カチッと音がして腕と太股を拘束していたベルトが外された。しばらくぶりに手足の自由が戻り、股関節の痛みがよみがえってきた。むしろ、足を前に戻そうとする時、血流の流れが一気に良くなる為なのか、股関節に痺れを感じた。そして立ち上がろうとしたのだが、肛門拡張機から離れる事ができない。直腸内部で膨らんでいるらしく、引っ掛かってしまう。

 「あの・・・、これは抜いて貰えないの?」
 「拘束は続けるって言ったでしょう。それにまだまだロジャーさんがスムーズに使えるお尻になっていないし、食事もそのまま続けるのですからね。はい、両足を伸ばして、ストッキングを履くようにして着るのよ。伸び縮みはいいから、見た目よりは楽に入る筈。」

 首の部分を大きく開いて、裏返しにするようにしながら足の部分迄めくり上げ、ショウの両足を入れさせた。見た目のビニールのようなイメージと異なり、ほとんど摩擦は感じず、すっと履く事ができる。

 「ツツッ・・・。」

 尿道口と、既に細いスキンを差し込まれている膣相当部分にも細くされているスキンを押し込まれる。そして肛門拡張機を一旦外され、尻迄履かされて、すぐに拡張機を押し込まれた。そこから先はクルクルッと巻き戻すように上迄着せられ、ブカブカになっている首の部分迄着る。

 「さあ、縮めて張り付けるわよ。」

 メイはスプレーを吹き付ける。足元からスーッと皺が消え、肌にピッタリと張り付くように縮んでいった。

 すぐに全身に吹き付け終わると、薄いビニールのような艶だった人工スキンはその輝きを失い、ごく普通の皮膚と見分けが付かなくなった。ただ、僅かに光の反射具合が違うという程度だった。

 「さあ、これでおしまい。まだ当分はそれ程きつくならないわ。」

 拡張機の磁力が切られているので、ショウはキャビンの中をゆっくりと浮遊していた。

 「あ、そのままだと不便ね。本格的に拡張訓練する時は床に拡張機を固定するけれど、ある程度は歩けた方がいいわね。そうだわ。ショコたん用の磁力靴がありましたよね。」
 「ありますけど、例のやつですぜ。」
 「いいのよ。あくまでもショコたんの代わりをして貰うのですから。」


 「はい。こいつだよ。」

 ロジャーが持ってきたのはとんでもなくヒールの長い超高ピンヒールだった。足を入れると、ほとんどトウシューズ状態程のつま先立ちになってしまう代物だった。

 「こんな・・・。普通の靴にして下さいよ・・・。」

 恨めしげにメイを見詰めた途端、ショウの悲鳴が響いた。拡張機が一気に太くなったのだ。

 「イヤーッ!! やめて・・・。言う通りにしますから・・・。」

 そのピンヒールに足を入れると拡張機は元のように戻った。

 「まだ良く分かっていないのね。あなたはロジャーさんのセックス処理の為の道具。セクサロイドの代用品なのよ。まだとても代わりになるような状態ではないのに。今のあなたは命を失いたくなかったら、私達には何事にも逆らわず、性転換処置の途中らしい行動する事ね。月到着迄の時間はそんなに無いのよ。しっかり訓練をしないと入管で引っ掛かり、そのまま刑務所行き。あなたの一生も掛かっているのですからね。」

 ショウはただ頷く以外になかった。

 実際に履いたところで歩きにくさはあるものの、足の先だけでも床に引き付けられ、空中浮遊の不便さは減少する。

 「あなたの移動範囲は、このキャビンだけとします。操縦室に無資格者を入れる事はできませんが、更にあなたの場合は密航者ですからね。」

 ショウは壁伝いに姿見の前へ移動した。ブワッと涙が噴き出てくる。それを拭い、改めて自分の姿を見詰めるのだが、やはり涙によって見えなくなってしまう。どうしても自分が映し出されているとは思えない姿態があるのだった。手足を動かして、自分の動きとピッタリと合っているのに、それでも信じられなかった。

 (こんなにオッパイを大きくされて・・・。本当に戻せるのだろうか。それよりもオチンチン・・・。元々そんなに大きくはなかったけど、随分みすぼらしくなってる。ロジャーさんのでかいのを見ているせいもあるけど・・・。この顔も・・・。本当に高級セックスアンドロイドの顔だ。ピッタリ張り付いてるけど、無理矢理剥がしたらまずい事になるし・・・。)

 身体のあちこちを確かめる為に鏡の前で身体を動かし、手足で色々な部位に触れている姿をロジャーは楽しそうに見ていた。

 「あ、そんなにジロジロ見ないで下さい。」
 「ほう、恥ずかしいのか?」

 ショウは股間を隠したのだが、ロジャーの視線が上半身に向いている事に気付き、慌てて胸も隠した。

 「坊主、お前はまだ男だろ? 胸も隠すのかよ。」
 「だって・・・、こんなにオッパイを大きくされたら・・・。」
 「大きい? そりゃ、男としたら大きいだろうが、お前は形式上は俺の嫁になるんだぞ。俺は巨乳趣味だから、もっとでかくしないと入管で引っ掛かるってのは分かってるよな?」
 「だから、せめて何か羽織るものを・・・。」
 「この船に居るのは俺とメイさんだけだ。俺はお前の夫になる予定だし、メイさんはお前の改造の担当だ。お前の裸は良くチェックしておかなくてはならないし、それ以前にお前は俺のトイレ兼ダッチワイフなんだ。恥ずかしがる必要はないし、裸で居なくちゃならないんだよ。」
 「でも・・・。」
 「まあ、ある程度の体型矯正ができたら着せられる物もある。この船の積み荷はセックス関連だって事は分かってるだろう。予備の宇宙服なんざ用意してないから、当然積み荷の中の服って事になるが、当然凄まじい服しかないからな。」

 ロジャーは意地悪そうな笑顔を浮かべた。

 「ま、月に着いたら何らかの服を着ないとならないし、それ迄には慣れて貰わにゃならんから到着前には着せてやるよ。但し、着る事が恥ずかしい事は間違いないけどな。」

 そう言いながら、ロジャーはキャビンの壁に背を当て、少し足を開いた姿勢で立っていた。

 「おい。何してるんだよ。」
 「エッ、何って・・・。」
 「俺がこういう姿勢で待ってるんだ。何をするかは分かるだろう。お前は俺の性欲解消の道具だという事を忘れるな。」

 自分の股間を指差しているという事は、フェラチオをしろという事なのだ。戸惑い、オロオロしているとロジャーの手には肛門拡張機のリモコンが握られている。

 「ワッ、イヤッ!!」

 ショウは泳ぐような動きでロジャーの前にしゃがみ込む。ロジャーはジッとしたままなので、服のジッパーも下ろせという事を示していた。
 震える手付きでショウはロジャーの股間のジッパーを下ろす。宇宙服仕様なので、二重のジッパーで、やっと下着が現れる。指で摘み上げ、下着を探るとショウにとっては凶器とも言える肉棒の先端が現れた。それを恐る恐る引っ張り出すのだが、躊躇しているとリモコンが目の前に突き出される。

 (折角助かるかも知れないのに、ここでお尻が裂けたら・・・。もう、何度もさせられてるし・・・。)

 意を決したショウはその赤黒い物体をパクッとくわえた。しかしロジャーは壁に寄り添ったままで動いてこない。仕方なくショウの方で顔を前後させ、ペニスを出し入れするしかなかった。
 すぐにペニスは力が籠もってきて、大きさと堅さが増す。早く汚辱の時間を済ませてしまおうと、大きく動くだけではなく、強く吸い上げ、舌でも亀頭を強くなめ上げた。

 「フッ・・・。」

 ロジャーが腰を突き出した時、ショウは無意識に強く吸い込むと、生臭い粘液がいきなり喉に突き刺さってきた。むせながらもその粘液を一気に喉を通させるのだった。


 嫌悪感よりも、短時間で済ます事ができたという事にホッとしていた。しかしロジャーの方としては、素直にフェラチオに応じたというショウの態度に少し驚いていた。
 そしてショウとしては当然の事としてアナルセックスを受け入れる姿勢として尻を向けようとした。しかし腰を回転させた時、拡張機の回転により遠心力で内部が膨れているディルドーが肛門を大きく広げた。

 「アタッ・・・、あ、入ってたんだ・・・。」

 ロジャーはリモコンを操作し、細くして引き抜き、床面に磁力で固定する。

 「それじゃ、壁に手をついて足を広げろ。靴の磁力を少し強くするから、足はしっかりと踏ん張れるからな。」

 ショウは言われた通りの格好で、足を開いて尻を突き出した。

 (ウッ・・・、拡張機を抜かれるとお尻が・・・凄く寂しい・・・。拡げられたままにされているから、きっと無意識の内に何かで塞いでおかなくては・・・って気分なのかな? アフッ・・・。ロジャーさんのオチンチンは気持ちいい・・・。機械と違って弾力があるし、何よりも優しい感じがする。クッ、突き込まれるとまだ痛みがあるから、拡がり足りないのか・・・。ツッ、ボクのオチンチンも痛い・・・。お尻を刺激されて勃起してしまうのに、スキンとかで押さえ付けられてるからだ。グッ、押し潰されそうだし、押し込まれる・・・。ハアッ・・・。ロジャーさんの興奮状態がお尻の中で分かるよ・・・。アッ・・・、来る・・・。)

 ピストン運動が早くなり、最後に一杯に突き込まれると、ショウは喘ぎの中で歓喜の呻き声を上げるのだった。

 ロジャーはそのままの体勢から覆い被さるようにしてショウの少し膨らみ始めている乳房に両手を宛がった。そしてゆっくりと愛撫する。

 「ハフッ・・・。」

 まだ成長したとは言えない乳房なので、肉体的に快感が湧いてくる訳ではない。しかし肛門をずっと太いペニスで貫かれたままのショウには女性的な、そして精神的な高揚が起きてくるのだった。本当は大量に注入された女性ホルモンとプロテインの影響で、物理的に大きくされている乳房の圧痛が愛撫により緩和されるのだが、ショウにはそれが快感だと思えるのだった。



 床に固定された肛門拡張機にショウは再びセットされている。靴は脱いでいるので、ショウ自身が上下に動いてのピストンだった。そして拘束はされていないので、抜け出そうとすれば簡単に外す事ができる。しかしショウは肛門拡張を義務と感じ、自らの意志で座っていたのだ。本当のところはアナル感覚に目覚め、心地よい刺激を受け続けていたかったからなのだ。


 「あら、素直に拡張しているのね。」
 「だって、そうしないと、ボクは生き残れないし・・・。」
 「まあ、分かっていればいいわ。それならホルモン注射も当然って事も分かっているわね?」
 「ウッ・・・、それは・・・。あんまり大きくされちゃうと、戻る時が大変なのでは?」
 「まあ、時間は掛かるわね。でも、あなたには時間なんかは問題ではない筈よ。」

 メイの超音波注射器がショウの胸に宛がわれても、大人しく受け入れるしかなかった。既にCカップを超えているのだが、ショウとしては既に大きな乳房になっているので、これ以上大きくなったとしてもさほど差はないと感じていたのだ。

 「他に身体で痛む所は無い? スキンが初期状態に戻ろうとすると男女の骨格差で圧迫の強く出る部分がありますから。」
 「えと・・・、脇腹とかその・・・、オチンチンの付け根の部分とか・・・。」
 「という事はその部分のホルモンが少ないという事よ。痛む所にも注射を。」
 「あ、そんなにひどくはないから、まだ・・・。」
 「そう。痛みがひどくなったら言いなさいね。ホルモンは少ない方がいいのは分かるわ。だから、痛い部分は良くマッサージしておく方がいいわね。それにオッパイを大きくするにしても、ホルモンの大量注射で大きくするよりも、マッサージで大きくした方が身体全体の女性ホルモンの量は少なくて済むのよ。その方が戻す時には男性ホルモンの効きもいいし。」
 「あ、そうか・・・。だけど大きくなったらなったで・・・。もう、こんなに大きいし・・・。」
 「こんなに・・・って・・・。ああ、あなた、ショコたんの事を知らなかったわね。」
 「ショコたんって・・・ロジャーさんのダッチワイフ?」
 「ううん、セックスアンドロイド。セクサロイドの事よ。かなりの高級品で、この船の2隻分程の値段なのよ。今は月のお店で修理とメンテを終えて、ロジャーさんを待っているのよ。そこにあなたが密航なんかするから、大変な事になっているの。手続き上、あなたも火星迄同行して貰わないとならないのは理解しているわね? その為にショコたんを積み込めなくなってしまっている事も。だからあなたにはショコたんの代理をして貰うという事ですし、結婚しようとする男性がセクサロイドを乗せていたら、一発で偽装結婚だと分かってしまうのよ。」

 ショウは申し訳なさそうに頷いた。

 「ショコたんの身長はあなたより少し高い程度ですけれど、ロジャーさんの趣味でバストが最初の仕様では確かGカップだった筈なのよ。」
 「G・・・カップ?」
 「そうよ。そして今のショウのバストはせいぜいCカップ。どうしてもFカップ以上にしておかないと、入管で不審がられるわ。ロジャーさんの趣味嗜好はきちんと記録されているのですから。」
 「Fって言ったら・・・。」

 ショウは自分の胸の前に両手で大きさを示すようにシルエットを表現した。

 「ううん、それではまだEカップ程度ね。もう少し大きいのよ。そしてそれでも最低限なの。」
 「ヒッ、そんなに大きくなったら・・・。戻せるの?」
 「女性ホルモンの注射をやめれば、小さくなり始めるわ。但し、ある程度の時間は覚悟しなさい。それでも終身刑や無期懲役よりはましでしょう。バストのマッサージ機も積み荷にはあるけれど、全くあなたの密航のせいで大損害よ。」
 「それって使わないとダメ?」
 「別に使わなくてもいいわよ。使えば当然バストの成長は早まるわ。」
 「ウワッ・・・。」
 「でも、それだけホルモン量は少なくて済むわね。早く大きくしてしまうか、ゆっくりと大きくするかの違いよ。ただ時間的な余裕がないので、当然大量投与でマッサージしている場合と同じ程度迄は大きくするのは同じよ。」

 ショウの選択肢はなかった。どうせ大きなバストにされてしまうのは決定的なのだが、それでもホルモン投与は少ない方がいいと思ったのだ。それがマッサージ機の罠とも気付かずに。


 「ほい、メイさん。超音波マッサージ機です。」

 ロジャーが大きな器具を運び込んできた。

 「本来は床に設置して、固定して使う器具なのですが、無重力状態でなら重さはないので、このまま取り付けますよ。」

 ショウが覗き込むと、大きな窪みの二つある、明らかに乳房を納める空間の器具だった。しかし、どう見てもメロンよりも大きな、小ぶりのスイカですら入ってしまいそうなスペースにたじろいでしまう。

 「ホホホ・・・。長時間掛ければこの程度迄は大きくできますけれど、それでも元々が巨乳と言われる女性でないとね。物理的マッサージではなく、超音波ですので、隙間が大きくてもマッサージされるのです。ロジャーさん、取り付け方法は分かります?」
 「ああ、要は胸に合わせて、このベルトを背中に回して固定すりゃいいんでしょ?」

 渋っていると肛門拡張機のリモコンを突き付けられ、ショウは言いなりにマッサージ機を取り付けられる事になる。慣性質量はかなりあるらしく、ズッシリとした重量感があり、かなり旧式の宇宙服を着たような動きにくさを感じた。重さはなくても、胸と尻に取り付けられている重りで、ピンヒールではかなり歩きにくい。

 「いいですか? このマッサージ機はいわゆる拘束用ではありません。脇に付いているセンサー部分に触れるだけでオンオフします。あなたの着せられている体型矯正スキンは段々と初期状態に戻ります。という事は最初に見せて上げた程度のバストの大きさになる訳ですから、かなり強く吸い上げられる事になります。痛みが強くなる前にマッサージで大きくしてしまう事ですね。まあ実際にはホルモンやプロテインでもそれ程体積を増す事は無理ですから、脇の下や腹部から脂肪を引き寄せる事になるでしょうけれどね。それと超音波マッサージには痛みを緩和する働きもありますから、常にスイッチは入れておいた方がいいと思いますよ。」

 恐る恐るスイッチに触れると、チーッという音とともに乳房内部に熱さを感じた。しかし痛みはなく、血流が良くなるような暖かさだった。もう一度スイッチに触れ、器具を停止させると、確かに吸い込まれるような痛みがある。皮膚を引っ張られる痛みだが、再度スイッチを入れると確かにその痛みはなくなるのだった。

 「体型矯正スキンは段々と少しずつ初期状態への変形を始めます。相当時間を掛けて、ゆっくりとですが、それでも部位によってはかなりの圧迫感を感じるでしょうし、伸張による痛みが出る事もあるでしょう。なにぶんにもセクサロイドに似た体型となるのですからね。痛みを感じるようであれば、このクリームを塗布しなさい。痛み止めの効果があります。即効性のきついお薬ではないので定期的に、痛みを感じる部位に塗っておくといいでしょう。男性体型と女性体型の異なる部位が当然強く圧迫されるのですからね。」


 「メイさん、一気に女性体型にするつもりじゃなかったんすか?」
 「あら、そのつもりですよ。」

 メイはちょっと唇を曲げた微笑みで答えた。

 「いくら超音波マッサージったって、月に着くのはあと7日ですぜ。その程度では・・・。」
 「マッサージだけでは無理でしょうね。」
 「でしょ?」
 「だからマッサージだけではありませんよ。」
 「エッ?」
 「あの機械はマッサージの機能は持っていますが、当然ながら減圧による吸引豊胸機能をもっています。そして超音波により、女性ホルモンはもちろんの事、ヒアルロン酸やプロテインの注入をしているのです。だからあんなに大きく、重い機械なのですから。」
 「ワッ、そうだったんですか。あ、だとすると、あのクリームもひょっとして・・・。」
 「はい。痛み止めの効果は少しはあります。それは副次的なものですけど。強力な浸透性女性ホルモンですから、その効果で女性体型に近付けば当然ながら圧迫は減りますからね。」



 船の窓から見える月が段々と大きくなって来るにつれ、ショウの不安は同じように大きくなってくる。

 「ボクはうまく入管をパスできるのだろうか・・・。パスできたとしても、こんな女の身体にされてしまって、元に戻れるのだろうか・・・。顔やカツラは外せば元に戻るとは思うけれど、体型は・・・。鏡で見る限り、矯正スキンとかで随分締め付けられてる。これも剥がせば戻るとは思うけれど、胸のマッサージ機で見えないからハッキリとは分からないけど、かなり大きくなっているのは分かる。ホルモン注射をやめれば元に戻るとは聞いてるけど、相当時間が掛かりそうだし・・・。」

 ショウの精神状態の不安定な頃合いを見計らうようにロジャーはアナルセックスをしにやって来る。

 「さあ、トイレだ。」

 まるで既に日常化したように、ショウはすんなりと受け入れ、フェラで勃起させてから尻を突き出すのだった。そして精液が大腸に流れ込む頃には歓喜の喘ぎとともに不安も押し流されてしまっていた。



 「ツッ・・・。」
 「痛む所にはクリームを塗るのでしょう。」
 「アッ、塗ってます。でも、身体の中が・・・。」

 ショウは股間を指でまさぐっていた。睾丸の後ろ側の小さな穴の奥の方が痛むのだった。

 「ああ、人工膣の部分ね。スキンで拡げられるから、神経は避けていても圧縮による痛みが起きるのかも。いいわ、痛み止めを注入して上げるから。」

 メイは針の無い注射器をその穴に押し付けた。

 (ウッ・・・、おなかの奥の方迄薬が入る?)

 「即効性ではないので少し時間が掛かるかも。そうね、これからも痛みが出るかも知れないから、毎日何度か定期的に注入しましょう。」
 「メイさん、それならこの肛門拡大機にアダプターを付ければいちいち手を煩わせずにいけるんでは?」
 「あ、そうですね。確かアダプターはこの機械のケースに同梱されていた筈ですね。場所分かります?」
 「ヘヘッ、俺の堪も大したもんですぜ。出しておきましたよ。はい、こいつです。」

 小さな箱から細いチューブのような物を取り出した。

 「はい、座りなさい。」

 拡張機のリモコンを操作されると、機械は床に固定される。そして細くなったのでショウは立ち上がった。

 (フーッ、抜けると動きが楽になるのに、何だかお尻が寂しい・・・。そんな事感じちゃいけないのに。ウッ、細くなったと思ったのにかなり太い・・・。肛門は・・・、アッ、随分拡がってる・・・。)

 ショウが下腹部をまさぐっている間、メイは拡張機にそのチューブを取り付けていた。

 「分かりますか? 今迄はただしゃがみ込めばお尻に填りましたが、これからはこのチューブも挿れなくてはなりません。向きを気を付けなさい。」

 ただ頷くしかなかった。


 ピューンという音がして壁のモニターに女社長が映った。

 「あ、ママ。」
 《手続きに関してはかなり進んだわ。あとはその坊やのID登録よ。申請毎に認証方法が違うから面倒ですけれど、一つ一つ間違えないように。認証されない場合は・・・、坊や、分かるわね? 私達にも精神的なダメージを与えないようにしてね。》

 それは遠回しではあるが、自分の生命が掛かっているという事を示している事は分かる。

 画面が切り替わり、本人認証画面になる。パネルに手を当てて指紋、掌紋認識や光彩、網膜パターン。更に唾液によるDNAパターンやらサイン、そして色々な種類のパスワードを求められ、各種の認証が繰り返されるのだった。自分の生命が掛かっているので、震えながらも慎重に進める。次々に現れる文章を読んでいく余裕など無かった。

 速読で読んでいたメイは微笑みを漏らしていた。

 《特に日本のお役所は申請書式が多いから大変なのよ。ロジャーさんの方は簡単に済みましたけれど。》

 社長の顔が画面に現れ、ショウに話し掛けた。

 《いくつかの検査と質問の為の面接がある筈です。特に今回の場合は偽装性転換による偽装結婚での密入星を疑われます。でも、検査は今の女性化処置でくぐり抜けられるでしょう。そして面接にしても、余程変な事を言わなければ、形式的には整っていますから、まず大丈夫です。》

 ショウはホッとため息をついた。

 《でも・・・。実際にはその面接の前に大切な事があるのです。ロジャーさんの国籍はアメリカですから、この基地に降りる場合、今迄のように通過という訳にはいきません。なにぶんにも国際結婚を前提にしていますからね。それで管理局指定のホテルに宿泊し、翌日の面接という事になります。これは知られていない事なのですが、偽装結婚の疑義のあるカップルの場合、宿泊時にも監視されているのですよ。つまり本当に夫婦であるかどうかを監視されているのです。部屋のあちこちに監視カメラなどが仕込まれていますが、まず素人では見つけられないでしょう。》
 「って事は・・・?」
 《ですから二人が結婚を前提にしているという事を示さないとならないのです。お芝居をしろとは言いません。ごく自然にらしく見えればいいのです。つまり、あなた達若い二人ですから当然の事としてセックスし続けていればいいのですよ。下手に色々と喋ってボロを出すよりはずっと信憑性が増しますからね。特にショウの場合は拒否してはいけません。むしろ誘うように行う事。それで翌日の面接は、より形式的に済む筈です。分かりましたね?》

 ショウは無言で頷いた。

 《メイ、簡易血液検査キットはありましたよね? それでショウの血液中の女性ホルモン濃度を測定しておいて下さい。今迄の経過で多分大丈夫だとは思いますが、濃ければ濃い程本検査はすんなりと通る筈ですから。》


 人工膣・・・、まだ膣とは呼べない程の細い管状だが、そこにも拡張機能の付いた管を挿れられ、肛門拡張機に座って鏡を見詰めている。

 (すっかり身体付きは女だなあ・・・。腰も随分細く見える。手足もスラッとしてるし・・・。スキンで押し込まれたチンチンはすっかり惨めに・・・。玉も身体の中に押し込まれてるし・・・。元々がそれ程でもないのは分かってるけど、これを脱がして貰えればちゃんと戻るのだろうか・・・。胸のマッサージ機で中は見えないけど、オッパイもかなり大きく成っているんだろうなあ・・・。イテテ・・・。そう思ったら胸が痛い。ウーン、今迄みたいに引っ張られるような痛みじゃないな。何だか押し潰されるみたいな痛みだ。えっと、スイッチを入れて・・・。)

 胸のマッサージ機をスタートさせた。しかし・・・。

 (イテテ・・・。マッサージの効き目が減ってるのかな? なかなか痛みが・・・。グッ・・・、痛い! 働いているよな? 変だ。ドンドン痛みがひどくなる。)

 「メイさーん! ロジャーさーん! アウッ、痛い!!」


 「いい事? ショウのオッパイはまだまだ小さいのよ。多分ママがショコたんの体型を少し変えて、大きなバストにしている筈。今のショウのバストは小柄な身体とのバランスから見てもかなり大きいと思うけれど、ロジャーさんの嗜好に比べたらずっと小さいって事にするのよ。もっともっと大きく育てるのですから、ちゃんと合わせて下さいね。」
 「了解。まあ、ショコたんの代わりにするんすから、生きたセクサロイドってやつにして欲しいっすからね。」


 「騒がしいわね。どうしたの?」

 「アッ、メイさん! 胸が・・・。凄く痛い。マッサージしても・・・。痛い!」
 「仕方ないわね。身体付きが女に成ったら、男らしい我慢強さが無くなったの? ロジャーさん、マッサージ機を外して上げて。背中のベルトはショウには外せませんから。」
 「あいよ。どれどれ。」

 ショウの後ろに回ったロジャーがマッサージ機の止めベルトを操作するとカチッと音がして外れる。ショウは急いでマッサージ機を両側から押さえて前に押し出そうとした。

 「イテーッ!! ウッ、外れない? 何で? 背中のベルトは外れてるよ?」

 メイはニヤッとした笑顔を見せる。

 「外れないのではなく、抜けないのよ。胸の部分の穴よりも中の方が大きく成っているから。」
 「エッ!?」
 「これを外すには引き抜くのではなく、開かないとダメなの。」

 そう言いながらメイがマッサージ機の上下の部分を操作する。するとパチッと音がし、パカッと上下に割れた。


 「エッ・・・?! ウワーーーーッ・・・・!!」


 ショウは鏡を見詰めたまま固まっていた。


 「な・・・何? このオッパイ・・・。」

 ショウの胸にはメロン程の大きさの丸い二つの塊が突き出していた。

 「まあ、短時間でしたから、形だけは何とかできたようね。」
 「形って・・・。こんな大きく・・・。」
 「大きく? 全然大きくないでしょう? まあ、ショウは小柄ですから幾分大きくは見えるか知れないけれど。」
 「幾分って、こんなんじゃまだ入管パスできないっしょ?」
 「そうですけれど、まだ処置し始めたばかりという事で逃れるしかないですね。どうしてもショコたんに近付けないと偽装がバレますからね。」

 ショウは二人の会話に驚いていた。

 「そのショコたんのオッパイって・・・、もっと大きいの?」
 「俺は巨乳好きだから特注ででっかくして貰ってる。メイさん、あの大きさって何カップって言うんすか?」
 「購入時の仕様はGカップでしたわ。ただ、ロジャーさんは最初から大きくしたのでIカップだったかしら? その後少しずつ大きくしていったから、今現在の大きさはKかLカップってところかしらね。」

 ショウは驚いてメイを見詰めた。ロジャーも少し驚いていたが、平静を保っている。

 「アンドロイドですから大きくしても垂れ下がらない、いい形のバストですけれど、さすがに人間で、しかも男の子ではそこ迄はできませんよ。それに回復処置をしなくてはならないのですから、火星での入管をパスできる程度ですね。」
 「これで・・・まだ・・・?」

 ショウは信じられない程大きな肉塊を揺らしてみた。ブルンブルンと震える振動が直接胸に響いてくる。

 「ヒエーーーッ!!」

 ロジャーがニヤニヤしながらその乳房を鷲掴みにしてきたのだ。ショウにとっては今迄に感じた事のない位置に強い刺激を受けた。

 「おい、こんな程度で感じていたら、とてももたないぞ。」
 「キッ、痛い・・・。」
 「ロジャーさん。まだショウは女の子に成り立てなのですよ。いくら乳房が普通より大きいとはいえ、いきなり大きく成っているのですから、ちょうど思春期の女の子が乳房が膨らみだした頃と同じなのですよ。」
 「あ、なるほど。セックスアンドロイドとは違うんですね。スキンで覆われているせいか、少々弾力に違和感を感じるが、まあ、それでもこのオッパイならパイズリはできるな。訓練も兼ねてやらせるか。」
 「パ・・・、パイズリって・・・ボクが?」

 メイがニヤニヤしながら、ウインクをしてキャビンを出て行く。ロジャーはいつもの通り壁に寄り掛かった姿勢で待っているのだった。有無を言わさないその体勢に、まだぎこちない動きでロジャーのズボンのジッパーに手を掛けるしかなかった。


 「アプッ・・・。」
 「どうもいまいちだな。まあ、初めてだから仕方ないか。火星迄は相当時間があるから、その間には少しは上手くなるか。やっぱりショコたんみたいな柔らかくて弾力のあるでっかいオッパイでないとなあ。」
 「ごめんなさい・・・。」

 ショウは口元を拭いながら謝っていた。自分でもまだ上手くない事を悟っていたが、心の奥底ではもっと上手にロジャーを悦ばせたいと思っている事には気付いていなかった。



 「そろそろ着陸準備をしましょう。」
 「エッと、減速の為の姿勢制御迄はまだ充分に時間がありますよ。」
 「ほら、こんな密航者の為に荷解きしたでしょう。固定の確認とか重心位置の調整をしないとならないでしょう。」
 「そうっすね。念入りに調べないとならないっつう教訓でした。」

 ロジャーはヘルメットをかぶり、シールドを下ろしたところで大声を上げた。

 「アアッ、こいつの宇宙服は無いですぜ! あの簡易のやつは裂いてしまったし・・・。」
 「そうでしたね。到着したらすぐに入管窓口へ行かなくてはならないのに・・・。ママに事情を知らせて用意しておいて貰わないと。それでも手続きが面倒よね。」
 「全く手間ばかり掛けやがって。準備を早くして正解でしたね。アアッ・・・!!」
 「今度は何よ。」
 「こいつの・・・・耐Gシートが・・・。」
 「エッ? そうだった・・・。どうしよう・・・。」

 メイとロジャーの慌てている声と様子にショウは不安を感じていた。

 「メイさん・・・、ロジャーさん・・・?」

 「お前の着陸用のシートが・・・。」

 着陸時の減速は出発時のGよりは少ないとはいえ、かなりのものなのだ。まして貨物船の場合は客船とは比べものにならない。何か衣服を着せて貰ったとしても、自分の体型に合わせてGを分散させるシートが絶対に必要なのだ。

 「ここ迄来てシートを届けて貰うなんて不可能よ。Gショックをやわらげられる物が荷物に入ってないの?」
 「そんな物無いっすよ。宇宙便で使う緩衝材ってのは、地上で使うような柔らかな物じゃないんすよ。物に合わせて作ってあるんすから。ばらしたところで堅いですから・・・。」
 「どうしよう・・・。そうだわ。まずはママに相談してみるわ。」



 《もうすぐ月周回軌道へ入る為の減速準備の時間でしょう? 私の方も色々な手続きの下準備で忙しいのよ。》
 「ママ、ショウのシートが無いのよ。アブソーバーも無いの。」
 《エッ? メイ、気が付いてると思ってたけど・・・。》
 「何?」

 メイの母はスクリーンの中で微笑んでいた。

 《密航者という事で、月に到着させるには一番最初に考え付く筈よ。まして今回は偽装結婚、偽装女性化の上にショコたんの代理という事でしょう?》
 「ええ、それは分かって・・・アアッ!! そうか!」
 《その坊やの宇宙服の代わりにもなり、耐Gシートにもなると言えば・・・。》
 「そうよね。ありがとう、ママ。時間がないから急いで準備します。」

 スクリーンが切れて、ロジャーは呆気にとられた顔をしていた。

 「社長の言うような物は積み荷にはありませんぜ。」
 「商品としての積み荷ではないのよ。ロジャーさん、この子はショコたんの代わりをするのよ。だから・・・。」
 「あ、そうか!! あのスーツケースなら耐Gで気密もしっかりしてる。だけど、あれに人間を入れるのは犯罪行為につながるから、原則禁止の筈ですぜ。」
 「そうよ。あくまでも原則禁止。でも、それはあくまでも原則であって、許可される場合もあるのよ。」
 「そうなんすか? あれはダッチワイフ用のケースですから、特に火星ではかなり使われてますけど、人間を入れているのを見た事はないっすよ。まあ、入ろうって人は女でも性転換者でも居ないでしょうけど。」
 「あら、そうでもないわよ。極端なMで、被拘束趣味の人なら入りたいと思うでしょうね。もちろん本人の合意の上ですけれどね。」

 メイはショウに微笑み掛けながら、

 「大体ショコたんの代わりになる程の巨乳になるつもりの若い男の子よ。アナルセックスやフェラチオが大好きで、精液浣腸をしている程の子ですから当然もの凄いMよね。だとしたらそういう性癖があってもおかしくないし、むしろ悦ぶような状態よね。」
 「あのう・・・、それ・・・、ボクの事ですか?」
 「勿論そうよ。そういう設定でないと入管は絶対に通らないわ。演技をして貰わなくてはならないけれど、中途半端な演技だとすぐにバレてしまうわ。ううん、演技ではダメ。自分からそう思い込んでいないとダメなのよ。いい事? あなたはロジャーさんが大好きで結婚したいと思っているのよ。その為にロジャーさん好みの女性になろうと決心して女性化手術を受けている。そして本当は女性としてのセックスをしたいのだけれど、今はまだアナルセックスで我慢している。ロジャーさんはかなりの変態性欲者だけれど、その趣味も満足させて上げたい。そういう風に考えている・・・って事なのよ。」
 「はあ・・・。そうでないとボクは・・・。」
 「死ぬかほとんど終身刑に近い無期懲役のどちらかという事を忘れないでね。」

 ショウはただ頷くしかなかった。


 《ショコたんのスーツケースはこいつですが、後は何が必要っすか?》
 《エアボンベとガス交換機は必要ね。圧力調整バルブも取り付けないと。吸水パットも必要ね、あとは・・・。》
 《それにしても先の見通せるメイさんにしては珍しくミスりましたね。社長の助言が無かったら今頃大慌てでしたよ。》
 《あら、見損なって貰っては困るわよ。当然予定してました。ただ、あそこで慌てないとショウをダッチワイフ用のスーツケースに入れる事が難しいのよ。考える時間の余裕を無くして、本人の意志の元に入って貰うのですから。前に色々な手続きをしたでしょう? あの中にこのスーツケースに入る承諾書もあったのよ。そして最後にケースに入る時、ケースの人間検知機能での拒否解除するのにIDカードと承諾書の確認。そして最終意思確認があるのよ。そうでなければ犯罪と認識されてしまうのよ。ロジャーさんもこのケースを購入した時に散々面倒な手続きを踏んだと思いますけれど、今回は更に大変な事なのよ。あくまでもショウの任意で自由な意志を確認されるのですからね。》
 《ワオッ!! そうだったんすか。》
 《それと、このケースは我が社の別注品ですが、多分ショウはノーマルのケースについても知らないでしょうね。地球ではほとんど使われていませんから。ですから、意思確認の際に機能説明をしなくてはならないのですが、それは私に任せて貰います。必要事項の説明の際、あくまでも必要事項だけの説明をしますからね。ケースに収まってしまってからも辱めを与え続け、精神的にも肉体的にもロジャーさん専用の肉奴隷化しなくてはならないのですから。》
 《了解っす。是非ともよろしく。》


 「さてと、急いで準備しないと。ショウ、あなたはこのスーツケースを知ってる?」

 かなり大きめのケースだが、ごく普通の旅行鞄にしか見えなかった。

 「これはセックスアンドロイド輸送用のバッグなのよ。」
 「セックスアンドロイド用?!!」
 「ロジャーさんのお人形さんは極めて性能の優れた高級品ですから、その分ショックとか温度変化、気圧の変化の敏感なのよ。表面は人工タンパク質ですから、人間程と迄はいきませんが、それでもかなり柔いのよ。だからそれに対応するようなシステムが組み込まれているの。本来、人間を入れるバッグではないけれど、緊急やむを得ませんから、これに入って貰います。」
 「そんな物に・・・?」
 「仕方ないでしょう? これからの逆Gに耐えなければならないし、船が着陸した際、税関検査や船内の確認の時は室内を開放するのですから、真空に耐える宇宙服が無い以上、この中に入っていなくてはならないのよ。このケースには宇宙服以上のエアシステムがありますからね。」
 「・・・・・。」
 「ただ、ここで問題になるのは、セックスアンドロイド用のケースに人間を収める事は原則禁止なの。そうでしょう? 誘拐とか性犯罪に使われる可能性があるからです。だけどそうならない方法もあるのよ。それはショウ、あなたの嗜好でこのケースに入りたい場合。超の付く程のMの人だと、被拘束欲を満たす為に使われる場合もあるの。実際、月の街の特殊なエリアでは結構見かけるわ。火星だとかなりの人が使ってるわよ。」
 「そうなんですか?」
 「ええ。火星では正常な使い方、つまりセックスアンドロイドの輸送用として使う場合が多いですね。月の場合は地球に面した側は観光用の基地が多いけれど、反対側は天体観測とか通信基地が多いわね。観光客には不人気な場所ですから、特別なお客を集めているのよ。まあ、いわばセックス街とでも言うのかしら。勿論非合法な性産業は認められませんが、合意の上でならかなり凄まじい変態行為も大っぴらに行われているのよ。極端にセックスに傾いたヌーディストキャンプと言ってもいいわね。当然ながら犯罪者、それも性犯罪者の入場は厳しくチェックされますから、地球では味わえない楽しみを求めてやってくる人達ばかり。」

 メイはニヤッと笑う。そしてそのスーツケースを開いた。ロジャーもニヤニヤしながら眺めていた。

 「エッ・・・?!!」

 二つに開いたバッグには明らかに人の形の窪みがある。しかも両手は真横に伸び、足は大きくM字開脚の形になっている。両隅には何らかの機械が取り付けられているのだが、ショウは自分がその姿勢でケースに収められてしまう姿を想像して震え上がった。

 「そんな・・・バッグに閉じこめられたら・・・。」
 「ウフフ。これは特別製なの。さっきも言ったように、犯罪に使われる恐れがあるので、ノーマル仕様では人間が入る事はできないの。蓋をしようとしてもロックされてしまうのね。上位機種では犯罪にならない場合に限って蓋を閉じる事ができるのよ。ただ、その場合はショウが心配する通り、暗所で閉所は精神的な苦痛をもたらすので、蓋の方はハーフミラーと同じで、中からは外が見えるけれど、外からは普通の金属ケースにしか見えないのよ。但し、宇宙空間では太陽にまともに照らされる場合は紫外線や放射線はカットされるけれど、極めて強い可視光線を浴びる事になりますから、その場合は透過率が下がるのよ。ほら、こちらから覗いてご覧なさい。」

 ショウは開かれたバッグの内側から覗いてみた。確かに僅かに色の付いたアクリルのように反対側が透けて見える。そしてもう一度表から見ると、灰色の金属光沢があり、近付いても内部は全く見えない。

 「さあ、時間の余裕は無いのよ。それにあなたの選択肢も無いのよ。これに入るか死ぬかだけなの。」

 確かに選択肢は無い。真空中に放り出されるか、生身で高Gを受け、床に押し付けられて圧死するかなのだ。渋々バッグの窪みに座り、それに合わせて手足をはめ込んでいく。


 ピーッという音がケースから発した。

 「これが人間の関知センサーの働いた音なのよ。このままだと蓋も動かせないの。まずはショウのIDカードを・・・。」

 カードがケースの取っ手近くに宛がうとピッと音がする。そして時代がかった音声合成音がする。

 [カード認証しました。承諾書確認中。確認しました。指紋掌紋認証して下さい。]

 「ほら、そこのセンサーに手をかざすのよ。」

 [指紋掌紋認識中。認証しました。登録します。第一回登録しました。第一回登録は有効期限1日です。]


 「エッ? 1日?」
 「これも犯罪防止の為。もし誘拐だったとしても、1日後に再認証を受けないとならないでしょう? 認証の都度、位置確認されますから、追跡可能だし、薬物などで意識を無くしていたりしたら認証されないの。簡易的なものですけれど、脳波の検知もしているのよ。ひどい乱れがあったりすると認証されなかったり、あるいは警察からの確認が来たりするの。」
 「ヘーッ・・・。」

 ショウは幾分かの不安が解消された気分になった。

 「メイさん、間もなく減速の為の姿勢制御します。」
 「分かったわ。ショウ、閉めるわよ。」

 スーツケースの蓋が三分割されて閉じられる。両側が閉じられ、真ん中の部分だけが開いたままで、ショウの胴体だけが露出している。それはショウですら、かなり卑猥な形と感じる姿であった。しかしシューッと音がして、手足が固定される感じがする。透明なクッションが膨らんだ事はショウの位置からも見えていた。

 「どう? しっかり固定されたかな? こちらからは全然見えないのよ。」
 「あ、そうか。大丈夫です。動きにくいけれど。」
 「それでは蓋をするわ。外部ドアを開いて真空になる迄は会話はできます。内部にマイクとスピーカーがありますからね。何か不都合があったら言うのよ。それじゃ・・・。」

 ニヤニヤしながらメイが持ってきたのは明らかに股間に填め込むディルドーだった。

 「ワッ、この中でも?」
 「当然よ。あなたは変態のロジャーの性奴でありセックス処理を悦んでいる変態な奥さんになるのよ。そういう設定なのですから、いつでも訓練を続けていないとならない筈よね。着陸して検査がある間は真空状態ですから填め込む事はできませんからね。」
 「アフッ・・・・。」

 肛門の方はかなり太い物を射し込まれても、むしろ快感になってしまうのが恥ずかしかったが、人工膣の方はまだまだ狭く、強い異物感を感じる。そして薄い布を宛がわれ、紐の無いバタフライのようだが、ピタッと張り付いた。

 「これは吸水性が高いから、当分は大丈夫ね。それとショウには初めての体験だから分からないでしょうが、まだまだとはいえかなり大きなバストに成っているでしょう。これが高Gを受けるとかなりの重量を感じる筈。そして成長途中のバストには悪影響があるのよ。だからある程度は固定保持しないとならないのよ。スキンで覆われているにしても、さすがに不十分ですから、これも取り付けておくわよ。」

 透明なブラカップを被せられる

 「メイさん。時間がない。急いで!!」
 「はい! じゃ、狭いけれど、しばらくの我慢よ。」

 メイはショウの収められたケースの真ん中の部分の蓋を閉めた。ショウ自身としては透明なカバーに覆われている感触なので卑猥な姿勢が恥ずかしかったのだが、外からは見えていないという安心感があった。メイが急いでシートに座り、ロジャーの助手としてスクリーンの数字を読み上げている。


 「ショウ、聞こえているな!」
 「あ、はい。」
 「よし。そっちの声も聞こえる。間もなく姿勢制御で向きを変える。その後すぐに逆噴射で減速を始める。まあ、その中では何もできないが、緊張を保てよ。」

 《アフター30セカンズ、サブエンジンオン。》

 合成音声がショウの耳にも届く。

 そしてエンジンがスタートした音と横Gが掛り始めた事で宇宙船が向きを変え始めた事が分かる。メイの背中越しに見えるモニター上の月が横に動いていき、すぐに見えなくなる。そして遙か彼方の地球が見え始めた時、一気に轟音が響き、身体がクッション材に押し付けられた。

 (ウウッ・・・、きつい・・・。身体が潰れそうだ・・・。クーッ、オッパイが痛い・・・。パットの中でも身体に押し付けられる・・・。このパットを着けていないとオッパイ全部の重量の何倍かで胸が押し付けられるのか・・・。)


 ショウは歯を食いしばってGに耐えていた。しかし軌道エレベーターのポートから飛び出した時程の逆Gではなかった。


 《・・・ンジン、ストップ。》

 エンジンの轟音が止まった。幾分の加速度は残っているものの、乳房の重さがスッと軽くなった。

 「月軌道に乗った。進入許可了解。Jポートに向かう。」

 ロジャーのテキパキした声だけが響いている。

 「J−2ポート、オールグリーン。着地する。」

 最後にガクンとしたショックがあったが、エンジン音がスッと消え、振動も全く無くなった。

 「到着したのですか?」
 「おう、着いたぞ。すぐに検査官が来て貨物の確認と入管手続きだ。普通ならIDカードで簡単に済むんだけどな。」
 「そうよ。今回はショウの家族パスポートの申請を途中でしたし、セックスアンドロイド輸送用ケースに入っている事の証明書の確認とか凄く面倒。いいこと? 途中で色々と聞かれると思うけれど、理に沿わない返事だと不法入月扱いで拘留されてしまうかもしれないわよ。くれぐれも気を付けるのよ。あなたのこれからの人生が係っているのですからね。」
 「あ、はい。分かってます。」
 「検査の際は船を解放しますから、音声通信はできないわ。宇宙服のヘルメットをケースに押し当てての会話になるわよ。聞きにくい音になるかもしれないけど、はっきり答えるのよ。」
 「分かりました。」
 「メイさん、検査官着きました。ドア開けます。」

 ブシュッと音がして、ショウの収まっているケースが少し膨らんだような感じがした。途端に無音になり、ドア開放による真空状態になった事を悟った。耳を澄ましていると、金属製の靴の足音がケース越しに感じられる。ハーフミラー式のケースの中からだけ外が見えるが外からは見えないと分かっていても、メイとロジャー以外の人物が船内に入ってくると、その恥ずかしい姿に動悸が速まってしまう。検査官だろうが、二人乗り込んできた。シルエットからはどちらも女性であるらしい事が分かる。メイとロジャーがそれぞれのIDカードを検査官に渡し、検査官は小型の端末に宛がう。4人の会話は無線で行われているらしく、アメリカ人のロジャーは大きな身振りで何かを説明している。頭を掻いたり肩をすくめたりしていた。メイも一所懸命に説明をしていた。検査官は端末を何度も操作し確認している。

 (やっぱり難しいのかな・・・。お願い。うまくいかないとボクは逮捕されてしまう。そんな事になったら、このままの姿で刑務所へ・・・。メイさんの回復手術を受けないと、ボクは当分このままの中途半端な状態で・・・。中途半端? とんでもない。オッパイはすでにこんなに大きくされている・・・。ロジャーさんにオチンチンを射れて貰えなくなるし・・・。違う!! 今は女性ホルモンの大量注射の副作用で男性ホルモンを含む精液を身体が欲しているだけなんだ。長いな・・・。ダメだったら・・・。)


 《社長から話は聞いてるわ。まあ、認証は済んでいますけれど、できるだけ時間を掛けて欲しいって事なんだけど。》
 《それはそのケースに入っている子を脅す為なのよ。だからこそ必要の無い家族パスポートだの婚約証明書迄作ったのよ。》
 《エッ、メイさん。こいつのパスポートは要らないんですか?》
 《オホホ・・・。月の場合は、その基地の所属国のパスポートは必要よ。ロジャーさんの場合はアメリカ国籍だから、当然ここは日本ですから必要だけど、ショウの場合は国内移動と同じ扱い。まあ、別の基地に移動する場合は必要ですけれどね。》
 《あっ、そうか・・・。じゃあ、何でそんな面倒な事を?》
 《ロジャーさんはショコたんというお人形さんで処理してるでしょうが、やはり本物の女性の方がいいでしょう? まあ、ショウの場合はまだまだ本物と迄はいかないけれど、火星に着く頃迄には少なくとも外見だけは本物以上の女性にできるし、あそこもほぼ完璧に仕上げられるわよ。その為には私達の言う事を聞かないと死刑の可能性があるって事だったら、おとなしく女性化手術を続けられるのよ。あ、でもこれは当然ながらショウには内緒よ。》
 《そうなんすか・・・。すっかり騙されてました。だけど、これから火星に向かうとなると、必要っすよね? そいつの方もかなり厄介なのでは?》
 《だから・・・、それもとっくに手続き済み。火星での結婚手続きをしてありますから、年齢制限迄の間は暫定ですが既にあなた達は準婚姻状態なのよ。ですからビザなどは婚姻ビザが出ている筈なのよ。》
 《ありゃ、じゃあ法律的にはショウはもう俺の妻なんすか・・・。》
 《ショウの誕生日以降に火星に到着した時に正式に婚姻状態となるのよ。まだ今は仮の奥さんという事ですね。ところでママからある程度は聞いていると思いますが、密航という事を強く示唆して欲しいの。》
 《ええ、ストーリーは聞いてますよ。私は只の臨検検査官ですけれど、どうせその子が不審を抱く訳もないし、ましてや身分詐称で告発するなんて事はありませんからね。》
 《地球外に出る事が初めての子ですから、どんな役人が居るかなんて知らないですよ。》
 《で、どんな子? ロジャーさんのお人形さんに代わるべき子が男の子だなんて興味があるわ。そこのセクサロイド輸送用のケースに入れてるのよね?》
 《あ、そっちを見てはダメ。ハーフミラーなので、ショウの方からは素通しなのよ。あなた達のヘルメットシールド越しでは視線は分からない筈ですから、真正面を向かずに目だけ動かして。ケースの蓋を透明にしますけれど、あくまでも見えない振りで検査をして下さいね。》
 《了解。じゃ、私は見えていない振りで色々確認の質問をしますよ。》

 メイの合図でロジャーは手の中の小さなリモコンを操作した。するとケースがスーッと透明になる。中では不安そうに検査官達を見詰めたショウがM字開脚で固定されている。

 《ワオッ! あれが男の子? 整形にしてもまるでセクサロイドその物じゃない。ああ、顔には何か被せているのよね。オッパイも馬鹿みたいに大きいし、体型もほとんど女性じゃない。あっと、それもパットとかスキンか何かで補正しているのね。ひょっとして最初から女性なのでは?》
 《私の技術を馬鹿にして貰っては困るわ。まあ、元が小柄で華奢な子だったから体型補正は楽なのよ。でも、あの顔はセクサロイドのスキンですけれど、最終形態ですよ。それにあの乳房はパット無しのスキンだけ。でもね、ロジャーさんの趣味もあって、もっともっと大きくする予定。火星に要る間の僅かな期間を除けば、ほとんどが無重力、そして最終手術をする予定の月も低重力。まあ、火星だって地球に比べれば相当重力は少ないですけど。低重力での生活ではどうしてもカルシウム不足を起こすので骨が弱りやすいでしょう。逆に言えば、その間に骨格の変形をさせやすいのよ。子供とはいえ、やはり骨格は男性形ですからね。それをスキンで圧縮しながら女性以上の女性体型に仕上げてみせる。それに乳房だって重力の影響が少ない期間に一気に育ててしまいますから、垂れ下がらないまん丸の乳房にできるのよ。》
 《フーン、出来上がりが想像できないけれど、後で見せて貰うわ。それでは型通りの検査を始めましょう。ロジャーさんは積荷検査の立ち会いをお願いします。》
 《了解。こっちっす。》

 もう一人の検査官とロジャーはコンテナへ向かっていった。


 外から見えていないと思っていても、他人が素っ裸の自分の前に来られるとさすがに恥ずかしい。今になってから何か布で覆っておいて欲しかったと思うのだった。
 検査官はスーツケースのマイクのセットしてある付近にヘルメットのシールドを押し付けた。

 【聞こえますか?】

 くぐもった声だが、検査官の声は聞こえていた。

 「あ、はい。聞こえます。」
 【いくつか確認の為の質問をします。正直に答えて下さい。なお、この会話は私とあなただけにしか聞こえません。私の無線機のマイクはオフにしてありますから、安心して答えて下さい。】

 検査官の笑みは嬉しかったが、時々視線が合うように感じるのが恥ずかしかった。

 【こんなセックスアンドロイド輸送用のスーツケースに入りたいと考える人はほとんど居ない筈です。正直に答えて下さいね。あなたは無理矢理押し込まれたとか、脅迫を受けて入ったのではないのですか?】
 「あ・・・、いえ・・・。そんな事はないです。」
 【自分から入ったの? まあ確かにケースの認証は確認できるので、自主的に入った事は認められますが・・・。あなたのIDデータのチェックによると、ちょっと私の想像を越えているのですよね。あなたの結婚予定のロジャーさんのデータと符合しない点があって・・・。】

 ショウはドキッとした。ここで疑われてしまうという事は自分の人生の終焉を意味する。しかし何とか落ち着いた声で話す事はできた。

 「符合しない点ですか? ボクが一方的にロジャーさんを好きになってアタックしたのですけど・・・。」
 【それはそうでしょうね。ロジャーさんはごく一般的な性癖の持ち主である事が過去の購入履歴で分かります。地上の人とパイロットではストレスの違いが極めて大きいので、いわゆる一般的なデータは当てはまりません。それでもパイロットだけのデータで見れば、ちょっとだけ性欲が強い程度ですが、変態嗜好はないですよ。特にホモセクシャルではないと推量されます。だから同性結婚というのは理論的には可能性がほとんど無いのですが・・・。】
 「あ・・・、それは・・・。ロジャーさんは本当は女性と結婚したいと思っていたのは確かです。でも宇宙飛行士の場合、結婚しても奥さん同行での仕事は無理らしいですよね。女性飛行士ってかなり少ないらしいし、まして火星へ行ける女性となると・・・。だからボクは大好きなロジャーさんの為に女性になって結婚しようと思ったのです。そうすれば生物学的男性であれば、一緒に火星へも行けますから。」
 【なるほど・・・。ああ、それでこれだけの道具を・・・。えーと、覚悟は確かですね。女性化手術は時間を掛けて丁寧に行うようですね。キクノさんの施術であればまず間違いはないし、将来的には膣と子宮の移植を予定しているらしいのね。】

 ショウは再びビクッとした。検査官が端末機のデータを見ながらうなづいていた。

 (膣と子宮の移植? そしたらボクは本当に女になってしまう・・・。いや、偽装結婚をばれないようにデータを作っているんだ。話を合わせないと・・・。)

 「ええ。ボクはロジャーさんの奥さんになったら、本当のセックスをし、将来的にはロジャーさんの赤ちゃんを産みたいと思ってますから。」
 【それは了解しました。だけどこの輸送ケースに入れられるというのは・・・、そこ迄変態では・・・。】
 「えっと、ロジャーさんはショコたんってセクサロイドを持ってます。ボクはまだ見た事がないのですが、今、月で修理中らしいです。かなり高級なセクサロイドらしいので、今のボクではまだ本気だと思われないかもしれないって不安があって・・・。まだ中途半端な女性化手術なので、もし月に着いてのロジャーさんの心変わりが心配で、今の内に少なくともセックスに関してはボクは本気だし、セクサロイドのショコたん同様に、あるいはそれ以上に扱って欲しいからセックス奴隷として扱って欲しいと思ってる。だからボクはこのケースに入って、ロジャーさんをいつでも受け入れられるようにしてるんです。」

 (ウワーッ、我ながらとんでもない事を言ってる・・・。でも大袈裟に言っておかないと、そこ迄は信じて貰えなくてもボク自身が凄い変態だと思って貰えれば・・・。)

 【個人の性癖の範囲は広いので、一応上陸は認めます。しかし船への搭乗時にパスポートもビザも無かったという事は密航の嫌疑が掛けられても仕方のない事なのですよ。正式なパスポートとビザは入月管理事務所で発行されますが、そこで面接と調査が行われます。】

 管理官はケースを離れ、メイに向き直った。

 《あ、メイさん。笑ってはダメよ。私はそちらを向いているからいいですけど、メイさんは渋い顔で不安そうな表情を見せるのでしょう?》
 《そうだったわ。ショウは不安そうに私を見ているから、私も・・・。》
 《それにしても素晴らしい技術ね。どう見ても女性以上の女性よ。そして出任せにしても性奴になりたいって言うなんて。》
 《それでいいの。言い逃れの為に言った事でしょうけれど、口から出た言葉にはとても重みがあるのよ。演技をより本物らしくする為に、ショウは今、そう思い込まないとならないって思っているの。そうでないと辻褄が合わなくなる事がありますからね。心の底から思い込めれば本物の演技になるわ。そして私はいつ迄もそう思い込むようにし向けますから、やがてはそれが本当の気持ちになるのよ。》
 《なる程ね。そういう心理誘導はメイさんの得意とするところでしたね。》
 《ロジャーさんの我が家に対する貢献から見れば、当然の報酬としての同行できるセックス奴隷の制作ですよ。割りの合わない仕事をいつもお願いしている身としてはね。》

 もう一人の検査官の女性がロジャーと一緒に戻ってきた。

 《ダメよ。ヘルメットはこちらを向いたままにして。》
 《了解。その子の声もかなり良く聞こえていたわ。凄くいいわね。私もこういうのがいいな。》
 《いつでも宜しいですよ。どちらでも素晴らしい改造をお約束しますから。》

 メイが笑いながら話を始めた。シールド越しなので表情は良く分からないが、それでも身体の動きから肯定的な意味合いを感じた。

 《どちらでもって、私はノーマルですから、男の機能を無くした子では・・・。》
 《あ、ごめんなさいね。そういう意味でしたか。ロジャーさんのようにセックス奴隷を所有する場合と、あなた自身がこのショウのようにこういうケースに収められる場合のどちらでもって事なのですよ。》
 《ワッ、冗談!! そんなのは絶対無理!!》
 《いいえ。元が女性であれば、遙かに大きな乳房にしやすいですし、目一杯淫乱なセックス奴隷にしやすいですからね。いつでもお声掛け下さい。》

 女性達の笑い声は聞こえなかったが、検査が無事済んだという事は雰囲気で理解できた。そして検査官達が船外に離れ、ショウはやっと落ち着きを取り戻せた。


 《それじゃメイさん、俺はコンテナを移動して荷下ろしします。そいつを放っておく訳にもいかないので、悪いけど運んで貰えますか?》
 《いいわよ。エアスーツも用意しないとならないですからね。》
 《お願いします。量は少ないので、早めに終わりますから。》
 《了解。ママの所で待ってますから。そうそう、リモコンを貸して。》
 《そうっすね。本人は気付いてなくても、外から丸見えってのはメイさんには不向きだ。》

 ロジャーは笑いながらケースのリモコンを手渡して船を出ていった。


 メイがケースのレバーを持ち上げ、ショウは少し傾いた状態での移動が始まる。思った程の振動もなく、地球の六分の一という重力を感じながら真っ暗な月面へ降り立つ。舗装された道路には微細粉の塵が積もっていて、ケースのキャスターの跡がクッキリと残ったままだった。

 (今は月の夜なのか。それにしては少し明るいけど・・・。アッ、地球が・・・。)

 中天に地球で見る月よりも遙かに大きな地球がその青い輝きを発していた。

 (無重力を体験したいって思っていたのに、こんな光景を見られるなんて・・・。)

 全く瞬かない、全天が天の川のような星空の中の青い地球は神秘的な美しさだった。

 移動の間、ショウは陶然と空を見上げていた。メイがリモコンのスイッチを入れ、乳房を覆っているカップと股間に填め込まれたディルドーが微動を始めていたのだが、ショウは全く気付かない程、空を見詰めていた。

 低い建物の前でガクンと震動があり、基地に着いた事を知ったが、それでも瞳がウルウルしたままだった。涙を拭おうとしても手が動かせない事がもどかしい。丸天井の低い天井のドーム型の建物で、中に入るとケースの膨らみが少し戻る。それで空気のある場所である事が分かった。そしてメイの声が聞こえてくる。

 「声は聞こえるわね? でも少し待ってね。ここはエアルームには違いないけれど、ほとんどが窒素ガスですから、私もシールドを外せないのよ。」

 エレベーターですぐに下の階の小部屋に入る。

 「ちょっと気圧変化に慣れるのに時間を要するわ。そうそう、あなたも数日は月基地に居住する訳ですから、エアモニターの見方は知っておかないとね。上の部屋に入った時、赤いランプが回転点滅していたのに気付いたかしら? それは真空状態を意味するので、宇宙服とか耐真空ウエア着用でないと危険という意味。そのランプが消えてからオレンジに変わったわよね。その色の場合、気圧は正常でも呼吸はできないという意味で、酸素マスクを使うかエアスーツ着用が必要という事。通路スペースの空気はほとんどが窒素。酸素を外部に放出してしまうのは勿体ないですからね。そして月基地では0.5気圧から高くても0.7気圧ですから、地球から来たばかりの人の場合、いわゆる高山病と同じような症状を起こす事があるので要注意よ。そしてこの隣の部屋ではグリーンのランプが点いているの。そこは酸素も正常という意味ですよ。」

 ショウは部屋の内部を見渡し、何カ所かのオレンジランプの点滅を確認していた。

 (そうか・・・、もうここは宇宙なんだ・・・。こんな事になっちゃったけど、それでも絶対に不可能だった筈の月に来たんだ・・・。)

 精神的な興奮は勿論初めての月世界への到着からだったが、幾分かは気付いていない肉体的な刺激からももたらされていた。

 シューッという音でドアが開いた。その小部屋もエレベーターのような部屋だったが、オレンジのランプはすぐにグリーンに変わる。

 「フーッ。どうって事はないけれど、やっぱりシールドを外せるのは楽だわ。周囲が呼吸可能な空気で覆われるという事が素晴らしいという事を実感できるのよね。いい? これからエントランスに入るけれど、声は出さないでね。そちらのマイクはオフにしますが、それでも音は漏れてしまうわ。認証を受けたケースですけれど、私の場合だととても奇異に見られるし、いちいち説明したり、場合によってはケースを開かないとならないかもしれないのですから。」
 「アッ、分かりました。静かにしてます。」


 その小部屋のドアを開けると、そこはやたらと広いスペースだった。スペースと言うより、いきなりエアポートのエントランスだった。今出てきた小部屋がズラッとと並んでいて、そこが外部との間の通路、つまりエアキャビンの集合体である事が分かった。あちこちのドアから大勢の人が出入りしている。外から見えないとはいえ、大勢の人の中を恥ずかしい格好で閉じこめられている姿ではショウの鼓動は更に激しくなっていった。入管の受付カウンターでIDカードをかざし、無人のゲートを通るだけなのだが、感知器の側を通った時、ケースがピッと音を立てて認証された。しかし、その音もショウにはビクッとさせるのに充分だった。



 「フーッ、何だか凄く恥ずかしかったわ。」

 ホテルブロックの一室に着き、ショウの入れられているケースをベッドの反対側に置かれた。

 「部屋に入ればエアスーツは脱いでもいいのよ。ちょっと着替えますから、向こうを向いてて貰うわね。」
 「メイさん。ボクもここから出して下さい。それと何か着る物を・・・。」
 「ああ、出して上げられるのはロジャーさんだけよ。ロジャーさんの認証ですから、私には無理。それにリモコンだってロジャーさんが持ってますから。服の方は少し待っててね。ママが用意してくれている筈だけれど、荷物の確認をしてからでないと来られないと思うわ。」
 「そうですか・・・。」


 メイの脱いだエアスーツがフワーッと飛んでいった。それほど軽い素材ではない筈なのだが、それでもここが月だという事を認識させる。それだけでもショウはウルッとしてしまうのだった。


 ポーンという音とともに壁の一部がスクリーンになり、女社長が映し出された。

 《お疲れ様。こちらの荷物の運び込みは大体終わりました。》
 「それでは、この厄介な子の何か衣服を用意して下さい。私も早くそちらの研究室でのんびりしたいわ。」
 《その子のデータだと、ピッタリというのは少ないのよ。完全に女性体型ならとにかく、まだ途中でしょう。でも、月に居る間の短い時間を誤魔化せる程度の物を用意していきますよ。》
 「ロジャーさんはまだ掛かるの?」
 《積荷の計算に手間取ってるのよ。本来なら小型のコンテナで済む計算だったけれど、余計なお荷物を運ぶ事になったので、中型を急遽手配したでしょう。ロジャーさんはショコたんを詰めなくなってしまい、カリカリしながら計算中。ちょっと遅れそうですから、私がリモコンを預かってから向かいますね。》


 「本来なら当社専用のコンテナ、小型だけれど半分以上を居住スペースと食料庫のやつで済む筈だったのよ。それがあなたを乗せる事になり、かなりの積荷を乗せる必要が出てきたのよ。」
 「かなり・・・って・・・。ボクは狭いスペースでいいですし、食料も・・・、できるだけ少量で・・・。」
 「そうじゃないの。あなたを火星迄乗せていくのはロジャーさんとの結婚という事を示さなくてはならないのよ。向こうに着く迄に、外見上はロジャーさん好みの身体にしなくてはならないし、急いで人工膣も完成させないとならないのよ。その為にはかなりの手術器具や薬品類を積んでいないとならないの。それにショコたんにはある機能があなたに無いから、特別にロジャーさんのプレイルームが必要なのよ。」
 「ボクに無い機能? プレイルーム?」
 「ショコたんはアンドロイド。どんな変態セックスにも耐えられるわ。そして汗や体液が出ませんから、乾燥の必要がないのよ。表面も簡単なクリーニングでいいですからね。火星迄の飛行中は、原則として地球時間での生活なのですが、実際には昼夜の区別がないから、個人個人でどうしても生活リズムが違ってくるのよ。勿論ロジャーさんとあなたの間の時間もね。そして性欲が人一倍強いロジャーさんが催したら、あなたの時間に関係なく性処理をさせられるのよ。だからあなたがロジャーさんの求めに応じてどんな事でもできるキャビンが必要なの。そしてロジャーさんが使っていない時はママがあなたの改造を進める訳。とにかく火星での入管は厳しいから、絶対にロジャーさんの奥さんとして認めて貰える体型と変態性欲者と思って貰える程のテクが必要なのよ。それでなければ無期懲役、あるいはそれ以上を覚悟しなくてはならないのですからね。」

 メイの言葉は決してきつい言葉ではなかった。むしろ少女っぽさの伴う発音であったが、内容に関しては一つ一つが鋭い刃のようにショウを貫き、切り刻む言葉だった。 



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