・・・・第3章・・・・親友 1

 数日後、ミーナの船はまだ慣性飛行を続けている。現在位置と現在時間を知る為の恒星視差を求める迄は船内では何もする事が無い。船の修復も出来る所はアナライザーが済ませている。だから二人は相変わらずセックスの繰り返しであった。

 「概算位置出ました。」

 アナライザーが知らせる。

 「概算位置?」
 「まだ誤差がありますが、現在位置はマロエ母星からの絶対位置でカナル星方向からの相対位置、12.3光年プラスマイナス0.5光年です。」
 「それで充分よ。」

 繋がったままでオサムが尋ねた。

 「救助の可能性は?」
 「現在時間はまだ誤差が多く、判断不可能です。」
 「誤差は大きくてもいいけれど、確率80パーセントでの現在時は、この船が落ち込んでからどれ位経過している?」
 「2年から8年です。恒星視差の測定中ですが、誤差を一月以内にするのにあと一日掛かります。」
 「5年プラマイ3年か・・・。確かに誤差が多過ぎる。中心の5年とした場合、多分捜索は打ち切られているね。この近くに中継ビーコンの様な物は無いかな?」
 「遭難中に位置変更があった可能性もありますが、遭難時点ではここから約3光日付近にあると考えられます。」
 「それは遭難信号中継出来るかな?」
 「その機能はありません。」

 オサムは暫く考え込んでいた。

 「オサム、ビーコンを出し続けたまま待つしかないわよ。こちらからの通信機能はストップしているから、相手から指向性タキオンビームを送って来ない限り通信は出来ないのよ。」
 「アナライザー、マロエの科学技術の程度は良く分からないし、通信システムも分からないけれど、その中継ビーコンの送信軸に乗って、妨害を与えられないかな?」
 「このビーコンは観測用ビーコンですから、通常の妨害は受信側で除去されてしまいます。少なくとも同程度の出力を必要としますが、現在この船のエネルギーでは不可能です。」

 オサムはまた考え込んでいた。ミーナは少しじれったさそうにしている。

 「いいよ、アナライザー、その軸線に乗って。」
 「軸線にはすぐ乗れます。しかし妨害は不可能です。」
 「いいから。」
 「ミーナ様、どうしますか?」
 「どうせ無駄だけれど、オサムの気が済むのなら。」
 「了解。移動します。」

 船は少し揺れ、スクリーンの映像がスーッと動いていく。方向を僅かに変更したのだ。

 「30分で軸線に乗ります。」
 「アナライザー、コンピューターならどう考えるかな。まず七進法信号を送る。」
 「七進法ですか?」
 「その通り。」
 「ランダムであれば熱雑音等の自然雑音として処理します。二進法、五進法、八進法、十進法、十六進法、二十四進法、五十進法、百進法等の信号であれば有意信号として処理しますが、七進法は自然界には存在しません。」
 「そうよ、オサム。第一使われていないし、わざわざ七進法なんて使わないわよ。」
 「そうだよ。自然には存在しない。使われていないし、使っても不便この上ないよ。アナライザー、そういう信号を受信したらコンピューターは無視するかな? 特に自然観測用だったら。」
 「受信コンピューターの仕様は不明。有意、無意でない場合検討をすると思います。」
 「注目してはくれるね? そこで同じ周波数の振幅変調での遭難信号を出す。」

 ミーナは驚いた口調で、

 「振幅変調? そんなクラシックな送信なんて・・・。」

 アナライザーは暫く黙っていた。何か計算している様であった。

 「ミーナ様、これも非論理の論理です。概算計算しました。観測用コンピューターであれば、75パーセントの確率で受信して解読します。最優先プログラムの発動となります。直ちにオサムプロトコルによる遭難信号発信を行います。」
 「最優先て・・・、それ程重要なの?」
 「間もなく軸線に乗ります。送信データ編集中。」
 「ねえ、ミーナさん。あとは結果が出る迄待つだけでしょ。だからアナライザーに任せておいて・・・。」
 「ウフッ!」

 二人は再びセックスの続きを始めた。アナライザーだけが仕事を続けている。もっとも、二人の仕事はずっとセックスであったのだから、全員が仕事中という事になるのかも知れない。オサムはアナライザーがロボットで良かったと思っていた。もし人間だったらとっくに仕事を放棄していただろう。


 アナライザーが送信を始めて数時間後、ミーナ達は繋がったままの愛撫を続けていたが、突然ピューという信号音が響いた。

 「タキオンビームです。」

 アナライザーの声が大きく響いた。そしてミーナのオーラが明るく輝いた。

 「検索信号です。タキオン通信が可能かどうかを調べる信号です。当船のタキオン通信回路開きます。」

 アナライザーは遭難信号送信を中止し、直ちにタキオン通信に切り換えた。

 「IDを送ります。」

 スクリーン上にはオサムには分からないマロエ文字が流れていく。ミーナのオーラはますます明るく輝いていく。

 「良かった。助かるわ。こんなにうまくいくなんて。」
 「ミーナさん。この通信は・・・?」
 「この船の確認をしているのよ。5年近くIDを出していないから、船籍確認をしている筈よ。事故で消滅していると推定されている筈だから、何回もIDを確認しているわ。」

 ミーナが言う様に、アナライザーは同じ内容の送信を繰り返している様に見えた。やがて送信が打ち切られる。

 「ウフフ・・・。苦労しているわ。こちらの送信は弱いからIDを何回も確認して、やっと誤りでないと判断したのよ。今頃はステーションとのデータ通信で、IDの再確認中よ。」

 ミーナは起き上がり、未練を残したままオサムを引き抜いた。

 「もうすぐ音声通信が入るわ。準備しないと。」

 ミーナはSM用の衣装の上に本来の薄いローブの様な布を纏った。そしてすぐに通信が入ったが、それはデータ通信であり、スクリーン上にオサムには読めないマロエ文字の並びであった。それにはアナライザーがキーボードを操作して応答を始めた。

 「ミーナ様。船籍確認を終えました。これより音声通信に入りますが、距離と信号強度の弱さの為、蓄積通信になります。」
 「分かったわ。多分中継衛星を移動してくれる迄はそうなるわね。」

そしてスピーカーからノイズ混じりの音が聞こえ出してくる。オサムにはその音がマロエ語であるのだが、どういう訳か全く意味が分からなかった。ミーナはそれに対し返事をしている。同じ様な音声であるのに、これは理解出来る。

 「ア、アナライザー。どうしたのかな? ボクには向こうの言葉が分からないよ。」
 「了解。通信音声はあくまで信号です。テレパシーは乗っていません。私が中継します。ミーナ様宜しいですか?」
 「そうね。気が付かなかったわ。オサムに翻訳中継して上げて。」

 これでオサムは音声通信からワンテンポ遅れで、アナライザーのテレパシーで意味が分かる様になった。



 「以上、現在迄のデータを送りました。亜空間漂流の為、時間経過データは不確定です。」

 *受信した。解析中。異空間人とは?

 「亜空間漂流中、途中で出た真空間にて接触、緊急避難として当船に同乗。」

 *データに不合理有り。解析を繰り返している。技術的、生理的助力を得たと言う事だが、その様な助力を得られるレベルとは思えないデータである。****に似た生命体であるとの事だが。

 「その通りです。確かに****に良く似た生命体です。私も最初は野生の****であるとの認識を得ました。しかしその真空間内では最高のレベルの生命体であるという事は分かりました。」

 *依然不合理有り。肉体レベルではポイント7だが、能力ではポイント6以下になっている。

 オサムはアナライザーに聞いた。

 「レベルのポイントって?」
 「マロエ人に比較してのレベルです。肉体レベル、能力レベルともかなり低い値です。****よりは少し上ですが。」
 「なんだ。じゃあ猿扱いなのか。」
 「確かにそう言う事になりますが、そうでない事はミーナ様も了解しています。微妙なニュアンスが伝えられませんので、ミーナ様も苦労しています。」

 オサムはホッとして、

 「家畜や動物ではないという事を知らせてよ。」

 ミーナが通信の合間に振り返り、

 「そうよ。オサムは野生の動物ではありません。私と『結婚』している奴隷であり、私に栄養補給する家畜であり、生きた張り型なのですから。」
 「何て・・・。」
 「冗談よ。私達の判断方法では理解不能の人間ですから。ウフッ。今の言葉を通信しても全く理解されないしね。」

 *救助船が出発している。タキオン中継衛星調整中、直接通信可能迄約5時間。接触には2日掛かる。

 「良かった。あと2日ですって。」

 *クルーザーが近くに居る。連絡中。緊急備品を装備している。第一次救助に向かった。接触迄3時間。直接通信可能になる迄、クルーザーとの交信をせよ。以上、待機する。

 「これで本当に助かったのね。」

 ミーナは笑顔でオサムに振り返った。しかしオサムはどうしても素直には喜べなかった。救助隊が来れば皆に自分の恥ずかしい身体を見られる事になる。

 「ミーナさん。ボクのこの身体・・・。」
 「エッ? 身体がどうかしたの?」

 オサムは涙目で、

 「この恥ずかしい身体では人前に出られない・・・。」
 「うーん。その『恥ずかしい』という意味は少しは分かったつもりなのだけれど。論理的ではないわ。アナライザー。オサムは何を言いたいの?」
 「オサムは自分の身体が『恥ずかしい』と思っています。」
 「私には『恥ずかしい』身体には思えないけれど。」

 オサムは顔を真っ赤にして、

 「だって、だって・・・。こんなに大きなオチンチンで・・・、まるで女みたいな外見なのに・・・。」
 「地球人の男女の体形差の様ですね。オサムは地球人の思考で自分の身体を考えていますが、標準的マロエ人ではオサムの体形に関して興味は示しても奇異感、嫌悪感は感じません。」
 「だって・・・。」
 「オサムは異星人です。幾分マロエ人との差はあって当然なのです。それとオサムは性器を露出している事に『恥ずかしさ』を感じています。しかしマロエ人にとっては胸やペニスは生殖器ではありませんので、手足の露出と同じ意味合いしかありません。」
 「ああ、そうだったわ。地球人は乳房とペニスは隠しておく習慣だったわね。でもここはマロエ空間よ。それにオサムは私と『結婚』しているのよ。マロエの流儀に従うのよ。」
 「でも・・・。」
 「いいわ。ではこうしましょう。アナライザー、オサムになにか羽織る物を作って。オサムが『恥ずかしい』と思わない程度に外見を被える物を。そうすればオサムが『恥ずかしい』と思わなくなるでしょう。私達マロエ人には『恥ずかしい』という感情は理解出来ないから、もっとも私には少し理解出来るけれど、救助隊の人達には分かりませんからね。オサムの自己満足にしか過ぎないのだけれど。オサム、それでいい?」
 「ええ、それなら・・・。」
 「ミーナ様。時間があまりありません。オサム。あなたのデータには、その体形の為の衣類のデータは限定されています。新たにデータを集めて、若しくはオサムの考えによるデータを元に設計するには時間が足りません。」
 「そ、そんな・・・。」
 「ミーナ様用の衣類の一部、及びオサムの倉庫に在ったSM用の衣類、それとミーナ様がオサムに着けさせる為に用意してあった同じくSM用の着衣からの改変でなら可能です。」
 「SM用の?」
 「オサムの精神状態不安定を確認。過去の行動、思考過程からの類推によるとその着衣は不安定状態の増加を起こし得ます。」
 「どういう事? それってやっぱり恥ずかしい代物なの?」
 「データ不十分。その確率は高いです。しかしオサムの『恥ずかしい』部分は被えます。なお、ローブを用意します。更にその『恥ずかしい』着衣をそれで被えばオサムの精神状態の不安定の程度を下げる事が出来ます。」
 「それでもいいよ。急いで。通信が始まってしまう。」

 アナライザーは出て行ったが、すぐに戻ってきた。ローブの方は分かるのだが、ペニスとバストを隠す方の物が何であるのかは分からない。

 「ん? 何、それ・・・?」
 「オサムの『恥ずかしい』部分に被せる事が出来る物はこれだけしか在りません。ペニスには精液搾り機能付きのバイブ。バスト用は乳搾り機能付きです。」
 「そんな・・・。そんな大きな物を使ったら、かえって目立ってしまう。それにミーナさんの事だから、きっと強い動きをするに決まっている。」
 「そうよ。『家畜』用として作らせておいたのだもの。あら? タキオンビームだわ。」
 「ワッ、通信が始まってしまう。アナライザー、ローブだけでいいよ。貸して。」

 オサムはひったくる様にしてローブを羽織った。同時にスクリーンにミーナと同じ様な顔のマロエ人が映し出された。オサムは慌てて柱の陰に隠れた。

 スクリーンに映し出された女はミーナを不思議そうに見つめていた。

 《あなた・・・、ミーナなの?》
 「アッ、シーマ? シーマね?」
 《エッ? じゃあミーナなのね。でも何だかイメージが違うわ。衣服も違うし、雰囲気が違う。データを送って下さい。》

 ミーナは送信スイッチを押す。すぐに先方へ送られた様子で、小型モニターを見ながらミーナへ話し掛けた。

 《ミーナなのね。確認しました。あら? データ転送誤りは無いわ。でもこのデータおかしいわ。不合理があります。》
 「不合理があるのは了解しています。しかしその不合理を論理的に説明する方法がありません。」
 《それも不合理ですね。アナライザーからのデータを送って下さい。》

 その呼び掛けに対して、アナライザーは自分のデータを送信した。しかし先方のコンピュータがなかなか解答を出さない。シーマは少しイライラする様な表情を見せていた。モニターに現れる画面を暫く読んでいる様だが、

 《****に似た異星人の助力ですか? そしてこの中の『非論理の論理』により生還出来た、とあるのが意味不明。そこに異星人が居るのですか?》
 「居ります。オサム、隠れていないで、出ていらっしゃい。」

 オサムは渋々と、伏し目がちに姿を現した。シーマはキッとした目で見つめている。

 《****に似ているとは思えませんが。それにレベルが低い様なデータですが。》
 「オサム、****と似た器官を見せられる?」
 「それって、まさか・・・。」
 「そうよ。私が一番好きな場所。私達が『結婚』した部分よ。」
 「そんな・・・。ミーナさん以外に見せるなんて恥ずかしいよ。」
 「そうね。やっぱり『恥ずかしい』わね。」
 《ちょっと、ミーナ。そちらの会話の中には意味不明の用語が多過ぎます。コンピュータでの解読が出来ない事態が起きています。》
 「あ、ごめんなさい、シーマ。それが非論理の論理なのよ。思考方法が違うから、マロエ語にはならないの。とても説明し切れる程ではないから、コンタクトしてから時間を掛けて説明するわ。」
 《了解。とにかくコンピュータがオーバーロード気味ですから、暫く入力は停止します。間も無く接舷出来ます。レーダーで確認。》

 ミーナの前のスクリーンにも救助船の位置が示された。着実に近付いて来る。

 《それにしてもミーナ、不合理過ぎるデータですよ。誤差の範囲などと言う性質ではないわ。理論的には解明されていないけれど、もし時間の逆転があったとしても、生理的には進行方向は変わらないわ。》
 「何を言おうとしているかは分かります。」
 《エッ? 私はまだ充分な情報を含んだデータを話していないわ。》
 「ウフフ・・・。私の生理年齢が若過ぎるという事ですね。」
 《良く分かったわね。》
 「これも地球方式の推論方法です。詳しくはこちらに来てから説明しますが、地球人の分泌物の影響らしいですよ。」

 その時、船が接舷したらしく、軽い振動音が伝わってきた。

 《着きました。そちらに移ります。》

 映像が切れた。暫くして遠くから足音が響いてくる。数人の足音であった。オサムは不安な様子で部屋の隅に隠れる様に小さくなっていた。プシュッとドアが開き、ミーナと似たマロエ人達が入って来た。

 「シーマ。」
 「ミーナ・・・。」

 ミーナは嬉しそうに、シーマはちょっと怪訝な表情で向かい合った。他の二人のマロエ人達も不思議な物を見る様に辺りを警戒しながら見回していた。

 「ミーナ・・・よね?」
 「そうよ。」
 「でも、あなたの服装・・・。それにこの室内・・・。」
 「これは地球の衣装です。それと室内も地球風にしてみましたの。先程も言いましたが、『非論理の論理』ですから。」
 「確かに・・・。全く意味不明と言うか、無意味そのものという風に感じます。ところでその地球人は?」

 オサムはモジモジしていたが、柱の陰から出て、ピョコッとお辞儀をした。しかしシーマ達は怪訝そうな顔で見ていた。

 「シーマ、これが地球人オサムよ。」

 シーマ達はジッとオサムを見つめていた。

 「データと違うと言うのでしょう? 確かに最初の頃と姿が違いますから。」
 「違うのは分かりますが、違い方が良く分かりません。少なくとも****とは形状が違います。」
 「オサム。****の特徴である、ペニスを見せて。」
 「エエーッ? この人に見せるの?」
 「そうよ。」
 「そんな・・・。恥ずかしい事・・・。」

 シーマは『恥ずかしい』という言葉の理解が出来ない。そしてオサムの意志がテレパシーと音声波動で伝わって来るのを訝しげにしている。

 「意味の分からない用語ですね。それに何故波動を使うのでしょう。」
 「それが地球人の意志通信方法なのです。本来、地球人は音声波動のみでの意志通信しか行っておりません。ですから私達は指向的に意識を送り込まないと、オサムは私達の意志を受信出来ないのです。漂流期間中にかなり訓練はしましたが。」
 「ミーナ、あなたの言葉も随分変化しています。不確定要素が多過ぎます。****の特徴という物を確認します。」

 ミーナはオサムを急かせてローブの前を裸けさせた。オサムはペニスを晒す恥ずかしさで真っ赤になっていたが、シーマはごく事務的にそれを覗き込んだ。

 「フム、確かに****の器官に似ていますが、大きさ、角度など、随分異なりますよ。」

 シーマに同行していた乗組員の一人がシーマに耳打ちした。

 「キャプテン。****の場合、極めて希にですが、この様に上向きに成る事があるそうです。その時には良質の栄養物を放出するそうです。」
 「フーン、そうですか。そういえば野生種の場合には時々あるという事を聞いた事がありますね。ミーナ、これは野生種なのですか?」

 ミーナは笑い出してしまった。

 「飼育されていなかったと言う点では野生種ですね。ただ、今は私の所有物ですが。」
 「ちょっと待って。それが不可解だった部分です。あなたは今『所有』という言葉を使いました。たとえ野生種であれ、地球人という人類であるとのデータでした。人類として、確かにレベルは極めて低い位置ですが、人類としての資格は確認しました。異星人とはいえ、それを『所有』は出来ない筈です。」

 ミーナがまた笑い出した。シーマはそんなミーナを不思議そうに見ている。手に持っていた小さなセンサーをチェックしていた。それを見て再びミーナは笑い出した。

 「ごめんなさい、シーマ。それは精神状態のチェッカーですね? 確かに自分自身でも分かります。思考状態がおかしいと思っているのでしょう?」
 「異常は出ていません。しかし、あなたの表情、あまりにも激しい感情が出ています。その様に感情表現をする事はなかったし、必要性もない筈です。」
 「分かっています。まず最初に説明しておかないと。私は地球人オサムと長時間、これは正確ではありません。亜空間漂流中の時間経過はその意味を持ちませんから。あくまでも主観的、生理的な時間経過と考えて下さい。オサムと共同作業での効率を上げる為、敢えて地球人の思考方法、感情表現方法を採用しました。データで送りました様に、地球人のレベルは低いのですから、地球人にマロエの思考方法、表現方法は適しません。私の方で地球人に合わせた方が簡単ですから。特に意志疎通においては波動だけでは不完全で、顔面の表情が不可欠だったのです。長い事その方法を取り続けていましたし、これも不合理ではあるのですが、私の精神衛生上も効果がありました。」

 シーマは怪訝そうであったが、一応論理的であるので、納得した様子であった。

 「さて、『所有』についての質問ですが、これは私も説明は難しく、言葉を考えています。地球人の習慣で、『結婚』という考え方があります。」
 「意味不明の用語ですね。それが認識出来ませんでした。」
 「そうでしょう。私にもまだ本当の意味は理解出来ていません。オサム、そうですね?」
 「エッ、ええ・・・。ミーナさんは本当の意味での結婚は理解していないと思う・・・。」
 「概念的な説明をするにも、かなり体系的に話さないとなりませんので、ゆっくり説明します。さて、これも非論理の論理になりますが、この事は置いておいて、色々聞きたいの。見せたい物もあるし・・・。シーマも救助船が来る迄は暇でしょ?」
 「ミーナ。それは理解出来ません。まず任務を遂行するのが・・・。」
 「では言い替えましょう。データ不合理を判断するには地球人の思考方法を説明しなければなりません。これは宜しいか?」
 「確かに。」
 「それでは今迄のデータから見て、かなり非論理性が高いと思いませんか?」
 「そうです。」
 「かなり拡散的な思考形態という事は分かりますね?」
 「ええ。脈絡の断絶が多い様に推定出来ます。」
 「そうですね。マロエの論理では不合理ですから、まず結論を急ぐより、データの収集が必要でしょう。かなり不合理のデータが多く存在します。マロエの論理では不合理ですが、地球人の論理が不合理だけで出来ているとは考えないで・・・。」
 「それこそ不合理です。低いとはいえデータ程度のレベルであれば合理的な体系がある筈です。」
 「ですからどんなに不合理である様に見えても、その裏に合理性がある筈ですから、データを集めて下さい。その為には・・・、難しい事ですが、判断を保留してデータを収集して下さい。」
 「判断を保留・・・。そんな思考方法について考えた事はありませんでした。しかしミーナが言う事ですし、精神異常が無いと判断出来ますから、やってみましょう。このままでは報告出来ませんから。」

 シーマは部下達に命令をした。

 「あなた達、この船の状況把握を。修理可能であれば修理を。アナライザーのデータを元に。」

 部下達はアナライザーに案内され、部屋を出て行った。

 「さて、ミーナ。良かったわ。まさか無事でこうして会えるなんて。」
 「私も。好運でした。」
 「でも、どうしても理解出来ない。オサムでしたね?」
 「アッ、ええ。どうも・・・。」
 「なる程。音声波動と同時に意志が伝わりますね。ミーナのデータだと****と似た形態だったそうですが、外見的にはそうは見えませんが。」

 オサムは少し困っていた。

 「オサムには****の映像を見せていません。比較出来ないのです。シーマ、データはありますか?」
 「いいえ、任務には不要ですから。本部から送らせますか?」
 「優先事項ではないから要らないです。」
 「さて、一番肝心なキーワードについてですが、説明は出来ますか?」

 ミーナは何となく嬉しそうな表情であった。

 「『結婚』についてですね。地球人の習慣に従い、地球人の法に基づき、合法的な『結婚』状態になっています。そうね? オサム。」
 「合法的? ミーナさん、最初は違うでしょ? 無理矢理結婚させられて、ボクの身体をこんな風にしちゃったんだから。」
 「ちょっと待って。オサム。あなたは意志に反してその『結婚』とかいう形態をとらされたのですか? 意志に反した場合でも地球の法律では合法なのですか?」
 「勿論非合法ですよ。でも結婚しちゃったし・・・。」
 「それは非論理的です。非合法であればその地位の回復は出来るのでしょう?」
 「異議。地球の法律には不合理が存在。非合法であっても、その結果が合法であれば最初の非合法は免責される。非合法が存在しなかった事となる。」
 「それは非論理。法体系データが無いので判断出来ないが、仮定が含まれている。オサムがその『結婚』という状態を容認しているという仮定だが。」
 「オサム。説明して上げて。オサムは私との『結婚』を認めているわね?」

 オサムは頭を掻き、暫く言い淀んでいた。

 「うーん、ずるいよ、ミーナさん。ボクはミーナさんのセックスペットでしょ? 結婚って言ったって、形式的なものだし・・・。」
 「また意味不明の用語。オサムはミーナに対し、特定の位置関係にあるという意味と推定しますが。」
 「『セックスペット』の事ね?」
 「そうです。上下関係ですか? 役割分担の意味ですか?」
 「肯定。上下関係であり、オサムが私に対しての特別の役割を果たします。そうだわ。シーマ。オサムの助力の内、生理的、肉体的な実例を示しましょう。非常に特殊な状況に遭って、私が帰還出来た理由が分かります。シーマ、あなたが調査権限を有しているのは知っています。しかしこれから示す行為について、途中での質問は中断して下さい。私自身が合間ごとに解説します。宜しいか?」
 「それは私の権限を侵す事になる。しかし、不可解な点が多過ぎるので、私はデータ収集に専念し、途中での質問がミーナから得るデータを中断させる事となるので、私自身が事後集中質疑する事とします。」
 「有り難う。これから示す事について、最初は非合法に見える事があると推定される。しかしそうではない事を証明出来る。この点について注意願います。」
 「了解。しかし非合法がそのまま非合法であった場合、ミーナ、あなたは訴追されます。」
 「理解しています。では始めましょう。シーマ、オサムの運動能力、操縦技術力に関しての疑問がある筈ですね?」
 「データ解析中ですが、確かに異常なデータでした。今蓄積データを引き出している筈です。チェックにはもう少し時間が掛かります。」
 「宜しい。簡単に判断出来ない人種であるという事が分かると思います。次に、生理的な助力として、食料供給能力を示します。これはシーマにも直接試して貰った方が定性的データは得易いわね。オサム、ローブを脱いでテーブルに上がって。」

 オサムは後ずさりした。

 「脱ぐの? この身体をシーマさんに見せるの?」
 「そうよ。そしてあなたのウンチを食べて貰うわ。」
 「やだよ。そんな・・・。ミーナさんだったから、何とか出来るんだよ。」
 「そう。拒絶するのね? シーマ、私はオサムを拘束します。これが非合法に見える筈ですが、中断しないで下さい。」

 ミーナはオサムの手足のリングに念を送った。途端にオサムの手足は大の字に拡がり、ローブが振り払われてしまった。

 「ダメーーッ!!! ムググ・・・。」

 口も塞がれた。シーマは驚いて立ち上がろうとしたが、ミーナがそれを制した。ミーナの念で足が交互に動かされ、テーブルに這い上がらせられる。そしていつもの様に四つん這いにされ、尻を突き上げさせられるのだった。

 「シーマ、体形データは分かりますか?」
 「確認。身体を覆う衣服が体形を隠していない。推定し易い。」
 「宜しい。オサム、肛門を開くわ。それっ。」
 「ググーーッ・・・。」

 シーマは驚いて立ち上がろうとしたが、ミーナはニコニコしながら制した。そして長いスプーンでオサムの直腸から黄色い半流動物を掻き出した。

 「ミーナ、それは。」
 「質問は無しよ。そうです。これはオサムの排泄物。しかし何よりも素晴らしい食料なのです。シーマ、確認して下さい。」
 「確認? それを食するという事か?」
 「そうですよ。」
 「拒否する。データによると分泌物を変更させ、食用可とあったが、排泄物は排泄物である。」
 「そうですよね。私が食したのは、食料が無く、緊急避難的な対応でした。でも、これがとっても美味しいの。」

 そう言ってミーナはスプーンを口に入れた。

 「うーん、美味しい。」

 ミーナはいかにも美味しいという表情でニコニコしていた。シーマは再びチェッカーでミーナを調べた。

 「理解出来ない。精神が高揚し、純粋に感動している事が分かる。ミーナ、本当に素晴らしいの?」
 「ウフフ、味覚は原始的な感情だという事は知っています。私だってマロエ人ですから、あまり激しい感情を示すのは原始的であり、本能剥き出しの獣同様という事ですからね。でも、私はその様にレベルが下がっている様に見えますか? そうではないという事も分かっています。それでも本能をあらわにしても良いと考える程の美味なのです。」
 「味覚についてはそれ程の興味はありません。しかし私としては不合理をそのまま見過ごす事は出来ません。データにより食料であるのだから、ミーナがこれ程の感動を受ける食料を食料として確認しましょう。」
 「そんなに難しい理屈を付けなくても良いのに。さあ、どうぞ。」

 ミーナは別のスプーンにオサムの直腸から取り出した排泄物をすくい、シーマに渡した。シーマは少し眉をしかめ、おそるおそる舌の先で嘗めた。味が口の中に広がった時、ビクッとして動きを止めた。そしてスプーンを口の中に入れ、綺麗に嘗め取った。そしてじっくりと味わう様に口の中の舌が動き回っていた。

 「どうかしら?」
 「これが・・・。」
 「でしょ? こんなに美味しい物、今迄に味わった事がありますか?」
 「不合理の一つは解決しました。なぜこの様な・・・。栄養価は高いし、味覚が素晴らしい事を初めて認識出来ました。」
 「オサムの排出物はこれだけではありません。尿も素晴らしい味です。それに****から採取する物と同じ様な精液が出るのですが、これはマロエ技術をもってしても再現出来ない程の高蛋白、高栄養、高吸収力があります。」
 「その機能はミーナの行為により変化させられていますね。これは異星人とはいえ運動能力の低下を招かせる行為です。これを合法化させる論理がありますか?」
 「ほら、質問は無し。オサム、シーマにあなたの精液を提供して上げて。」

 ミーナはオサムを動かし、シーマの前に進めた。そして諦めた様な表情のオサムの口を自由にした。

 「ミーナさん・・・、ボクのオチンチンをこの女の人に?」
 「そうよ。私にも少しは分かるわ。でもセックスではないからいいでしょ? 我慢して。」
 「だって・・・、ボクはミーナさんと・・・。」
 「私の行為が処罰の対象になるかどうかの調査の為よ。」

 オサムは真っ赤な顔をし、腰をシーマの前に突き出した。

 「シーマ、吸ってご覧なさい。」
 「直接? 吸引機で搾り、消毒、成分分離、その他の処理をしてからではないのですか? いくら何でも・・・。」
 「ウフフ・・・、シーマが私の友人だから勧めているのよ。地球人の倫理では、所有者の私以外の人間に精液を与える事は良くないとされているの。私は地球人の倫理も尊重します。しかしそれを侵してでもシーマに確認して欲しいの。それだけの価値があると判断しています。」
 「それも地球の論理か? 非合法を上回る価値があれば、非合法は免訴されるという。」
 「ニュアンスが違いますが、そう言えます。でもセックスはさせたくない。それは私とオサムだけの間の結び付きだから。」
 「その・・・セッ・・、その用語の意味が不明。」
 「アッ、そうでした。オサムの器官は****の器官と用途が異なります。元々は****の器官はその働きだった筈ですが、今は食料供給だけですが。」
 「ああ、報告の内のこれね。個体増殖の原始的な方法ですね。しかしマロエ人種ではそれは意味を為さないし、ミーナに何等の効果、利益は無いと思うが。」
 「ウフフ・・・。原始的な、あるいは獣性の源の本能に価値を見い出せない限り、認識は不可能でしょう。マロエ人の論理構造では無価値、それ以上に障害となるでしょう。その点については私自信も完璧な説明をするだけのデータ及び説明する為の用語の確定が出来ていません。ですからこれも先送りにして、まず食料としての確認を。」
 「個人的意志として拒否する。しかし調査の必要性は認める。先程と同様、ミーナの摂取状況を観察し、その後私が確認したい。」
 「ウーン、ごめんね。精液は一度にある量を放出してしまいます。私が飲んで、続けて出させようとすると、少し回復に時間か掛かります。勿論連続も可能なのですが、味、栄養価、濃さに格段の差があるのです。それと、これは私が一部地球人としての思考方法で、特にオサムに限定して推量すると、私の場合では連続でも差は僅かなのですが、シーマの場合には大きな差になります。これは、ええと・・・、オサム、『愛情』の差でいいのよね。」

 オサムは泣き出しそうな顔であったが、コクンと頷いた。

 「ミーナ。又意味不明の用語よ。」
 「シーマ、質問は無しよ。」
 「そうではない。今の用語の使い方からすると、何か一種の価値判断基準と推定出来るが。」
 「確かに。『愛情』という価値基準で見ると、オサムは私に『愛情』の価値を認めていますが、シーマには認めていない。そうよね、オサム?」
 「ええ・・・。」

 シーマは少し憮然とした表情をしていた。そしてオーラがまるで放電の様な形になり、オサムにはそれが怒りであると感じられた。

 「アッ、シーマさん。ごめんなさい。ボクは別にシーマさんを怒らせるつもりで言った訳じゃない。」

 オサムの言葉は二人のマロエ人に驚きをもたらせた。

 「エッ、シーマが怒っているの? どうして?」

 シーマもオサムの顔をジッと見ていた。

 「私は怒りを表してはいなかった。怒りを抱く事は恥ずべき事だ。用語の意味は不明だが、どの様な価値基準であるかも不明だが、データをまだ得ていないにも関わらず価値が低いと思われては自尊心を傷つけられる。しかしそれをどの様な方法で感知したのか? ミーナにも不可知であったのだから、通常の方法ではないと考えられる。」
 「だって・・・、シーマさんは怒った顔をしていたし、オーラがミーナさんが怒った時と同じ様に・・・。」
 「それが非論理。しかし現実には・・・。」
 「ネッ? 論理的ではないでしょう。とにかくシーマは私が一番データを得易い環境を心掛けている事を理解して。」
 「それは了解している。しかし****を直に吸うという行為は・・・。」
 「それも自尊心を傷つける事なのは分かります。私はずっと行ってきた行為であり、必然性を認めないのかも知れませんが、その行為は極めて多くのデータ収集になりますから。」
 「では、あくまでも調査、データ収集の為に。」
 「さあ、オサム。シーマにオチンチンを吸わせなさい。」

 オサムはずっと勃ちっ放しのペニスを晒させられていて、恥ずかしさで真っ赤になっていた。しかしミーナのオーラは毅然とした態度と同様、オサムに強い意志を放っていた。

 シーマがおそるおそるペニスに手を触れた時、ビクッと腰を引いた。シーマもビクッとしたが、その時の感触は不思議な感動を与えたらしい。自分の掌を見つめ、再度手を伸ばして掴んだ。

 「フム・・・。不思議な感触。****と同じ筈なのだが、好ましい気持ちにさせられる。これも非論理の論理なのか? 形良く大きいからなのだろうか・・・。」

 そして顔を近付け、匂いを嗅いだ。

 「ホーッ、いい香りだ。香りなどという感覚は低位に属するのだが、なぜか私の中の獣性が刺激されてしまう。」

 そう言いながらも、シーマは唾液を飲み込んでいた。そして既に大人しく諦めているオサムのペニスは、ミーナ以外の女性に握られ、興奮し切っていた。ミーナ以外の女性の唇は新たな刺激となり、パクッと喰わえられた時、すぐに激しい高まりとなった。しかしオサムは耐えようとはしなかった。ミーナの表情とオーラに嫉妬を感じたのである。だからすぐに済ませてしまいたかったのだ。

 「ハフッ・・・、ミーナさん、ごめん・・・。」

 ミーナはハッとしてオサムを見たが、その時シーマの口の中に激しい快感を迸らせていた。

 「アムゥッ・・・?!」

 シーマは頬を大量の精液で膨らまされ、呆然としていた。しかしすぐに真顔で飲み込み、ペニスを音を立てて吸っていた。

 「どう? シーマ、理解出来ました?」

 シーマは不思議な感動を表情に表していた。そして手で口を拭っていた。

 「これが・・・・。確かに****と同じ様な組成ではある。しかし全く違う。味、量、しかしそれ以外に何かが・・・。」
 「精子という活きた細胞が大量に含まれています。」
 「ウーム・・・。非合理ではあるが、ミーナが論理付けようとするのはある程度理解出来る。」
 「それはシーマの論理としては不合理よ。それこそが非論理の論理。でもオサムの機能向上の結果としては効果大という事は認めて貰えるわ。どう? データは随分と集まったでしょう。しかしそれ以上に疑問が増え、かえって論理性が失われてしまったのでは?」
 「確かに・・・。こんな非論理的な事柄ばかりで、体系づける事は不可能。ちょっとの期間休憩する。私の精神がかなり乱れていると判断する。」
 「いいわ。時間はたっぷりあるから。質問をしたくとも、何から質問していいか分からない状態でしょうね。私からでもオサムからでも何でもお答えしますわ。」

 シーマはキャビンの中央のソファーに座り、足を投げ出した。その柔らかさに驚いた様に、

 「ん? このシートは柔らか過ぎる。こんなに深く座ってしまう。非効率な椅子だ。」
 「ウフフ・・・、椅子は単に座るだけではないのよ。精神的安息感を得られます。」
 「それも地球の非論理か? このキャビン内の装飾品の多さにも驚かされたが、全く無意味な物ばかりであるのもそうなの?」

 オサムはミーナと一緒にシーマの向かいに座った。

 「ボクもそう思います。普通の部屋ならとにかく、こんなに飾りたてちゃ操縦室らしくないですよね。」
 「普通の部屋ならいいのか? 居室と操縦室、機能こそ違え、効率が最優先では? それも地球の論理?」

 オサムはシーマにペニスを吸われ、恥ずかしさで真っ赤にはなっていたが、ローブを羽織る事で話しに加われる様になっていた。

 「だって、機能が違うでしょ? コックピットだったら操縦性、安定性、安全性が一番でしょうけど、居室だったらゆったりとして、肉体的にも精神的にも落ち着ける方がいいでしょ。」
 「それは理解出来る。しかし落ち着くにも効率が大切だ。」
 「そうかなあ・・・。効率的だとかえって不安になる。」
 「シーマ、その質問は優先順位が下ですよ。」
 「肯定します。しかし私は精神状態に不安定をきたしています。先程の****・・・、いや『精液』とかいう物の影響か?」

 ミーナはクスッと笑った。

 「そうかも知れません。私もそうですから。不安定と言うより、精神が高揚してしまい、自分でも制御出来なくなってしまう事がありますから。しかしそれは悪い影響ではありません。それならチェッカーが警告をしますからね。」
 「気分が悪い訳ではないが、どうも落ち着かない。」
 「そうね。それではオサム、ミルクをシーマに上げて。落ち着きますから。」
 「ミーナさん、今、搾るの?」
 「そうよ。」

 シーマはちょっと驚いた。

 「ミーナ、あなた達は5年近く漂流していたのでしょ? 合成にしても、もうとっくに腐敗しているわよ。それに在ったにしても高価だし、私達の給与では高値の花よ。」
 「ウフフ・・・、合成ではないわ。天然物よ。」
 「まさか・・・、虚偽は罪よ。そんな物手に入らないし、アッ・・・。」
 「分かった? オサムにはミルクを出す機能もあるの。」
 「ミルクを? 確かに外見上の乳房は大きかった。『牛』と同等であるのかも知れない。しかし人間としてミルクを出せる機能迄あるとは・・・。しかしそれはミーナの飲用とする方がいい。そんな貴重品はミーナの回復の為に・・・、充分に回復している様に推定出来るが。」

 オサムはミーナが目で搾乳を促すので、渋々搾乳機を持ってきた。ペニスを吸われるよりは恥ずかしさは少ない。ただ、シーマがいかにも興味深げに注視しているのがつらかった。しかしその目はやがて驚嘆に変わっていった。

 「なぜ? 凄い。そんなに大量に・・・。」

 搾乳機の瓶にはドンドンお乳が溜まっていく。

 「ミーナ、このミルクの成分は? 『牛』のミルクに比べてどう?」
 「データはアナライザーにありますが、文字通り桁違いに良好です。」

 オサムはコップにあけ、ミーナとシーマに手渡した。自分のお乳を飲んで貰う事には精神的な喜びを感じるのだった。そしてシーマの感動を期待していた。

 シーマは渋っていた。

 「見るからに濃いけれど、ある程度脱水しないとならない筈なんだけれど・・・。」

 ミーナがまず美味しそうに飲み干す。そしてニッコリとしてシーマに促す。シーマとしては今迄のオサムの身体から出た物に関しては信じられない程の感動を受けていた。ミルクにもその期待を持ち、グッとコップに口を付けた。そしてオサムの期待通り、シーマの顔が輝いた。そして一気に飲み干すのだった。

 「これがミルク・・・a@以前に飲んだ『牛乳』とは全然違う。」
 「そうでしょう。」
 「しかし通常の漂流者とは全然違う生活をしていたのですね。食料を心配する事無く、それどころか、これ程の美味を味わいながらの漂流とは。しかし地球人とは便利な人類と思う。この様な機能があるからこそ、レベルの低い割りに宇宙に進出が出来るのだな。」
 「違いますよ。オチンチンは元々在ったのを極端に大きくされたけれど、オッパイは無かったのを無理にこんなに大きくされたんだから。」

 シーマは空になったコップとオサムを見比べ、味覚の感動という野生の感情の高ぶりを治めようとしていた。

 「データにもありましたが、オサムは自分の意志によらず、その肉体的形状機能を変えられたとありましたね。」

 オサムはコクンと頷いたが、ミーナがオサムをチョンとつついた。それをまたシーナは訝しげに見ていた。

 「言葉にしないとダメだったんだね。その通りです。」
 「ミーナ、今のは?」
 「今の?」
 「オサムには意思の伝達に波動を使うという事は理解している。しかしミーナのオサムに対しての僅かな行動が、何らかの意志行動をした様に見えた。」
 「ウフッ、シーマは観察力が高いのね。元々がそうだったけれど。オサムが頭を下げたのは地球人の行動パターンでは『肯定』を意味します。しかし私は理解していますから意味が分かりますが、シーマにはその意志は通じない。だからその指示を私も地球流に示しました。」
 「これも優先事項ではないから後に回します。質問は後程と言う事にしてあるが、オサムの意志に反した肉体改造を施したと言うが、それも非合法が免除されるのか?」

 オサムはミーナを見つめて困った顔をしていた。

 「そうですねえ・・・。完全にオサムの納得を得ているとは考えていません。しかし肉体的機能の増加は図りましたが、機能低下は殆どありません。」
 「殆どとは? 一部でも低下はあるのか? それは問題になる。」
 「肉体の一部が増強され、質量を増していますから、運動能力の低下があります。」
 「なる程。しかしそれも判断し難い事なのだが、能力の低下でデータにある回避行動を出来たという事になる。その行動自体、信じられない程の能力だが・・・。精査しなければ判断は出来ないが、オサムの肉体細胞組織はマロエ人との差異は少ないと思われる。それですらあの能力は理解の程度を越えている。だとすれば低下したとは考え難い。」

 ミーナの顔がパッと輝いた。

 「ねっ、オサム。私の方はクリアしたわ。次はオサムの方。最初の非合法が結果としての合法である事の証明ね。」
 「マロエ法での結論は私には出せない。それは司法官の権限だから。しかし地球法での結論は誰にも出せない。但し、緊急避難としての事情と、地球人の意思での合法確認があれば、それは地球人についての合法であると推定出来る。オサム。ミーナの処置は合法と考えていますか?」

 オサムは照れ臭そうにしていたが、ミーナに促されてやっと答えた。

 「方法は非合法ですよね。だけど、今のボクにはミーナさんと別れるつもりもないし、別れたくない。それにこんな身体が凄いセックスの為だとなったら・・・。」
 「意味不明の用語で非論理。結論を。」
 「はい。合法です。」

 さすがにシーマは驚きを隠さなかった。

 「完全な合法なのか? ウーム、それでは仮定の質問をする。これは仮定であるから、判断が不可能であると推定するが、緊急時でなかった場合の地球法の概念を知りたい為である。ミーナとオサムは亜空間に漂流してしまった為、ミーナは非合法処置で生還した。しかし緊急避難として合法であるとオサムは認めた。次に仮定として、亜空間に漂流するという事態が発生しなかったとしてミーナがした処置は合法足りうるか?」
 「うーん、難しいですね。つまり通常空間でミーナさんと出会った場合ですよね。」
 「その通り。」

 オサムは少し考え込んでいた。そしてクスッと笑った。

 「多分・・・、ボクの方が非合法を犯したかも知れない。」
 「オサムが?」

 シーマもミーナも同じ様に驚いていた。

 「オサムがミーナに改造処置をするという事か?」
 「違いますよ。ボクにはそんな技術はない。」
 「それは認める。」
 「最初にミーナさんを見た時、びっくりする程の美人だったから、きっと襲っていたと思う。」

 ミーナはニコニコしながら頷いていたが、シーマには理解出来なかった。

 「ミーナには意味が理解出来るのか? 意味不明の用語の連続なのだが、それでも文意からは好意を感じられない。『襲う』という言葉には『襲撃』の意味以外に何か別の事を意味するのか?」
 「シーマ、あなたの能力は素晴らしいわ。こんなに短時間に地球式の不明瞭言語を把握出来るなんて。『襲う』という言葉には、相手の意思を無視してセックスするという意味もあるのです。それは地球でもかなり高度な罪となるそうです。」
 「ちょっと待て。『セックス』の意味は分かったつもりだったが、それを行うのに相手の意思の許認可が必要なのか? そしてそれが重大に罪なのだとして、それを侵して迄もオサムはその非合法を行う可能性があるのか?」
 「エヘッ、シーマさんには説明し難いよ。だって今迄に見た事もない程の美人なんだよ。そして肉体的にはボクの方が力は強そうだし、宇宙の辺境だったら・・・、強引にセックスしちゃうと思う。」

 シーマは呆然としていた。

 「『セックス』の行為は理解していたが、その価値基準が不明。非合法であっても、訴追される可能性があっても行いたい程の行為なのか? それと『美人』という価値判断基準も不明。オサムはミーナにその価値判断をするのか?」
 「うん。今だって本当に凄い美人だと思うよ。シーマさんだって凄い美人だし、マロエ人て美人が多いんだね。」

 オサムの言葉に二人のマロエ人のオーラが変化した。シーマは、『美人』の価値判断基準は分からないが、それでも何らかのオサムの基準を満たしているという自尊心を満足させ、ミーナには嫉妬を抱かせた。

 「だって・・・、ボクはミーナさん以外のマロエ人を初めて見たんだよ。」
 「じゃあ、もし私でなくて、シーマが同じ様に漂流していたら、オサムはシーマと結婚した訳?」
 「そんな・・・、分からないよ。」

 オサムは縮込まって恐縮していた。

 「ミーナ、今のは?」
 「だって・・・。」

 ミーナはまだ不機嫌そうな顔をしていた。

 「そうか・・・。オサムには発していない意思を感じられるのだったな。それとミーナもそれが分かるという事だった。」

 そしてシーマは椅子に身体を深く沈め、

 「不可能だな。とても報告出来るだけの理解が得られない。データはデータとして私の船のコンピューターに集めさせる。職務放棄ではないぞ。限界を超えていると判断したのだ。あと二日すれば救助船が来る。私以上の専門家も居るし、コンピューターも大型だ。それ迄はデータ収集に努める。」

 ミーナは肩をすくめて笑っていたが、その動作がオサムにしか分からない振りである事を更にシーマを不機嫌にする様だった。

 「チーフ、応急処置は完了しました。」

 乗員達がアナライザーとともに戻ってきた。

 「状況は?」
 「メインエンジン損傷は修理不可。気密その他は良好です。」
 「了解。第一次任務は終了。」
 「終了します。チーフ、次の指示を。」
 「待機。」
 「待機ですか?」
 「その通り。私の調査はこれ以上は不可能と判断。救助船に引き継ぐ迄待機する。それ迄解散、自由行動を許可。」
 「自由行動許可了解。」

 乗員達はホッとした様子で、オサムやミーナ、それに操縦室の備品について興味深げに見回していた。

 「シーマ、皆さんは公式任務から外れて自由時間ね?」
 「そうです。これからは調査ではないですよ。私以外にも沢山質問したそうな様子ね? 私事として認めます。記録はしますが、不具合であれば削除しますから。」
 「チーフ。この異星人について、どの程度分かりました?」
 「ダメ。調査すればする程非論理的。」

 シーマはミーナ達の真似をして、肩をすくめた。

 「個人的見解を述べて宜しいか?」

 乗員の一人が尋ねた。

 「どうぞ。」
 「データの一部を見ました。私は第二級操縦士です。この異星人のレベルからして、亜空間内の回避行動のデータはとても信じられない。肉体的な差を加味しても、あれ程のデータは論理的に得られない。」
 「そうでしょうね。現実に私が遭遇して、その場面を視認しているにも関わらず、それを信じられなかったわ。数値としてのデータよりも、映像としてのデータの方が定性的な判断には役に立ちます。アナライザー、あの映像を。」
 「了解。スピードは?」
 「等速。」

 操縦室のスクリーンがスーッと暗くなり、亜空間内での流星群の近付く様子が映し出された。乗員達はジッとスクリーンを見つめていた。さすがに操縦の専門家らしく、すぐにバリヤーの状況の違いに気付いた様だった。

 「前方だけのハードバリヤーか? 円錐状の様だ。操縦レスポンスをかなり高くしてあるのか?」
 「その通りです。既にオサムが操縦しています。」

 そして激しい流星群の接近に乗員達は驚いていた。

 「これはまだ遭遇直後です。最接近寸前からの様子を。」

 画面は一転してどんよりとした空間になり、画面の端の航跡グラフや、殆ど映らないレーダーも示されている。その中でのオサムの操縦にはただ呆然としていた。




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