性を少し、ほんの少し変えるだけ。一番完全な催眠術は、本人の望む方向へ術を掛ける事なの。背中から押して上げる事なのよ。だから手間を掛け、催眠術の影響ではなく、本人の意思で進んでいると思って貰えるの。だから術が解けても、方向は変わらないわ。少し進み方が遅くなるだけ。到着地点は同じなのよ。」
 「フーン、なる程・・・。だから弥生さんの催眠術は完璧なのですね。私も術に掛かっているのかしら?」
 「伯母様が?」
 「だって、私は獣姦をこんなに楽しく見ていられるとは思ってもいなかったわ。勿論リンクが可愛いという事もありますが。」
 「そうね。クレオの時みたいに強引にではないのに、ずっと早く、しかも完全なのですから。だから手順も単純、そして完全。私も凄く楽しいわ。」
 「私達は全員変態という事ですわね。」

 女達はリビングで楽しそうに話を続けていた。



 「坊や、今度はこっちよ。」
 「キャウン・・・。」
 「ワオーン。」

 美奈とリンクは仔犬と一緒にはしゃぎ回っていた。仔犬は嬉しそうに吠えながら美奈の回りを走り回る。美奈がリンクとの交尾以外で、これ程長く庭で遊び回っていた事はないし、またそんなに長く交尾をしないでいた事もなかった。膣の空虚感はあったが、それ以上に精神的な楽しさが時間を忘れさせていたのだった。

 そして陽も傾き、留美子と弥生が外に出てきた。

 「美奈、リンク、楽しかった?」
 「アッ、菊野さん・・・。」
 「折角なのだけれど、マーガレットの帰る時間なのよ。私も用事があるから出掛けるわ。留美子さん、お願いね。」
 「じゃあ、マーガレット、帰るわよ。」
 「エッ、もう帰るのですか?」

 美奈は楽しい時間が急に終わる事が寂しくつらかった。

 「そうよ。だけど、すっかり気が合った様ね。時々は連れてくるけれど、今日はお仕舞い。さあ、マーガレット。」

 車のドアを開け、マーガレットと仔犬を入れた。美奈もそうなのだが、リンクも寂しそうに二匹を見つめていた。車が出てもずっとリンクは庭から車の去った方向を見つめたままジッとしていた。

 (リンク、寂しそう。まるで父親に成った様に楽しかったのに・・・。私もあの子が可愛かった・・・。あの子が私とリンクの子供みたいに・・・。)

 リンクはまだ表に居たが、美奈はなぜか居たたまれなくなり、家の中に走り込んだ。そして犬小屋で突っ伏し、嗚咽を漏らすのだった。

 (どうしたの、私? 寂しい、悲しい、そして悔しい・・・。悔しい? そう、自分自身に悔しい。私も子供が欲しい。リンクの子供が欲しい。)

 部屋の中には『仔犬』のテーマの曲が静かに流れている。美奈の催眠学習効果は心の中に仔犬のイメージしか浮かばせなかった。何も考えられず、ただひたすら仔犬の事だけを考えさせられるのだった。

 (ウーッ、どうして私は人間なの? どうして私にはリンクの子が・・・。)


 暫くしてリンクがトボトボと入ってきた。耳もシッポもダランと下がり、元気がなかった。

 「リンク・・・、あなたも?」
 「クゥーーン・・・。」

 ガッカリした様な顔で美奈の鼻先を嘗める。その表情は、なぜ美奈が自分の子を産めないのだと問い掛けている様だった。

 「ごめんなさい。私だってあなたの子供が欲しい・・・。だけど無理なのよ・・・。ごめんなさい・・・。」

 美奈の涙はいつ迄も止まらなかった。リンクは美奈の夫として美奈を慰めたかった。しかし美奈の悲しみはリンクにも良く伝わる。その悲しみを少しでも減らす方法は交尾以外になかった。美奈は半日以上交尾をしていないので強い欲求不満のフェロモンを発している。当然の様に二匹は求め合い、リンクは美奈にのし掛かっていくのだった。陰から川島がそっと覗いていたが、弥生の言う通りの激しい交尾を始めた事に感心し、微笑みながら見つめていた。



 「ハヒーッ! 凄い・・・のよ・・・。ああ・・・、リンク・・・。もっと・・・。」

 いつにも増して激しい交尾が長く続いていた。リンクは美奈の心の憂いを払う為に、美奈はリンクが望んでいるだろう子供を産めないという事への無念さが逃避の為もあって、ただ良がり続けているのだった。たがを外した交尾は途轍もない快感の嵐となり、リンクの射精の度に失神してしまっていた。リンクにも限度以上の交尾であり、二匹とも何時間かの後、すっかり消耗して眠りに落ちていた。



 「リンク、美奈さん・・・。」

 川島が心配そうに見つめていた。

 「アッ、川島さん・・・。」
 「美奈さん、限度があるのよ。慣れているとはいえ、この部屋はあなた達の匂いが凄いわ。」

 それは精液と愛液の匂いという事であった。

 「それにあなた達、夕べから食事もしていないのよ。もうお昼だけれど、朝食だけは摂りなさい。」

 川島はリンクの餌皿にドッグフードを、そして美奈用に大きな浣腸器を用意していた。

 「私には巧く出来ないから、リンク、離れなさい。」

 リンクは美奈からペニスを抜き、フラフラしながら起き上がり、排泄の為に外へ出て行った。

 「アッ、私も・・・。」
 「エエッ? 美奈さんも?」

 美奈は主人に着いて行く雌犬であった。川島はすっかり美奈がリンクに服従している事に感嘆するのだった。

 リンクが食事をしている間、美奈は川島に栄養浣腸を施して貰っていた。

 「どう? これでいいの?」
 「済みません。ああ、美味しいです。」
 「美味しい? だって、お尻から入れて、味が分かるの?」
 「そうですね・・・。口とは違いますから、ハッキリとした味ではないのですが、おなかから染み込んでいく時の感じが違うんです。」
 「私としては美奈さんがリンクのお相手をしていてくれる事はとても嬉しいわ。だけど、本当にいいの? こんな、お尻からの食事しか出来ず、四つん這いで、普通から見れば恥ずかしい所を晒け出したまま、しかもずっと交尾を続けているなんて・・・。」
 「・・・私にも、どうしてか分からない・・・。だけど、分かるのはリンクと交尾している時は私が私でなくなっているんです。とても言葉で表せない程に幸せなんです。」
 「そうなの・・・。私はリンクをわが子の様に思っています。そして美奈さんはわが子の恋人なの。だから私には美奈さんは娘の様に感じているのよ。」

 美奈は複雑だが、川島も美奈がリンクの恋人に成る事を望んでいるのは嬉しかった。そして満腹になり、体力が戻り、精神がハッキリと目覚めると、美奈は再び催してしまう。

 「フーッ・・・。」

 ため息をつき、リンクの股間をチラチラ眺めている美奈に気付いた川島は、

 「ああ、悪かったわね。それではお二人の時間を楽しみなさいね。」
 「アッ、そんな・・・。」

 しかし美奈は『二人』という言葉がとても嬉しかった。

 (だけど私は人間ではないの。雌犬。雌犬だからこそリンクとの交尾が嬉しい。どんなにつらく悲しい事でも、リンクと交尾していれば忘れられる。)
 「お願い、リンク。来て頂戴。」

 美奈にはリンクが少し呆れた様な顔に見えていた。『お前も好きだなあ・・・。』と言っている様に思えた。

 「ううん、あなたが悪いのよ。私をこんな淫乱にしたのは、リンクが私を強引に奪い、そして私と交尾をし続けたからなんだから。ちゃんと責任を取って、私を満足させて。」

 美奈は後ろ向きに四つん這いになり、膣口をリンクに開いて見せた。リンクはしかし嬉しそうに美奈にのし掛かっていくのだった。



 「今晩は。」
 「菊野さん、ご苦労様。留美子さん、有り難うございます。」
 「伯母様、美奈は?」
 「ええ、菊野さんのおっしゃった通り、ずっとリンクと続けていましたよ。今迄で一番激しかったですよ。」
 「そうですか。それで今は?」
 「すっかり疲れてしまって、多分二匹とも眠っている筈ですわ。」
 「分かりました。いよいよ明日美奈に処置をします。」
 「とうとう・・・。」

 川島は感慨深げに頷いた。

 「それではこれから最後のとどめをしましょう。」
 「とどめ・・・ですか?」
 「はい。催眠術を掛けます。明日さえ効果があればいいのですから、ちょっと強目にね。しかし今の状態であれば、かなり効果は続きそうですね。」

 弥生は大きな鞄を起き、川島の案内で美奈の寝ている犬小屋の部屋へ向かうのだった。

 「私達は居ない方が宜しいですね?」
 「別に音を立てなければ大丈夫ですわよ。今回のは美奈さん以外には効果が出ませんから。」

 三人の女性は静かに犬小屋の部屋に入った。リンクはそれに気付いてパッと目覚めたが、川島の「シーッ」という声に大人しくしていた。

 「リンク、暫く静かにしていてね。あなたの為なのだからね。」

 リンクもそれが分かるのか、美奈と繋がったままジッとしていた。

 「それでは始めましょう。」

 弥生はカセットを入れ替え、美奈の耳元で呟き始めた。

 「美奈・・・。美奈・・・。」
 「うーん・・・。」

 美奈は呼び掛けに気が付いたのか、うっすらと目を開けた。

 「美奈、あなたはとてもいい気持ちね。身体がフワフワしているの。とても眠い・・・。」

 美奈は開き掛けた目を再び閉じた。

 「あなたは私の声以外は何も聞こえない。だんだん眠りが深くなるわ。身体中の力が抜けて、とてもリラックスしている。」

 弥生の言葉通り、美奈は腕をダラッとし、笑顔で寝ている。

 「あなたは今とても幸せ。そう、リンクと交尾しているから、とても幸せよ。あなた達は今明るい陽射しの高原で幸せを確認しているわ。綺麗な花畑の中でリンクと交尾しているの。とても幸せ。まあ、あなた達の回りをとても可愛い仔犬が駆け回っているわよ。そう、分かる? あなた達の子供よ。リンクに似ているわね。」

 美奈の顔は更に幸せそうな笑顔になってきた。

 「あなた達は結婚したのよ。そして可愛い子供に恵まれたの。自慢したい位に幸せ。ほら、マーガレットが来たわ。あなたの子供を嘗めて上げているわね。マーガレットの子供も少し大きく成っているわね。あなた達に挨拶しているわ。美奈、あなたもマーガレットに自慢しているわ。『私も赤ちゃんを産めたのよ。どう、可愛いでしょう?』 マーガレットはあなた達に祝福の表情をしているわよ。美奈はとても自慢気ね。そしてマーガレットだけではないわ。沢山の犬達があなたの回りを囲んで祝福しているわ。皆、尻尾を振って喜んでいてくれる。さあさあ、みんな、私にも祝福させて下さいね。美奈、おめでとう。やっとあなた達は本当の夫婦に成れたのね。おめでとう。留美子さんもお祝いに来てくれているのよ。川島さんもよ。エッ、後ろの人は知らない人? 何を恥ずかしがっているのよ。あなたは誇っていいのよ。誰もが羨む素晴らしい結婚をしたのよ。ほら、皆さんに見せ付けなさいよ。あなた達が本当に幸せだという事を。自慢したくてたまらないわ。あなた達は誰にも出来ない事を成し遂げたのよ。本当に羨ましいわね。あなたの幸せを私達にも分かち合って欲しいわ。さあ、みんなにあなたの幸せを分けて上げて。そしてどんなに幸せかを見せ付けなさい。」

 美奈の心の中には弥生の言うイメージがクッキリと浮かび上がり、心の奥底にそのイメージが強く焼き付くのだった。何度も繰り返される幸せのイメージは、美奈の心の表面迄滲み出し、美奈の本心と入れ替わってしまうのだった。正確には入れ替わったのではない。心の隅に残っていた不安と人間としての理性を追い出していったのだった。






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