「着陸準備。」
ショウの上で惚けていたロジャーとはうって変わり、テキパキと指示を出していた。
「キクノさん。固定完了か?」
「完了してます。」
「ショウ、お前はキクノさんの指示に従い、搬送助手!」
「はい。」
「それでは1分後から回転を止める。無重力状態になったら合図をする。すぐにセンターキャビン気密ドアまで荷を搬送。」
「了解です。」
キクノとショウは固定バーに捉まっている。
《回転停止逆噴射!》
サブエンジンが甲高い音を上げ始めた。そしてキャビンがミシミシと音を立てる。小窓から見えている恒星の流れが少しずつ遅くなってくる。そして段々と重力が減ってくる。相変わらずショウの磁力靴はショコたん用だとされる真っ赤なピンヒールだった。爆乳剥き出しで素っ裸のショウにはむしろヒールの方が淫猥だった。
《回転停止した。》
「了解。荷を移動します。」
キクノが梱包した荷をキャビン天井からセンターキャビンの方へ引っ張っていく。ショウはそれを下から押していく。完成質量はかなりあるらしく、力を込めても少しずつしか移動しない。ショウの不安定な体勢ではそれ程力は込められないのだが。
《センターキャビンに来た。二人は操縦室へ戻れ。そこで着陸準備。俺はこの荷を引き入れて固定する。二人とも操縦室に行ったら気密ドアをロックし、連絡しろ。それから俺はこのドアを開く。分かったな。》
「はい、分かりました。ショウ、急いで操縦室へ。」
二人は泳ぐようにして通路を操縦室に向かうのだった。
《完了。戻る。着陸準備。》
ロジャーが戻ってきた時、キクノは気密服を着込んでいた。そしてショウはダッチワイフ輸送ケースをセットしていた。
「すっかりそのケースはショウの宇宙服になってしまったな。」
「だって、ボクの気密服はないし・・・。」
「そうね。ショウの体形では既製品では絶対に無いわ。だけど・・・。」
「エッ? キクノさん?」
「アハハ・・・、キクノさんの所では特注品であるぜ。但し・・・。」
「キクノさんの所って言ったら・・・。恥ずかしい物なんでしょう?」
「それは当然よ。二穴バイブ付きで、胸と股間は透明よ。」
「ウワッ・・・。」
「本当はもっと素晴らしい気密服もあるのですけれどね。」
「ほう。」
「下腹部連結タイプよ。」
「ああ、あれっすか。」
「連結って・・・。」
「そうよ。セックスさせたままの気密服。それを着せて真空中に放り出したら、脱げないからずっと挿入させたままにしておく物よ。見ていて楽しい物よ。」
ショウはケースに入りかけたまま、口をポカーンと開けたままだった。
「さあ、もうすぐだ。ショウ、入れ。」
仕事となるとロジャーは機敏に動作する。そんな姿にショウはジーンと感じてしまうのだった。
「反転180度。逆噴射体勢。」
再びサブエンジンが轟く。そしてモニターの星々が大きく動き始めた。
「メインエンジンスタート! 逆噴射!」
大きな震動と轟音が響いた。そして久しぶりに大きなGが掛かった。
「ウワッ・・・! オッパイが重い! そんなに強いGじゃないのに・・・。」
エンジン音が少しずつ弱くなる。それとともにGも減り始めた。
ガクンと衝撃があり、甲高いエンジン音が小さくなる。
《K−18ポート、キクノロジャー運輸機固定します。》
「了解。」
《乗員はKサブエントランスにて入星手続きをして下さい。貨物検査官準備よし。》
「了解。」
「それでは私達はサブエントランスの控え室でお待ちします。」
「ああ、お願いします。俺の方は荷は少ないからすぐ向かえると思います。」
「その間に着替えをしておきます。ショウ用の服も届いているはずですから。」
「そうか・・・。月での服では胸が入らなかったな。お願いします。」
(とうとう火星迄・・・。まさか来られるなんて・・・。だけどこんな格好になってしまって・・・。今は昼なのか・・・。地面は本当に赤いんだ・・・。空も夕焼けみたいな色で・・・。地球よりはずっと暗い。太陽もずいぶんと弱い光だ。)
すぐにサブエントランスに到着し、控えの部屋に向かう。
「お待たせ。」
「どうでしたか?」
「いつも通りすんなりっすよ。キクノさんの信用力のせいですがね。」
「ショウの支度をさせて上げて下さい。早く入管を済ませ、ゆっくりしたいですから。」
「そうっすね。俺も・・・。」
ロジャーは照れ臭そうに笑いながら、ショウの入ったケースを開いた。
「フーッ、胸が圧迫されていてつらかったよ。」
「はい、ショウ。これよ。」
月で来た時のようなゴスロリメイド服を渡された。
「ワッ、また・・・これですか・・・。」
「当然だろう。ここでは特に俺の巨乳好きはパイロット仲間に知られてる。いつもショコたんを一緒に連れていたしな。知り合いに出会った時、その服でないと怪しまれる。」
「だけど・・・、この服もほとんどオッパイが丸見えですよ。それにお尻も危ないくらい短いスカートだし・・・。」
「ショコの服もそうだったからな。しかし・・・やばいなあ・・・。」
「でしょう? こんなきわどい服は・・・。」
「そういう意味じゃない。なまじ危ない服だと、俺が催しちゃうんだ。いつも素っ裸のお前を見ているのに、その服を着てると・・・。」
「はいはい。のろけはその程度で。入管に行きますよ。問題はないはずです。それでも受け答えに間違いの無いように。」
「分かってます。ボクはここでロジャーさんと結婚する為に性転換手術中です。」
「よろしい。それでは・・・。」
三人は入管審査室へと向かう。
「なる程・・・。書類とデータだけでは偽装入星の疑義ありとの事でしたが、問題はないですね。そしてここで最後の処置を受けるという事ですか。ああ、法律上の手続きの為の来星ですね。確かに地球では無理ですからね。お幸せに。」
さすがに火星ではなかなか本物の女性が公的な仕事に就くのは難しく、いくつか並んでいる審査室の管理官はほとんどが男性だった。物腰は柔らかいのだが、大きく開いているショウの胸元を鼻の下を伸ばして常に見詰めていた。
室外で待っていたロジャーにVサインを示しながら走り寄るのだった。
「さあ、次の手続きよ。」
「次・・・?」
「何を言ってるの。一番大切な手続きよ。あなた達の結婚届。」
「アッ・・・。」
『結婚』と言う言葉にショウはボーッとした。あくまでも偽装という事のはずなのだが、涙が溢れ出てしまう程嬉しい言葉だった。
(結婚・・・。嬉しい・・・。あれ? 本気で嬉しい・・・。そうだ、ボクはロジャーさんと本当に結婚するつもりになってなくてはならなかったんだ。そう・・・。ボクはロジャーさんと結婚するのが嬉しくていいんだ。)
「はい、こちらに自筆でサインを。そして指紋認証します。」
ロジャーが夫欄に名前を書き、ショウに手渡す。ショウは涙を溢れさせながら、妻の欄にサインをするのだった。
(妻となる者の名前・・・・。SHO・・・KOTANI・・・。これで・・・ボクはロジャーさんの・・・奥さん・・・。正式にボクはロジャーさんの奥さん・・・。)
書き終えた時、ショウは周りが見えない程涙が溢れていた。そしてロジャーにしっかり抱きつくのだった。
「オーイ、ターナー!!」
ロジャーはその呼び声に振り向いた。
「オッ・・・、ヨンチャイ!」
東洋人らしい風貌の男がロジャーに近付いてきて握手をした。
「この基地で会うのは久しぶり・・・。オッ、新しい『人形』か?」
「あ・・・、いや・・・。」
「前のは飽きたのか? 今度のも高そうだな。」
「その・・・。『人形』じゃないんだ・・・。」
ロジャーは頭を掻いていた。
「じゃあ、何だよ。エッ・・・?」
「そうだ・・・。俺の嫁さん。今、正式になったばかりだが・・・。」
「待てよ・・・、ここには滅多な女は来られない・・・。それに・・・。」
ヨンチャイはショウをジロジロと上から下まで何度も見回していた。
「やっぱり女なんだろう? 確かに『人形』にしては皮膚が違う。それにしても整形か? 高級なセクサロイドの顔だが・・・。」
「いや・・・、ショウは元は確かに男だったんだが・・・。」
話しに窮しているロジャーだったがショウはピョコンとお辞儀をした。
「初めまして。ロジャーさんの妻になったショウ・コタニです。」
「あ、いや、こちらこそ・・・。しかし・・・男だったのか?」
「そうですよ。火星には女性はよほどの事がないとビザが下りないらしいですよね。まだ危険だから。」
「まあ・・・そうだが・・・。」
「普通の女では結婚しても船に同乗できないからな。俺達みたいな小規模の運送店だと長期間女房を地球に置いたままにしなきゃならん。だから・・・。」
「ほう・・・。それにしても良くターナーの趣味の合わせる整形をしたもんだな。」
「それは・・・、ボクがロジャーさんが大好きだったから。」
いかにも嬉しそうに答えるショウだった。
「よっしゃ、ターナー。今、火星に来ている仲間を集める。今夜は披露パーティーだ!!」
「いや、そんな・・・、いいよ。」
「待てよ・・・。お前達結婚式はしたのか? 今、届けを出したばかりだったよな?」
「よし、任しとけ!! パーティーの前に結婚式だ。全部俺が用意する。いいか、準備しとけよ。」
そう言い終えるとヨンチャイは街の方へ向かって走っていった。
「キクノさん・・・、どうしたもんか・・・。」
キクノは笑っていた。
「せっかくお仲間達がお祝いして下さるのだから、素直に受けたらいいのでは?」
「しかし・・・。」
「ショウだってウエディングドレスを着たいでしょう?」
「ウエディングドレス・・・・。」
再びショウはウルウルとしてしまっていた。
「ボクが・・・ウエディングドレスを着られる・・・。」
「しかしキクノさん。ショウの着られるドレスなんて・・・。」
「あら、私がそんな手抜かりをしていると思うの? あなたのタキシードだってちゃんと用意してあるのよ。」
「ヘーッ、さすが・・・。」
「と言うより、二人が本当に結婚しようとしていたら当然用意しているはずよ。火星での結婚式なんて滅多にないのですから、式を挙げたと言うだけで出星の審査はより確実になりますからね。」
「ああ、なる程・・・。」
ショウはその間もウエディングドレスを着た姿を想像して涙を流し続けていた。
《おい、ターナー。》
「やあ、ヨンチャイ。」
テーブルの上にヨンチャイの立体画像が現れた。
《みんなに連絡した。誰もが驚いてたぞ。それでパーティーはお前さん達の居るオリエンタルホテルで21時からだが、式は20時からだ。》
「あ・・・、ああ、すまんな。」
《ここで結婚式なんてしばらく行われていないし、地球と違って式だけの神父なんてのは居ない。教会に頼み込んでやっと了承して貰った。何せ同性婚は本来認められていないからな。それにここの神父だって結婚式なんてやった事がない。俺の知り合いに頼んでやっと説得して貰ったよ。》
「そうか・・・。」
《パーティーは25時にはお開きにする。まあ、ターナーの事だから今更初夜でもないだろうが、結婚式って特別に日だからな。いいか、遅れるなよ。そうだ、言い忘れてた。これも俺達からのお祝いだが、3日間は最上階のスイートを取ってある。じゃあな。》
ヨンチャイは一気にまくし立てて、すぐに消えてしまった。
「さあ、ロジャー、ショウ。時間がないわよ。ロジャーは急いで理髪店に。ショウは私と一緒に。」
「いいっすよ。俺は床屋なんて・・・。」
「ダメよ。タキシードにそのボサボサ頭では。」
ショウはジューンに手を引かれ、表通りに出て行った。
女性二人というのはこの地区では珍しいせいもあり、通り過ぎる男達の好奇の目を引く。やはり男達の視線はジューンの抜群のスタイルよりもショウの胸へだった。
「恥ずかしいですよ・・・。」
「急いで。そこの美容室よ。」
ちょっと路地に入った場所に小さな美容室があった。
「今日は。」
「あら、キクノさん、お久しぶり。あらっ? その娘は? お人形さん?」
「急で悪いのだけれど、急いでこの娘のメイクをお願いしたいの。」
「メイク? まるで人間みたいな・・・? エッ? セクサロイドじゃないの?」
「そうよ。これからロジャー・ターナーと結婚する娘なのよ。」
「エエッ? ロジャーと?!」
ショウはチョコンとお辞儀をした。
「髪はナノカーボンですから櫛を入れるだけでいいと思うけれど、メイクの方を新婦らしい雰囲気にね。」
「分かったわ。キクノさんの頼みとあれば特急で仕上げるわよ。さあ、そこに座って。」
ショウは鏡に向かって椅子に座った。美容師はショウが見た事もない化粧品や道具を並べている。
「ねえ、キクノさん。この娘さん、元は男なの? そうよね。女性ではそう簡単には・・・。それにこんな若い娘では・・・。」
「当然でしょう? ロジャーの趣味に合わせた整形ですけれど、いい具合でしょう?」
「そうよね。ターナーさん好みの可愛い娘よ。それにしても・・・女性でもこれだけの体形にするのは難しいわよね。どれだけ詰め込んだのか・・・。」
「あら、私の整形よ。詰め物なんかしていないわ。本物よ。」
「ヘーッ、凄いわね。あ、動かないで。」
「フーッ、こういう堅苦しいのは苦手だよ。」
ロジャーは控え室でパイロット仲間に囲まれていた。
「ターナー! おう、男前になったな。」
「ヨンチャイ! 色々とありがとうな。」
「こちらがこの地区の教会の神父さんだ。お前と奥さんの名前はこれでいいんだよな?」
「ああ、それでいい。神父さん、宜しくお願いします。」
背の高い初老の神父だった。
「ハイ。地球ニ居タ時ニ結婚式シマシタガ、火星デハ初メテデス。コチラコソ、ヨロシクデス。」
神父と入れ違いでキクノも入ってきた。
「おう、キクノさん。花嫁の準備は?」
「はい、OKですよ。」
「よっしゃ、それじゃ、みんな式場へ。俺とキクノさんが付き添いだ。」
歓声とともに仲間達はゾロゾロと式場へ向かっていった。
「ターナー。神父さんが立った。お前が先に入り、花嫁は俺達がエスコートする。」
「ああ・・・、分かった。」
緊張気味のロジャーが式場に入ると、急遽作られた祭壇に神父が待っている。ヒューヒューという口笛があちこちで鳴り響いていた。
そしてウエディングマーチが流れ、場内が薄暗くなる。ドアが開いて花嫁のシルエットが浮かび上がった。場内が一瞬シーンとなる。ゆっくりと花嫁が歩き出すとその花嫁だけが浮かび上がるように明るくなった。ブーケを持ち、真っ白なドレスのショウが静かに進んでくる。ザワザワとした音が段々と大きく広がってくる。それは驚嘆の歓声となった。真っ直ぐに前を向き、微笑みを浮かべ、大きな胸を突き出すようにして歩くショウだった。
(あれが・・・、ショウなのか?)
ロジャーにも信じられない程、可愛らしくてセクシーな姿だった。ショウが通り過ぎる参列者からはため息が漏れる。
ヨンチャイが父親代わりとしてエスコート役を担っていた。祭壇の前に立っているロジャーにショウの手を握らせ、ロジャーに笑いながら小声で囁いた。
「チキショーめ。うまい事やりやがって。」
しかしそんな皮肉もロジャーには聞こえなかった。ジッとショウを見詰めているのだった。神父の声でハッとして前を向く。神父自身も緊張しているのだった。
「ソレデハ・・・コレヨリ、結婚式ヲ執リ行イ・・・マス。」
神父は咳払いをして言葉を続ける。
「汝、ロジャー・ターナーハ、病メル時モ健ヤカナル時モ共ニ歩ミ、死ガ二人ヲ分カツマデ愛ヲ誓イ、妻ヲ想イ、妻ノミニ添ウコトヲ神聖ナル婚姻ノ契約ノモトニ誓イマスカ?」
ロジャーは緊張したまま震えた声で答えた。
「イ・・・イェス。」
「汝、ショ・・・。ショ・・・コタン・・・。」
ロジャーはドキッとした。
「ソリー・・・。汝、ショ・コタニハ、病メル時モ健ヤカナル時モ共ニ歩ミ、死ガ二人ヲ分カツマデ愛ヲ誓イ、夫ヲ想イ、夫ノミニ添ウコトヲ神聖ナル婚姻ノ契約ノモトニ誓イマスカ?」
ショウは大きな声で答えた。
「イエス!」
拍手が鳴り響き、いつ迄も続いていた。場内にはもう神父の声が聞こえなかった。
二人が誓いのキスを交わすと、更に大きな拍手と歓声が響き渡るのだった。
そのままパーティーへとなだれ込むのだが、ロジャーは大勢の仲間に取り囲まれていた。質問攻めに合うのだが、それはロジャーへの祝福と同時に羨みに満ちていた。
「すまん、ショウはまだ16なんで、酒はダメなんだ。」
「16だあ? ターナー、この犯罪者め!!」
「ロリコン野郎!!」
口々に罵倒するのだが、それはパイロット仲間同士の励ましの意が充分に感じ取られていた。そしてパーティーは飲み会に変貌していた。
「ロジャー、ショウ。」
ジューンが二人の耳元で囁いた。
「もういいでしょう。まず最初に私がショウを連れて行きます。その後でヨンチャイさんがロジャーさんを引っ張り出しますから、酔った振りで出てきて下さい。」
二人は頷いてその指示に従うのだった。
「お疲れ様。」
「キクノさん、ヨンチャイ。ありがとう。」
「いいって事よ。まさかターナーが結婚するとは思わなかったしな。しかもお前の人形よりも遙かに可愛い嫁さんで・・・。」
ショウは自分が『可愛い』と言われた事が素直に嬉しかった。
「しかも生物学的な男性なら家族ビザで火星にも来られるから、いつも愛妻と一緒って事だよな。全くこの幸せ者め。」
(ああ、そうだった・・・。俺がこのまま結婚していられれば・・・。)
ますますロジャーの心の中でのショウの重要さは高まっていった。
「なあ、ショウ・・・。」
「はい、ロジャーさん?」
ウエディングドレスを脱ごうとしていたショウにロジャーは言いにくそうに言い出した。
「そのう・・・、さっきの式はみんなが撮影していたはずだが・・・、それで・・・その可愛い顔とドレスで・・・。イヤなら仕方ないが・・・、思い出としていつものを記録しておきたいんだが・・・。勿論厳重にパスを掛けるから・・・、誰にも見せない。ショウが俺の奥さんだったって思い出として残しておきたいんだが・・・。」
「キャッ。そうだよね・・・。ボクも男に戻るんだから、思い出として残しておいてもいいね。滅多に・・・普通にはない経験だし・・・。」
そう言いながらショウはロジャーのズボンのジッパーを開き、既にいきり立っていたペニスを引っ張り出した。
「それじゃ、ロジャーさんの美味しい物を頂きまーす。」
(ウワッ・・・、ショウが凄く可愛い・・・。その可愛い口で俺の・・・。いつもやっていたはずなのに・・・ウオッ・・・。)
「ロジャーさん・・・。ずいぶんと溜まっていたのね。早いし、量も凄く多い。」
「あ・・・、ああ、そうだな・・・。じゃ、次は後ろからな。」
「はーい。」
ショウはドレスの裾を持ち上げ、テーブルに手を付いて尻を向ける。
「結婚式終わって、いきなりフェラとかアナルだなんて、滅多にどころか絶対に無いよね。」
ショウは無理矢理明るく振る舞っていたのだが、ロジャーにはそれが分かっていなかった。本当に思い出として記録しておきたいと思っていた。
「アフッ・・・。」
(とってもいいよ・・・、ロジャーさん・・・。ボクは偽物のお嫁さん・・・。形だけの女・・・。ボクにとっても思い出として・・・。アアッ・・・、いつもより太くて固い・・・。もっと・・・。)
折角のスイートルームだったが、その広さにはあまり意味がなかった。ただ、大きなベッドだけを必要としていた。レストランにも行かず、ルームサービスだけで過ごしていた。勿論ただ睦み合っているだけだった。
(もうこんな時間か・・・。ショウとのセックスもあとどれくらいできるだろう・・・。船に乗ったらすぐに回復処置が始まるはず・・・。その前に出星手続きを完全にする為の人工卵巣移植とかをするんだったな・・・。だからそんなに時間はない・・・。)
(ボク・・・、このままロジャーさんと一緒に居たい・・・。だけどロジャーさんには凄いセクサロイドがいるから、成ったばかりの女としてのボクではとてもロジャーさんを満足させるセックスはできない・・・。このまま女でいたとしても、ロジャーさん以外の男の人ではイヤ・・・。)
そんな二人は切羽詰まったように激しくセックスを続けるのだった。
《お早う、ロジャーさん。》
寝ぼけ眼で起き上がったロジャーは肉体的には勿論、精神的にも疲労が溜まっていた。
「あ・・・、お早うっす・・・。」
《そろそろ支度をして。ロジャーは地球への荷の確認よ。積み込みは終わってますが、細かい点検をしないとね。それとショウは最後の処置。人工卵巣移植よ。出発する迄の短期間の移植ですけれど、それでも移植したという事実だけは残さないとならないですからね。》
「はい・・・。」
二人とも宴の後というような憂鬱な目覚めとなった。
「それじゃ、俺は仕事に行く・・・。」
「・・・はい・・・。ボクも・・・。」
先に支度を終えたロジャーが出て行き、その後ショウはゴスロリ服を着込むのだが、なぜか涙が流れ続けていた。
「ショウ、支度はできた?」
ジューンが入ってきた。
「さあ、最後の処置よ。私の研究所はすぐ近くですから。」
卵巣移植そのものに対してはショウには抵抗感がなかった。むしろ、より完全に女性に近付くという事が嬉しかった。しかしそれも数日間だけという事に心が重かったのだ。
施術そのものはショウも呆気にとられる程簡単だった。ただ、しばらく安静にしていて、その間にも膣に管を入れられてホルモン剤とか安定剤の注入をされている。
「キクノさん・・・。この卵巣を移植したままだとどうなるのですか?」
「あら、大丈夫よ。除去は移植より簡単だから。」
「あ、そういう意味でなくて、このままずっとボクの身体にあったらと言う事ですが・・・。」
「あら、除去したくないの?」
「そういう意味でも・・・。」
「まだその卵巣は成長していないから、卵子は勿論女性ホルモンも出ないわよ。この前も言ったけれど、成長して卵子ができる迄には数年・・・、場合によっては10年以上掛かるわ。本来この卵巣は癌などで除去した女性に移植する為の医療技術なのですから。今回みたいに女性化手術で使われる事もあるけれど、それでも男性の場合は当然ながら女性の時よりもずっと時間が掛かるのよ。」
「あのう・・・、もし・・・、もしですけど・・・、このままロジャーさんと結婚状態を続けたとしたら・・・。」
「ああ、そういう事ね。それはまず無理ね。ロジャーさんだって女性化した男性であっても結婚したいと思うかもしれないけれど、家族を望んでいるのよ。家族・・・、つまり子供が欲しいという事。特にロジャーはその意識が強いから、子供の産める女性でないと幸せにはなれないわ。養子という方法もあるかもしれないけれど、ロジャーは実子が欲しいのよ。と言って代理母は望んでいない。まあ、私の方でもロジャーさんにはずっと我社の仕事を続けて欲しいから、それなりの女性を捜しているけれど、かなり難しいわね。」
ショウは唇を噛みしめていた。子供が絶対条件という高い壁にぶち当たったからだった。
「さすがっすね。出管での審査のスムーズだった事。」
「当然よ。私の今迄の女性化施術は完璧なのよ。特に火星でのTS者のかなりの部分は地球での私の処置なのですから。その私が行った施術データは完璧なのですから。」
「そうっすよね・・・。元々可愛かったとはいえ、ショウがこれ程の女に成ったんすからね。」
「さて、出発準備。ショウ、結局キクノさんの所の気密服はダメだったか・・・。」
「だって・・・。あんな局部だけ透明の服なんて・・・。それにボクの耐Gシートが無い以上、セクサロイドケースに入らなくてはならないのだから・・・。」
「俺にはお気に入りなんだけどな。」
「エエーッ、ロジャーさんは自分の奥さんにあんな物を着せたいの?」
「ん・・・、着せたいが、確かに他人に見せたくはないな。」
「間もなくテイクオフします。ショウ、ケースの具合はどうだ?」
「OKです。」
「キクノさんもいいな?」
「完了です。」
「間もなく離陸許可が出る。戻りは星位置がいいから少し混んでるな。」
「この位置関係だとどの位の時間?」
「最初の加速時間次第っすが、二人ともGには慣れたはずなので、5Gで1時間。その後混み具合によるけど3Gで2時間。そして1Gで3時間予定してます。それで3ヶ月で地球です。」
ショウとしてはロジャーとの生活が短くなってしまうのが残念だった。それはロジャーも同じなのだが、既にショウとの事は諦めようとしている上に、パイロットとしての自負心から最良の帰還コースを取るのだった。
《データ転送完了。1ミニッツ、トゥーテイクオフ。》
「ラジャー。サブエンジンスタート!」
エンジンの振動と甲高い音が響く。そしてメインエンジンの点火とともに轟音と5Gの加速度が襲ってきた。
「エンジンスローダウン。キクノさん、1Gです。動けますか?」
「ええ。さすがに長期間低重力下に居たので地球に居る時と同じGでも身体が重く感じますね。」
「ショウ、どうだ?」
「えっと・・・これでも1Gなんですか? 胸が凄く重いですけど・・・。」
「そうね。地球に戻ったらどの程度の重さなのか感じておいた方がいいわね。」
ジューンは椅子から降り、ケースからショウを出した。ふらつきながら出てきたショウは、
「ウワッ・・・。胸が重い・・・。」
ズッシリとした重量だった。両手で支え上げたまま歩き回った。
「ショウ、私達の整形では持ち上げる必要はないわよ。垂れ下がらないような乳房なのですから。もっとも、その重さなのでどうしても身体が前屈してしまうし、重心を取る為には少し反り返らないとならないでしょう。肩こりを起こしますから、地球に戻ったらそのバストをしっかり支えられるブラを用意して上げるわ。」
「地球でもこんなオッパイで居ないとならないんですか・・・。」
「急速成長させたのだけど、戻すのはかなり時間が掛かるのよ。いくら日本への入管手続きであっても、それなりの大きさでないと不審がられますからね。火星でのデータはそのまま送られているのですから。」
「それでは・・・、この顔のスキンを剥がすのも地球に戻ってからですか?」
「顔の・・・スキン? スキンは全部剥がれているわよ。」
「エッ・・・? じゃあ・・・、この顔の整形を戻すのは・・・。」
「それは整形だけれど、皮下に人工蛋白が含浸しているから大変よ。一旦顔面の皮膚を剥がして人工皮膚を取り付けるところから始めないと・・・。」
「エエッ・・・?!! そしたら・・・。」
「そのロールしている可愛い髪も、カーボンナノ繊維だから切る事もできないし・・・。」
「ボ・・・ボクの顔は・・・このまま?」
「そうよ。だってあなたが月に到着する可能性がほとんど無かったでしょう。とにかく入管を通過させる為には後先を考える事なんでできなかったのよ。どんな方法でも執らねばならなかったのですから。」
「アッ・・・そしたら・・・。まさか・・・この開いたままのお尻は・・・?」
「それも同じよ。あなたの肛門を開きっぱなしにする事よりも、私達の仕事の方が重要でしたからね。ショウにしてもそんな事よりも命の方が大切だったはずよ。」
「そんな事って・・・。ボクは・・・一生この顔で・・・、開いたままの・・・。」
自業自得である事は分かっているのだが、改めて自分の不幸に涙するのだった。
「ボクは地球に着いたら・・・、どうやって生きていけば・・・。」
ジューンは目配せでロジャーに合図を送った。ショウの悲しみを取り去るには女性としてのセックスをさせてしまえば夢中になってしまい、悲しみを忘れさせる事ができるからだ。
「ロジャーさん・・・ボクは一体どうすれば・・・。」
「どうするとは?」
「ボクはすぐには元の身体に戻らないのは分かっているけれど、顔はこのままで・・・、お尻も広がったまま・・・。排泄だって普通にはできない身体で・・・。」
「尻が広がっているのは俺には具合がいいが。」
ロジャーは笑い顔だった。
「そんな・・・。船に居る内はいいよ。地球に戻ったらボクは・・・。」
そしてロジャーは急にまじめな顔になった。
「ショウ・・・。今、俺達は公式にも正式な夫婦だ。」
「うん・・・。」
「もし、ショウが男に戻るなら、その前に離婚届を出さねばならん。婚姻届もそうだが、離婚届も当事者二人のサインが必要だ。そして俺がそれを拒否したとしたらどうなる?」
「エッ?」
「離婚できないのは分かるよな。火星では同性婚も認められているが、俺達の場合は性転換して女に成ったショウと俺との結婚だ。地球での場合、日本ではまだ同性婚は認めていない。つまり法律上女であり妻であるショウは男に戻れない。戻ったら男同士の同性婚を認める事になるからな。」
「・・・そしたら・・・ボクは男に戻れない・・・?」
「いや、戻れないではなく、俺が戻さない。」
「・・・どういう事?」
ショウの不安げな表情にロジャーは頭を掻いていた。
「鈍いなあ・・・。まあ仕方がないか・・・。順番が全然違うが、ショウ・・・。俺の嫁さんに成ってくれ。」
「・・・・・?!!」
「法律的には夫婦だが、これはあくまで偽装だったはずだ。しかし今の俺は本気だ。このまま正式に俺の嫁さんに成ってくれ・・・。」
「だけど・・・、ボクはキクノさんの処置で・・・。小さくなっているけど・・・、体内にオチンチンだってまだ・・・。」
半開きになったドアをジューンがノックした。
「あ、キクノさん・・・。」
「ロジャー、ダメよ。地球に戻る迄はショウに本当の事を言ってしまっては。」
「本当の事・・・? 何すか?」
「メイに聞いているでしょう? ショウの女性化について。」
「ええ、不可逆改造はダメだった事っすよね?」
ジューンはハッとして口を押さえた。
「あら・・・、聞いてなかったの? しまった・・・。」
ロジャーもショウも不安げにジューンを見詰めていた。
「仕方ないわね・・・。自分で墓穴を掘ってしまったわ。まあ、今更後戻りはできないからいいわね。オホン・・・。私達にとって、ショウが男に戻れるか戻れないかなんて全く度外視だったのよ。とにかく会社の信用が一番。問題はショウに男に戻れるという意識を持っていて貰えないと、管理局を通過する為の嘘を通せそうもなかったですからね。中途半端な施術では通らないから、ショウには黙って女性化手術をしてしまっていたのよ。」
「エエッ・・・?!」
「だから遺伝子的には男性だけれど、生理的には完全に女性よ。だからペニスを体内に押し込むとは言っておいたけれど、とっくに消滅しているわ。男に戻るには移植しかないけれど、外見だけならとにかく、機能まで取り戻すとなると・・・。」
「キクノさん・・・、じゃあ・・・ボクはもう・・・完全に女だったのですか?」
「そうよ。」
ショウは涙を流していた。
「ロジャーさん。ボクは女だったんだ。正式に結婚して居るんだよ。ボクはロジャーさんの奥さん。ずっと一緒だよ。」
ロジャーの胸に跳び込んでいった。
「いいのか? 本当に俺の嫁さんに成ってくれるのか?」
「うん。もうお嫁さんだよ・・・。」
キクノは微笑みながらウインクでロジャーに合図をしていた。
「そしたら、俺達はパイロットとその助手として登録すれば、ずっと火星航路を飛べるわけだ。いいか、ショウ。俺の性欲は凄いのは知ってるな。船の中では服も下着も着ける余裕なんか無いぞ。」
さすがにショウは苦笑いをしていたが、キクノが話しに割って入った。
「あ、ロジャー。申し訳ないけれど、それは無理よ。」
「無理? 生物学的に男性なら助手として火星ビザを取れるはずですぜ。」
「ええ、ビザは取得可能。助手でなくても家族ビザでもいいのよ。」
「だったらなぜ?」
「妊娠中の女性、そして就学前の幼児は健康や成長過程の問題として月への渡航も認められていないし、火星へはエレメンタリースクール生徒もダメなのよ。ですから当分の間、ロジャーには月迄の運輸をお願いします。月だったらロジャーさんの腕なら往復3日でいいですものね。」
「知ってますけど・・・、それが・・・エッ・・・?」
ショウはまだポカーンとしていた。
「まさか・・・、だってキクノさん・・・。ショウの人工卵巣は成育までに10年近く掛かるって・・・。ショウが妊娠してるっつう事ですか?」
「妊娠・・・エエッ? ボクが?」
「そうよ。確かに人工卵巣は成育に時間が掛かるわ。まあ、それでもホルモン療法で数年で生育させる事も可能です。」
「ですよね。だったら・・・。」
「私は『人工卵巣では卵子ができるのに数年掛かる』とは言ったわ。だけどショウの幹細胞からの卵細胞はすぐにできるのよ。火星を出る前の卵巣移植の時、その中に卵子を入れておいたのよ。だからのべつまくなしのあなた達のセックスで受精しているのよ。」
「ボクに・・・赤ちゃんが・・・?」
ショウはおなかを両手でさすっていた。
「これだって地球での入管手続きの為よ。妊娠していれば絶対に偽装結婚だってばれないし、何よりも私の会社第一なのですから。」
「ボクがママ・・・。ロジャーさんがパパ・・・。ねえ、ロジャーさん。ボク、赤ちゃん産んでもいいんだよね?」
「キクノさん・・・、いいんですか?」
ジューンは親指を立てて手を突き出していたが、ショウには涙で見えなかった。
「いいんだよね? ボクがロジャーさんの赤ちゃんを産んでいいんだよね・・・。」
自分のおなかを撫でながら、ロジャーにしっかりと抱き付きいつ迄も泣き続けていた。
そして・・・・・・2年後・・・・・
「ほら、瑠美。もうすぐパパが帰ってくるわよ。」
ショウは・・・今は翔子だが、ロジャーをパシフィックエレベーターの近くの島に居た。そこが二人の愛の家だった。窓からも見えるのだが、海岸近くまでルミを抱いて散歩に来ていたのだ。
「あら、ショコさん。」
「今日は。真田さんもお散歩?」
「今日はいいお天気ですからね。エレベーターもかなり上まで見えますから。あら、ルミちゃん。大きく成ったわねー。ママのオッパイをたくさん飲んでいるからね?」
「あら・・・、奥さん・・・。」
「ああ、決してそんな意味では・・・言ったけど。フフフ・・・。だけど重くないの? ご主人の趣味とはいえ・・・。」
「まあ・・・。主人も喜んでますから・・・。アッ、キャッ・・・。」
「ごちそうさま。だけど私達にはいい迷惑よ。」
「エッ、何かご迷惑を?」
「そうよ。ショコさん、まだ18歳でしょう? そしてそのスタイル・・・。しかも、元は男だったなんて・・・。内の旦那が羨ましがって・・・。この地区の男どもはみんなロジャーさんを羨ましがっているし、女達だって内心妬んでいるのよ。全く羨ましいご夫婦よ。」
軌道エレベーターは悪口として、ヨーロッパではバベルの塔。そして日本では蜘蛛の糸と呼ばれる。
私は古典の授業の時習った小説「蜘蛛の糸」を読んだ時、疑問に思っていた事があった。なぜカンダタは仏に身を任せなかったのだろうと。なぜ仏を信じなかったのだろうと。
私も蜘蛛の糸にしがみついたわ。だけど私の掴んだ糸は切れなかった。キクノさんとロジャーさんが救い上げてくれたの。
ウフフ・・・、でも、蜘蛛の巣に絡め取られたのかもしれないわね。
アッ、あのエアシップ、ロジャーさんが乗っているはず。
「パパーーッ!! お帰りなさーーい!!」
・・・・・・・終り・・・・・
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