・・・・・・第五章・・・・・改造

 操縦席ではルーナとオサムが操作している。やはりオサムよりも専門家としてのルーナの方が、マロエ空間の航法に熟知しているので、色々と指導しているのだった。その間、ミーナとシーマはレイムを挟んで机で向かい合っていた。

 「ああしてルーナに指導して貰っているオサムを見ると、あれ程凄い技量の持ち主には見えないな。明らかに操縦技術に関してはオサムの方のレベルが高いのに、実に良い生徒だ。謙虚なのだが、それが自然と出ている。」
 「地球人にはマロエ人と違い、レベルという概念が薄い様です。無い訳ではないのですが、レベルという絶対評価に対して価値を感じていない様です。しかしその哲学では相手の高レベルを尊重するという意識にはならない筈ですから、傲慢、尊大という形で現れない事が理解不能です。地球人の哲学は難しい。」
 「ミーナにしてそうなのだから、私にはなおの事。心理学の専門家でも分析は難しいでしょう。私は生物学、そして遺伝学からの解析を勤めたいと思います。」
 「レイムさん。オサムの遺伝子解析から、『牛』の形態を変える事が出来るのであれば、それは素晴らしい成果だと思います。」

 ミーナの尊敬を含んだ眼差しに、むしろレイムは少し驚きの表情を示していた。

 「エッ、ミーナ? だとすると・・・、アナライザー!」

 アナライザーは計器点検作業から離れ、女性達の所に寄ってきた。

 「アナライザー、オサムの遺伝子解析のデータはミーナに伝えていなかったのか?」
 「肯定。私の分析能力は限定的。特に遺伝子解析能力は更に限界的ですので、データだけを送信しました。」
 「しかし幾つかの可能性のデータもあったが。それは解析結果ではないのか?」
 「ああ、分かりました。レイムさん。アナライザーは、漂流期間中にオサムの思考形態の分析の為、地球式の思考方法を取り入れていました。不確定要素が多い欠点はありますが、それでも類推による例外事項の解析には効果的です。」
 「なる程、理解する。ミーナ、シーマ、思考波を集中、限定せよ。」
 「エッ?」

 レイムは意識をシーマとミーナだけに集めた。それは自分の意志をルーナとオサムに伝えない為であり、ミーナ達にも意味は分からないが、レイムに従うのだった。

 「アナライザーの分析によると、確率はまだ不確定だが低い。しかし低いというだけで不可能ではないのだが・・・。」
 「レイムさん・・・?」
 「地球人の遺伝子はマロエ人とは個数が違う。染色体数は二割多く、しかも一つの染色体もはやり二割程度長い。つまり遺伝子情報は五割近く多い事になるが、順列組合せでいうとそれだけで三倍になる。しかし無意味な組合せもあり、重複も多い。しかも発現しない遺伝子もある様だ。それがデータによる地球人を含む、動物の多様性を示していると思える。例えば、オサムは雄であるから乳房は本来不要であるのだが、子孫に遺伝子を伝える時、雌にその部分の遺伝子欠損が発生した時の保険になるのだ。だからこそ単なる成長剤でオサムの乳房やペニスをあれ程成長させられたと考えられる。」
 「それは移植可能と考えられますか?」
 「極めて低いが、可能性はある。」

 ミーナ達は少し残念そうにしていた。

 「しかしアナライザーは違う分析をしている。遺伝子移植にはかなりの技術的問題と、それ以上にかなりの遺伝子操作をしなくてはならず、それはマロエ人と地球人の合成という次元になってしまう。より確実で簡単な方法は、オサムの遺伝子を取り込んだ細胞培養によるクローンである。しかし体細胞全体は不可能であり、可能性があったとしても極めて長い時間と、大掛かりな技術を必要とする。器官増殖をし、それを移植するという方法が最も簡単である。」
 「ああ、オサムの乳房とペニスのみをクローン培養し、それを移植させるのですね?」
 「肯定。技術的問題点としては拒絶反応であるが、現時点では未解決問題が多い。ここには個人差があるからだ。」

 静かに聞いていたミーナがハッとして顔を上げ、レイムを見つめ、そしてルーナに視線を向けた。

 「さすがに地球式思考方法を会得したミーナであるな。」

 シーマは不思議そうにミーナを見つめていた。

 「シーマやルーナの遺伝子情報は軍に登録されている。アナライザーの素分析との照合であるので、まだ確実性は低いのだが、それでもルーナとの適合性が高いと思われる。」
 「エッ?」

 シーマも驚いてルーナに視線を向けようとするのを、ミーナとレイムが留める。

 「しかし・・・。」
 「宜しいか? ルーナはオサムに興味を示しているが、それは私達とは異なり、オサムの快感に対して強い興味を持っている。もしクローン移植が成功すれば、ルーナはオサムと同じ快感を得られる肉体となる。」
 「まさか・・・、それをルーナが望むとは考えられません。」
 「望まなくとも良い。地球式であれば、結果が真であれば、偽の経過は免責される。オサムが良い例である。そしてオサム程にいくかどうかは不確定だが、改造されたルーナの『所有』をシーナに任せたいのだが。」
 「疑問提示だが、宜しいか?」
 「是とする。」
 「個人的嗜好としては望ましい。しかしそれがオサムとミーナの時の様に免責される行為であるのか? そして改造が可能であっても、オサムの様な機能を得るのか? それ以前に、可能性を信じられない。」
 「理解した。シーマは免責の上ならば『所有』を認めると。」
 「うーん、是である。」
 「今はその程度の理解で良い。むしろ免責の点では私の方が重大である。そしてこれが免責要項として一番肝心であるが、シーナもミーナもオサム、ルーナに内容を漏らさない事。そして今の話を知らなかった事とする事。」
 「理解する。しかし、自分が犯罪に荷担する様な不安がある。」
 「犯罪ではないのは確実であり、将来のマロエ法の概念を変える、重要な行為である。そして近い将来、ミーナとオサムと同様の幸せを得る道である。」
 「高名な科学者であり、信頼される審議官であるレイム・ハーノン様の言葉も信頼に値する。非論理の論理には、考えて悩む事は既に放棄している。それが意味を為さない事も分かっている。よって、今のレイムさんの言葉も、私には非論理であり、深い追求は避け、観察する事に勤める。」

 レイムとミーナはニコニコしていたが、シーマだけが緊張していた。

 「それでは、私の船に到着するのにまだ一ヶ月は掛かります。その間に私も含め、シーマ、ルーナに指示を出します。ルーナ! 手はあいていますか?」

 呼ばれたルーナは敬礼した。

 「指導中であり、いつでも結構です。」
 「それではオサムも来なさい。指示を伝えます。」

 全員がレイムの前に横一線に並び、敬礼をする。

 「私達のこれからの任務は、オサムの遺伝子解析ですが、それ以上に地球での知識を得ねばなりません。それが『セックス』に関する認識にも変化をもたらします。例えば、軍人が軍服を着る様に。リラックスするにはリラックス出来る服装に代える様に。そこで私達もミーナの様な衣服に着替えます。既にアナライザーに命じて、それぞれの衣服は作成中で、間もなく完成します。それと、私にも興味があったが、色々な性具も制作中です。よって、これからは『SM』衣装に着替え、性具の機能を確かめながらの航行とします。」
 「反論、いえ、質問。」
 「何か、シーマ?」
 「今の内容は指示でありますか? 命令の様な絶対義務ではないのですか?」
 「指示であり、拒否は可能。しかし私の推論では二人とも拒否しないと推定。」
 「推論とは?」
 「審議中にも言ったが、シーマはミーナの立場に、そしてルーナはオサムの立場に強い興味を持っている。そして本当の意味を理解する為には、不完全ではあるが、二人にもミーナ達の体験を擬似的に追体験して貰いたい。それがオサムの意識構造を把握する手段となるのだ。そして地球語の『恥ずかしい』という意味を理解して貰いたい。」
 「了解しました。我々には大いなる使命がありました。その使命の為には個人的な感情は無意味であります。」
 「否定する。使命の為に行動する事は非効率である。やがて分かるが、楽しみで行動せよ。自分の興味や喜びに従え。どの様な行動も許可する。それは私がシーマには強い自制心があると信じるからだ。むしろその自制心を少し弱めて欲しいと願っている。それでもミーナには及ばないだろうが。」
 「その言葉には反応し難い。評価が高いのか低いのかが判断出来ない。」
 「判断基準外である。これは非論理であるから。しかし私の指示は難しいものであるぞ。己の欲望のままに行動せよという事だが、それは今迄のシーマの行動基準に反する事だ。」
 「了解しました。しかし理解したとは言い難い。」
 「それで良い。ルーナはかなりのデータを収集している。我々もまずはその水準に追い付かねばならない。それもルーナとは違う方向に。」

 レイムが立ち上がり、オサムの『資料』を置いてある倉庫へ向かうと、シーマも後に続くのだった。



 「ルーナさん、この航法制御器って?」
 「知らないの? 地球には無かったの? これは船体荷重のバランスを取る物で、積み荷の重量のアンバランスを、重力制御装置で補正する物。」
 「ヘーッ、それなら最初から積み荷のバランスを取っておけばいいじゃないか。重力制御装置だって、結構重い物でしょう?」
 「それこそ非効率。わざわざバランスを取るのに、積み荷の位置を都度計算しなくてはならない。」
 「フーン、やっぱり考え方の違いなんだな。」
 「それは分かる。確かに重力制御器ばかりでなく、質量の多い機器を備えているが、不要な物は積まない。それが効率だと考えていた。しかしこの船の居住区の様に、最初は無意味で不要と思われる物が不思議だった。精神を常に弛緩しておく事など、操縦士には考えられない事だったが、オサムを見ていて理解出来る。むしろ、常時弛緩しておく事で、緊急事態での一瞬の緊張状態への移行がむしろスムーズであるという事が。」
 「ボクはそういうのが当然と思っていたけれど。」
 「肉体的にもそうだ。その乳房もペニスも操縦士としては無意味に巨大であり、運動を阻害する物と理解していた。そして性欲は理性を狂わすものだと考えていた。マロエ人は押さえ付ける事で解決していたが、地球人は常時発散させて、必要な時に性欲での理性の狂いを無くしていたのだと。」
 「うーん、それは少し・・・。ミーナさんにされちゃったから・・・。」
 「しかしオサムは喜んでいる。」
 「まあね。ボク自身も信じられなかったけど、凄く気持ちがいい上に、ミーナさんにも喜んで貰えるのだから。」
 「それが操縦技能に効果があるのであれば、私は自分の技能向上にも役立たせたいが、それは不可能だ。」
 「ああ、アナライザーに聞いたけれど、マロエ人のオッパイって、成長剤を使っても大きく出来ないんだね?」
 「そう。遺伝子で決定している大きさなので、大きさは勿論、発乳機能もそのままでは出来ない。」
 「脳改造が必要なんでしょ?」
 「そうだ。それでも『牛』程度なのだ。大きくは成っても、せいぜい体積で五割り増し程度だ。大きくするだけならば体細胞移植という方法もあるが、それは大きくするだけで何の効果もない。マロエ人には非効率に対する拒否感が強いので、効果のない事はしない。だからオサム程大きく成る『牛』は存在しない。しかし可能だとしても外見が犯罪人では操縦士としての資格に疑問を呈されるが。」
 「ボクは?」
 「最初は不思議だった。そのペニスは****の最良の状態よりも凄いのだから。****で犯罪人ではあり得ない。犯罪人とは元々がマロエ人であるのだから。」
 「だけどミーナさんによると、レズの時のマロエ人の姿だって・・・。」
 「うーん、確かに似た形態です。ですが、一番の違いは形や大きさ。そんなに大きな乳房は犯罪人でもあり得ない。ペニスもレズの時の張り型とは形状がかなり異なる。それにレズをするという事は、マロエ人にとり、本能、つまり獣性であるから、それを第三者に見せる事はない。動物である以上、本能があるのは仕方のない事だが、それを抑制する理性があるのがマロエ人なのだ。実際には解消しなくてはならないのだが・・・。マロエ人であれば、そのレズの姿に類似している姿を晒す事はない。という事は逆にレズ行為の為の姿ではないという事だ。だから異星人だとは思ったが、近似が高い感じをしていた。」
 「フーン、レズを見られる事は『恥ずかしい』事なんだ・・・。」
 「それは違う。『恥ずべき』事ではあるが、オサムの言う『恥ずかしい』事ではない。名誉を損なわれる事を感じるという意味合いかと思う。」
 「じゃ、あれは?」

 オサムが振り返り、指差した方向を見たルーナは驚いて息を飲んだ。思考停止した様に固まったままだった。


 「どうした、ルーナ?」
 「シーマと違い、ルーナは感受性が高いのよ。」
 「ミーナ、それは私の感性が鈍いという事か?」
 「ウフフ・・・、評価基準の違いよ。精神安定性が低いと言えばいいの? アッ、ルーナ、気が付いた?」

 ルーナはプルプルッと震えて意識を取り戻した。そしてシーマ達を見て、再び驚いていた。

 「な・・・、何ですか? シーナ隊長・・・。それにレイムさん迄・・・。」

 レイムは中世代の貴婦人の様な、大きなスカートで、腰の部分の締まった、大きく胸の開いた衣装を着ていた。そして髪も大きくアップにし、濃い化粧をしている。そしてシーマはまるでメイドの様な姿だったが、ミニスカートの下は明らかにノーパンだった。

 「これもオサムの資料にあった地球の衣装です。私の場合は特に非論理な物を選んでみました。シーマのは、オサムの趣味で選んで貰いましたが・・・。」
 「しかし・・・、レイムさん、この衣服も極めて非論理です。この姿は、知り合いの者にも見せられた物ではない。」

 ルーナは驚きながらも、そのアンバランス具合と非常識とも思える姿に笑いを押し殺していた。

 「ルーナ、私達だけではありません。あなたにも非論理、非常識に付き合って貰いますよ。」
 「エッ? 私も?」
 「ルーナ、お前が一番オサムの感覚を理解し易いのだ。それにオサムに対する改造が操縦技能にどう影響したのかも知りたいのだろう? 疑似の追体験をする事も効果的だと思う。ルーナ、これはレイムさんの指示であるが、まだ私の下にいるルーナに対し、艦長としての命令である。」
 「ハッ!」

 命令には従順であるルーナはサッと敬礼をした。

 「さあ、まずはこれに着替えてくるのだ。」

 一見革に見えるビザールを受け取り、ルーナは照れ臭そうにそれを見ていた。そして別室で着替えるのだが、なかなか戻ってこない。

 「ルーナ、どうした? それ程、手間の掛かる衣類ではない筈だが?」

 ルーナは恥じらいながら戻ってきた。それはオサムの着せられたビザールに似ていて、同じ様に超高ハイヒールになっている。

 「これは非論理と言うよりも非条理ですらあります。」
 「確かにそう思う。しかしその様な動き難い靴であっても、オサムはしっかりと履きこなしている。それがどう影響するのか実体験せよ。」
 「それと・・・胸の部分ですが、これはオサムの様な乳房でないと無理かと・・・。」

 胸の部分は確かにブカブカで、そこが広がり、ルーナの乳房が顔を出してしまうのだ。

 「私はオサムの疑似体験を命じたのだ。だから、レイムさん。」
 「はい。」

 レイムは大きな肉塊の様な物を二つ差し出した。それはパットと言うにはあまりにも大きい乳房だった。

 「これを入れなさい。吸着しますから、オサムの体バランスの狂いを経験出来ます。」

 オサムもミーナも笑って見ていた。

 「ねえ、ミーナさん。ボクにはルーナさんのオーラの変化が分かるけれど、本人は命令で渋々を装っているけれど、本当はかなり興味を示しているよ。」
 「やっぱりね。私にもSMの意味がかなり分かってきたけれど、ルーナは確実にMね。そしてマロエ人という意識が強いから、あの様な物を着けるというのは、自尊心を損なうと考えているのよ。本当は嬉しいのに、命令だからやむを得ずと・・・。」
 「だけど、黙っていて上げよう。可哀想だから。」
 「分かったわ。だけど、もっと可哀想な事をするのだから、本人が喜んでいるなんて知られている事は、もっと自尊心を損ねるもの。」
 「エッ、もっと可哀想な事?」
 「まあ、見ていなさい。私はSだから楽しいけれど、オサムだって楽しいと思うわよ。」

 渋々その大型パットを入れたルーナの胸は、オサム程ではないが、巨乳を遥かに越えた形になった。

 「ワーッ、重い! オサム、あなたはこんなバランスの悪い形で?」
 「ウフフ・・・、ボクは上だけでなく、下もバランスが悪いよ。」
 「下? アッ、レイムさん、私の疑似体験とは、下もオサムの様に?」
 「当然でしょう。次はこれですが・・・。」

 レイムの差し出した張り型は、オサムが見てさえグロテスクだった。双頭の張り型というだけではなかった。突き上げたペニスの後ろにはルーナの膣内に入る部分だけでなく、肛門の中に挿れる張り型も付いていた。さすがにルーナでもその卑猥さと装着された場合の事は分かり、悲鳴を上げるのだった。

 「シーマ隊長、これは命令であっても拒否します。こんな人権無視が許される筈はありません。」

 ルーナは本気で怒っていた。シーマは頭を掻いていた。

 「レイムさん、やはり無理ですよ。確かにオサムも最初は意思を無視され、強引に改造されましたが、あの時は緊急避難であり・・・。」
 「その通りです。まさかその通りにする事など、今の私には無理ですから、強引な陵辱がどの様な精神変化を与えるかだけを実験したいのです。逆に言えば、今のルーナの反応は当然の事であり、オサムの場合であっても同じだったでしょう。」

 ルーナは胸を押さえて言う。

 「これだけですら私の自尊心を損ねているのです。しかし疑似体験という事で・・・。」

 その時ルーナはビザールの手首の部分の材質の違いに気が付いた。それは一種のフレキシブルな金属だった。

 「そうですよ。オサムに着けた物と同じですが、ミーナはオサムの力のレベルが分からなかったので、かなり余裕を持たせました。私達はルーナのデータを把握していますから、その程度の物で宜しい。まあ、この様な道具をマロエ人に使おうという考えはありませんでしたが。」

 シーマが意志を集中すると、ルーナは立ったままで手足を大の字に広げられた。

 「ワーッ、私は犯罪人でも猛獣でもありません! シーマ隊長! レイム審議官! 抗議します。」
 「やはり騒がしい。シーマ、精神波遮蔽を。」

 シーマは金属の網で出来た様な、そして女性用のティアラの様な帽子を被せた。悲鳴を上げているのは同じで、相変わらず叫んでいたが、オサムにも少し静かになった感じがする。

 「ミーナさん、あれは? 少し声が・・・、声は小さくなっていないけど・・・。」
 「あれは精神波を遮蔽しているの。本来はリラックスしたり、瞑想する時に使うのよ。外部からの騒がしい精神波を受けなくする為の物ですけれど、今回は逆に使っているの。あんな事をされようとしているのだから、とても強い精神波が出て、私達の心に突き刺さり、どうしても躊躇してしまうかも知れないですからね。」
 「だけどいいの? マロエ人の場合は分からないけれど、地球人だって、女の人があんな物を着けられるなんて、死んでしまう程の辱めだよ。」
 「その場合の『死』は現実に死を意味するの?」
 「それは・・・、死ぬ程恥ずかしいという意味で、実際には死なないけれど・・・。」
 「マロエ人でも同じよ。もし私だったら、精神異常を起こしてしまうかも知れない。」
 「だったら・・・、危険でしょ?」
 「それは解析済み。以前では精神安定度や許容度などの理論で測定していたけれど、オサムに教えて貰ったSM式の分類法は効果的よ。Mは責めに対しては強い耐性があるのね。」

 ルーナはひたすら泣き叫び、嫌がっていた。

 「ルーナ、泣くという事は本能の為せる技。そしてそれが最も効果的な精神的負荷への対応法よ。さて、この張り型は抜け難くする為に直腸にも挿れるのは分かりますね? 暫く挿れたままにするので、排泄物があるのは不具合です。ですから排泄をさせますが、折角ですから、地球式の浣腸にしましょう。浣腸液はグリセリンなどは使いませんが。」
 「ヒーッ、まさか・・・。」

 シーマがオマルをルーナの足下に置いた時、悲鳴は絶叫になっていた。ルーナはオサムの持ってきていた本から、大勢の前での浣腸されてしまう効果を妄想ではなく、現実として信じていた。だから感情を顕さない事を美徳としているマロエ人なのだが、シーマ達も驚く程の爆発的な叫びだった。

 「さあ、シーマ、この浣腸器で。」
 「やっぱり私が・・・。理解はしているのですが、心が痛みます。」
 「必要な手続きなのですよ。オサムがミーナに心から服従しているのは、最初の手続きの影響なのですから。私は心理学者でも犯罪学者でもありませんから、何故その様な心理状況になるのかは不明です。しかし地球のSM思考法では当然の事らしい。マロエでも適用されるのかどうかの実験でもあるのです。」
 「イヤーッ、シーマ隊長! よして下さい! 私は奴隷になんかなりたくないーっ!」
 「ほう。やはり学習効果ですね。ルーナは認識を確立している。」

 オサムにはルーナの言葉が分からないでいた。精神波が遮断されている為なのだが、それでも状況からで意味は分かる。シーマは渋々、そして恐る恐る浣腸器をシーマの肛門に近付けた。シーマはひたすら尻を振って逃れようとするのだが、手足を大きく広げられ、強く引っ張られると、それ程の動きは出来ない。そして浣腸器の嘴がルーナの肛門を貫いた。

 「アグッ・・・!」

 ビクッとしたルーナはそのまま固まった。

 (浣腸された? 私が・・・? まさか・・・。このまま皆の前で排泄させられる? そんな・・・、私は宇宙飛行士よ。遭難救助隊の操縦士だけれど、実績次第では軍の操縦士にも、民間でも大型宇宙船の操縦士になれる可能性もあるのよ。それが・・・、私も奴隷になってしまう? オサムの様に・・・、シーマ隊長の性の奴隷? イヤーーーッ!)

 そしていきなりの強い便意が沸き起こる。そして立ったままでの排泄とともにシーマの精神はその限度を越えた。



 「ウーン、これはオサムの書物のデータとは少し異なりますね。確かに面白味はありますが、排泄物臭が強い。」
 「そうですか? 私には楽しい。シーマは?」
 「アッ・・・、私・・・、とうとうこんな事を・・・。部下のルーナにこんな事をしてしまうなんて・・・。」

 アナライザー汚物の処理をし、ルーナの下半身を掃除しているのを見ながら、シーマは涙を流して震えていた。

 「レイムさん・・・私は後悔しています。」
 「そうですか・・・。やはり地球式の分類はマロエ人には乖離があるのでしょうね。」
 「レイムさん、違うよ。シーマさんのオーラは喜んでいる。感動しているよ。」
 「エッ? シーマ、そうなのですか?」
 「オサムにはオーラで私の心を読まれてしまうのだった。しかしレイムさん、後悔しているのは本当です。この様な非人道的な行為をしていながら、オサムに指摘された様に、私は喜んでしまっている。SMというのが、これ程素晴らしく感動するものだとは知らなかった。そしてこの様な陵辱をして喜んでしまうという私の非人間性に驚き、絶望にも似た悲しみを感じる。私の本性はこの様に非人間的で、自己中心的で、これ程恐ろしい人格であるとは知らなかった。それを知ってしまった事を後悔しているのです。」

 ミーナは相変わらずニコニコしていた。

 「シーマ、それは大丈夫よ。私もかつてそうでした。オサムを虐め、改造する事に喜びを感じる自分に自己嫌悪を覚えました。シーマは私達の経験を疑似体験するのが任務でしょう? だったら今は任務を遂行中なのですよ。私の経験を同じ様に体験しているのですから。」
 「ミーナ、それで本当にいいのか? これ程精神的につらい感情でいいのか? そして今の様な行為を心から喜んでしまう様になってしまうのか? だとすると、むしろその方が恐ろしい。」
 「シーマ、今の私がそれ程非人道的に見えますか? 私は今は凄く幸せですよ。という事は、シーマも幸せになれる筈です。」
 「分からない・・・。これ程の非論理、非条理に私の思考は止まってしまっている。レイムさん、今の私に善悪、是非の判断は難しい。指示に従います。それ以外に私の行動を決める事は難しい状況です。」
 「分かった。それでは暫くは私が指示を出す。しかし確認しておく。シーマ自身の理性は別にして、今、ルーナを陵辱しているが、それは楽しい事であるという事は認めるな?」
 「はい。だからこそつらいのです。」
 「宜しい。さて、アナライザー、ルーナの意識回復にはどれ位掛かるか?」
 「精神波が出ていませんので、今迄のデータからの予測しか出来ません。既に回復状態にあります。」

 アナライザーの言葉が終わらない内にルーナは目を覚まし、再び泣き出すのだった。

 (私は・・・、皆の前で排泄させられてしまった。私はもう性の奴隷になってしまったのか? 自分では分からない・・・。だけど・・・、データによると間違いはない。私もオサムの様に、シーマさんの所有物になってしまった・・・。)

 性奴になってしまったと認識してしまうと、マロエ人特有の論理からはルーナは既に性奴であった。そして性奴に堕ちてしまっていても、意識としてはまだ抵抗するという状態なのだった。

 「アナライザー、あなたならルーナの性感の程度を調べられますね?」
 「肯定。ミーナさんの状態の変化を確認する必要があり、オサムの各種データとの比較の結果、確定には至らないが、他のアナライズシステムよりも高度なサーチが出来ます。」
 「分かりました。サーチしなさい。」

 アナライザーは何本かの触手を出し、ルーナに巻き付けた。

 「ヒヤーーッ、何をするの?」

 そして女性の一番大切な部分に入り込もうとした時、レイムが声を掛けた。

 「アナライザー、その部分は私達にも良く見える様に広げなさい。」
 「了解。」

 セックスをしないマロエ人の場合、いわゆる女性器は発達していない。しかしそれは訓練をしていないせいであり、レズやオナニーをしている者の場合はすぐに動物としてのマロエ人とした場合の状態に成りうる。ミーナの場合もすぐにオサムの巨根を納められる膣になったのもそのせいなのだ。倫理や哲学の影響により、性器に興味を持つ事は良くない事とされ、たとえその様な嗜好があったとしても、絶対に明らかにしない。それはマロエ人としての自尊心なのだ。マロエ人が性器を他人に晒すのは、性器が病に冒された時だけであり、それもごく限られた部分しか見せないし、普通は医療器具で治療をするのだ。性器を晒されるという事は、マロエ人には考えられない行為なのだった。

 「ワーッ、ダメーーーッ!」

 ルーナの声はひっくり返った悲鳴になっている。あまりの恥辱に、むしろ現実感がなかった。そして再び意識を無くすのだった。

 「レイムさん、やはり無理です。このままではルーナは精神異常を起こしてしまう。」
 「アナライザー、その可能性は?」
 「精神異常を起こす可能性、四%。」
 「エッ、そんなに低い可能性?」
 「肯定。ルーナさんはオサムのデータにより、そしてミーナさんとのセックスを見ている事により、性行為に対する耐性が出来ています。」
 「しかし・・・、意識を失う程の精神的ショックを受けている。これはかなり大きなダメージの筈。」
 「肯定及び否定。肯定部分、耐性があるといえども、マロエ人にとり、人格を否定される行為であるから、精神的ショックは極めて大きい。否定部分、ルーナは無自覚に地球式精神安定法を会得している。本というデータ集による思考体験の結果であり、意識を失う事が激しい精神ショックを緩和する事となる。」
 「オサム、あの本にはそういう事があったの?」
 「ウーン、ミーナさんにはそんなに出来なかったし、本当かどうか・・・、何分にもフィクションだから・・・。女の人って、セックスの時、失神したり、或いは激しく責められた場合には意識を無くしてしまう事が、結構書いてあったから・・・。」

 レイムは冷静だったが、シーマはまだ震えている。

 「確かに地球の性に関するデータには虚偽がかなり含まれている。その様な虚偽のデータを記録する事は非論理的ではあるが、それが地球での概念である事は間違いない。しかしその概念を理解していないルーナにとっては、本のデータは全て事実であり、思考体験の結果に従った行動になってしまった様だ。という事は、これからの我々の行為の結果は、全てデータに従うものと考えて良い。アナライザー、この推論に対する見解は?」
 「是とします。レイムさんは既にその推論に基づいた準備をしています。」
 「さすがに地球式の確率拡散収斂法思考だな。」
 「レイムさん、準備って?」

 ミーナは不思議そうに尋ねた。

 「ほう、ミーナに分からないとは・・・。やっと私の方が先に進んだな。しかしオサムには分かっているだろうな。」
 「分からないですよ。大体ボクには元々科学の知識は少ないし、今のマロエの遺伝子技術、生物学技術の内容を知らないから。」
 「ウッ、やはり分かっているのではないか? いや、結論迄は至らないにしろ、その方向に向かっている。」
 「その方向? レイムさんの専門分野からすると・・・、エエッ?」

 オサムは驚いてレイムを見つめ、そしてアナライザーを見た。

 「是とします。」
 「アナライザー、本当なの? 本気で? それで、可能なの?」

 レイムは大きく頷いていた。

 「やはり地球式思考は素晴らしい。これだけのデータで・・・。いや、既にかなりのデータを得ていたのだな。」
 「オサム・・・、何なの? レイムさんは何をしようとしているの・・・?」

 ミーナもシーマも少し真剣な顔でオサムとレイムを見つめていた。

 「オサム、私には言ってくれるでしょ?」
 「ごめんなさい。レイムさんは、最悪の場合には自分で責任を取るつもりでいるらしいけれど、これからしようとする事は犯罪になるかも知れないんだよ。アナライザーなんかはある程度の推測をしているみたいだけど、ボクには不安なの。だから、それをミーナさんに教えると、本当に最悪の場合、ミーナさんも共犯者という事に・・・。」
 「エッ? レイムさんは、そんな恐ろしい事を? だけど一体・・・。」
 「ボクにはマロエの法律が分からない。地球ででは絶対に犯罪だよ。マロエの方が法律は厳しそうだし・・・。」

 シーマも不安そうにしていた。

 「皆さん、地球式の思考方法を知っているのに不思議ですね。私のこの余裕、分かりませんか? 私が犯罪をするのであれば、これ程自信を持った行動など出来ないという事を。」
 「そうですよね。レイムさんのオーラに乱れは無いし・・・。」

 アナライザーの触手はルーナの体内に張りめぐされ、既にかなりのデータを得ている様だった。そして途中で意識を取り戻したルーナは再び悲鳴と泣き声を上げ続ける。

 「ああ、ちょうど良かったわ。これからルーナに取り付けるこの張り型、今迄のマロエの張り型とは全く趣向が異なります。どちらかと言えば地球型の、そして極めてSM的な物です。皆さんに説明しますが、やはり当事者のルーナにもその機能を良く知って貰ってでないと、効果が上がりませんからね。」
 「イヤーッ、レイム審議官、人道に反する行為です!」

 シーマもオロオロしていた。

 「あなた達だって張り型を使った事はあるでしょう? まあ、地上では不名誉な事とされていますが、マロエ人とはいえ動物です。張り型でなくても、似た様な形状の物で代用した事は絶対にある筈です。普通は固体ですが、闇のルートでは地球のバイブレーターに似た振動機能付きも存在します。ですが、それは性欲解消の為であり、どの様ないわゆるレベルの高い物でも、全て使用者の快感を高める為だけを目的とされています。しかし地球では違うのですよね。勿論マロエの物と同じ様に、本人だけの快感の為の物も在りますが、セックスという行為での解消も可能であるので、嗜虐の目的の物が数多く在ります。これはそういう思考方法の元に製作しました。」
 「レイムさん、それは・・・、やはり犯罪行為なのでは?」
 「シーマ、これをルーナに装着すると想像したら、楽しくありませんか?」
 「イヤーーッ、隊長! よして下さい。」
 「想像では・・・。」
 「機能を説明しましょう。この張り型の付け根の部分に金属物が在りますが、分かりますか?」
 「この帯状の部分ですか?」
 「その通りです。そこが電極になっています。」
 「電極?」

 シーマは驚いて尋ねた。

 「これは体内に装着する物でしょう? まさか直接電気刺激を与えるのですか?」
 「地球式のバイブにはある物なのですよ。」
 「しかし・・・、電気刺激は・・・、緊急時の電気ショック刺激による心臓蘇生法以外では・・・。歴史で学んだ事があるが、それは拷問に相当する行為では?」
 「出力は極めて低く押さえてあります。地球式でもそうですが、シーマ、弱い電気刺激を与えられると、人体はどう反応しますか?」
 「それはまず筋肉の収縮を起こします。更に強くなると電流により細胞破壊を起こし、壊死します。」
 「そんなに強くはしませんよ。パルスで、持続時間も短いのです。シーマの言う通りに筋肉収縮をさせる目的です。パルス持続は交互で、膣の部分と肛門の部分は僅かに同時動作をしますが、オン時間は五十%ずつです。オサムのデータによると、地球人の女も同じ筋肉構造らしいのですが、膣と肛門は八の字状筋肉であり、繋がっています。そこを交互に電気パルスを与えるとどうなると思います?」
 「それは・・・、筋収縮が交互に起きますから・・・。しかしそれが?」
 「交互に収縮するのですよ。かなりの刺激になると思いますが、それよりもこれを填め込まれて筋肉が収縮していたら、抜く事は出来ませんよ。強く引けば抜けるでしょうが、ルーナの手足は拘束してありますから、自分では抜けません。そしてこのレズ用張り型のペニス部の付け根を見て下さい。小さな穴がありますね?」

 シーマは恥ずかしそうに答えた。

 「そこはちょうどクリトリスに相当する部分かと・・・。」
 「その通りです。この内部には小型の吸引機が在り、そしてやはり電気パルスの電極が在るのです。勿論ルーナの胸に着けてあるパットにも同様の機能があり、全てが同時に機能するのです。」
 「ワーッ、そしたら・・・!」

 オサムが驚いて大きな声を上げた。

 「オサム、分かるの?」
 「マロエ人だって、そこは性感帯でしょう? そんなに同時に責められたら、色情狂に成ってしまうじゃない・・・。」
 「エエーッ!」

 シーマとミーナは驚いて悲鳴を上げたが。ルーナには分からなかった。

 「隊長、オサムは何を言ったのですか? 隊長達は何を驚いているのですか?」
 「聞いていなかったのか? ああ、オサムは言語としては地球語であり、精神波はルーナには届いていないのか。しかし・・・、私としてはその問いには答えられない。レイムさん、オサムの言葉は真なのですか?」
 「一部真である。しかし後半は偽である。マロエ人の精神構造では、地球人よりも許容範囲が低いので、地球方式のレベル迄上げる事は不可能であり、限度を越える恐れがある場合、ルーナは既に会得している精神破壊回避法を用いる事となる。」
 「シーマ隊長! レイム審議官! 一体何をなさるつもりなのですか?」
 「オサムに聞きたいが、ルーナは強い恐怖を感じているのですか? それとも・・・。」
 「そうですねえ・・・。ミーナさんが隕石帯に突入する時の感情のオーラとは少し違います。恐れてはいる様ですけれど、強い興味は感じます。多分、着けてみたいという興味でしょうけれど、強い自尊心での怒りも感じますけれど・・・。」
 「シーマ、聞いた通りだ。オサムの前では深層心理ですら把握されてしまう様だな。」
 「その通りですね。私にもオサムの言う『恥ずかしい』という感情が分かってきたみたいです。私の思っている事をこれ程見透かされてしまうとは・・・。でもそれがオサムだけで良かった。一般のマロエ人には絶対に隠し通しておきたいですから。」
 「それではルーナ、着けて上げますよ。」

 ルーナは半狂乱状態で叫び続ける。レイムが三頭張り型をルーナの股間に近付けた時、涙と涎で顔はベタベタだった。そして張り型が肛門に押し当てられた時、ルーナは失禁していた。

 「ヒエーーーーッ!」

 それ程太くないアナル挿入部だが、それでもルーナは激しい苦痛に顔を歪めた。

 「エッ?」

 オサムは張り型がスルッと填まり込むのを見て驚いていた。そして膣にもすんなりと填まり込み、外見的には大きなペニスを突き勃てている姿となった。既にルーナは意識を失ってしまったのか、半開きの目のままだらしなく口を開いている。

 「レイムさん、どんな材質の物ですか?」
 「ウフフ・・・、地球には無いのでしょうか? 一定方向だけ摩擦力のある物です。この場合、挿れる方向には殆ど摩擦力が働きません。逆方向との比率は一対二百程度です。それと皮膚に触れる部分の吸着物質も、一平方センチ当たり約二キロです。」
 「それじゃ、剥がす時に皮膚組織に影響はありませんか?」
 「なる程、知らない様ですね。接着ではありません。皮膚には触れているだけですから、それだけの荷重を掛ければ離せるのですよ。胸も同じ材質ですから、マロエ人の平均筋力ではかなりの力でないと離せません。胸の方の吸着面積は広いので、こちらは二人掛かりでないと難しいでしょうが、下腹部の方は狭い上に起伏が多いので、ちょっと力を入れれば剥がれるでしょう。ですからルーナの手足を拘束してあるのです。自由にした状態でも、両手が股間に届かない様な制御をしています。」
 「ヘーッ、凄い物ですね。」
 「いいえ、これは単に応用です。この様な物を作ろうなどという考えはそもそもマロエにはありませんでした。オサムの知識とデータ、それにアナライザーの地球式思考でやっと出来たのです。ミーナ、如何ですか? これも完了すれば、あなたの考えている仕事にも使えそうでしょう?」
 「エッ、ミーナ。あなたはどんな仕事をしようとしているの?」
 「ウフフ・・・。私の財産はオサムの知識。その知識で、誰にも喜ばれる仕事をしようと考えているのよ。ネッ、オサム。」

 ミーナはオサムの肩を抱きながら微笑んでいた。

 「ルーナに着けた張り型も凄い物でしょう? それはオサムの知識とマロエの技術の作り上げた物よ。まだまだ未完成だと思うわ。だから私達はもっと素晴らしい物を作り上げて、それを使って貰う仕事をしたいの。」
 「まさか・・・。ミーナは裏の社会の・・・、闇の社会での仕事をするつもりなのか?」

 シーマは驚いてミーナを見つめた。

 「何故? 私は裏とか闇とか思っていないわ。」
 「しかし・・・、突き詰めて言えば、人間の表に出してはいけない、動物、獣の本能を助長する事を・・・。」
 「ウフフ・・・、それが間違いだという事は分かりましたよね? オサムがその好例。私もその思想を知って変わったわ。勿論獣の肉欲は認めます。だけど人間としての精神的な愛情、これは何よりも高貴な感情だと思います。この感情が裏や闇である筈がない。マロエ人も生物であり、動物なのよ。生命本能は最も根源的なのですから、その根源を無視し、更に除去しようとする今のマロエの哲学は生物である事を拒否する事になっているわ。決して地球式の哲学の方が優れていると言っている訳ではないのよ。むしろ地球式の方が残虐で悪意の多い事も分かっています。生物である事を拒否していたら、やがて生物としてのマロエの活性が失われるという事なのよ。『牛』の問題にしても同様よ。あんな矛盾した法体系にだれも異議を唱えない事が問題よ。動物性を否定し、精神を上位とする考えであれば、肉体改造は動物性を認める事であり、脳改造による人格改変、そして精神的な死はまず最初に拒否される筈なのに。レイム審議官の具申に私も気付かされました。動物である事を前提にしていれば、あの考えは最初に出ていた筈なのよ。動物性が劣った考えではない事、むしろマロエの未来を拓く可能性の方が大きい。それだったらその仕事の最初の一歩を踏み出すのが私の使命だと思ったのよ。」
 「ミーナ・・・。」

 シーマはミーナの堂々とした物言いに少し驚いていた。

 「確かに以前のミーナではない。以前のミーナであれば、僅かな障害にすぐ挫折してしまっていた。私は三度目の試験で救助隊に合格したが、ミーナは一度の失敗で諦めてしまっていた。今の意志の強さはあの時のミーナではない。」

 レイムも笑いながら話に加わった。

 「データでの非論理性の中にもミーナの思考形態の変化があった。シーマ、この変化は是とするか、非とするか?」
 「はい。是とします。私にはオサムの様な感情の奥にある物を認知する能力はありませんが、何故か信念に裏付けされた物を感じます。」
 「そうだ。信念は人間を精神的に強くする。ただ・・、オサムには分かっているのだろうが、信念にも色々あるのだな。」

 オサムは照れ臭そうに笑っていた。

 「ええ。信念と言えば信念です。それもしっかりした強い信念です。」
 「オサム、地球式思考表現を理解し始めた私には別の意を感じるが・・・。」
 「はい。ミーナさんはスケベのたがが外れてしまった様で・・・。」
 「待て。その言い方はあまりに地球式であり、私の理解の限度を越えている。」
 「ウーン、難しいですね。ミーナさん、自分で説明してよ。」
 「了解。自分自身の深層心理を表現する事は難しいが、自分自身で確認しながら言葉にしてみたい。レイム審議官、そしてシーマ。私はオサムとのセックスで、マロエでは除去すべき肉欲というものが、実は素晴らしい事であり、そのセックスによって精神的に素晴らしい向上を得られると知った。そして肉体的にも生体センサーでは指摘されている通り、信じられない良化をみている。この点についてはどの様な審議官でも是とする。私にはオサムという素晴らしい『伴侶』、つまりイコールパートナーであるが、得ている。この点については一般のマロエ人には不可能であり、地球式であってもオサムとのセックスを他のマロエ人に供与出来ない。私はこの素晴らしいセックスを自分一人だけで楽しみ、他人には与えないという自己中心的な状態にはなりたくない。それはマロエ人としての倫理であり、良識であると信じる。それでもオサムとのセックスが提供出来ないのであれば、その擬似的な悦びを提供する事を仕事としたい。そしてその過程であれば今迄以上の過程を提供出来る。そしてレイム審議官の言う通り、マロエの法体系を大きく変える一助となり、そして倫理や精神的、肉体的向上を促す事が出来ると信じる。それが私の使命であると。」

 レイムは満足そうに頷いていたが、シーマはまだ半信半疑の様な顔だった。

 「理想は分かる。だが、現実的には何をするのか?」
 「それは簡単。色々な人の前で私達のセックスを見て貰い、感動して貰うの。そしてオサムの食料もある程度は提供するわ。そして色々な性具を開発し、その販売と普及に勤める。そして私がオサムに、そしてシーマがルーナにした様な行為を引き受けるのよ。」
 「エッ? それはSMをも仕事とするのか?」
 「そうです。ルーナの場合は宇宙飛行士という自尊心が強いけれど、明らかなMよ。地上であれば、ストレスのひどさで精神的に参っている人も居る筈。その精神ストレスの解消は是よね?」
 「ウーン、マロエにはその思考は無かった。比較出来ないので判断に困るが、論理的には非はない。しかし倫理的には・・・。」
 「マロエの論理は倫理の上に、そして倫理も論理的なのよ。論理に誤りがあるのならその上の倫理にも誤りがある。そしてマロエの哲学では、論理の誤りはもっとも否定されるべき事。そして正しい論理を形成する事に何の躊躇もしない柔軟性もある。だったら新しいSMの論理も論理的である限りすぐに認知されるわ。」

 レイムも賛意を示していた。

 「その通りです。だが、その論理もすぐには認められないだろう。しかし正しい論理であるなら、その論理を支持する人間が増えれば良いのだ。ミーナは自分達のセックスを大勢に示し、それを支持して貰い、少しずつ大勢の意見とするつもりなのだ。論理とは多数決でもあるのだからな。」

 シーマは張り型を着けたシーマを見ながら、複雑な表情をしていた。



 「アハーン・・・!」

 ミーナとオサムのセックスを見つめていたレイムとシーマは下半身をモゾモゾしていた。

 「シーマ、実際にセックスを見せられると、確かに精神的な強い負荷を感じる。」
 「はい。是とします。私は何度も見ていますが、それでも・・・。」

 レイムはシーマの下半身を見て笑っていた。ノーパンのシーマは太股に滴を滴らせていたのだ。

 「アワッ!」

 慌てて手で拭うシーマに、レイムは囁いた。

 「何度も見ているシーマですらそうなのですから、私の場合は・・・。」
 「エッ?」
 「自分でもはしたないと思われる程に流れ出しています。勿論その処理はしてありますが。」
 「レイムさん、私には下着を着けさせずに、ご自分だけが? それは少し・・・。」
 「その点については一部否とします。この様に膨らんだ衣装を着ける意味があるのです。このスカートに耳を近付けてご覧なさい。」
 「ハアッ?」

 シーマは不思議そうにレイムのスカートに耳を近付けた。小さな音だが、ブーンといううなり音が聞こえていた。

 「オサムには見透かされていましたが、私の恥ずべき、秘匿しておきたい事項です。」
 「まさか・・・?」
 「私は社会的立場からもレズなどという行為は出来ませんが、この様に自分自身で慰める嗜好があるのです。ですから二人のセックスを見ていても平静を装えるのです。しかし羨ましい事には代わりがない。ミーナの場合は望みようもない高嶺の花ですが、シーマをも羨んでいるのですよ。」
 「エッ、私に?」
 「あなたにはルーナというセックスペットが出来る。オサム程とはいかないが、私の技術で、素晴らしいペットに出来る自信がある。シーマ、あなたはSという事ですから、Sとしての性欲を満足させねばなりません。ルーナもそろそろ意識を取り戻すでしょう。ですから弱い状態で始めておきなさい。一度スタートさせれば、内臓のCPUが状態を感知し、ストップ状態でもルーナの感知ギリギリの弱さでの動きを続けます。そして本人が気が付かない内に、段々と最弱レベルは上昇していくのです。それとこれはミーナのアイデアであるが、ルーナ自身の興奮状態に合わせ、刺激が強くなる。つまり一度性欲を催してしまうと、どんどん高められていくという事になる。これはシーマの意思でも止められない。当然だが、シーナの意思があればその刺激をいきなり高める事も可能である。」
 「宜しいのか? 今の私に理性を期待しないで欲しい。マロエ人としての理性は・・・。」
 「是とする。ミーナの場合は生死の崖っぷちの状態だった。その状態迄の追体験は不可能だが、かなりの精神的限界状態でないとSMに取り組めない。」
 「了解です。レイムさんの指示の通り、自分自身の悦びを判断基準とします。」

 シーマはルーナの性具に念を送った。ルーナは意識を失ったままだが、ビクッと震えるのだった。




マロエの星 5−2へ       メニューへ
inserted by FC2 system