マロエの星 第3章 親友 2


 「どうでした?」

 シーマも乗員達も暫く声を出さなかった。あまりにも激しい流星群からの脱出に驚嘆を越え、畏敬さえも感じていたのだ。

 「確かに数値データも驚異的だったが、映像で見るとそれ以上だ。」

 二級操縦士の乗員はマロエ式の敬礼でオサムに挨拶をした。

 「ルーナ・キージス、二級操縦士、異星人オサムに対し、敬意を示します。」

 それにはオサムの方がかしこまってしまった。

 「アッ、いいですよ。本当の事を言えば火事場のバカ力・・・、と、通じないかな?」
 「オサム、私が説明します。地球人のレベルの内、運動能力は僅かに勝る程度です。しかし生命に関わる様な緊急事態、それと・・・、これが説明し難いわね、愛する者を守る為・・・、つまり、自分を犠牲にしてでも守りたい対象、私の事よ。オホン。その為には通常発揮出来るレベルを遥かに超えた出力が出せる。但し、その為の負荷は極めて過大となり、終了後の疲労はマロエ人では死の限界を超えています。」
 「それがこの結果か・・・。だとすると、再現は難しいな?」
 「肯定。精神作用の影響が強いので、その様な精神状態になる事は再びあの困難な直面しなければならないからです。」

 別の乗員はオサムとミーナの衣服に興味を示していた。

 「私は二人の衣服が極めて非効率的だと思います。ミーナの衣服では体温保持が出来ないので、室温を上げねばならない。それにオサムの足の履き物、それは非効率の極みと思われるが・・・。」
 「そうですね。移動性、保温では非効率です。だけど、私達が愛し合うのには一番効率的です。私の衣服はオサムの性欲を昂進させ、オサムの衣服は自分の立場を認識させる。私だってマロエ人です。漂流中の一番効率的な方法をとっていたのです。」
 「先程からのミーナさんの言葉では『愛』それと『セックス』という用語がキーポイントの様ですね。その用語の意味が認識出来ないので、そこから派生する意味が理解出来ない。」
 「そうよね。セックスは私達の常識からは懸け離れていたわ。むしろ否定されてしかるべき行為なの。行為そのものは『交尾』、『生殖』の事なのですから。」

 シーマ達は顔を見合わせていた。

 「『交尾』? 下等動物の繁殖の事か? 生物学的にはマロエ人も先史以前にはその様な状態の下等動物であった。しかしそれが今のミーナにどの様な効果があるのだ?」
 「やっぱりその質問に行き着きますね。それではまずセックスを見て貰いましょう。オサム。」

 オサムはびっくりして後ずさりした。

 「ちょ、ちょっと・・・。まさかここで?」

 そしてシーマ達もまた驚いていた。

 「ミーナ、あなたがその『セックス』、つまり『交尾』に相当する行為を行うというのか?」
 「そうです。ただ、『交尾』をする事によって『生殖』を行う事は不可能に近いのですが。つまり、動物としてのマロエ人には『生殖』が自然状態では不可能である程に進化をしています。それとオサム達地球人の場合、『生殖』は可能ですが、やはり進化の過程として、『生殖』能力は減退しています。しかし確率が低いだけであり、数多くの『セックス』によって『生殖』は可能な状態です。しかも地球人のセックスの目的は必ずしも『生殖』の為ではないのです。殆どが肉体的快楽の為であり、場合によって『愛』という精神的安定を得るのです。」
 「どうも良く分かりません。オサム、『セックス』は肉体的に何か良い効果があるのか?」

 オサムは真っ赤になったまま、モジモジしていた。

 「シーマ、形としては張り型を使ったレズ行為と似ているのよ。ほら、オサムのあれは張り型をつけた人に見えない?」

 シーマも乗組員も、互いに顔を見合わせた。

 「ミーナ、あなたの話を聞いていると、『セックス』とはレズ類似行為という事ですか? まさかそれを実行し、我々に見せると・・・?」

 乗組員達のオーラが激しく交錯する。

 「ほら、ミーナさん。みんなびっくりしているよ。ボク達の星では恥ずべき行為だけれど、マロエでもそうなんでしょう? マロエでは、特に獣性は否定されるべき事なのでしょう?」

 オサムは皆のオーラを見回していたが、シーマとルーナのオーラに違いを見付けた。

 「あれっ、シーマさんは興味を持っているのは分かるけれど、ルーナさんも? 他の人は否定的なのに。」

 ルーナはオサムの言葉に明らかに動揺していた。

 「何を言う。その様な事はない。レズだなどと汚らわしい。」
 「アハッ、図星みたい。」

 ますますオロオロするルーナにミーナもシーマも驚いていた。表情の少ないマロエ人でも、強い精神的動揺によって制御が難しくなるらしい。顔を赤くし、小刻みに震えていた。

 「ルーナ、これもオサムの能力よ。精神状態を読み取る能力なの。以前の私だったら、多分皆さん方と同様、その様な精神レベルの低い衝動は無意味であり、軽蔑していたでしょう。ですが、低いレベルというのは誤りである事を知りました。本能も押さえ付けるべきものだと思っていました。しかし運動能力、行動力の源泉が本能からだという事をオサムが証明してくれたのです。」

 シーマも笑いながらルーナに話し掛けた。

 「まだルーナは操縦士になって日が浅い。大体、地上で暮らしている人間と、宇宙で生きる人間とでは精神的、肉体的負荷が違う。ストレスを残さない事が肝要。如何にマロエ人とはいえ、生物である以上、動物なのだ。動物としての安定を得てこそ、尊厳が保てる。そしてその安定を得る方法は長い年月を掛けての肉体の記憶によって得られる。それが本能なのだ。」
 「し、しかし・・・、私の知る限りの飛行士は、全て理知的で論理的でありました。」
 「当然。理知的で論理的でなければ宇宙には出られない。そして理知的で論理的であるが故、本能に基づく獣性を押さえる事が出来る。そして解放も・・・、ね。」

 シーマはウィンクして見せたが、ミーナの様に自然な行動ではなかった。それはシーマ自身にも分かっていた。

 「確かこういう動作だと思ったのだが、少し違うな。」
 「シーマ、皆さんには非合法の免責という点に関しては理解頂けますか?」
 「ミーナ、それは非合理。私がこのグループの長であり、その長が部分的にだが認めている。だからそれはグループとしての判断であり、全員の意思となる。」
 「しかし今は自由時間でしょ?」
 「自由時間といえども私達は任務中。その様な事は当然の事であり・・・、ミーナ、それは地球人の論理か?」
 「その通りです。」

 シーマは少し考え込んでいたが、やはり肩をすくめて見せた。

 「この仕草だけは我ながら良く出来ると思う。接触以来この意思表示を使う事案が多い。」
 「チーフ、それは何を意味しているのですか?」
 「言葉では説明し難い。」

 ミーナが助け船を出した。

 「そうですね。自分の理解限度を超えている。或いは理解するに充分のデータを得られていない。それでいて現象や結果は認識出来る。故に理解を或いは理解の為の努力を放棄する。しかしそれは恥ずべき事ではないという意味かしらね?」
 「了解、しかしチーフは何についての理解を保留するのですか?」
 「ミーナの言葉は我々の意思統一についての異論だ。チーフの意思がグループの意思であるという明確な基本が地球ではそうではないという事だ。」
 「そんな事はないですよ。司令官と隊員とが別々の行動をしようものなら、特に宇宙では大変な事になりますよ。」
 「ミーナ、オサムの意見とは異なる様だが?」
 「オサム、航行に関してはそうだけれど、個人的な趣味の問題よ。直接任務に影響を与えない個人的な問題に関して迄、グループ全体の意思統一はしていないでしょう?」
 「うん、それは当たり前じゃない。」

 シーマはビックリして腰を浮かし、隊員達も互いに顔を見合わせた。

 「エッ、違うの?」

 むしろオサムの方がマロエ人達の挙動に意表を突かれた形だった。

 「これ程に哲学の違いが大きいとは予想していなかった。」
 「哲学? そんなに大きな問題じゃ・・・。」
 「違うのよ、オサム。私はあなたと生活していたし、あなたの積み荷の中の『本』とかいうデータを調べ、勉強したわ。もし私がオサムと会わずにその本を見たら、とても信じられない虚構の積み上げだわ。だけどオサム自身が無意識の内にその哲学に従っているのを知り、その哲学が地球では当然の事であると確信したの。シーマ、一番の違いは個人と集団の意思の尊重の差なのです。」
 「私もそう思う。オサムの意見からすると、地球では個人の意志の方を尊重している様に推定される。」
 「その通りです。私も最初は驚きました。その様な考えの存在そのものが信じられませんでした。しかしそれが確定していない事も事実です。そうでなければ、オサムが私の為にあれ程努力をする筈がないからです。そして集団になれば集団の意思が最大に尊重されます。しかも過去の歴史を調べてみると、明らかに間違っている集団意志にも従うのです。」
 「・・・? 何? 全く矛盾している。」
 「そうです。矛盾です。しかしそれが短期間の進化・・・、まだかなり低いレベルですが、それでもマロエの辿ってきた歴史と比較し、かなりのペースです。」

 シーマは腕組みをして黙ってしまった。隊員達も混乱してしまっている。

 「チーフ、異星人の接触の例は知っていますが、これ程とは・・・。」
 「そう。だから私が中断したのが理解出来るだろう。データを集めると、より大きな不合理が発生し、その不合理を解消する為のデータを集めねばならず、それが更に大きな不合理を招く。ミーナの言葉ではないが、たとえ低いレベルとはいえ、宇宙に進出している人類の歴史が、その様な不合理だけの論理で積み上げられていると考える事の方が不合理である。外見上は不合理であっても、その実体には合理的な意味がある筈なのだ。しかしそこに到達出来ないのだ。」

 シーマはジッと思考を続けていたが、ハッと思い当たった。

 「そうだミーナ、私はオサムの生物学的な合理性を認識しているが、メンバー達はそれを知らない。むしろこれからの事に偏見を抱くかも知れない。」

 ミーナは大きく頷き微笑むのだが、シーマにしかその意味は通じない。

 「だけどシーマ、下はダメよ。それは私の特権。上ならいいわよ。」
 「それで良い。オサムの価値認識については不満が残るが、それが地球人の価値判断基準である以上は従う。」

 シーマとミーナのやり取りに隊員達は不思議な表情をしていた。

 「これが地球流の意思疎通の方法であるらしい。」
 「チーフ、どういう事ですか? ミーナさんとチーフの会話には非確定要素が多く、言語としての脈絡が欠如しています。」
 「そうなのだ。ミーナは意識的に地球式の会話法を取るが、オサムは当然の事ながらその方法である。ある程度の事情聴取の結果分かったのだが、数日間ここに留まるとして、オサムとの会話に大きな不合理を感じるだろう。それが無用の偏見にならぬ様にしなければならない。」
 「チーフ、回答になっていませんが。」
 「ミーナ、頼む。私には説明が難しい。」
 「了解。オサムとの会話法について説明します。今迄の事象で分かっていると思いますが、オサムとの意思の疎通には音声波動を要します。しかし言語体系の違いから、オサムはマロエ語を修得しているのではないのです。私達マロエ人は言語波動を発する必要もなく意思の疎通が出来ます。しかし言語波動を発するのは意思を確定する為です。波動の発生は精神波をより明確にする為ですから、確定した精神波を発するのであれば音声波動を必要としません。」
 「それは当然ですが・・・。」
 「私達にはね。オサムは違うのです。指向的に精神波を送らねばオサムには意思が到達しないのです。ですからオサムに意思を送りたくなければ、精神波動の指向方法を向けなければよいのです。ですからオサムにはその代償作用というべき意思伝達方法がある様です。私も少しは修得しましたが、ごく僅かの表情や態度の変化でその意思を読み取るのです。それとこれは私にも不可知なのですが、私達の発する精神波を視認出来る様なのです。それも、自分で伝えようとしないで押さえ込んでいる意思ですら、ある程度は認識出来る様です。」
 「ああ、それで・・・。」

 ルーナが声を発した。

 「先程のレズ類似行為の話の時に私の意思を・・・、ウッ、訂正、取り消し。」

 ルーナは再び赤くなって言葉を途絶えさせた。自分が興味を示していた事を告白してしまった様なものだった。

 「さて、先程シーマにはミルクを飲んで頂きましたが、皆さんにも御馳走します。」

 隊員達は不審そうにしていた。

 「チーフ、『ミルク』という言葉に何か別の意味を持たせているのですか?」
 「ミルクは文字通りミルク。」
 「しかし・・・、ここに存在する筈が。しかも我々の、勿論チーフの給与ではとても・・・。」

 ミーナはニコニコしながら搾乳機をオサムに手渡した。

 「オサムがミルクを放出出来る生物なのです。それも極上の物をね。」
 「しかも分離、濃縮を要しない。栄養は信じ難い程高く、しかも保存性が良い。私も先程試して驚いた。そして味が良い。フム、皆、味という事に関しては関心が低いだろうが、それが認識の誤りである事を痛感した。栄養素が低く、飲む価値のない物であっても、私はその味だけでも価値を認める。」

 隊員達は搾乳機を胸に宛てがうオサムを不審そうに見つめていた。そしてルーナが尋ねた。

 「チーフ。オサムはその様な極刑を受ける罪を? いや、それは合理的でない。人権は確保されているし、意思もある。」
 「ルーナ、良く知っているな。マロエ人と言えども動物である。先史以前にはマロエ人も動物であった。個体の繁殖には機械を使わず、その肉体だけで行っていたのだ。****が精子を放出し、マロエ人の胎内に新たな個体を発生させる。****とマロエ人は雌雄の違う同一種であった訳だ。オサム達地球人はその形質を今でも続けているらしい。だから新たな個体を育てる為のミルクを出す機能も現存している。マロエ人の場合には相当の改造をしなくてはならないが、それは脳改造も含めて、人権を奪う事であり、極刑に値する犯罪者の最後の人類に対する貢献をさせる訳だ。」
 「そうですか・・・。ほう・・・!」

 オサムの搾乳機にはすぐにかなりの乳汁が溜まっていた。

 「凄い量ですね。正確な知識はないが、『牛』の乳搾りは手間が掛かると聞いている。地球人は雄が授乳をする点が古代マロエ人とは異なる。」
 「違うよ、ルーナさん。地球人も古代マロエ人もお乳を出すのは女だけなの。ボクの場合はミーナさんに改造されて、こんな大きなオッパイにされたのだから。」
 「改造! チーフ、それは重大な罪では?」

 シーマは頭を抱えていた。

 「それが理解不可なのだ。地球の法律の非論理性で論破されてしまっていて・・・。オサムには被害者意識は存在するのだが、現状復帰を望んでいない。むしろ機能向上であるのだから、犯罪ではないという事らしいが・・・。」

 その間にオサムは乳搾りを済ませ、四人分のコップに注いでいた。

 「四人分?」
 「ええ、シーマさんの分もです。」
 「いいのか?」
 「ボクのお乳を喜んで貰えるのは嬉しいし、隊員さん達はまだ警戒心が強いですから、シーマさんが安心させて上げれば。」
 「ほう、それも地球人の論理か。私がチーフであるから、私の指示で隊員達はそれに従うのだが。」
 「そうですか・・・。でも納得していないと。」
 「まあ、いいだろう。今は自由行動時間であるから、オサムのミルクを飲む、飲まないも各人の判断に任せる。私は。」

 シーマは嬉しそうにコップに口を近付け、美味しそうに飲むのだった。隊員達はジッとその様子を見つめていた。

 「チーフ・・・。」

 そしてまずルーナがミルクの匂いを嗅ぎ、そして舌を当てた。少しミルクを口に喰わえた時、その表情が大きく輝いた。オサムにもルーナのオーラに大きな喜びの感情を感じるのだった。

 「美味しい・・・。凄い・・・。」
 「そうだろう。私も初めての時のショックは凄かった。」

 ルーナの様子に残りの隊員達もおそるおそる口を付け、そして同様に激しい感動に包まれる。

 「これはミルクと呼べる物ではないです。ミルクという言葉の意義を大きく逸脱しています。」

 隊員達はいつ迄も興奮していた。

 「そこで各人、自分のバイオセンサーを確認。」

 隊員達は腕時計の様な器具の文字を見つめ、互いに顔を見合わせていた。

 「ミーナさん、バイオセンサーって?」
 「身体の状態を常時チェックする機械よ。特に航行中はかなりの体力、精神力を使いますから、常に正常に保っていられる様にするの。」
 「異常値?」
 「こちらも。」
 「皆さん、体力値や精神値の昂揚が現れているでしょう。それはオサムのミルクによるものです。アナライザーの分析では有害物は存在しません。」
 「そうなのだ。ミーナがあれ程の生理的時間経過にも関わらず、漂流以前よりも健康値が高かった理由だ。」
 「素晴らしい栄養物ですね。人類でありながらこれ程の・・・。それでオサムはこの様な栄養物を放出する事に苦痛はないのか? それも地球人の自己犠牲とかいう哲学によるものなのか?」
 「それも地球人類の凄いところ。苦痛どころか、快感を感じるのですよ。本当はコップに注いで飲むよりも、乳房をマッサージしながら吸う方が、オサムにはより強い快感が現れるのです。そしてその影響で、ミルクが更に濃く、量も多く、美味になるのです。ただ、快感が強くなり過ぎるのですが。」
 「快感が強過ぎる? それは肉体的な悪影響が?」
 「ウフフ。オサムはセックスしたくなってしまうの。」
 「ミーナさん!!」

 ミーナはシーマに目配せし、オサムの手足の拘束リングを固定した。

 「ウッ、アッ、ダメッ!!」

 そしてミーナはオサムの乳房を揉み解しながら吸い始めた。

 「ホーッ、その様にして飲用するのか。それなら酸化も防げる。」
 「アーン、ミーナさん・・・。ボクは・・・。」

 ミーナは乳房を吸いながらシーマ達にオサムのペニスを指差した。ペニスは元々勃ちっ放しなのだが、それが更に膨張し、艶々としてきた。

 「フーッ、美味しいわ。だけどみんなの前でセックスするにはまだ不充分ね。アナライザー!!」

 アナライザーは既にミーナの行動から****の餌を三本用意してきていた。

 「ワッ、そんなに? ダメッ、そんなに入れられたら。ウクッ・・・。」

 肛門がミーナの意思で拡げられ、隊員達の驚きの視線の中、餌が押し込まれる。

 「それは****の餌か?」
 「そうですよ。生理的肉体構造は殆ど****と同じなので、良く吸収消化します。内分秘腺も少し改造してありますので、残滓も素晴らしい食料になるのです。」
 「しかし****の餌を****の様に尻から入れるというのは、人権を無視する行為では?」
 「確かにオサムはその行為に否定的である様だが。」
 「行為に否定的なのではなく、行為の結果に否定的なのです。いいえ、それも適切ではないわ。私とオサムだけの時には肯定的なのですから。」

 二本目を入れられた時にはオサムは既に興奮状態であり、ペニスは先走りの液を滴らせていた。その香りは全員に好ましい感覚を得させる。そして三本目を腸に吸い込まされた時、オサムは理性を失っていた。

 「シーマ、中断させないでね。多分驚き、場合によっては嫌悪するかも知れない。私が異常状態になっていると感じる筈。しかしそれでも中断はさせないで。それがあなた達の疑問のセックスなのですから。本当に危険状態であれば、私の状態をアナライザーのセンサーが関知しますから。」
 「分かった。指示に従う。アナライザー、それでいいのだな?」
 「その通りです。レズ類似行為ではありますが、比較レベルに大きな差があります。」

 ミーナはベッドに上がり、羽織っていた物を脱いだ。殆ど全裸に近い姿であり、紐状に残っている衣類はマロエ人でも卑猥さを感じさせる物であった。

 「アナライザー、ミーナの衣類には何らかの意味があるのか?」
 「肯定。あの衣類はミーナさんの肉体をオサムの性欲昂進に役立たせる効果のあるスタイルに補正します。」
 「性欲? 動物でいうところの『発情』の事か?」
 「肯定。地球人類の場合、特に視覚による刺激がもっとも大きいと推定されます。」
 「しかしチーフ、あの姿から受ける感覚はかなり下等な精神部分を刺激します。」
 「肯定。地球人の場合でも性欲はより動物的な感情であります。そして地球人は感情をハッキリと表現する種族ですので、ミーナさんの姿に性欲を昂揚させています。」

 オサムは身体を振るわせ、つらそうに震えていた。

 「ミーナさん、ダメ・・・。つらいよ。」
 「この様に拘束している意味は?」
 「それも性欲の昂進に役立ち、ミーナさんによるといいセックスの準備です。」

 ミーナは足を広げ、陰唇を両手で拡げた。その姿はさすがにマロエ人でも眉をひそめる程の卑猥さであった。

 「オサム、みんなの前でのセックスよ。それでもいいの?」
 「お願い、虐めないで。つらいよ。」

 ミーナはオサムの手足のリングの拘束を解いた。ふっと自由になったオサムは一目散にミーナの元へ走り寄り、いきなりのセックスを始めるのだった。そして激しいセックスに、シーマ達は言葉を失っていた。

 オサムはすぐに達し、精液をミーナの子宮に圧入したが、それでも高まりは治まらず、激しいピストンを繰り返すのだった。



 ミーナも何度かのアクメに達し、オサムも催したままではあったが精神的な落ち着きが出てきた。抱き合ったままジッとしていると、やっと皆に見られていたセックスという事に気が付くのだった。

 「アッ・・・、ボク・・・。」

 恥ずかしさで涙を流しながら辺りを見回すと、ただ呆然としたままのシーマ達に気が付いた。ただポカンとだらしなく口を開けたままであった。そして更に僅かの時間後、シーマがハッと我に返った。

 「ああ・・・、何なのだ、この感情は・・・?」

 そして隊員達の様子にも驚いていたが、その時ルーナが崩れ落ちる様にして床に倒れ込んだ。

 「ルーナ!」

 その声に残りの隊員達も意識を取り戻し、アナライザーもルーナに近付いてセンサーを当てた。

 「アナライザー・・・。」
 「肉体的異常無し。精神的過負荷による意識混濁。」
 「大丈夫か?」
 「精神的休養で戻ります。病的な異常ではありません。」

 アナライザーはルーナを抱え上げてソファーに寝かせた。シーマも隊員達も激しい脱力感に覆われていて、床に座り込んでしまった。

 「シーマさん、どうでした?」

 ミーナはオサムと抱き合ったままでシーナに微笑み掛けた。オサムはシーツで身を隠そうとしていたが、拘束リングで抱き合ったままにされている。

 「フーッ、これ程の精神的ショックを受けたのは初めてだ。アナライザー、我々の状態の異常は? まあ、途中で制止しなかったところを見ると異常は無いのだろうな。」
 「肯定。ルーナさんの場合も精神的な感情爆発だけですから異常ありません。」
 「アナライザー、それは論理的におかしい。これ程の状態が異常無しなのか?」

 隊員達も声が上擦っていた。

 「チーフ、これは危険ではないのですか? この様な不安定な精神状態では緊急時の対応が不可能です。」

 ミーナは笑っていた。

 「皆さんは自由行動時間でしょ? それに皆さんは見ていただけ。私は行為者。私の方がより激しい精神昂揚だったのよ。」
 「それは分かる。ミーナのあまりに凄さまじい精神爆発には驚かされた。それにしてもどうしてその様な行為に、我々がこれ程の精神の不安定を受けるのか・・・。」

 落ち着こうとしていたシーマは自分の股間の変化にやっと気が付いた。そして隊員達とソファーに寝かされているルーナも同様であることに気が付いた。

 (まさか・・・、失禁?)

 「アナライザー、替えの下着は在るか?」
 「肯定、準備してあります。」
 「準備? と言う事は想定してあったという事か?」
 「肯定。なおシーマさんは尿失禁であると誤認しています。」
 「何を・・・?」

 その言葉で隊員達も自分達が股間を濡らしてしまっている事に気付き、慌てて立ち上がった。

 「チーフ・・・、私達も?」



 暫くして着替えてきたシーマ達は心配そうにルーナを見ていた。

 ミーナはオサムを拘束したままベッドに寝かせ、ローブを羽織っている。

 「ミーナ、オサムはあのままでいいのか?」
 「いいのよ。口も塞いであるから、意思表現は出来ないの。」
 「本当にそれが地球法で認容されているのか? その様な人権侵害と思われる行為が・・・。」
 「普通では違法よ。ただ、私達には『愛』があるの。『愛』は人権よりも上位に存する。そして私の行為も『愛』の一形態なのです。」

 オサムは餌を三本入れられ、まだまだ激しく催したままで、ギラギラのペニスが宙に突き勃ったままであり、ミーナに目で催促しているのだった。

 「オサムの表情はまだ『セックス』を要望している様だが。」
 「そうです。地球人の男性という種族は、セックスをしたくなると理性を失う程ですから。」
 「ミーナさん。私も『セックス』という行為は理解しました。しかし、依然として意義の理解が出来ません。」
 「そうですねえ・・・。私も地球人程には理解出来ていませんが、素晴らしい行為であるという事は分かっています。あなた達には初めての経験でしょうが、感想は?」
 「感想? レズ類似行為という事だったが、まるで違う。それと依然として漂うこの匂い・・・。」
 「不快?」
 「そうではない。ミーナ、私にはこの匂いがオサムの精液の匂いだという事は分かる。しかし自分自身の劣情を刺激され、また飲用したいという欲望に駆られる。」
 「チーフ・・・メ@『また』・・・?」
 「オホン、データ収集において、オサムの精液を知る為に必要であったので飲用した。しかし栄養価の高い良好な飲用物であった。」
 「シーマ、正直に美味しかったって言いなさい。」
 「ミーナさん、美味なのですか? ****の放出する栄養物もかなりの物だと聞いている。」
 「比較にはなりません。桁が違いますから。」
 「しかしその様な飲料をミーナさんは体内に直接放出させたのでは?」
 「それがセックスなのよ。そしてそれは私だけの権利。『結婚』という状態を得た私だけのね。」



 「チーフ・・・?」

 ルーナもやっと目を覚まし、自分がなぜ寝ていたのかを不審そうにしていた。

 「ルーナ、大丈夫か?」
 「私は・・・、アアッ・・・!」

 やっと自分が失神した理由に気付き、顔を真っ赤にしていた。

 「ん? チーフ、この香りは?」
 「興奮剤の効果のある香りだな。地球人という人類には驚かされる。」
 「シーマ、オサムの精液には興奮を抑える・・・、違うわね、興奮を解消させる効果もあるのよ。シーマが最初にオサムの精液を飲んだ時は精神的興奮状態ではなかったわ。どう、飲んでみます?」

 ルーナはシーマが精液を飲んだ事を知り、驚いた表情をしていた。

 「いや、遠慮する。前回はただデータ収集の為であったし、確かに好ましい飲料である事は認める。しかし、『セックス』の為にミーナの体内に納める肉体的器官である事を知ってしまった今、どうしても人間的尊厳が傷つけられる様に感じる。もう少し自分の感情のコントロールが戻る迄は遠慮する。」

 しかしルーナはモゾモゾしながらシーマとミーナを見つめていた。

 「ん? ルーナ、何か意見か?」
 「あのう・・・、チーフ。オサムの精液を飲用する事は執務規定に反しますか?」
 「その様な規定は存在しない。よって違反もあり得ない。しかしまだオサムは地球の法律の下にある。オサムの精液飲用はその権利者、つまり『結婚』という状態にあるミーナのみに認容されるという事だ。」

 ミーナは笑いながらルーナに話し掛けた。

 「シーマの言葉は少し異なります。セックスはオサムと私のみの行為ですが、精液飲用に関してはシーマにも認めた通り、私の許可があれば宜しいのですよ。」
 「ミーナ、オサムの精液の所有権・・・、これも不可解な言葉だが、人類である以上、オサムの許可が第一義ではないのか?」
 「ええ、普通は。但し私とオサムは『結婚』状態であると同時に『ペット』の関係です。その場合は『女王様』としての私の立場が絶対上位ですから、オサムの精液放出器官、つまりペニスは私の所有物であり、『愛』を伴わない放出は私の一存で認容可能です。」
 「ウーム、その哲学が理解不可。全て審議官の判断に任せる事にしてある。どの様な結果も全てミーナの責任に任せるしかないのだ。」

 ルーナはモジモジしていたが、意を決した様に敬礼をしながらミーナに話し掛けた。

 「ミーナさん、オサムの精液飲用の許可を求めます。」
 「飲みたい?」
 「はい。自分で自分の精神をコントロール出来ません。今はただ精液を飲みたいという意識だけです。」
 「ルーナ・・・?」

 シーマはルーナの惚けた様子を不安そうに見つめていた。隊員達も同じだった。

 「ルーナ、どうしたの? 確かに心を擽る香りだけれど、それでも『セックス』とかをする為の器官なのよ。****に似た器官なのよ。落ち着きなさい。野獣性を呼び起こされているのは分かるけれど、それを克服するのが人間よ。」

 「分かっています。だけど・・・。」

 ミーナはみんなをなだめた。

 「ルーナさんは宇宙に出て間もないのよね。心の訓練が完成していない。と言うよりもより自然な精神の持ち主なのよ。皆さんはセックスが劣情であり、獣性であると思っているわ。だけど私を見ていてどうですか? セックスの最中は自分でも『動物』である事は認めますが、そうでない時の私も精神異常者に見えますか?」
 「その衣服にはまだ少し違和感があるが、そして感情表現が激しい事を除けば論理的で合理的な精神である事は分かる。違和感ではあるが不快感ではない。正直なところ、感情を押し殺さずに済む生活というのは羨ましいと感じる事もある。精神的ストレスは発生しないからな。」
 「もし私がセックスを押し殺していれば精神的ストレスが高まります。セックスそのものは認容出来ませんが、精液を飲む事は地球では『オーラルセックス』と言い、セックスの一形態、或いは代償行為なのです。ですから飲用でもかなりの欲求充足を得られるのです。それに体に良くて美味しい物ですから、肉体、精神に良い効果が出ます。」
 「しかしミーナはそれを認めるのか?」
 「うーん、地球人の思考に随分染まりましたから・・・。私にも自分の感情の変化を論理的に説明出来ません。ですからこれも地球式の思考に従い、私の感情の満足度の高さに従います。以前でしたら私はオサムを自分の独占物にしておきたいのですから、精液飲用は自分の権利を侵される行為として拒絶したでしょう。シーマに許可したのはシーマが私の親友である事、オサムのデータを与える為に必要な事ですから、私の感情を抑えても飲用許可が合理的でした。しかし今は既にオサムが私の独占物であるのだから、私は余裕を持って精液飲用許可が出せるのです。」
 「それが満足度を高めるのか?」
 「そうです。オサムの精液が良い物である事は私は良く知っていますが、客観的ではありません。シーマだけしか認めてくれていませんから。しかしルーナさんも感じれば、私は素晴らしい物の所有者であるという自己満足度が高まります。客観的な満足度の高さは私には重要です。」
 「そうか・・・。執務規定には反しない。地球式の法にも違反しない。そして今は自由行動時間であり、新たに客観的なデータを得られる可能性も高い。何も問題は無いな。」

 ルーナは嬉しさに震えていた。

 「チーフ、宜しいのですか? ミーナさん?」
 「いいですよ。私としては子供が自分の玩具を自慢する様な気持ちですから。飲み方、分かりますか?」

 ミーナはルーナをオサムの方へ誘った。隊員達は複雑な表情で二人を見ていた。

 オサムはベッドの上でペニスを突き勃てたまま拘束されている。口も塞がれているのでペニスを揺する事でしか意思表示が出来ない。

 「ああ・・・、いい香り・・・。」

 ルーナはフラフラとオサムの股間に吸い寄せられていった。そしていきなり亀頭の先端に唇を宛てがい、先走りを吸い始めた。

 「精液が出る時はいきなり大量に出ますよ。」

 ただ強く吸うだけの刺激はオサムにはミーナ程には快感を得られないが、それでも****の餌の大量挿入によって激しく催していたので、すぐに達してしまった。

 「ゲフッ・・・!」

 やはり予想よりも大量の放精だったので、ルーナは精液を溢れさせてしまった。しかしその香りと味に陶然としながらもひたすら飲み下すのだった。


 「ルーナ?」

 呆然とし、しかもただ涙を流し続けているルーナに隊員達が心配そうに声を掛けた。

 「ルーナ、異常は? アナライザー、ルーナの状態は?」
 「異常無し、精神的不安定は解消されました。」
 「これで?」

 ルーナはハッとして皆を見回した。そしてオサムとミーナを見た。

 「ミーナさん・・・、これがオサムの?」
 「どう? 予想以上だったでしょう。」
 「信じられません・・・。この様な飲料が存在するなんて・・・。しかも人間の体内で生産されるなんて・・・。」

 隊員はまだ心配そうだった。

 「ルーナ、身体は?」

 そしてルーナもマロエ人としては殆どしない感情の激しさを剥き出しにしていた。輝くばかりの嬉しさを示していた。

 「凄いのよ。ミルクでさえ驚かされたのに、精液は全然桁違い。ハーッ、元気が満ち溢れてくる。チーフ、チーフも飲んだっておっしゃってましたね? 私の喜びは理解出来ますね?」
 「それは分かる。私も飲みたいとは思うが、オサムへの人権無視の如き行為と、精液飲用の体勢が自分自身の人間としての尊厳を傷つけるのだ。その葛藤がある。」

 隊員達も同意の意を表した。それはルーナにも分かる事だった。そして尊厳を失ってしまう行為を行ってしまった事も美味を素直に喜べなくしていた。

 「ルーナ、少なくとも私は認めているわ。もし私がマロエ人とのレズ行為でこの様な事をするのはあるまじき行為だと思います。ですがオサムは違う。地球人だからという事だけではないの。この様な喜びを受け、そして素直に感じれば素晴らしい事だと実感しています。これは悪ではないわ。ううん、素晴らしい事よ。そして私は地球の『愛』についてもかなり勉強したわ。そして愛する人同士では当然の事らしいの。そうよね。こんなに素晴らしい事が悪である筈がないわ。自然の摂理ですもの。」
 「ルーナさん、地球では当然の事なのですか?」
 「うーん、私とオサムの間では当然の事らしいけれど、ルーナさんの場合は私も良く分からないのです。」
 「分からない? それでは悪の可能性も? 犯罪になるとか? たとえ地球法と言えども、地球人のオサムに対しての行為が犯罪に当たるとなると・・・。」
 「多分それはOKよ。犯罪にはならないと思うわ。」
 「ミーナ、それも論理的におかしい。ミーナの知らない事を肯定する根拠が無い。」
 「ええ、そうですね。だけど事は地球法に関わる事よ。それなら地球人の哲学に従うのが当然。」
 「それは認める。」
 「地球法の法哲理は単純です。『他人に迷惑を掛けてはいけない。』それだけですから。」
 「何? それは法と言うよりは倫理だ。」
 「そうです。ですから地球法には驚く程の抜け穴があります。全く同じ行為が合法であったり非合法であったりする事さえあるのです。その行為の時の精神状況が極めて重んじられるのです。」
 「精神状況? それはデータ化は難しい。いや、不可能だろう。それこそ非論理だ。」
 「そうです。だからこそ地球には審議官制度が無く、単なる利害の調整を行う・・・、ええと、そう、『裁判』制度があるそうです。利害の対立する時、それは当事者同士で決め合い、それで決着のつかない時だけの『裁判』によって決定するのです。」
 「ウーム。そういう事も審議官に判断を任せるしかない。それでルーナの行為の法的な立場はどうなる?」
 「あら、分かりません? 当事者同士で決めれば良いのです。この場合、ルーナと私だけの利害関係ですよ。オサムは私の『所有物』ですから、私の『所有物』の使用を私が認めたのです。そしてオサムは私の『所有物』としての立場以外に、人類としての立場、つまり人権もあります。立場は常に変化するというのが地球人の考え方ですから、それも考慮に入れます。オサムは****の餌を大量に入れられ、高い発情状態です。ですからオサムは精液放出をしたい。私はそれをルーナに許可した。誰の迷惑にもならないですわよ。」
 「どうもミーナの言葉は詭弁に聞こえる。しかし私は判断を留保しているのだから、ミーナの言に従おう。それもデータ収集の役に立つ。」

 ルーナはホッとした様にしゃがみ込んだ。

 「ミーナさん、宜しかったのですね?」
 「どうだった? オサムの精液。」
 「素晴らしい物でした。自分が飛行士である事を忘れてしまいそうです。それ以上にマロエ人としての誇りも失ってしまいそうです。」
 「ルーナにはミーナと同じ感性がある様だ。我々には混乱が増すばかりだから、データの整理や精神的な休養の為に自船に戻っている。ルーナ、自由行動を許可してあるのだから、ミーナと『セックス』について話し合っていても良い。もし理解出来れば良いデータになる。我々の言語に変換出来ればなお良い。」
 「了解しました。ミーナさんとの話し合いを通じ、意義の理解とデータ収集に努めます。」

 シーマは肩をすくめる真似をして残りの隊員達と出ていった。

 ルーナはシーマに対する敬礼をやめ、ミーナに向かい合った。

 「何から伺えば良いか・・・。チーフ程の経験がありませんので、全てがショックを受ける事ばかりです。」

 ミーナは微笑みながら椅子に腰を下ろした。

 「ルーナさん、私はオサムと長い間漂流生活をしていて、オサムと同じ様に表現された意思とは別の意思、つまりあなたの心の動きが分かるのよ。まあ、オサム程の能力はありませんが、表情の僅かな変化を読む事は出来る様になっています。」
 「恐ろしいですね。」
 「いいえ、意思に発せない希望を読むのですから、あなたが何をしたいのか、そしてそれを言い出せない理由が分かるので、むしろ私の方から先にその望みを叶えて上げられる様に出来るのです。それが地球の『思いやり』と言う行為なのです。ですから、ルーナさん、オサムの精液を飲んで上げて下さい。」
 「エッ? どうして? 私の表情にその様な意思が表れているのですか?」

 ルーナは両手で自分の顔を擦った。卑猥な思いが表れている事を慌てていた。

 「それは私の経験からの類推で済みます。オサムの精液の美味しさを知ってしまったら、一度で満足出来る筈がありませんから。それにこれは私からのお願いでもあるし、オサムの望みなのですよ。可哀想にあんなにペニスを突き勃てたままで。」

 オサムは激しい欲情で、涙目で二人を見つめていた。とにかくミーナとのセックスを、そうでなくても射精したかったのだ。

 「宜しいのですか?」
 「勿論。地球法では『他人に迷惑を掛けない。』が原則よ。それを裏返せば、『他人が喜ぶ事をしなさい。』です。ルーナさん、オサムが喜ぶ事をして上げるのは善なのですよ。」

 ルーナはフラフラと立ち上がり、オサムの突き勃てているペニスへ近寄った。オサムの表情が明るくなり、それはルーナにも喜びという意思を理解出来るのだった。そしてルーナはペニスにかぶりつき、激しく吸い上げるのだった。

 (いい香り。人間からこの様な飲み物が出るなんて・・・。美味しい。)



 「ミーナさんはこんなに美味しい精液を飲まずに体内に送り込んでいますが、それで宜しいのですか?」
 「フフフ・・・。セックスの事ね。元々動物は精液は雌の子宮に入れる物なのですよ。多分・・・、これは私の想像ですが、地球人も原始動物だった頃は飲用しなかったと思うの。セックスは種の保存の為ですからね。しかしセックスの主目的が愛と快楽の為に変質していくと同時に、セックスがすぐに妊娠してしまう事を避ける様になった筈です。それは人口爆発を起こすでしょうし、何よりも妊娠期間中にはセックスをし難いですもの。だから性器だけでなく、口でもセックスをする様に変化していったのではないでしょうか。その為には精液は美味しくなくてはならないわ。元々が栄養価の高い物ですから、栄養のある物は体にいいのですから、わざわざ不味くしておく必要はないですものね。」
 「ハーッ・・・。」

 ルーナはただ感心してミーナの話を聞いていた。

 「だけど地球人とマロエ人とはもっと相性がいいのよ。尿については内分秘腺の改造はしていないわ。だけど素晴らしい飲み物ですし、排泄物は僅かの改造でこれも素晴らしい食料になったわ。マロエ人の尿はオサムにもいい飲料なのですよ。ただ、マロエ人の排泄物は老廃物が多く、オサムには適しません。多分改造しても無理ですね。」
 「排泄物迄・・・。」
 「地球人はマロエ人にとっては消化出来ない程の物でも消化しますし、****の餌ですら残滓が美味しいの。だから草を・・・、オサムに言わせれば『野菜』と言うのだそうですが、そのまま生で食べられるし、その排泄物は最高の御馳走よ。」
 「凄いですね。だからこそミーナさんが亜空間からの帰還が叶った訳ですね。」
 「そうよ。それにルーナさんも驚いたでしょうが、あの操船技術。最初のセンサーチェックでのレベルの低さから期待はしていなかったわ。だからこそよけい驚いたの。私達の世界でのレベルは人権迄も決定する最重要項目でしょう。その概念を打ち砕かれてしまったので、一体レベルとは何か、それ以上に人間は何かって哲学させられる事になったの。オサムの哲学は何か、そして地球人の重要項目であるセックスとは何か・・・。本当の事を言うと、最初にセックスがあったのだけれどね。そして自己弁護の為の理論付けが必要だったのよ。そうしないと、オサムに嫌われ、私もマロエ法により処罰される可能性がありましたから。」

 ミーナは少し真剣な顔をした。

 「あなたもかなりセックスに興味がある様ですが、オサムとのセックスだけはダメよ。それは夫婦である私達だけの行為なのですから。」
 「ええ、分かっています。興味はありますが、まだその価値は分かりませんから。それに私の場合は地球の法を犯す事が確実なのですね。それはマロエ人の誇りに掛けて出来ません。」
 「ねえ、ルーナさんは自由行動時間なのですから、オサムの船から持ち込んだ物の整理を手伝ってくれませんか? ある程度は分類したのですが、私の独断によるものですから、間違いがあるかも知れない。」
 「それは不可能です。生理的期間として数カ月の漂流中にずっと思考続けてきたミーナさんと、私とでは哲学の知識もありません。」
 「それは建て前。本当はオサムのセックス用品を一緒に見て楽しみたいのよ。原始的な『本』というデータ収集物も楽しいですよ。」
 「そうですか。興味はあります。数日ですがこの様な高揚した気持ちを楽しみたいと思います。」
 「その間はオサムは拘束したままにしておきますから、好きな時に精液やミルクの飲用を認めます。本を見ながらの飲用もまるで子供の様な下品さで楽しいですよ。」
 「それは確かに不躾ですね。ですがこんな時でないと出来ませんね。」

 ミーナはルーナの肩を抱いてオサムの備品の倉庫へと向かうのだった。



 ルーナにとり、オサムのセックス用品は原始的ではあるものの、激しいカルチャーショックを受ける物だった。ミーナの時は使用方法が分からないながら、時間を掛けて調べていたので、割りと冷静に受けとめられた。しかしルーナの場合はいきなり激しい変態セックスを知ったのだった。

 「こんな事が? 本当に地球では許されているのですか?」
 「必ずしもそうではないらしいわ。かなりの誇張と想像の産物らしいわね。」
 「それでも当事者同士が認容していればこの様な・・・SMですか、そういう行為も認められるとは・・・。」
 「だけど本当は犯罪になる程のSMの方が楽しいらしいわね。」
 「ミーナさん、それはいけません。犯罪はあくまでも犯罪です。人間としての尊厳を失ってはいけません。」
 「それは当然よ。どんなに楽しくとも、犯罪が楽しい筈がありません。そして地球人の論理、犯罪であっても免責される様な・・・。」

 ミーナはチラッとルーナを見ながら、何かを考えていた。



 ルーナはアナライザーの作った翻訳機にオサムの本をセットして読んでいた。本の中でもかなりのハードコアエロ本だったのだが、夢想と現実の違いの分からないルーナにとっては全て地球での現実であったのだ。激しいカルチャーショックは肉体に劣情を催させ続け、かなりの頻度でオサムの精液を飲み、精神的な落ち着きを取り戻さねばならなかった。本の中では、オサムもそうであったのだが、犯され、堕ちた女は全て肉体の快楽の奴隷となり、ただひたすらセックスをする身体にされるのであった。膣の快感だけでなく、肛門への責めが肉体に快楽をもたらせるという事を知り、興味は更に深まるのだった。

 「アッ、アナライザー、ちょっとここを教えて。」
 「了解、ルーナさん。」
 「ここなんだけれど、『バイブレーター』と言うのは『振動体』と言う意味とは異なるの?」
 「肯定、一部否定。」
 「概念が掴めない。責めの道具らしいが、嫌悪の対象とされていながら愛好物でもあるらしい。効果の良否も不明。」
 「マロエ語での説明は不可。相当する概念を示す言葉が存在しません。」
 「それも不可解です。物の存在、非存在、或いは意識の中の概念ですらそれを意味する言葉が在るのが当然なのだ。マロエ語が言語として不完全なのか?」
 「否定。今迄にその概念が無かったのですから、その言葉が存在しないのです。新たに言語を開発しなければなりません。」
 「その能力も権限も無い。地球式に判断を留保する。」
 「ルーナさん、オサムの備品の中に現物が在ります。」
 「在る? 見せて下さい。判断の材料になるわ。」

 ルーナはアナライザーに案内され、倉庫に行った。そして数本のバイブを不思議そうに、怪訝そうに見ていた。手触りを調べ、構造の理解をし始める。

 「こんな物が? 単純な構造。使用方法はレズで使う張り型と同じだと思うが・・・。これで精神状況の変動が起きるとは・・・。」
 「ルーナさん、SMにおいては使用状況を考慮に入れるべきです。」
 「使用状況? これだと単に自分で挿入するか、相手が挿入するかでは?」
 「そういう意味ではありません。本によると、自分の意志に反して挿入される場合が多い様ですね。自分での挿入に際しても、その様な状況を想像しての場合があります。」
 「そうなのだ。『意志に反して』という行為が多いとは感じる。だがそれが何を意味するのか・・・。」
 「それも難しい質問です。仮定の状況を想定し、想像してみるしかありません。」
 「仮定とは?」
 「レズ行為を自分の意志に反して行われる状況を想定して下さい。」
 「それはあり得ない。想定は出来ない。」
 「ですから想定です。実際には不可能です。」
 「それにしても自分が拒否しているのだから、そのバイブレーターの挿入は無理だ。」
 「否定。犯罪の有無は別にして、物理的には可能です。それではかなり厳しい状況を設定しましょう。ルーナさんは全裸にされ、医療用開脚内診台に固定されます。自らの行動は不可。手錠等で完全拘束されます。そして開脚され、数人の第三者に陰唇を拡げられ、そのバイブレーターを挿入されます。」
 「ヒーッ・・・a@何という想定を・・・。その様な人権無視は・・・。」
 「そしてバイブレーターを起動され、劣情を刺激されます。そしてその状態をずっと他人に見つめられ続けます。勿論、絶頂に達する迄続けられますし、何度も何度も、そして何日も色々な人に覗かれながらあなたは喘ぎ続けます。」

 ルーナはその想像に自分の股間を脱力させた。失禁しながら意識を失ってしまった。



 「アナライザー、ルーナの状態は?」
 「精神不安定による意識混濁です。ミーナさんのセックス観察の時と同レベル。異常無しです。」
 「それにしてもルーナの精神変動値は大きいわね。」
 「一部否定。大地での通常レベルです。現在は自由時間であり、ルーナさんには宇宙飛行士としての精神的緊張状態はありません。そのノーマル状態での精神的刺激による失神です。」
 「それにしても症状は激しいわ。それでも異常ではないの?」
 「仮定でなら・・・。」
 「あら? アナライザー?」
 「肯定。」
 「エッ? 私は何も言っていないわよ。ヘーッ、あなたもオサム式の論理を使えるの? プログラムの変更?」
 「一部肯定。自己学習機能です。私自身の演算能力は限定されています。ずっとオサムの行動にはオーバーフローを起こします。ですから原因、過程、結果の計算を放棄し、原因と結果のみの記憶をし、新たな結果の発生に対し、計算ではなく、類推出来る近似原因を探し、その時の結果との乖離を計算するのです。結果的にはオサムの地球式論理構造を近似出来ます。」
 「凄いわね。それでアナライザーとしての仮定とは?」
 「私には精神構造の精査をする機能はありません。ルーナさんの精神構造がミーナさんのものと近似的であるという仮定を立てます。」
 「それから?」
 「ミーナさんとルーナさんの『セックス』に関する知識の習得状況の差を比較します。これが大きく影響しています。ルーナさんはミーナさんの分類、翻訳、推定の作業を一切経験していません。そして更に『セックス』に関する論理の不正確さに対する認識がありません。つまり資料は全て現実であるという錯覚を起こしました。」
 「そうか・・・。確かにあの資料はマロエの論理には反しているわ。真と偽、地球式に言う妄想とが混在している。だけどそれがルーナの激しい精神変化にどう関係するの?」
 「ルーナさんの場合、現実として錯誤している知識を自分なりに認知しようとすると、その被行為者として類推する方法を採っています。」
 「イメージトレーニングですね?」
 「肯定。しかもミーナさんの場合と異なり、いきなり、かなり高度のSMを類推思考しました。その結果、ミーナさんの現在の肉体的、精神的限界を超えたイメージトレーニングにより、脳の思考能力以上の負荷となり、思考停止という避難方法になっています。」
 「分かったわ。そうでしたね。もし私が最初からこの『本』を理解しようとすれば、同様の結果になる訳ね。」
 「一部否定。ミーナさん、或いは他のマロエ人であっても、最初にこの『本』を読もうとした場合、当然ながら非論理、非倫理、そして犯罪的事柄に対する反発が起きます。イメージトレーニングの様な類推思考の中に自我を設定しません。ルーナさんの場合、犯罪ではないという確認、そして好ましいという感覚概念が存在します。そしてオサムのミルク、精液飲用により、現実感があります。その上での事実の錯誤があり、自分のSMに対する精神的抵抗の限度を超えたイメージトレーニングだからです。」
 「フーン・・・。だけどそれはルーナの精神状況には悪影響、ダメージを与える。アナライザー、それを黙認した訳は?」
 「黙認については否定。予想範囲を超えていました。」
 「超えていた? どういう事?」
 「最初の仮定に誤差があったと結論します。ルーナさんの精神状況とミーナさんの精神状況が近似的であるという仮定です。特にセックスに対する感情、思考形態は一番近似していますが、その感受性に関するレベルはミーナさんよりもルーナさんの方が激しいのです。それと適当な言語がありませんので地球語で言うと『スケベ』の程度と質に違いが認められます。」
 「難しいわね。セックスに関してはマロエの概念では計算出来る筈がない。私の地球語の理解能力もまだ不充分ですが、地球の概念でしか説明がつかないという事ですか?」
 「肯定。これは推論です。確定していませんが・・・。」
 「それで結構。地球式論理を採用します。結論が正しければ、思考方法に誤りがあったとしても受け入れる。或いは後に変更すれば良い。」
 「了解。ミーナさんは緊急避難としてやむを得ずオサムとSMしました。その過程とオサムの不充分な知識でその役割が決定しました。オサムが『ペット』でミーナさんが『女王様』という。しかしその他の要因として、既に二人にその素養が存在していたと推定します。緊急避難に対してその素質が好結果として発現しました。ルーナさんの場合、素養として『ペット』或いは『M』としての資質があると仮定すると、この様な激しい感情変動を説明出来ます。」
 「なる程、理解する。結果を導き出すに必要な仮定であり、その結果が真であるなら、その仮定も真であるという地球式論理では正しい。」
 「マロエ人の性格をSM論で論じる方法は存在しません。しかし新たな理論を形成出来そうです。」
 「新たな理論?」
 「一部肯定。現象と仮定のみであり、その真偽は不定。まだ『M』と推定される個体はオサムとルーナさんだけであり、『S』と推定される個体はミーナさんとシーマさんのみである。統計的には個数が少なく、統計論的には否定される。しかしそれぞれの共通性が極めて近似。」
 「近似?」
 「肯定。オサム、ルーナは操縦士としての能力が高い。操縦士としての素養は何か。瞬時の判断能力であり、洞察力である。オサムでは実証されている。洞察力とはオサムの言う『勘』であり、想像力である。非現実事項についても想像しうる能力である。SMは両者にとって非現実事項であった。それを想像する事により、現実感、イメージトレーニングとして疑似体験しうる素養です。操縦士は常に船長の下位に属します。従属に対し心的安定を得、上位の者に対し、先んじて行動をします。これはセックスの場合のSM関係に近似しています。」
 「フフフ・・・。」

 ミーナはアナライザーの突拍子もない理論に苦笑いをしていたが、それでも一応は納得出来ていた。

 「確かに新しい理論よ。そういう方向での分析論など存在しない。思い付きもしない。しかしルーナにオサムと同様の嗜好があるとは・・・。アナライザー、仮定として・・・、あくまでも思考実験の様な仮定として・・・。」
 「地球式思考方法では肯定の確率大。」
 「エッ? アナライザー、凄い! 分かるの?」
 「肯定。並行処理方式の論理組立の学習効果によります。拡散確率収斂法の一種です。但し幾つもの仮定があります。確率は高いのですが、現在の推定確率、38%から79%。有為性は認められます。」
 「そんな程度の確率?」
 「肯定。しかし一般マロエ人の推定確率、7%から29%。シーマさんの場合では2%から8%です。その比較から見ても極めて高い有為性です。」
 「なる程ね。理解。うーん・・・。」

 ミーナはまだ意識を失っているルーナと、部屋の入り口に視線を走らせた。

 「乗員達は休息中。」
 「アハッ、すっかり私の事を予測出来ているわね。それで推定はどう?」
 「不確定要素が多過ぎます。ミーナさんの望む予測もある程度の確率、25%から67%です。」
 「ウーン、その程度・・・。それを上げる方法もあるわね?」
 「肯定的。」
 「肯定・・・ではないのね?」
 「肯定的。ルーナさんは既にSMについてかなり積極的な受け入れ体制になっていると思量します。ミーナさんとの関係では疑似セックス行為、レズ類似行為でSM地位確定ははかられます。しかしルーナさんはミーナさん同様、或いはそれ以上の確率でオサムとのセックス行為を望みます。それはミーナさんの意志に反します。」
 「そうよね・・・。地球の概念でもオサムが『妻』の私以外の人間との行為には抵抗を感じる筈・・・。これは不思議な感情だが、私が既得権として得た『妻』の地位はマロエ人には無意味であるのに、マロエ人である私がそれに固執する。」
 「『本』の中に色々な種類のSM設定資料が在りました。今回の場合に適用出来るかどうかの計算は不能。データが極めて少ない。」
 「どんなデータ? 可能性の参考にしたい。」
 「Sの女性、つまりここではミーナさん。それに対してペットのMの男性と女性、オサムとルーナさんに対応させます。S女性はM男性をセックス道具として使用する。その道具を使用してM女性を責めるという構図です。」
 「エエーッ? じゃあ、ルーナとオサムにセックスを認容するの?」
 「肯定。但し、従順の褒美としての他に、辱めの為の行為です。」
 「辱め? それは自尊心を失わせるという意味の事?」
 「肯定。」
 「理解不能。セックスが自尊心を失う事にどうつながるの?」
 「M女性はセックスを願望します。充分に欲情させておき、公衆の面前でセックスをさせるのです。」
 「それは不可。マロエでは当然犯罪行為であり、おそらく地球法でも犯罪に相当する。」
 「一部肯定、一部否定。肯定部分。現在の状況、或いはその延長では地球法でも犯罪となります。」
 「と言う事は・・・、現在の状況から変化させる事で犯罪にならない方法があるの?」
 「肯定。但し、かなりの困難が予測出来ます。」
 「ヘーッ、で、その方法は?」
 「ルーナさんの人権を否定する事になりますが、それは不可能。しかし地球法では可能となる。地球法による人権の否定がマロエ法で認められるかどうかは不定。可能な場合でもオサムの場合の様に、地球の慣習法によってミーナさんに従属する事が前提。それでもミーナさんが二人の『ご主人様』の役割を担う事は否定的。更に・・・。」

 アナライザーは色々な可能性を細かくミーナに説明していた。



 「リーダー、異星人文化との接触の例では、その様に事があったのですか?」
 「私の知りうる限り、この様な例は無い。まずこれ程に外見の似ている異星人の存在はない。哲学の違いを大きく感じるが、それは外見の近似性が大き過ぎるので、より乖離を感じる。」
 「外見の近似性は生命発生時の状況の酷似から来ると思われます。DNA構造は不明ですが、それでもかなりの近似を推定出来ます。しかし文明の発展の状況には大いな差異があり、人類としての進化に迄、決定的な差を生じたのかと・・・。」
 「是認する。僅かな情報ではまだ確定出来ないが、救助船の到着迄に、データを収集する事に専念する。」
 「それでは待機は終了ですか?」
 「いや、待機は続行。チームとしての情報収集は、今回の場合は効率が悪いと思う。最重要情報すら確定出来ないのだ。方向性の定められない状態での集団行動は能率的ではない。そこで待機状態のまま、各自の専門分野について調査する事とする。」
 「調査となると、待機では不具合かと・・・。」
 「やはり待機で良い。調査対象は我々とは異なる文明である。我々の哲学では誤った判断を下す事となる。地球という文明を調べるには、我々の先入観念を排除しなくてはならない。比較文明論的手法をとるのが良いと思う。」
 「疑問提示。比較文明論は遺跡文明、終焉文明との比較方法であるが。」
 「肯定。しかし現状はそれを可とする。確かに現存する文明ではあるが、ここに存在するのではない。遺跡よりも少ないデータしかないのだ。オサムという地球人と、僅かの文明の証たるデータ。」
 「理解。」
 「一切の先入観念を排除するのは不可能。そこで待機状態とし、オサム及びオサムとの生活習慣から整合性を持たせているミーナとの比較。そして我々が違和感を感じる事柄を全て収集する。」
 「了解。自由行動を続行します。」
 「私の専門は遭難救助。しかしここ迄は『セックス』という生物学の分野や法律論、哲学だ。全く専門外であり、相手がミーナでなければ任務放棄していたかも知れない。」

 部下が去った後、シーマは再び肩をすくめる仕草をして、柔らかいソファーに身を投げ出した。



 外見的にはずっと待機状態のまま、隊員達はミーナとオサムとの会話をし、頭を抱え込むのだった。ただ、ルーナだけが生き生きとしており、外見的にはデータ収集に勤しんでいた。

・・・・・・・・・・・・・・第三章  終わり




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