・・・・・第四章・・・・審議

 ビープ音が響き、救助船の接近を知らせた。シーマはスクリーンに向かう。

 〈まもなく接舷します。〉
 「了解。接舷準備済み。交代準備完了。」
 〈データは受け取っているが、非論理的データであり、結論が得られていない。数日間ではあるが先着隊としては明らかに職務怠慢であり、査問の必要がある。遭難船検証ののち委員会に諮る。よってそのまま待機せよ。〉
 「反論します。我々は予想外の現実に当惑した事実は認めます。結論の出せる事象ではなく、専門家に判断を委任するという判断を下しました。今現在、この判断は正当であったと認識しています。その判断の為のデータ収集に専念しました。」
 〈反論は認める。〉

 スクリーンのマロエ人は映像外の誰かと何かを打ち合わせていた。

 〈しかし待機命令はそのままである。〉
 「了解。仮定ではありますが、もし交代命令が出ていたとしても、我々は現状待機を願い出るつもりでありました。」
 〈非論理的である。理由は?〉
 「はい。我々は専門外ではありますが、そしてわずか数日ではありましたが異星人との接触によりデータを得ました。そして専門外であった為、文章として表現出来ない事項が多く、送出したデータは自分自身でも精神的苦痛を感じる程の不満足な報告でした。専門用語能力のある救助隊に補足を願うつもりでした。それとこれは個人的な問題として、本来の任務には関わらない事ですが、遭難者のミーナは私の親友であります。ミーナを良く知る私がその変貌に驚異を感じます。精神的な異常は検出されないのですが、不可解であり、これからの親友としての付き合いにこだわりが・・・。」

 側でミーナはニコニコしていた。

 〈それも理解する。〉

 レーダーには大きな船影が映し出されていた。そして接舷を示す振動が伝わる。

 〈接舷した。〉
 「それではそちらに移動します。」
 〈待て。通常の遭難検証ではないのは異常データで分かる。よって微分析アナライザーを先導として、当方よりそちらに移る。〉
 「了解。」

 映像が消え、シーナは額の汗を拭った。

 「シーマ、間に挟まれて大変ね。」
 「全く、ミーナでなければ・・・。こんなにつらい報告は初めてだ。」



 すぐにアナライザーよりも大きなロボットとともに数人のマロエ人が入ってきた。シーマ達よりも年かさだが、マロエ人独特の優雅さを保っている。そして警戒しながら辺りを見回していた。その様子にミーナは笑いを堪えていたが、その様子もマロエ人には異様に感じるらしく、警戒したままだった。

 「シーマ・レイザス二等艦長。」
 「はい。私です。」
 「第八宙域遭難救助隊長ネンリ・キーレイです。」
 「お待ちしていました。こちらが遭難船船長ミーナ・ミンリッジと地球人のオサム・ハギノです。」

 オサムが深々と頭を下げ、ミーナも同様にお辞儀をした。隊長達は訝しそうに見つめていた。



 救助隊長以下五人のマロエ人と向かい合ってオサムとミーナが座り、その後ろにシーマ達が控えている。

 「我々は審議官資格があり、通常は遭難や事故の責任の裁定を下す事が出来る。法律上は合議制であるが、コンピューターでの過失判断を参考にする。しかし既に受信したデータではコンピューターでは判断の結論が出ていない。これは異常事態であり、故意に操作したデータであるかとの疑義もあった。その疑いはこの船のアナライザーの調査で晴れている。コンピューターで判断出来ていない以上、我々の合議で結論を出す事となるが、互いの専門分野が異なり、審議の方法論ですら結論が出ていない。」

 苦渋の表情の隊長にニコニコしたままのミーナが答えた。

 「隊長。審議には審議官全員の審議制と少人数の審議委員会があると思うのですが。」
 「その通り。審議官は専門分野外でも審議する資格がある。よって審議委員会の結論は審議制と同様の拘束力を持つ。」
 「それでは審議委員会の裁定を希望します。」

 シーマは慌ててミーナに話し掛けた。

 「ミーナ、分かっているの? 大勢の審議制の方がより合理的、論理的な結論が出易く、犯罪行為の責任についても情状の余地が大きくなるのよ。」
 「分かっているわよ。一番の問題が『セックス』と『結婚』、そして私がオサムを『所有』している点の法律問題なのよ。シーマ達にさえなかなか理解して貰っていないけれど、それを審議官全員に理解して貰うのは更に大変よ。」
 「それは理解。しかし委員選任は更に難しい。」
 「その通りです。我々も主任審議官を誰にするかの判断が別れています。」
 「委員選任は被審議者にも出来る筈ですが・・・。」
 「それは・・・、確かに法律的には可能である。しかしその適性を面識のない被審議者に出来る筈がない。面識があるのであれば、それは予断を招く事となり、審議から除外される。」
 「そうだ、ミーナ。審議官への無礼を省みず言わせて貰う。少人数の審議では、感情的な審決で不利になる事が多いのだ。」
 「分かっています。だけど、私達に好意的な審議委員だったら?」
 「それをどう判断するのだ?」

 審議官達もちょっと恣意的な表情を示していた。

 「オサムが居るわ。ルーナの性格を分かるオサムの能力よ。」
 「アッ・・・。」

 シーマがミーナの言葉に納得する様子はますます審議官を訝しそうにしていた。

 「それではミーナ、誰を審議委員に選定しますか?」

 隊長は重々しく尋ねた。

 「オサム・ハギノも異星人とはいえ当事者です。オサムに選任権を委ねます。」
 「この地球人に?」
 「いいのか? 場合によっては重罪の裁定を下されるかも知れない状況なのだぞ。それを委任するのか?」
 「私の結論は出ています。ネッ、オサム。」

 オサムはドギマギした表情で、

 「ミーナさん、ボクは審議官制度について知らないんだよ。そんなボクがどうして・・・。」
 「ミーナ、やはり無謀ではないか? 異星人であれば、当然知らないだろう。それにシーナの言っている通り、公正が前提ではあるが、人間である以上感情に左右される。あってはならない事ではあるがやむを得ない。しかも今回の審議にはかなりの困難を伴うと予想される。」
 「ミーナさん、無理だよ。ボクがミーナさんと会ってからの期間でも、あまりの違いに驚いたでしょう? 結婚していてもまだボクはミーナさんの事を知らなさ過ぎるし、ミーナさんだってまだ分かって貰っていない。それを初対面の人に・・・。」
 「いいのよ。オサムに審議官の誰が何の専門家という事を知らせても、判断出来っこない。」

 審議官は驚いた様子だった。

 「ミーナ、本気なのか? 被審議者は当然ながら事故の事実を理解して貰う為に、問題点の専門家を任命しなくてはならないので、法律上もそうなっている。形式的ではあるが、我々の個人能力一覧はこの様に用意されている。」

 隊長はファイルをミーナの前に押し出した。

 「オサム、私達の事を、根源的に理解してくれる方に委ねるのよ。貴方はこの中からルーナさんの様な人を選べばいいのよ。データは全て送られています。勿論映像データもよ。シーマ達と違い、現場にいらっしゃった訳ではないので、現実感は異なると思いますが。」

 オサムはパッと顔を輝かせた。

 「アッ、そうか・・・。エッ? だとすると、ボク達がシーマさん達の前でしてしまったセックスも見られていたの?」
 「そうよ。ほら、恥ずかしがる必要はないのは分かっているわね?」
 「それだったら・・・。」

 オサムは審議官達を見回していた。

 「ミーナさん、確認してもいい?」
 「確認?」
 「大体見当は付いているけれど、ボクのあれ・・・、見せていいかな? その反応を知りたい。」

 ミーナは噴き出してしまったが、審議官達はミーナのデータを得ていたし、かなり感情を表す状態という事が分かるのだった。

 「そうね。一番の問題点ですからね。」
 「うん、分かった。」

 オサムは椅子から立ち上がり、やおらガウンを広げた。屹立したペニスが見回す審議官の方に突き出される。

 「ウッ・・・?」
 「ミーナさん、この人・・・。」

 オサムはペニスで一番右端の審議官を指し示した。

 「エッ? 私か?」

 そして他の審議官達も驚いていた。そして大きく息をして隊長が頷いた。

 「やはりな・・・。シーマからのデータを検討したが、意見が全く分かれていたのだ。全面有罪は居なかったが、一部有罪、そこ迄はいかなくとも一部嫌疑の意見が多かった。しかも嫌疑の分についてはまちまちであり、意見統一が図れなかった。その中で全面無罪の意見を述べていたのがレイムだった。レイムの意見では、不完全データではあったが、ミーナの審議に有利に事を進めるには自分を主任に指名する事であり、オサムの能力ではそうなる可能性があると・・・。私には理解出来なかったのだが、レイムの知識ではそう判断出来る基準があるという事だ。判断の基準のある審議官が審議するのは当然である。そこで私もレイム・ハーノンを主任審議官に推薦する事とする。」

 レイムは立ち上がった。

 「これより主任審議官としての意見を述べる。審議官制度ではデータにより審議し、結論を出す。しかし私の得ているデータは不完全であり、あまりにも広範囲の知識能力を要する。だが、最重要の問題点は極めて限定されている。ミーナ・ミンリッジがオサム・ハギノを『結婚』という地球法に則り『所有』したという事案である。この事案の法的可否により、オサムの主張する免責の成立の可否が判断される。」
 「主任審議官、審議団長としての疑義がある。確かに最重要事案である事は認めるが、それに付随する各事案の検討についてはどうするのか? レイム・ハーノンの専門分野は遺伝学、生物学である。法律論、しかも異文明の基の法律であれば比較法律論の学者でないと・・・。」
 「隊長、いや審議団長、人権無視の如き行為事実そのものは法律論的には既に偽であります。オサムが私を審議委員に任じたという事はその能力で私がその様な法律論的結論を急がないという事を予測しての事でしょう。その予測の根拠は不明ですが。私は生物学者としての立場で審議したいと思います。」
 「了解する。この様な事案は初めてだが、結論の推論は出ている。」
 「推論?」

 ミーナはニコニコしていたが、シーマは怪訝そうにしていた。

 「主任審議官。」
 「何か? シーマ・レイザス。」
 「審議制ではデータでの真偽が確定しない場合、審議についての予断は排除されねばならない筈です。結論の推論とは、既に大きな予断が含まれている様に思いますが。」

 ミーナは相変わらずニコニコしている。

 「ミーナ、その表情から私の得られるデータは正しいのか?」
 「ええ。私がオサム程ではないにしても、僅かな顔面の表情変化からその意を汲み取る能力を得ています。だからハーノン審議官が無罪の結論を出す事は理解しています。」
 「ほう、それが地球人の能力の模倣の結果による結論か?」
 「はい。私はオサムの能力を信頼し、確信しています。オサムが選んだ結果であるなら、どの様な結論でも甘んじて受けられますし、私を愛しているオサムが、私に不利益となる結論を選びません。そうよね、オサム?」
 「まあ・・・。だけど、いいの? ハーノンさんって、ミーナさんよりも、ルーナさんよりもスケベそうだよ。」
 「ヘーッ、そうなの? で、どっち? S? M?」
 「それが・・・、どっちもなの。」
 「オサム・ハギノ。それが私個人への評価であるらしいが、既に受けているデータによるとあまり良い評価ではない様に感じるが、更に別の意味を含めているのか?」

 オサムは少し考え込み、何か言葉を探していた。

 「えーと・・・、顔色を読むというのはボクには普通の・・・、能力とは思っていませんでしたけど、マロエの人達から見ると特殊な能力らしいと分かり、自分自身で認識をしていると、より深く分かる様になるんですよ。そしてミーナさんがセックスに興味を集中していて、ボクもこんな身体に成って、セックスを通しての認識が深くなったと思います。ボク自身、こんなにセックスに関する認識が強くなったのが不思議です。」
 「それで?」
 「レイムさんには特別に強いオーラを感じるの。」
 「オーラ?」
 「うーん、これは説明が難しいよ。マロエの概念には無い筈だし、地球だって物理的には否定されているのだから・・・。だけどレイムさんから感じるのは、つい三日前にセックスを知ったシーマさん、そしてずっと長い時間ボクとセックスを続けていたミーナさん、そしてそれ以上に強い感じが・・・。強くてしかも長い時間の・・・。」
 「ちょっと待て!」

 レイムは慌てた様に席を立ち上がり、オサムをとどめた。その様子には審議官達にも動揺が走った。

 「どうしました?」
 「アッ、いえ・・・。」

 レイムはスッと表情を戻した。オサムだけがクスッと笑っていたが、その僅かな表情の動きを認識出来るのはミーナだけだった。ミーナが助け船を出した。

 「審議官、私としては早く結論を出して頂きたいと思います。その為にもオサムからのデータを得て頂きたいと思うのですが。」
 「そうですね。今回の事案は結論迄の紆余曲折が予想出来る。さっそく尋問を開始したいと思う。」
 「主任審議官、どの様な方法を採るのか? それによって、我々の対処が異なるが。」
 「提案します。この船の内装からして、地球人の非論理的論理の発露と思われる。地球人の精神的安定の得られる場所での尋問が効果的と思われるので、この船での尋問を行いたい。更に船長ミーナには地球人オサムとのデータ交換の為に随行を求める。そしてシーマ船長は以前のミーナと現在のミーナの比較の為にその意見を聞きたい。」
 「了解した。シーマ・レイザス、主任審議官の要請によりこの船での待機となるが、何か異存は?」
 「異存ありません。しかし我々の船は如何致しますか?」
 「それは我々の隊員の中から臨時の船長を出し、帰還させるものとする。」
 「了解しました。シーマ・レイザス、一時的に遭難救助の任を離れます。」
 「あのう・・・。」

 オサムがオズオズと声を出した。

 「何か意見でも?」
 「はい。出来るならルーナさんも・・・。」
 「ルーナを? 理由は?」
 「この船でのデータが行っているなら分かって貰えると思いますが、ルーナさんの考え方というか・・・、ボクの考え方を理解して貰い易いかと・・・。どうせなら興味のある人の方が、審議に役に立つでしょうし、ボクも知っている人が大勢居る方が楽しいし・・・。」
 「うーん、その思考については理解しかねるが、それでも前例の無い事案であるから、役に立つという理由は分からないが、それも地球人の理論であるのならば認めるにやぶさかではない。しかしルーナ自身としての意見は?」

 ルーナはさっとマロエ式の敬礼をした。

 「ルーナ・キージス二級操縦士、異議ありません。」
 「異議無し? 理由は?」
 「アッ・・・、ウッ・・・。ああ、先日地球人オサムの操船技術の記録を見ました。事実であるにも関わらず、信じ難い技術でした。その技術についての興味と、出来るならあの様な技術を自分のものに出来ないかと・・・。」
 「分かった。操縦士であれば当然の帰結だ。認める。」
 「感謝します。」

 ミーナは微笑みながらルーナの腰をちょんと突いた。審議官達には分からないが、シーマもオサムもその意味は良く分かっていた。そしてクスクス笑いをするのだった。ルーナは顔を赤らめて突っ立ったままだった。

 「それでは解散する。」

 ネンリ隊長の言葉に、全員がマロエ式の敬礼で席を立つのだった。



 「レイム審議官、有り難うございます。」

 ミーナは微笑みながらお辞儀をする。

 「それも地球式ですね? しかし私は公正な審議をします。それが審議官としての義務であり、人間としての当然の倫理なのですから。」
 「分かっています。しかし私には結論が分かっています。オサムの選んだ主任審議官であるという事が、私には確定している事項だという事なのです。」
 「ウーン、そこ迄の信頼の根拠を知りたいものだ。」
 「レイム審議官、我々は審議に際し、どの様に審議に立ち会えば宜しいのか?」

 シーマは直立したまま尋ねた。

 「データは既に受けている。しかしそのデータによると文章化出来ない項目が多数あるとされている。或いは真意を述べられない内容もあるとの事。まず最優先事項はそのデータの開示である。」
 「データ開示とは?」
 「オホン、シーマ隊長の経験を再確認、追跡する事である。我々はシーマ隊長の意識の変化も審議の対象にしている。その様な意識変化の原因を知る為である。その件についての報告も不充分であるからである。しかし数日間とはいえ、我々よりもかなりのデータを得ている事は間違いない。そのデータ収集方法については論理的であった。審議の為には更にデータ収集を続ける必要を認める。よって、シーマ隊長、ルーナ操縦士には以前同様のデータ収集を命令する。」
 「確認します。以前同様のデータ収集の意味は? 待機状態、自由時間としてのデータ収集でありました。」
 「是認する。その方法がもっとも効果的である。私の公式日程では明日からの審議となる。しかしそれ以前にも必要性を認めれば審議に必要な査問が可能である。よって私も地球式の思考を受け入れねばならない。明朝迄、私自身も待機状態、自由時間とし、個人の裁量、思考を受け入れる事とする。以上!」

 レイムは上官としての敬礼をした。

 「ハッ、了解しました。」

 シーマは相変わらず、直立したままだった。

 「シーマ、命令が理解出来ないのか?」
 「いえっ、了解しております。」

 レイムは笑いながらシーマの肩に手を掛けた。

 「分かっていない。私は待機、自由時間を宣言した。そして以前のデータ収集の方法をとれと指示した。それは私にも必要な事だからだ。上官、部下という制約を解除していたからこそ、ルーナのデータ収集効率が格段に上昇したのだ。よって、ミーナ、オサムと一緒に楽しむという事が、我々の任務である。」
 「ハッ?」

 シーマは不可解そうにレイムを見つめた。

 「審議開始迄は肩書きによる制約は解除。私はこの中で一番オサムを知らない。早く教えなさい。」
 「アッ、ハアッ・・・。」
 「ミーナ、いいかしら?」
 「はい。オサム、用意して。」
 「ほう、これが不確定言語による会話ですね?」

 レイムは居室のフカフカした椅子に座り、その感触を確かめていた。その間にオサムは恥ずかしそうにしながらテーブルの上に四つん這いになる。

 「ウーン、私は生物学者ですから、各地の辺境の星での観察を体験しています。その様な地ではまともな食事の出来ない事もあり、通常の生活では食せない程ひどい物を食した事もあります。それでも、生物の排泄物を食すという事は、さすがに人間の尊厳を損なう感じがします。ミーナやシーマが感動した味という事ですが、かなりの勇気を伴います。ミーナ、シーマ、一緒に食して頂けませんか?」
 「主任審議官、同意をお求めにならずとも、命令して頂いて結構です。もっとも、喜んでご相伴賜ります。」
 「言ったでしょう。今は自由待機。ルーナも一緒に。」
 「私も・・・ですか?」

 ルーナは少し窮屈そうに、椅子の端に座った。

 「オサム、拡げるわよ。まずは私から・・・。」

 オサムは肛門を拡げられ、無意識に息張っている。その拡げられた丸い穴に長い柄のスプーンで掻き回される。そしていかにも美味しそうな表情でそれを食べるのだった。そしてシーマも同様にスプーンをオサムの肛門に差し入れる。さすがにルーナは躊躇していたが、それでもシーマに習い、同じ様にスプーンを口にした。

 「ハアーーーッ・・・?!」

 フラフラとしゃがみ込んでしまう様子に、レイムは驚いた様子で見つめていた。そして意を決した表情になり、同じ様にオサムの肛門の中にスプーンを入れた。

 「ウッ・・・? エッ・・・?」

 スプーンを口にしたレイムは暫く無言だった。全員が微笑みながら注目していたレイムは、満面の笑みとともに口を開いた。

 「これが・・・、排泄物とは・・・。」
 「如何でしたか?」

 ミーナが尋ねた。

 「私は生物学を専門としています。そして遺伝学も修めています。しかしこの様な事は、可能性すら考えていませんでした。そして審議官としては、報告されたデータはあくまでデータ。学問と同じで、文字の裏に隠された真実は実に奥深い。」

 レイムは感動に浸っていた。そしてシーマはミーナに囁く。

 「ミーナ、オサムの排泄物にはこの様な効果があったの?」
 「効果?」
 「だってレイム審議官はオサムに好意的だとしても、審議官資格を得た程の方よ。それがいきなり非論理的な喋り方を・・・。」

 レイムは笑っていた。

 「それは私が科学者であるからでしょう。科学者程非論理的な考え方をするものです。」
 「それこそ非論理です。」
 「宜しいですか? 科学では、一見、非論理と見える事象を観察し、そこに隠された論理を発見する学問です。正しい科学者としてはまずその非論理を受け入れ、非論理を事実として受け止めるのです。私達の間では、『事実は事実であるが真実ではない。』という格言があります。そして『事実は真実の影である。』という言葉もあります。生物学、特に古生物学では、事実さえ失われていて、事実の痕跡しか残っていません。その中から真実を見つけだすのですが、それは幾つもの非論理的な事実を積み重ね、それを許容しながらその中に真実の糸を見付け出すのです。試行錯誤を繰り返すのですが、その過程では非論理の上に更に非論理を積み重ねるという事をしなければなりません。さて、この思考方法について、何か気が付きませんか?」

 レイムは教師の様な表情と語り口だった。

 「レイムさん、それってオサムの・・・地球人の思考方法では?」
 「その通りです。オサムの心を見透かす能力を評価すると、可能性として私を主任審議官に指名する事も予想しました。予想以上に素晴らしい能力でした。ミーナ、次は一番素晴らしい体液を試させて下さい。」

 ミーナは嬉しさを隠さなかった。そしてシーマも微笑みながらもホッとするのだった。

 「オサム。オチンチンを。」

 オサムはテーブルを下り、レイムの前に立ってペニスを突き出す。

 「ほう・・・、何と良い香り。」

 そっと手を差し出すレイムはミーナを見つめた。

 「ミーナ、宜しいのですか? 報告ではミーナの所有物たるオサムのペニスを私が味わう事に心的抵抗があると。ルーナの場合と同じなの?」
 「ウーン、私の中でもまだ非論理的です。オサムの思考方法の中での性格分類ではオサムとルーナはMに属します。私とシーマはSです。レイム審議官は両方なのだそうですが、それは双方を包含しているという事で、私やオサムを認めてくれると思います。ただ、それだけではないのですが、それが何なのかがまだ分からないのです。」
 「やはり非論理ですか。しかし非論理を避けてはいけません。」

 レイムはペニスに口を当てた。

 「アッ、審議官、ただ吸うだけでなく、良く擦って、射精を促さないと。」
 「こう?」

 レイムは少しぎこちない仕草でオスペを始める。オサムは目を瞑っていたが、その様子がルーナの時と少し違う事にミーナは気が付いた。

 「オサム・・・?」
 「ハッ・・・、ウッ・・・。」

 何か以前の様に恥ずかしがっていて、射精を我慢している様だった。それでも機能を高められているペニスはいきなり爆発した。

 「アムッ・・・!」

 大量の精液がレイムの口内に突き刺さり、レイムは歓喜の悲鳴を上げながら味わうのだった。



 「ミーナ。オサムの精液に何か?」
 「オサム、どうしたの? いつもと違っていたでしょう?」
 「ああ・・・。」
 「そう。違うという事が事実であるなら、その違いを知る事が真実に繋がる。私にはこの精液が****と同じ機能で出るとは思えない程に違う。全くの別物です。この違いも調べねばならないが、オサム自身が私に対して精神状態が違うというのも重要な点だ。」
 「何だか、凄く恥ずかしい事をしていると思って・・・。」
 「だって、いつもの事でしょう?」

 そこにシーマも加わってきた。

 「それはオサムの価値判断の問題かな? ミーナに対する価値基準、ええと、『愛』だったかな? その様なものが審議官に存在するのか?」

 ミーナはキッとした顔でオサムを睨んだ。

 「愛じゃないよ・・・。」

 オサムは少しドギマギしていた。

 「何だか、レイムさんにオチンチンを吸われていた時、まるでママにされていたみたいな気分に・・・。」
 「『ママ』とは?」
 「オサム、それはあなたを発生させた女の種族の事?」
 「ああ・・・。ボクを産んでくれた人・・・。」
 「それは報告で了解している。地球人はいまだに母胎で子孫を育てるという事だった。それは有史以前のマロエでも同じであり、生物学者の私としても理解出来る。オサムに尋ねたい。『愛』という概念はまだ理解不能であるが、オサムにとり『ママ』とはどの様な概念になるのか?」

 オサムは暫く考えてから話し出した。

 「ボクにとっては当然だと思っていたけど、何故かと聞かれると難しい。オチンチンを吸う事は性行為の一形態だと思うよ。生殖を目的としたセックスとは違うけれど、オチンチンは排泄以外にはその目的しかないのだから。レイムさんは生物学や遺伝学のエキスパートらしいから分かると思うけれど、どんな動物も自分の両親とは交尾しないですよね?」
 「ヘーッ、レイムさん、そうなのですか?」
 「そうです。それは遺伝的悪影響を及ぼす恐れがあるからです。」
 「地球人もまだ動物だから、その事は長年の経験から知っていたと思うの。或いは本能として擦り込まれていると思う。そうでなければ、種としての滅亡を意味しますからね。だからボクの潜在意識でも、ママとは絶対にセックスはしない様に制御されている筈。だけどレイムさんは、何だかママの雰囲気を感じてしまって・・・。ただ、歳だけではないと思うのだけれど・・・。」
 「うーん、その評価基準も良く理解出来ないが、是非両方を感じる。しかしそれが同族意識を内包するという意味があれば、私には審議に効果的と認める。」

 レイムはまだ口の中に残っていた精液の味を楽しんでいたが、オサムの周りの三人の様子を細かく観察していた。

 「オサム、私の観察力はまだオサムの本能には及んでいないらしい。私の観察結果について論評を、いや、私の観察結果とオサムの観察結果を比較してみたい。」
 「観察って・・・?」

 レイムは座っている女性達を見回した。

 「ミーナはデータ通りであり、オサムのそのペニスとかいう器官を所有しているという意識からか、自慢もしくは優越感を感じる。似た感情としては、宇宙飛行士であれば、新型宇宙船の所有者、またはその船長になった者と似た感情であるか。」

 ミーナは笑っていた。

 「そうですね。私も素晴らしい宇宙船を見た時には妬みというか、羨ましさを感じるとともに、その船長の自尊心を感じますから。」
 「なる程。しかしそれではシーマの方の意味が非論理となる。」
 「私が? どういう意味か?」
 「私にはちょうどミーナが今言った感情をシーマから感じるのだ。船長が新造船を羨ましがるという感情を。という事はシーマはミーナの自尊心を感じ、船にあたるオサムを欲しがっているという事になるが・・・。」
 「否定する。私は同じ宇宙船の船長として、ミーナの様な漂流の後に生還出来た幸運を羨んでいるのだと思う。あの様な非常事態は絶望的状況なのだから。」

 シーマは驚いて訂正した。マロエ人のベテラン船長らしく、表情は変えなかったが、オサムにはオーラの乱れを知られていた。

 「オサム、シーマの言は真か?」
 「うーん、言葉は真だと思いますが・・・。」
 「不確定発言ですね。オサムの地球式思考からすると、別の意味がありますね?」
 「そうじゃなくて、シーマさんは否定する時、かなり心的抵抗があったみたい。それも無理矢理自我を押し殺そうとしている様な・・・。」
 「アッ、それはオサムに見えるオーラね?」

 ミーナは笑ってシーマを見つめた。シーマは顔を赤くしていた。

 「そうだった。オサムには心を見透かされてしまうという事を忘れていた。自由待機時間であっても私は公的立場に居る。しかも審議中であった。レイム審議官、訂正します。」

 シーマは立ち上がり敬礼をする。

 「宜しい。前言は無かった事とする。」
 「しかし船長としてミーナを羨ましいと思ったことは事実です。あの様な極限状況を乗り切るのにオサムが絶大な力となった事は事実です。それは船の能力以上の差であります。もし私にオサムと同能力の乗組員が居れば、船の能力は格段に上昇するでありましょう。しかも食料の心配が無く、いや、それ以上に素晴らしい食料での航行は羨ましいのは当然です。」

 そして更に顔を赤らめていた。

 「宇宙空間では、平常時は全く変化のない時間が続きます。その間の精神的ストレス解消方法も素晴らしいと・・・。」
 「それにしてはオサムとミーナのセックスにはそれ程興味がない様だが・・・。」
 「あくまでも船長という立場であるからです。」

 オサムはジッとシーマを見つめていたが、クスクス笑いをした。

 「アッ、オサム。私のオーラに何か?」
 「オサム、何なのですか?」
 「ええ、シーマさんは本当の事を言っています。だけど、これは自分でも気が付かないのかな? ルーナさんみたいにハッキリとは出ないけれど、多分ボクとミーナさんの様な立場にはなり得ないからと諦めているんだよ。勿論船の性能向上を望む気持ちは本当ですけれど、それ以上にセックス願望は強いみたい。」
 「オサム・・・、何もそこ迄・・・。」

 レイムも頬を緩めていた。

 「実際に見てみると、オサムの能力は驚嘆に値する。それではルーナの場合はどうかな? ルーナにも羨むという感情を感じた。しかしそれは同じ操縦士の能力の差だろう。これ程の技能の操縦士を眼前にすれば。」
 「ボクもそう思います。だけど・・・。」
 「ほう。やはり私に感知出来ない物をルーナから感じたか?」
 「ええ、ですが、これは・・・。」

 暫く何かを考えていた。

 「これだけは審議官だけにしか伝えられません。」

 ルーナは何かドギマギしていた。

 「私には・・・、他に何もない!」
 「そうだ、オサム。ルーナも公的な立場なのだぞ。全ての情報を提示して欲しい。」
 「いいんですか? レイム審議官。」
 「当然だ。」
 「全ての情報というと、レイムさんの事も含まれますね?」
 「ウッ・・・。」

 今度はレイムがドギマギしてしまっていた。オサムはケラケラ笑っていた。

 「分かった。審議委員会の中でのあの発言は、やはり感知されていたという事か。しかしそれはあくまでも私個人としての嗜好であり、審議官としての役務には影響を与えない。」
 「そうですか・・・? それなら・・・、ボクの考えが合っているかどうか・・・。途中を省略して結論を言います。これならレイムさん以外の人には分からない筈。」
 「何だ?」
 「レイムさんは本職の仕事で、色々な星へ出掛ける様ですね?」
 「その通り。審議官資格は持っているが、それは名誉職であり、事実、この審議は私にとっては三年ぶりの仕事である。」
 「じゃあ、結論。辺境の星へ向かうのに、ボクとミーナさんのチーム、或いはシーマさんとある条件の元のルーナさんのチーム、或いは両方で・・・。」
 「分かった。そこ迄!」

 レイムは明らかに動揺していた。それは他の女性達にもハッキリ分かるのだが、オサムの言葉の何がその動揺を誘ったのかが分からないでいた。

 「それが非論理の論理か・・・。オサム。確かにその件については今回の審議とは無関係である。少し私自身の精神の乱れが出てしまった様だ。落ち着くにはミルクが良い効果を顕す事はデータで得ている。出して貰えるか?」
 「はい。」

 オサムは搾乳機で乳搾りを始めるのだった。



 「主任審議官、結論は出ましたか?」
 「はい、審議団長。」

 三日後、審議官達の船の、ただだだっ広いスペースに全員が集合していた。

 「審議の記録を開始します。」

 レイムは立ち上がり、全員に向かって話し始めた。



 「私が主任審議官として、全ての決定を委ねられた事に、審議官としての喜びと同時に大きな責任を感じる。私は名誉ある審議官として、公正な審議を果たしたと自認している。」

 場の中央に立ち、再び全員を見回した。

 「この事案の一番大きな問題点は、ミーナ・ミンリッジがオサム・ハギノを地球法に則り、『所有』したと宣言した事である。そもそも人権のある者を所有するという行為は、有史以前に行われていたとされる奴隷制度であり、到底容認出来る事案ではない。」

 ミーナ達はレイムの言葉にハッとし、驚いて見つめた。

 「マロエの法には奴隷制度を否定する項目はないが、それは法以前の問題であり、倫理、哲学として否定されている。」

 そこでネンリ隊長が口を挟んだ。

 「明解ですね。それでは主任審議官としての具申は有罪ですか?」
 「お待ち下さい。データにより、そして調査により、ミーナによるオサムへの行為は、初期状態においては緊急避難と認められます。有識異種星人に対しての人権侵害は認められますが、それも緊急避難であります。次にその緊急避難による行為がオサムの能力を低下させたという事実があります。それは報告の通りであり、おおよそ8%の運動能力低下を認めます。しかし別の機能。つまり食料製造機能でありますが、これは比較対象にならない程の向上を認めます。これについてはオサム自身にも異議のない向上であり、総合的には能力低下とは認められません。そして私はミーナの言う『所有』という言葉に疑念を抱きました。ミーナの言によれば、ミーナがオサムを所有しているという事になるが、それはオサムの人権を否定している事となる筈である。それは一面、真である。しかしオサムについてはどうであろうか。機能を向上された生殖器からの体液はミーナの意思により、第三者に供与される事もあり、オサム自身の意思でも供与出来る。しかしデータによると、ミーナはその生殖器の地球人としての本来の意義、マロエ人ではあり得ない事なのだが、有史以前のマロエ人にはあり得た『交尾』に使用している。そしてミーナはこれを第三者に対して拒絶している。オサムの場合、物理的には可能であり、ミーナの意思により禁止されていると言っても良い。そこである仮定をする。もしミーナが有罪の場合、それはオサムの人権を否定していたミーナからの現状回復を図られるという意味になる。その場合、オサムが『交尾』を望めば、仮にであるが、その相手が居たとした場合、オサムはそうするであろうか?」

 オサムは驚いて首を振った。

 「その場合でも、オサムは自分の意志でミーナ以外との『交尾』を拒絶する。つまりオサムにとり、ミーナはオサムの『交尾』の対象であり、生理的欲求の解消の道具であると言える。つまりオサムはミーナを使用する立場であるとも言える。つまり二人は互いに相手を『所有』しているとも言える。それは『共有』と言うよりも『共生』というべき形態である。まず一番の問題点として、この様な事態に対して適用すべき法がないという事である。法がない場合には法理に従うべきである。ミーナを有罪として場合、どの様な利点があるか。存在しない法体系を守ったという記録のみが残る。そしてミーナとオサムには大いなる不幸が残る。無罪とした場合はどうか。法体系の不備が明らかにされる。しかしそれは現行法が今の事態を予期していなかった為であり、それは今後の議会での議論を待てば良いし、より完成した法体系に移行出来るだろう。そしてミーナ達には大いなる幸せが残る。よって、私、レイム・ハーノン主任審議官はミーナを無罪であると確認し、具申するものであります。」

 ミーナ達は立ち上がって喜びを示していた。

 「主任審議官、了解した。審議委員会には主任審議官の具申を再表決する事も出来る。しかし主任審議官の意見の通り、法に不備がある以上、不備の法で再審議は不可能である。よって当審議委員会は主任審議官の具申をそのまま採用し、審議委員会としてもミーナ・ミンリッジを無罪と決定する。」



 「レイム、やはりあなたの予想していた通りでしたね。」

 審議委員会は談笑の場になっていた。



 「シーマ隊長、帰投準備完了しております。」
 「シーマさん、これからの予定は?」

 レイムが尋ねた。

 「ハッ、今回の緊急出動の為、戻り次第休暇になります。」
 「そうですか・・・。」

 レイムは暫く何かを考えていた。そしてやはり帰還準備をしていたネンリ隊長に話し掛けた。

 「隊長、お願いがあります。」
 「はい、何か?」
 「審議委員会が終了した今、私個人として、科学者としての仕事に向かいたいと思います。」
 「それで?」
 「私の専門分野は生物学と遺伝学であります。オサムの様な特異な対象を目の前にして、それをそのままにしてはおけません。このままミーナ達との同行を許可頂きたい。」
 「それは理解出来る。しかし審議委員としての任期はまだ続いている。私的な理由からそれを無視する訳にはいかない。」
 「公的な理由があります。」
 「公的? 審議委員よりも重要で、しかも緊急性があるのか?」
 「是とします。」
 「理由は?」

 ネンリ隊長は椅子に腰を下ろした。

 「はい。これは我がマロエの法体系の極めて重要な部分の改変を必要とする事案であります。」
 「それは?」
 「私自身は法学者ではありませんので、専門的な意見は申し述べられません。その私自身がいつも疑問にし、そしてその事態の起きたときにいつも国論に大いなる分裂を起こす事案に関する問題であります。」

 ネンリは少し険しい表情になった。

 「それは極めて重大な犯罪に対する処罰の事を意味するのか?」
 「是とします。」
 「それはレイム審議官とはいえ、越権であると思量する。」
 「それも是とします。」
 「それでは?」
 「少しきつい言葉を発するので、容赦願います。人を死に至らしめる様な行為は厳として禁止されており、法以前の問題であります。しかし数年に一度、必ず問題とされるのが、人格の改造は精神の死であり、肉体の死と比較しても決して人為的には許されないという議論であります。」
 「それは分かっている。あまり話題にしたくない問題である。しかし人類に貢献させねばならないという事で、『牛』への改造を法的に認めているのだ。」
 「その点であります。もし、人格の否定をせずに『牛』としての貢献をさせ得るのであれば、以上の議論は無用のものとなります。」
 「それは当然だが、不可能であるから・・・。アッ・・・。」
 「お気付きになりましたか? オサムが良い例であります。もしオサムの遺伝子解析をし、犯罪者の脳改造を伴わない様な『牛』改造が出来るのであれば、そしてオサムのミルクの様な良質な物を得られるのであれば、貢献度は著しいものとなります。」
 「なる程。理解する。これは人類に対する大きな貢献になる。」
 「それだけではありません。生物学者としては、オサムのペニスの遺伝子分析により、****の改良も可能であると思量します。これも食料生産の向上となり、大いなる貢献かと存じます。」
 「了解した。レイム・ハーノンの申請を認め、審議委員会委員長として、一時待機を認める。」
 「有り難うございます。その件で、更に実務的な許可をお願いします。シーナ・レイザスとルーナ・キージスに私の助手としての任務に移籍して頂きたい。」

 準備中のシーマとルーナは驚いてレイム達の前に直立した。

 「理由は?」
 「私の研究用宇宙船へはミーナの船に同乗したいと思います。しかし私の船ではミーナ達のクルーでは不充分ですし、オサムの検査中は航行不能になります。シーマのクルーでなくとも良いという考えもありますが、シーマ達の場合は利点があります。ミーナの知り合いであるという事。それとオサムの事をかなり興味を持ち、観察した事。以上の理由であります。」
 「了解した。シーナ、聞いていたな? 本来であれば貴官達は休暇に入る予定である。拒否権がある。」
 「ハッ、ネンリ・キーレイ隊長。喜んで着任いたします。」
 「ハッ、ルーナ・キージス、同様、着任します。」
 「良いのか? 高邁な研究に着手する事になるが、単に転籍という訳ではない。」
 「了解しております。法律にも科学にも専門外である我々が、マロエの進歩に一翼を担うと感じるだけで光栄であります。」
 「宜しい。事務手続きについては追って連絡する。」

 ネンリとシーマ達は敬礼で別れをし、その場に留まる。救助隊達も敬礼をして船を出ていくのだった。

・・・・・・・・第四章  終わり



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